2013年08月09日

SF大会レポート3:表現規制問題2013

 SF大会で出演したパネルのひとつがこれ。

●表現規制問題2013「アレとかコレとかが違法だなんて……やっぱ、おかしくない?」

 真っ先に話題になったのは、先日の、CGで児童ポルノを作って売ってた奴が逮捕されたというニュース。

「児童ポルノCG販売で逮捕」に衝撃
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/jikenbo_detail/?id=20130717-00031140-r25&vos=nr25msn0000001

CGも児童ポルノ、写真以外で全国初摘発 デザイン業の男逮捕
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130711/crm13071113120003-n1.htm

 厳密にはCGと言っても、写真集をスキャンしてフォトショップで加工した程度のものだったらしい。そりゃ児童ポルノ法以前に著作権法違反だろ、と思ったりもするんだけど。
 産経新聞にはこうある。

> CGは写真と見分けがつかないほど精細で、同課は「2次創作物であっても、実在の少女の裸を基にしたものであれば少女の権利を侵害するため、今後も取り締まっていく」としている。

 この部分を読むと、CGだったことはあまり関係なくて、実在の児童の裸をリアルに模写したのが違法だ、という判断が下されたと解釈できる。
 この判断は重大な意味を持つのだ。何かと言うと……

『エスパー魔美』のお父さんも逮捕されちゃうんだよ!(笑)

 佐倉十朗氏のように、自分の娘をモデルにしてヌードを描いていると、しょっぴかれちゃうってことなのだ。モデルである魔美自身が、何ら性的虐待など受けていなくても。
「そんなのフィクションの中のことだろ」と思ってはいけない。これが違法行為ということになると、「子供向けのマンガで違法行為が描かれている」ことになり、『エスパー魔美』という作品に規制がかかることは、十分に考えられる。

 もうひとつの問題点。こういうニュースでは、押収されたのは「児童ポルノ」とだけ報じられ、どういうものだったのか、具体的にタイトルが挙げられない。このジャンルに詳しくない読者は、「児童ポルノ」と聞いて、裸の子供が股をおっぴろげているような、ものすごく淫らなものだったんだろうと想像するのではなかろうか。
 でも報道を見ると「昭和57年~平成5年に出版された9~14歳ぐらいの少女の写真」とある。僕はこれを読んで、当時流行していた美少女写真集、清岡純子とか石川洋司あたりのものだったんじゃないかと推測した。
 案の定、元になったのは清岡純子の『プチ・トマト』だったと、後で判明した。

山田太郎議員、「CG児童ポルノ」摘発事件の内幕を語る
http://nijigenkisei.ldblog.jp/archives/29675834.html

 だとしたら、ちゃんとした写真家が保護者の許可を得て撮影しているわけで、ちっとも児童虐待なんかじゃない。 (それを模写して販売したのは問題だけど)
 僕ら規制反対派の人間が口をすっぱくして言ってるのは(そして規制賛成派の人間の多くが理解してくれないのは)、児童ポルノ法の主旨は、現実に存在する児童を虐待から守ることだ、という点だ。
 当たり前だけど、「ヌード」と「ポルノ」は違うのだ。ポルノのほとんどは基本的にヌードを含むが、ポルノではないヌードもたくさんある。
 海外でも、たとえばジョック・スタージェスJock Sturgesの写真など、未成年のヌードがよく出てくるが、児童ポルノではないという判断が下されており、写真集も発禁になどなっていない。代表作の数々もネット上に普通に上がっている
 しかし、児童虐待によって撮られたヌード写真もある。それは虐待ではないヌードと、表面上、見分けがつかない。だから子供の裸の写真はみんな規制しましょう……ということになってしまったのである。

 これに関してややこしいのは、昨年、エヴァ・イオネスコが母親のイリナ・イオネスコを訴えて勝訴したという事実。

仏女優E・イオネスコさん勝訴、「児童ポルノ」撮影で母親に賠償命令
http://www.afpbb.com/article/entertainment/news-entertainment/2917363/10010409

 確かにイリナがエヴァのヌードを撮っていたことは事実だけど、今とはまったく考え方の違う時代だったし、30年以上も前の話を今になって急に訴えるなんて腑に落ちない。母親との仲が良好であればこんな訴訟など起こさないだろうから、やっぱり仲が悪くなったからなんだろう。
 ただ、イリナ・イオネスコの写真は娘をセクシャルに撮っている部分があり、だから児童虐待だと判断されたのかもしれない。
 当たり前だけど、モデルとなった女の子がすべてエヴァと同じように考えているわけではあるまい。それどころか、「有名な写真家の先生にきれいに撮ってもらった」と誇りに思っていた者もいるかもしれない。それが急に違法ということにされ、犯罪行為の犠牲者に貶められたわけである。
 つまり、実在する児童を保護するためのものだった児童ポルノ法が、逆にモデルになった女性を傷つけることだってありうるわけだ。

 他にも出たのが、「博多山笠はどうなるんだ?」という話題。
「博多山笠」で検索すれば分かるけど、ふんどし姿で祭りに参加している少年や少女の後ろ姿を撮った写真が、ネット上にいっぱいアップされているのだ。以前は男の子ばかりだったのだが、最近は女の子も増えているらしい。
 もちろん子供が自主的にふんどしを着けて祭りに参加しているのなら、児童虐待なんかであるはずがない。でも、ふんどし姿の女の子のお尻の写真を見てハアハアしている奴もきっといるはずである。すると、いわゆる「3号ポルノ」――「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」という定義に当てはまってしまいかねない。
 女の子のふんどしだけ禁止しても意味がない。児童ポルノ法には男女の区別はないのだ。げんに男の子のお尻に欲情する奴はいる。
 博多山笠の問題は、児童ポルノ法の問題点を浮き彫りにする。その定義が、児童虐待の実態と一致しないのだ。

 あと、パネルで僕が強調したのは、表現規制というのは、警察などの公的機関が直接手をくだすものより、業界の自主規制の方が影響が大きいということ。
 知り合いのポルノ作家の話によれば、最近はポルノ小説でも、18歳未満のキャラクターを出すなと編集部に言われることが多いらしい。まだ小説の規制ははじまってもいないのに、先回りして自主規制が行われ、表現の幅が狭められているのだ。パソコンゲーム業界でもそうらしい。
 最近では、こんなニュースも流れた。

「人権侵害だから、本のタイトルも教えない」閲覧禁止の児童ポルノ開示請求に対し、国会図書館から返答
http://www.cyzo.com/2013/08/post_14093.html

 国会図書館が、児童ポルノとされる本の閲覧をさせないだけでなく、書誌データを教えることさえ拒否してきたというのである。モデルのフルネームまで載ってるならまだしも、本のタイトルや発売日が分かったところで、人権侵害になるわけがないのに。
 実際に警察が乗り出さなくても、法律を破っていなくても、これは「まずいのかも」と感じた人間による過剰な自主規制が、どんどん世界を不自由にしてゆく。

 まあ、最大の問題は、こういうことを言ってても、ほとんどの人はこの問題に関心を示さないってことなんだよな(笑)。先日の参院選でも、表現規制問題なんてぜんぜん話題にならなかったし。
 パネルでも言ったけど、ほとんどの人は「創作物の表現規制が行われたらコミケが滅ぶ」とか言われても、その恐ろしさが理解できないんだと思う。
 エロマンガなんかなくなってもかまわない。
 あるいは「悪いマンガを撲滅したらいいマンガが残る」と思ってる。
 冗談じゃない。
 猥雑なもの、下品なもの、インモラルなものも含めて、日本のマンガ界を支えるパワーになってるんだよ。「清く正しいマンガだけを描きましょう」と言われたら、業界全体が萎縮しちゃうんだよ。
 あと、何度も言うけど、児童ポルノ法の目的は実在の児童を保護すること!  なんか「淫らなものだから規制するんだ」みたいに誤解してる人が多すぎる。

 スウェーデン国家刑事警察児童ポルノ犯罪対策班のビョーン・セルストローム班長はこう言っている。

「架空のキャラクターが児童ポルノかどうか判断する仕事で警察を手間取らせるのではなく、実際の児童虐待を取り締まる仕事に専念させて欲しい」
http://www.jfsribbon.org/2012/12/blog-post.html



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この記事へのコメント
この話題を目にするといつも私は水野忠邦の天保の改革を連想します。
このケースとは少し違うものの歴史は繰り返すという事なんでしょうかねえ……。
ただ、歴史は繰り返すとして、改革を断行した水野忠邦が失脚後にどうなったかを考えると……。
もしこの表現規制の果てに日本が今より状況が悪くなったら規制賛成派には責任はとってもらいたいものです。
まあ、その時までに生きていればいいのですが。
Posted by ドードー at 2013年08月09日 22:14
90年代には現在と違って、まだあちこちに個人経営の古本屋があり、万引き防止用のガラスケースに『プチトマト』が入れられているのを何度も見たことがあります。1万円前後の値がついていました。新古書店に押されて皆潰れてしまいましたが。
 『博多っ子純情』のDVDが発売されました。銭湯のシーンは削除されるかと思ったのですが、ちゃんと残っているそうです。86年にテレビで放送されたのを見た覚えがあります。宮崎の事件が起こるまでは、結構こうしたシーンもテレビで流していましたね。
Posted by TK at 2013年08月09日 22:14
 お疲れ様でした。

>CGだったことはあまり関係なくて、実在の児童の裸をリアルに模写したのが違法だ、という判断が下されたと解釈できる。
>この判断は重大な意味を持つのだ。何かと言うと……

>『エスパー魔美』のお父さんも逮捕されちゃうんだよ!(笑)

 本当にヌードデッサン等はどうなってしまうのですか。大学時代に人体描写の研究の一環で嫌というほどやったのですが、モデルの人たちは冬でも床暖房一つでほぼ不動のまま見事にデッサン対象としての責務を勤めていられました。(流石に最初にヌードを見たときはドキリとしましたが、描いていくうちにそんなことを言っていられなくなってきました。少し身体が動いただけでもイラっとしたりするようになって…それ以上に貴重な絵画技術研修の時間でした)長時間じっとすることは体力的に凄まじく大変なことなのに、立派な(描き応えも含めて)人たちだと思いました。…規制派の人たちは、他の仕事をやればいい、と仰るかもしれませんが。

>押収されたのは「児童ポルノ」とだけ報じられ、どういうものだったのか、具体的にタイトルが挙げられない。

 題目だけ見て終わりな、新聞を碌に読まない人ですか。

>母親との仲が良好であればこんな訴訟など起こさないだろうから、やっぱり仲が悪くなったからなんだろう。

 若しくは、金で心を汚されたとか。家族間での金銭問題など、いくらでもありますよね。

>、「有名な写真家の先生にきれいに撮ってもらった」と誇りに思っていた者もいるかもしれない。

 まぁ、いるかもしれない…ですか。名乗り出ていただけないものですかね、そういう人たち。そしてこの問題について議論していただければ。

>げんに男の子のお尻に欲情する奴はいる。

 阿部「や ら な い か」…架空の人物を例に出してすみません。

>「架空のキャラクターが児童ポルノかどうか判断する仕事で警察を手間取らせるのではなく、実際の児童虐待を取り締まる仕事に専念させて欲しい」

 名言で終わらず有言実行されることを祈ります。(この英訳、合っている…はずです。訳される時に曲解されることもあるので気をつけないと…)

 長文になって申し訳ありません。更にまだ一つコメントしたいことがあるので重ねてご迷惑をお掛けします。
Posted by toorisugari at 2013年08月10日 01:24
>猥雑なもの、下品なもの、インモラルなものも含めて、日本のマンガ界を支えるパワーになってるんだよ。「清く正しいマンガだけを描きましょう」と言われたら、業界全体が萎縮しちゃうんだよ。

 「Fate/Zero」の雨生龍之介の発言、「神様は勇気とか希望とかいった人間賛歌が大好きだし、それと同じくらいに血飛沫やら悲鳴やら絶望だって大好きなのさ。でなけりゃぁ――生き物のハラワタが、あんなにも色鮮やかなわけがない。だから旦那、きっとこの世界は神様の愛に満ちてるよ」を思い出しました。断じて賛同するわけではありませんが、
 以前「山本弘のSF&トンデモNight東京出張版「SFとUFOの熱い夜」」の記事での私のコメント、「山本さんの「人間は知的生命とは言えないのでは」という(常日頃からの)疑問ですが、私は清濁両面であらゆる可能性を飽くことなく探っていくという意味では、人間はやはり知的生命だとは思います。」という考え方が強まった気がします。
Posted by toorisugari、追記 at 2013年08月10日 01:32
いろいろ言いたいことはあるが、「だとしたら、ちゃんとした写真家が保護者の許可を得て撮影しているわけで、ちっとも児童虐待なんかじゃない。」というのは的外れ。
現在のU15物でもほぼ全て親が金儲けのために子供を利用してるわけで、そういう親から子供を守るためにこそ児童ポルノ法が必要とされている。
Posted by 俊平太 at 2013年08月10日 16:39
サイン会、有難うございます。
先日の参院選でも、表現規制問題なんてぜんぜん話題にならなかったし、
表現規制問題は反対派賛成派とも票に結びつかないようですね。
もちろん私は表現規制反対派に投票しましたが、
おたくだからといって自維公に投票しなかったわけでもないでしょうし、
SF大会で出演したパネルでも、オーストラリアが日本を嫌っているからという会場内での声があったような。
彼ら排外主義なおたくは自維に投票しているでしょう。
何はともあれ、渡邉美樹氏が落選しなくて残念だ。
Posted by 一読者 at 2013年08月12日 11:43
榊一郎先生のブログで都条例の事知ってから三年半、か…。あれから事がどんどん大きくなって、色々リーチかかっている感じですね…。
山本先生。
明けない夜は無いと言いますし、どうか頑張ってください。
面白い本やらなんやらを見て、笑って暮らしていきたいです。
自分の好きな作家さん達も、幸せに暮らしていって欲しいです…。
Posted by 欧羅火 at 2013年08月12日 12:58
表現規制のことを取り上げるなら「風立ちぬ」問題も取り上げてほしかったです。あっちのほうがよっぽど萎縮すると思うけどな~。「サンケンロック」の作者のように規制が厳しすぎる韓国から規制のゆるい日本に移ってきた例もあるし
Posted by ポイズン at 2013年08月12日 17:34
連続でのコメント失礼します。
自分は心労から子供を創れなくなりました。
(EDではありません。出ないのです。)
さて、今後の政治の動きによっては、自分はかなり苦しくなります。
一度、政治家さんに意見を言いに行きましたが、どうやら敬遠されてしまったようです。まあ、党の方針とか、こういうカラダの問題はデリケートなので仕方ないのかもしれません。
自分の身体の件は事故のようなものなのですが、同時に武器にもなると考えました。
山本先生。自分のような人間が敬遠されず、少しでも実りの大きい結果を出すにはどんな方法があるのでしょうか?
お知恵を借りたく思います。
Posted by 欧羅火 at 2013年08月15日 13:46
 更に追記失礼。
 児童ポルノ法もそうですが、松江市図書館と『はだしのゲン』についての一件、そしてTPPでアメリカが提案する著作権法の非親告罪化等々、「コミケが滅ぶ」が現実性を帯びる表現規制的活動が目に付くようになりました。非常に危険な流れだと思います。

 中には児童ポルノ法反対側の方の活動の欠点として『建設的な議論をしない・「石原も昔はポルノ書いてたくせに!」と口汚く叩くだけ』、「取り締まる側はこれまで線引きされた法律の基準を業者が実に巧妙にかいくぐる、という事例に懲りている。ある程度の恣意的判断を認めてくれないと取り締まれない、というのは現場の声」などと述べたり、TPPについて「中国包囲網」というプロパガンダ的扱いをして「それなりに」評価するという声もありますが…
Posted by toorisugari at 2013年08月21日 23:28
児童ポルノ関連とはまた少し違うものの今、「はだしのゲン」が巷を賑わしてますねぇ。
「はだしのゲン」は中学校の図書室に置いてあって私は中学生の頃はよく読んでました。
「残酷描写が子供に悪影響が〜」なんて言ってる人がいますけど、普通に成人して社会人をやってますけどね。愛読してた私は。
後半、薬物中毒の恐怖やヤクザのやり口とかも描かれていて戦争関連以外でも教育的ですのに、子供を無菌状態にしたいんですかね。
純粋培養で育てられた植物は外界に出されるとたちまち枯れると言われてますのに。
Posted by ドードー at 2013年08月26日 01:51
> 当たり前だけど、「ヌード」と「ポルノ」は違うのだ。ポルノのほとんどは基本的にヌードを含むが、ポルノではないヌードもたくさんある。

「ポルノ」の定義は、ウィキぺディアによると「性的興奮・刺激を誘発する」「性描写を含む」「自慰行為に利用される」といった特徴を持ったもの、とあり、私もこれはそのとおりだと思います。
「ヌード」は「性描写を含む」には当てはまりませんが、「性的興奮・刺激を誘発する」「自慰行為に利用される」はどうでしょうか?
お聞きしたいのは、山本さんは「ジョック・スタージェスJock Sturgesの写真など、未成年のヌード」で「性的興奮・刺激を誘発」されないのか?、ということです。
もし、山本さんがそれらの「ポルノではないヌード」の「写真を見てハアハアしている」のであれば、「ポルノではないヌード」と"ポルノであるヌード"の間に何をもって線引きされているのでしょうか?

私は別に山本さんの批判をするつもりではありません。
以上の質問は、子供の頃、親が持っていた画集のアングルの「泉」にてハアハアしていた私の、山本さんの「当たり前だけど」に対する素朴な疑問です。
ご回答頂ければ幸いです。
Posted by zoo at 2017年05月04日 08:08
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