2015年03月08日

クリプトムネジアの恐怖・1

 今回は、大半の人にとっては「恐怖」じゃないかもしれないけど、作家にとっては恐怖の現象を紹介したい。それは「クリプトムネジア」。

 まず、これを読んでいただきたい。ネットで検索していて、偶然ヒットした、2013年のニュースである。

栗本薫の短編小説「走馬灯」がイタリアにて映画化
http://sfwj50.jp/news/2013/07/somato-kurimotokaoru-movie-italia.html

 この記事、不自然だとは思われないだろうか?
 日本のSF作家の作品が映像化されたというのに、なぜか、かんじんの「走馬灯」の内容についてまったく言及がないのだ。
 まあ、イタリア人が知らなかったのはしかたない。しかし、ストーリーを書いてしまうと、日本のSFファンならみんなピンとくるだろう。

「これってまるっきり、星新一の『午後の恐竜』じゃん」と。

 ちなみに「走馬灯」は『S-Fマガジン』1988年2月号掲載作品。当時、僕はリアルタイムで読んで、唖然となったもんである。 無論、アイデアが同じであっても、ストーリーが違っていれば別の作品だが、「走馬灯」はそのアイデアが提示された時点で終わってしまうので、「午後の恐竜」に何も新しいものをつけ加えていないのである。
 原稿を渡された編集者も困惑したんじゃないかと思う。いや、当時存命だった星新一氏はどう思っただろう?

 さすがに『SFマガジン』誌上で意識的に星新一のパクリをやるとは思えない。おそらく栗本氏は意識して盗作をやったのではないと思う。
 これには二つの解釈がある。ひとつは、栗本氏は「午後の恐竜を読んだことがなく、まったく偶然に同じアイデアを思いついたのだという考え。

 実はアマチュア時代、1980年代初頭だったと思うが、こんなことがあった。あるイベントの直後、数人のSFファンが駄弁っていた時、一人が「今度こういう話を書こうと思ってるんだ」と言って、自分の思いついたアイデアを披露したのである。
 まわりにいた、僕も含む全員が、「それ、星新一の『午後の恐竜』だよ」と指摘したら、そいつは「えっ、もう書かれてたの?」と驚いていた。
 つまり星新一氏でなくても思いつくアイデアだということだ。

 以前、小説講座をやっている人から聞いたんだけど、作家志望のアマチュアの人にショートショートを書かせたら、「主人公が実は虫だった」というオチを書いてくる人がやたらにいるのだそうだ。主人公の一人称による描写で話が進み、最後に実は主人公がゴキブリだったとか、蚊だったとか判明するのだ。
 思いついた人は「斬新なオチだ」と思ってるかもしれないけど、そんなのは誰でも思いつく程度のものなんである。

> SFをはじめて書くきみが、やっと見つけたアイデア――そんなものは、とっくに、どこかのプロ作家が考えだし、書いてしまっているに、きまっているのだ。しかも、ずっとおもしろく、ずっとうまい文章で!
──筒井康隆『SF教室』

 筒井康隆氏の『SF教室』は、僕が中学の時に学校の図書室で借りてむさぼるように読んだ、いわば僕にとってのSFのバイブルである。この本で得た知識は多い。
 長らく絶版で入手困難だったが、昨年、『筒井康隆コレクションⅠ 48億の妄想』(出版芸術社)に収録されたので、また読めるようになった。高い本だが、おすすめしておく。

 子供向けの本とはいえ、筒井氏の筆はまったく容赦なく、SFや創作について、あけすけに本音を書きまくってる。そのかっこよさ、今読んでもしびれる。
 特に秀逸だと思うのが、上記の「SFをはじめて書くきみが」なのである。
 身も蓋もない話だが、真理だと思う。

 特に僕らの世代には、上には星新一という巨人がいた。
 星さんがありとあらゆるオチを書いてしまっているから、何か思いついてもたいてい、「ああ、それ星さんのショートショートにあったよね」ということになっちゃうのだ。
 だからこそ、筒井さんの言葉が身に染みるのである。
(つづく)


タグ :創作SF

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この記事へのコメント
オリジナルSF小説として書こうと思ったプロットを、書かないうちに別の作家に先を越されて書かれてしまう事は良くあるそうで、所詮、人間の考える事など、限界があるのかも知れないと思ってしまいますね…(°Д°)。
Posted by 魔女チカ at 2015年03月08日 23:33
イタリアの映画界は山本先生も寄稿された「映画秘宝」の別冊にも書かれてありますが、テリー・ギリアムが大損させられたみたいな事件が割とありますから、日本から金を引っ張る為に・・・と下衆な考えをしてしまいます。
Posted by ジャラル at 2015年03月18日 22:40
『SF教室』という本があるのは初めて知りました。
筒井康隆氏の作品は一冊も読んだことがありません。有名な『時をかける少女』くらいしか知りません。

絶版だったけど『筒井康隆コレクションⅠ』に収録されて読めるようになったそうですが
たしかに言われている通り値段が高いですね…。
今はなかなか購入しづらいですが、ぜひ読んでみたいです。
山本先生が中学の時にむさぼるように読んだSFのバイブルが
時を越えて、いずれ私も同じようにむさぼるように読むことになるのはなんとも素晴らしいことですね。

ちなみにSFの書き方について検索していたら、以下のサイトがヒットしましたので紹介します。
小学生のためのSFの書き方
http://www2.ocn.ne.jp/~nukunuku/MyPage/WRITE.HTM

>それに、SFは誰かが考えだしたアイデアを、ほかの人もどんどん使うことによって、新しい作品を生みだしてきたという歴史をもっている。

やはり同じことを言っていますね。

ちなみに私にとってのSFのバイブルは山本先生の『こんなにヘンだぞ!空想科学読本』です。
本物の空想科学の面白さや素晴らしさを教えて頂きました。
その後『空想科学読本』シリーズにはすっかり興味をなくして、もう買っていませんから。
最後の活字SFの傑作紹介で個人的に『時間的無限大』が一番読みたかったのですが、残念ながら絶版なので今も読んでいません。
代わりに同じタイムトラベルをテーマにしたマイケル・クライトンの『タイムライン』が一番最初に読んだSFです。
タイムトラベルの原理を本当に可能に思えてしまうくらい詳細に解説していたのは感動ですね。
海外作品にしては珍しくわかりやすい説明が多い。
なんかクライトンと山本先生は、読者への解説が丁寧な点が似ているような気がします。
Posted by 匿名 at 2015年03月31日 19:18
ヘレン・ケラーも『霜の王様』(霜の仙人だったかな?)という童話を書いたら
類似かつ先行作品があったというエピソードを覚えています。
障害を受ける前に、読み聞かせで先行作品のストーリィーを知ったと記憶しています。
Posted by ウキ at 2015年04月02日 22:24
栗本薫さんは、「グイン・サーガ」でも、物忘れ事案をやらかされてますね。

「三人の放浪者」で、主人公グインとその友人マリウスが、ケイロニアの首都サイロンの「まじない小路」に行って、某悪人にグインが誑かされ掛け、とある爺さんが助けてくれるのですが。
そのずーっと後、マリウスが、とある妖怪に襲われた所を、この爺さんが助けてくれるのですが。
会った事有るのに、そういう態度を、露とも示さない。
事情有って、初登場時とその後とで、爺さんは外見が変化しているのですが、それにも触れない。
てか、爺さんは、作中世界では極めて名高い魔道師なので、吟遊詩人たるマリウスは、彼に会えただけで大興奮して然るべきなのに(某悪人については斯様な態度でしたが)、そういう様子も無いと言う。
担当編集者は、何をやってたんですかね。
Posted by ポポイ at 2015年04月09日 18:34
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