2010年02月09日

ありがとう、そしてさようなら『シンケンジャー』

 戦隊シリーズの脚本が変わってきたのは、やはり90年代からだと思う。
 上原正三、高久進、曽田博久、藤井邦夫といった初期シリーズを支えた脚本家が退き、第二世代の脚本家が台頭してきてから、明らかに脚本のカラーや質が変化してきた。その本格的な幕開けとなったのが、井上敏樹がシリーズ構成を務めた、いろんな意味での問題作『鳥人戦隊ジェットマン』(91年)であることは、どなたも異論はないだろう。
 その後も、浦沢義雄の『激走戦隊カーレンジャー』(96年)、小林靖子の『星獣戦隊ギンガマン』(98年)『未来戦隊タイムレンジャー』(00年)、荒川稔久の『爆竜戦隊アバレンジャー』(03年)『特捜戦隊デカレンジャー』(04年)、前川淳の『魔法戦隊マジレンジャー』(05年)、會川昇の『轟轟戦隊ボウケンジャー』(06年)、横手美智子の『獣拳戦隊ゲキレンジャー』(07年)と、それぞれに特徴のある面白い番組が続いた。アクションだけではなく、キャラクターやお話が楽しいのだ。
 80年代までの戦隊が、番組ごとのカラーの違いが明確ではなかったのに対し、ギャグ路線、恐竜、拳法、忍者、魔法、刑事、冒険といったように、その年ごとのコンセプトの違いをはっきり打ち出すようになったのも、90年代からだ。
 また、戦隊ものに限らず、昔の特撮番組の脚本は、「子供向け番組なんかやりたくないけど、お仕事でしかたなく書いている」といった感の漂う、ぞんざいなものが多かった。それに対し、近年の脚本は、本当にこのジャンルを愛してるんだなあと感じさせるものが多い。
 その代表が小林靖子さんだろう。

 08年の『ゴーオンジャー』は、最初の数回でがっかりして見放してしまった(だいたい、武上さんの年はハズレが多いのよ(苦笑))。前年の『ゲキレンジャー』が実に面白くて、最後まで気が抜けなかっただけに、落差が大きかったのだ。
 しかし、09年の新シリーズの構成が小林さんだと聞いて、「こりゃ、ちょっと期待していいかも?」と思った。
『シンケンジャー』の第1話を見て、その期待は確信に変わった。

「今年は面白くなる!」

 侍、黒子、筆、馬、矢文、桜吹雪、歌舞伎などなど、徹底して和風テイストを詰めこんだ設定にも感心したが、何といってもキャラクターが美味しすぎる。

 何かもう、「同人誌を作れ」と言わんばかりの!(笑)

 しかも回を重ねるにつれて、じじい萌え、百合百合、美形悪役と、あらゆるサービスが出てくるのである。何かもう、「全方位どこからでも攻めてらっしゃい」と言わんばかりの!(笑)
 もちろん子供向け番組だからそんなことは露骨には言わないんだけど、子供だけじゃなくママさんたち「大きいお友達」にとっても楽しい要素が満載なんである。『ギンガマン』『タイムレンジャー』『龍騎』『電王』と書いてきた小林さんのテクニックの集大成という感がある。
 しかも、決してそうしたキャラクターの魅力にだけ頼ってはいない。個人的シュミに走りながらも、決して本筋を見失わないところがプロである。細部までよく考えられた話なのだ。

 たとえば外道衆は「隙間」から出入りできるけど、三途の川の水が切れると地上で活動できなくなるので、限られた時間しか暴れられないという設定。これは上手い。ヒーローものによくある、「敵キャラがヒーローを追い詰めるけど、なぜかとどめを刺さない」という不条理を、これで説明してしまえるのだ。
 これにより、番組前半でシンケンジャーが外道衆に苦戦→水切れでいったん逃げる外道衆→番組後半で再戦して倒す、という基本フォーマットが成立する。
 その倒し方にしても、毎回、こういう特殊能力を持つ敵にこういう策で対抗する……というコンセプトがはっきりしているのがいい。「なぜか分からないけど倒せてしまった」ということがないのだ。
 だからこそ最後の「力ずくだ!」が生きてくるわけなんだけど。(毎回、力ずくで勝ってたら、あれは言えない)

 そしてクライマックスの44話~最終話。これがもう「神回」の連続!
 丈瑠が影武者だったと発覚した時には、「ええっ、そんな伏線あったっけ?」と驚いたもんだけど、よくよく思い返してみると――
 ああ、ズボシメシの回の「嘘つき」ってそういう意味か!
 最初の頃、流之介たちが自分を守って傷つくことを丈瑠が嫌がっていたのは、そういう事情があったからか!
 あの回想シーンの父の台詞はそういう意味!?
 ずいぶん前からいろんな伏線張ってたんだなあ。よくぞ外道衆のみならず視聴者まで謀ってくれたわ(笑)。
 その発覚前後の話の流れが、また上手い。

・家臣たちと心を通わせるようになった丈瑠。
  ↓
・しかし、敵である十臓に「(仲間を思いやるようになって)弱くなったな」と言われ、苦悩する。
  ↓
・影武者の任を解かれ、「びっくりするほど何もないな」と落胆。
  ↓
・そこに十臓が現われ、丈瑠に再戦を挑む。守るべきものがなくなった今、逆に全力で戦える丈瑠。
  ↓
・戦いにだけ生きがいを見出す丈瑠。彦馬や仲間たちに「(この一年間は)戦いだけではなかったはず」と説得されるが、耳を貸さない。
  ↓
・最も忠誠心の強い流之介だけは、姫への忠誠と丈瑠への想いの板ばさみになって動けない。その迷いを断ち切ったのがカジキ折神の回に出てきた黒子さん。しかも自分が言われた言葉をそのまま流之介に返す。
  ↓
・駆けつけた流之介。戦いにとりつかれ、外道に落ちる寸前の丈瑠を、水属性の技で炎を断ち割って救い出す。

 これだけのストーリーの流れを考えたというだけで感服もの。いつもいつも小説のプロットを考えている者の目には、この構成はすごく「美しい」。
 僕は「ストーリーのデッサン力」という言葉をよく使う。人体を描く時に、肉の下にある骨格を把握しなければいけないのと同じで、ストーリーというものもちゃんと骨が通っていないといけないのだ。『シンケンジャー』の骨格は美しいのである。
 とどめは、流之介が初めて「殿」ではなく「丈瑠」と呼ぶシーン。これは思わず感涙した。

 あと、十臓がね、いいキャラクターなんだよね。
 彼の妻の話が出てきた時には、かなり不安だった。十臓は純粋に悪を貫いているところがいいんであってり、死ぬ前に改心されたりしたら、ちょっと嫌だなと思っていた。
 だから彼が誘惑を振り切って(つーか、最初から眼中になくて)アクマロをぶった斬った時には、「それでこそ十臓!」と快哉を叫んだものである。
 最後、彼が丈瑠との決闘の末に敗北し、満足して成仏するものだと、僕は予想していた。しかし、そうはならなかった。結局、勝負の決着がつかないまま、無念を抱いて消えていった。
 なぜか? もし十臓が満足して死んでいったら、彼の生き様を肯定することになるからだ。
「生きることは戦いだけではない」というのが、丈瑠たちが最後に到達したテーマである以上、人生のすべてを戦いにかけた十臓の生き方は否定されねばならなかったのだ。
 小林さんの脚本は、このへんの視点もブレていない。いかに悪役がかっこ良くても、否定すべき点は否定しなくてはいけない(特に子供向け番組では)ということを、ちゃんと心得ている。

 あと、姫様ね。いいわ、この人、演技力は別にして(笑)。
 ラスト近くにいきなり出てきてリーダーの座を持ってっちゃうという前代未聞のキャラクター。これで嫌な女だったら、流之介もあんなに悩まなかったはずなんだけど、使命感に燃える一方で人情も理解しているという、とことんいい人なもんだから、かえって苦悩が深まるという構成。これまた上手い。
 ドウコクの封印に失敗したのも、彼女自身のミスや力不足ではないという設定になっていて、視聴者に非難されないように気を遣って構成しているのがよく分かる。
 最終話直前、僕は「丈瑠が姫様と結婚して婿養子になっちゃえばいいんじゃないの」と冗談で思っていたのだが……まさか、それを上回る裏技があったとは!(笑) テレビの前でひっくり返った。すごいよ、小林さん! 僕らの予想をいい意味で裏切ってくれるよ!

 あと、脚本とは関係ないんだけど、真シンケンレッドのアクションには感心した。明らかに筋力で丈瑠より劣るもんで、動きは最小限。烈火大斬刀を振り回す時に、足で蹴ってはずみをつけているのだ。現場のアイデアなんだろうか。ちょっとした工夫だけど、うまいよね。

 子供向け番組とはいえ、最高のものを作ろうというスタッフの熱意が感じられて、最後まで心地好い番組だった。これまでの戦隊シリーズの中で最高傑作であると断言する。
 1年間楽しませてくれてありがとう、『シンケンジャー』。


 ちなみに後番組『天装戦隊ゴセイジャー』のシリーズ構成は『ゲキレン』の横手美智子さんだそうで、これまた期待できそうだ。


タグ :特撮

同じカテゴリー(特撮)の記事画像
コミケ直前情報:2015年冬コミの新刊
この夏の総決算・その5
この夏の総決算・その2
この夏の総決算・その1
『多々良島ふたたび:ウルトラ怪獣アンソロジー』
『BISビブリオバトル部』番外編「空の夏休み」
同じカテゴリー(特撮)の記事
 『ウルトラ』シリーズ50周年・勝手に盛り上げよう関西SF作家の特撮トーク (2016-03-16 08:14)
 コミケ直前情報:2015年冬コミの新刊 (2015-12-27 16:53)
 LiveWire「死霊のクリスマス ~ホラーとゲームを語る夜 」 (2015-12-12 18:23)
 イベント「あの日テレビで見たB級SF&ホラー映画の世界」 (2015-10-12 15:08)
 この夏の総決算・その5 (2015-09-05 20:30)
 この夏の総決算・その4 (2015-09-05 20:04)

この記事へのトラックバック
 『山本弘のトワイライトTV』という本を読んでいたら、『激走戦隊カーレンジャー』についてこんなことが書いてあった。
 しかし、僕が驚いたのは、むしろゲストで書いている曽田...
『激走戦隊カーレンジャー』は異色作に非ず【花咲くゴーグルピンク・出張所】at 2010年02月10日 18:12
この記事へのコメント
シンケンジャー好きです。好きでした。
すごいです、言いたいこと全部言われちゃったようで、悔しいです。
Posted by さねより at 2010年02月09日 15:48
小林靖子は特撮界のキャサリン・ビグローです。(笑)

本人も時代劇や刑事ドラマの影響が強いといってたくらいからですね。

『シンケンジャー』は,今までの小林靖子の脚本ならアクマロがラスボスになってたのですし,悩む主人公は作らなかったって言ってた『仮面ライダー電王』の作風とはかなり違いますね。

一見,完成型の主人公と思われた丈瑠が実は未完成だったと言うところが面白いですね。

『シンケンジャー』本当の意味で戦隊になると言う意味では最終回において主従関係を打ち破ったんでしょうね。

最初に戦隊モノやりだしたのは『ジェットマン』くらいかな?

後,何でも井上敏樹さんの弟子がデビューするそうです。

井上敏樹さんって賛否両論ある脚本家なのですが,後輩や弟子を育てるのに関しては天才的だとは思います。
Posted by ダーク・ディグラー at 2010年02月09日 16:15
シンケンは最後の最後まで無駄がなくて良かったですねー。
ただ水・光のアクが強すぎて木・天・土の掘り下げが相対的に浅く
なっちゃった感は残りましたが。
伏線的なカットがあったんでコトハの姉ちゃんはもっと出てくるもの
かと思いましたし。
そういやメンバー全員の家族が出てくるというのも珍しかったし、
来歴と未来を持った人物として描く上で絶妙に機能してたと思います。


閑話休題。
ようつべ漁ってたら、シンケンジャーのプロモーション映像見つけた
んですが。(何かの特典?)
名乗りの決めポーズとか効果音とか主題歌の歌詞とか、本放送までに
けっこう変更されてるんですな。
Posted by 空彦 at 2010年02月10日 02:03
シンケンジャーは一話毎に○○についての有り方、接し方などが
脚本家?演出家?から伝わってきてた。
○○場合の親子の接し方や、最終回近くの本来の土下座のあり方などなど
逆に毎回「作品を通して語り掛けたい」意図を手探りながら
見つけようとする自分がいた。

ただ、最終回では例の決め台詞
「そこまでだ、外道衆」
を言って締めていただきたかったかな。
しかし、面白くも考えさせられる作品でした。
Posted by タイムレンジャー好き at 2010年02月10日 12:02
シンケンジャーは素晴らしい作品だと思います、感想にも賛同するところが多々ありましたが、80年代~90年代の戦隊に関しての感想につきまして、時代背景など含めた上で再考察していただければと思います
(ジェットマン以降の杉村先生作品についてなど)
戦隊を創世記より視聴してきた同世代として山本先生の作品論は非常に興味深いので!期待しております
Posted by タヤマ at 2010年02月11日 09:54
やっぱり山本さんもシンケンジャー観てましたか! オレも「靖子にゃん」(親愛を込めて、あえてこの言い方にします♪)の脚本は龍騎からハマり、結構追いかけてて、アニメの『クレイモア』も観ました。ボウケンジャーやゲキレンジャーも大好きです。不肖わたくし、auのグリーってSNSでSF・特撮などのSF考証をメインにしたコミュニティをやらせてもらってますが、姫の烈火大斬刀の蹴り上げの指摘は先に書かせていただいてますσ(^◇^)。

姫と丈瑠の関係も、少し前にスカパーの『武田鉄矢の週刊鉄学』って番組で、老舗に学ぶ経営学な回があり、子供に経営能力がない場合は、割りと簡単に婿〇〇 を入れるって話を見てたばかりで、おお(◎o◎)って感じでした。

にしても最近ライダー側の方が作りが甘く、ダラけてやしませんか~? この前の坂本監督の回はアクションも段違いでしたが!

ちなみに仮面ライダー龍騎の世界はテレビ版、劇場版、テレビスペシャル版と三種類ありますが、長谷川裕一氏のように統合できそうで、研究中です。


あとこれは関係ない話ですが、グリーに志水一夫さんと思われるプロフィールとコミュニティが残ってて、少し忍びないです。どなたもご存知でなければ、ご家族などにお知らせください。
Posted by ギルス at 2010年02月11日 18:36
 本日、現在公開中の劇場版『侍戦隊シンケンジャーVSゴーオンジャー 銀幕BANG!!』を観てきたのですが、とても良かったです。

 夏の映画も短い割りに良く纏まっていて感心したものの、やや物足りない感が有ったのは否めなかったのですが、今回は上映時間が約一時間と言うことも有って見応え充分でした。

 脚本の小林さんはゴーオンジャーには関わってはいなかったのに、ゴーオンジャーのメンバー一人一人の性格をキチンと把握されていて、それぞれのキャラクターが立っていて観ていて気持ちよかったです。(ゴーオンレッドの無鉄砲さやゴールドの不器用な所とか)

 来年の「ゴセイジャーVSシンケンジャー」の脚本は恐らく横手さんが書かれるのでしょうが、彼女ならシンケンジャーのイメージを損なうことはしてくれないだろうと今から期待しております!
Posted by 餃子少年 at 2010年02月11日 20:03
小林靖子の脚本でここまで盛り上がるんなら、誰か実写版「セーラームーン」をちょっとくらい触れてくれたって・・・
Posted by KS at 2010年02月15日 20:27
ディケイドに居場所の話をしていたシンケンレッドこそ居場所が無かった事実。見事な伏線です。

同じ脚本家のギンガマンと見比べるといろいろ面白いかも。二人のギンガレッドとか。
Posted by しが at 2010年02月17日 01:56
シンケンジャーの名セリフをSF名門句集に投稿してください。
Posted by 神輿 at 2010年02月26日 19:40
本当に投稿してくれたんですね。
Posted by 神輿 at 2010年06月04日 19:43
シンケンジャー、近年の戦隊では珍しく私好みでした。
山本先生がおっしゃられた点は勿論、魅力的ですが、私はそれ以外にも、「レッドがリーダー」など80年代戦隊に回帰しつつも新しい要素を取り入れている点、外道衆が、人間の心を傷つける文字通りの外道ぶりも描けていますね。丈瑠が家出した時、外道衆に親を殺された子供が印象深かったです。

演出面では、翼をしょって剣で戦うテンクウシンケンオーがかっこよかったです。もろ、私好みでした。空中戦での剣劇はかっこよかったです。
他にも語りたいですが取り合えず、これまでにします。
Posted by オメガ at 2010年10月29日 21:33
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。