2016年08月06日

「イルミナティカード」でテレビに出たのはいいけれど……

 これまでこのブログや本で何度も「イルミナティカード」(正式名称「Illuminati: New World Order」)の嘘を暴いてきた。

http://hirorin.otaden.jp/e164900.html
http://hirorin.otaden.jp/e175801.html
http://hirorin.otaden.jp/e258455.html
http://hirorin.otaden.jp/e261607.html

http://www.asios.org/books.html#b14


 こんなデマが広がったら危険だな……とは思っていたが、まさか大量虐殺をやる奴まで現れるとは、まったく予想外だった。
 この手紙のことが報じられたら、僕はすぐにツイッターでも情報を流した。

大量虐殺事件の容疑者が言及していた「イルミナティカード」とは何か?
http://togetter.com/li/1005428

 それを見たらしく、TBSから取材が来た。
 以下は7月29日放映のTBS『ニュース23』の内容。TBSの動画ニュースから引用させていただいた。(現在は掲載期間が終了したので削除)



障害者19人殺害 “犯行予告”に同封の紙入手

 植松容疑者が衆議院議長にあてた犯行予告ともとれる手紙には、7枚の紙が同封されていました。不可思議なカードが印刷されているものが5枚、イラストが2枚。「NEWS23」が独自に入手しました。
 障害者施設の入所者19人が殺害された事件で逮捕された植松容疑者。「イルミナティ」と書かれたカードにどんな意味が。

 「イルミナティが作られたイルミナティカードを勉強させていただきました」(植松容疑者が衆院議長に送った手紙より)

 イルミナティとは秘密結社の名称のこと。この「イルミナティ・カード」を持っている人物に私たちは接触することができました。SF作家でゲームに詳しい山本弘氏。アメリカで90年代に発売されたカードゲームで、秘密結社同士が組織の拡大を競い合うゲームだと説明します。しかし・・・

 「もう何年も前からカードが秘密結社の“陰謀の計画書”というばかな説が流れている」(SF作家 山本弘氏)

 きっかけは、2001年のアメリカ同時多発テロでした。

 「カードの中にニューヨークのツインタワーが爆発する絵がある。それを見た人が“現実の予言”と騒ぎ、注目を集めた。陰謀論者が“世界征服をたくらむ陰謀組織の計画書だ”と・・・ありえない」(SF作家 山本弘氏)

 植松容疑者が衆議院議長にあてた手紙。その中に、まさにそのカードのコピーも含まれていました。

 「隕石衝突、疫病、飢餓・・・あらゆる災害や事件のカードがある。現実と一致するのは当たり前」(SF作家 山本弘氏)

 一方、植松容疑者が議長にあてた手紙には、ゲームの中で“伝説の指導者”とされる人物のカードも。彼に自らを重ねたのか、指導者の名前「BOB」の文字を独自の解釈で「4013」と読み替えた上で、逆さから自分の名前と同じ「サ・ト・シ」と読んでいました。

 「私の名前はサトシです。2月15日に気が付き、愕然としました。今こそ革命を行い、全人類の為に必要不可欠である辛い決断をする時だと考えます」(植松容疑者が衆院議長に送った手紙より)

 植松容疑者は、イルミナティ・カードに勝手な解釈を加え、実際にはあり得ない陰謀論の世界に入り込んでいたのでしょうか。

 「陰謀論を信じると非常に都合がよい。自分に不利な情報が出てきても陰謀組織がばらまいたデマと言える。自分の世界が完全無欠になる」(SF作家 山本弘氏)

 背景を説明しておくと、「イルミナティカード」の件で『ニュース23』から急に取材の申し込みが来たのは、7月29日。
 その日は東京創元社「第7回創元SF短編賞贈呈式+トークイベント」のために東京に行っていた。イベント前に創元社の会議室で大森望氏らと雑談をしていたら、早川書房経由でTBSから電話がかかってきた。
 その日は、これもたまたま『SPA!』からも同じ件で問い合わせがあって、インタビューの予定があったもんで、実物を見せた方がいいだろうと、僕が所有しているINWOのスターター・キットを家から持っていっていた。(結局、『SPA!』は電話インタビューになったので、使わなかった)
 電話が来てから30分ほどして、TBSのスタッフが僕の泊まっているホテルにやってきて、ホテルの一室を借りて撮影を行なった。 インタビューのためにわざわざ部屋を借りるというのは初めて知った。

 けっこういろいろ喋ったんだけど、放映を見てがっかり。多少はカットされるのは覚悟してたけど、いちばん大事な部分がばっさり切られてる!

「これはスティーブ・ジャクソン・ゲームズが作った、陰謀論をパロディにしたトレーディング・カードゲームです」

 僕は何回も何回もそう説明したんだけどなあ。そこがいちばん重要だよねえ?
 あと、こうも言ったよ。

「こんな事件が起きたからって、ゲームをバッシングするのはやめてほしい。ゲーム会社も、ゲームで遊んでいる人たちも、これが冗談ゲームだと分かってて楽しんでるんですから。ゲームのことを何も知らない人間が勝手に騒いでるだけなんです」

 でも、そこもカット。
 これではたしてINWOについての正しい知識が視聴者に伝わったんだろうか? あの番組内容じゃ、TCGであることすら分からないんじゃないかと思うんだが。
 これを機会に、テレビを使って、INWOをめぐるデマを徹底的に潰したいと思ってたんだけど、これではちょっと難しいかも。

 なぜカットされたのか?
 実はディレクターさん自身が、TCGというものをまったく知らなかったんである。僕が「『ポケモンカードゲーム』とか『遊戯王』みたいなもんです」と説明しても、きょとんとしてた。
 どうも自分に理解できないから、視聴者にも理解できないと思ってカットしたんじゃないかと思う。
 そう言えば、フジテレビがこの植松容疑者の手紙のことをニュースで報じた時、なぜか「イルミナティ」「イルミナティカード」という箇所を黒く塗りつぶしてあったんだそうだ。なぜ塗りつぶしたのか? ネットではなんか深読みしている人が多かったけど、僕が思うに、理由は簡単。
 フジテレビのディレクターも、「イルミナティカード」って何なのかまったく理解できなかったんだと思う。それで万が一、登録商標か何かで抗議が来るとまずいと考えて消したんだろう。
 消すんだったら「フリーメーソン」の方だろって思うんだけど。イルミナティは実在しないけど、フリーメーソンは実在の団体だぞ!

 もちろん僕はTBSのディレクターに、TCGについて説明し、さらにスティーブ・ジャクソン・ゲームズの『トゥーン』とか『ニンジャバーガー』についても説明し、グループSNEにいた頃に『GURPS』関係の仕事をしてたから無関係というわけでもないと語った。

「そのがーぷすというのもカードゲームなんですか?」
「いや、これはテーブルトークRPGで……」

 そこから今度はテーブルトークRPGについても解説するはめに!(笑) あー、めんどくせえ! でも、もちろんそこもカットされた。

 他にも植松容疑者の手紙には、「18」という数字に注目してる箇所があった。僕が「ははあ、なるほど18ですね」と納得していたら、「18って何か意味があるんですか?」と訊かれた。「6+6+6。獣の数字666ですよ」と説明したんだけど……。

 ディレクター氏、「666」も知らない!

「ヨハネ黙示録の中に出てくる数字で……」と説明したけど、どうもヨハネ黙示録自体、分かってないみたい。
 まあ、しかたないなあ。オカルトとかゲームとかに興味のない一般人の知識ってこんなものか……。
 そう言えば思い出した。21年前のオウム事件の時、マスコミ関係者で「ハルマゲドン」という言葉を知らない人がいたという話を。『幻魔大戦』がアニメになった時、テレビでさんざん「ハルマゲドン接近」って言ってたはずなのに。

 もっとも、マスコミ関係者がみんな無知というわけじゃない。他にも取材してきた新聞記者の方の中には、僕が「トレーディング・カードゲームって分かります?」と言うと「『遊戯王』みたいなやつですよね」と即答された方もいた。
 だからマスコミ関係者の中にも、知識のある人とない人がいるんだろう。


 ちなみにニュースの中に出てきた「伝説の指導者」ボブというのは、亜天才教会(Church of the SubGenius)という冗談宗教の教祖とされる人物。そのBOBを数字に置き換えて13013になってるわけ。

 植松容疑者は最初の1と3を足して4にし、「4013」にして、それを逆から読んで「3 10 4」=「さとし」にしていた。
 もちろん、そんなこじつけに何の意味もないのは言うまでもない。
 亜天才教会については、解説するのは面倒だし僕も詳しくないんで、ウィキペディアを読んでほしい。

https://en.wikipedia.org/wiki/Church_of_the_SubGenius

 アメリカには他にもこういう冗談宗教がいくつもある。

http://www.h7.dion.ne.jp/~samwyn/parorels.htm

「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」は日本でも本が出ていて有名。他にもINWOには、不和の女神エリスをシンボルとする「ディスコルディアン」も出てくる。

https://en.wikipedia.org/wiki/Discordianism

 こういうものを知らない日本人が多いのはしかたないけど、検索すれば一発で出るからね? 分からなかったら検索しようね。

【8月11日追記】
 同じ7月29日に、『SPA!』からも電話で取材を受けたことは書いたけど、『SPA!』8月9日号に載った記事を見てびっくり。
 僕がこのゲームのことを「IWNO」と言ったことになってる! それも2回も!

 いや、確かにINWO(イルミナティ:ニュー・ワールド・オーダー)と言ったよ、何度も。これじゃまるで僕が間違えたように見えるじゃないか。
 それに僕の知識も正確とは限らないし、電話越しでは聞き取りミスもあるかもしれないと思って、「詳しいことはスティーブ・ジャクソン・ゲームズのサイトに行けば書いてありますから読んでください」とも言ったはず。
 でも、この記者、ゲームの名前なんて基本的なことも間違えるってことは、結局、スティーブ・ジャクソン・ゲームズのサイトも見ずに記事を書いたってことだろう。
 信じられない。
 何で記事を書く前にその程度の手間をかけないんだ?



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この記事へのコメント
ニュースを何気なく見てたら、山本先生が出てきてびっくり。
しかし、「このカードを持つ人物と接触することができた……」というナレーション、なんだか麻薬の売人を取材したみたいな感じなのですが(笑)
Posted by 枕鈴 at 2016年08月06日 21:29
山本先生、こんにちは。

何年か前にも、テレビのインタビューは肝心なところがカットされていたりして、出るなら生放送のほうがいい、というような趣旨のご発言をしていたような記憶があります。ものすごくアバウトで、すみません。
ホテルの部屋を借りての撮影とのこと、オンエアは見ていませんが、実際の部屋はそんなに暗い雰囲気ではないのに、演出によって真っ暗闇の中で山本先生が話をしているシーンが放送されたのではないか、と想像してしまいます。

ブログの内容と関係ありませんが、先日「怪奇探偵リジー&クリスタル」を買いました。新宿の紀伊国屋書店で買ったのですが、レシートに「洋書」と記載されていました。国内の作家のコーナーに置いてあったのですが…
Posted by 埼玉県の星野さん at 2016年08月06日 22:48
冬コミの新刊はこの話題で決まりですね。
Posted by toorisugari at 2016年08月07日 11:51
「666は獣の数字」って映画「オーメン」で知れ渡りましたがそれも40代以上になるんでしょうか。6月6日生まれってだけでダミアンなんてアダ名がついたり寝てる間に666の落書きされたり(キン肉マン以前は666が落書きの定番だったような…)
Posted by ももさん at 2016年08月07日 21:39
日本のニュース見てると記者が物事をろくに調べないということがよく分かります。
上海ディズニーランドを中継しながら「パレードにはディズニーには無い三国志風のキャラクターも」(普通にディズニー映画のキャラクターです)とコメントしたり。
窃盗犯のツィートの中に記者が見慣れない単語があると謎の暗号扱いしたり(アフリカのミュージシャンの名前です)。
Posted by しら at 2016年08月07日 22:29
どうも、山本先生。
いやはや、あの事件にこんな顛末がつい付いていたなんてまるで知りませんでした。(笑)イルミナーティカードなる物は名前位は聞いた事有ったんですが・・。まあ、テレビが編集の段階でバッサリ!というのはよく有る事と先生の著書に書かれていましたし、気を落とされません様に(?)
ただ、私はこの事件は後の報道で犯人の気違い野郎の供述とはいえ、TVで「障害者は人間では無い。生きていても国家の損失、死ぬべきだ。」という言葉を垂れ流している方に危険な感じがしますな・・何かあの言葉をTVから聞く度に「そのとうりだ!」と感じる輩は大量に存在(産み出して?」いる様な、予感がします・・。
Posted by ブロン・テクスター at 2016年08月07日 22:45
自分も障害者(精神2級)の一人として、今回の事件そのものも、非常に恐ろしいのですが…

でも正直、今回の件でカードゲーム自体が規制される事になれば、陰謀論者どもに逃げ道を与える事にもなりかねませんね。
「ほら見ろ、事実だから隠蔽されたじゃないか」と。
TBSさんも『世界の怖い夜』みたいな如何わしい番組は無批判で放送してんだから、
多少は責任感じて、正しい情報を放送して頂きたいものです。

あと関係ないけど、今回の件が巡り巡って「堕天使ヨハネ」様にまで影響を及ぼしたら、もう絶対許せねえ。
Posted by 大海笑 at 2016年08月07日 23:37
テレビ放送観ました。
映像の最後で山本さんが仰っていた
「(陰謀論にハマる事によって)
自分の世界が完全無欠になる」と言う言葉が、
ズシンと来ました。

自分にとって都合の悪い相手や意見を排除し、
小さな世界に閉じこもる――。
それは一見居心地のいい世界だけど、
本当に幸せな事なのだろうかと考えさせられました。

他人と意見をぶつけあう事を放棄し、
閉ざされた部屋の中で鏡に映る自分と語り合う――。
そんな世界の住人にならぬよう、
自分自身を強く戒めて生きていきたいと思います。
Posted by Cerberus Kawasaki at 2016年08月10日 14:47
私もSFにはとんと無知です。筒井康隆と小松左京と星新一くらいしかSF作家の名前知りません。
だからくだんのディレクターのこと笑えません。
これからの世代には、国語の便覧にある文学史でもSFを立派な文学として取り上げれば少しは変わるかもしれません。
Posted by あっちゃん(♂) at 2016年08月12日 22:42
オンエア見ました。
なんか、言葉足らずかな・・・とも思ったのですが・・・
やはり、肝心なところはカットですか。
それでも、今はこうして自分で訂正可能なメディアがあるだけましかもしれませんね。
Posted by masa at 2016年08月23日 22:47
パロディ宗教はスパモン以外全然知らなかったので驚きました。

どうも、ネット民の宗教に対する認識って、教祖の言うことに盲目的に従うロボットみたいな連中みたいな偏見があって、白人のキリスト教に対する態度も同じようなものという偏見があるような気がするんですが、さい銭箱に小便ひっかけるような罰当りを喜ぶ層というのも、文化を問わず一定数いるんですね。
考えてみれば当たり前のことなんですが。

そういえば最近「罰当り」という言葉って聞かなくなりましたねえ。
世の中全体がお行儀よくなってるのと同時に素朴な信仰心も縁遠いものになったのかもしれないですね。
Posted by 都山 at 2016年09月04日 07:16
「ハイテク兵器被害者」を名乗る人の書きこみがありましたが、削除いたしました。ある人物から電波で攻撃されたり、電波で命令されたりしているのだそうです。
 おまけにその人物の住所氏名まで書かれていました。そういう誹謗中傷情報を書きこんでも僕が採用するわけがないということに気がついていないという時点で、現実を理解する能力の欠けている人だと判断せざるを得ません。
 きついことを言いますが、精神科の病院で診察を受けられることをおすすめします。
Posted by 山本弘山本弘 at 2017年04月06日 21:18
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