2013年06月16日

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』最終巻

 6月8日、トンデモ本大賞からの帰りに購入、その日のうちに読了。

  いちおうネタバレは避ける方針だけど、勘のいい方なら容易に察してしまうかもしれないので、できれば未読の方はご遠慮いただきたい。












 いやー、すごかった!

 やっちゃったよ!(性的な意味でなく)

 いや、予想はしてた。前巻がああだったから、こういう展開になるんじゃないか、なれば面白いな、とは思ってた。
 その反面、「いくらなんでもそこまで書く勇気はないんじゃないの?」とか「宙ぶらりんで放り出してお茶濁すんじゃないの?」という疑念も捨て切れなかった。
 ハーレム状態にけりをつけるということは、言うまでもなく、主人公に選ばれなかった女の子たちが傷つくということだ。それは読者は望まないし、作者も書きたくないんじゃないだろうか。
 これは古典的な問題だ。その昔、あだち充『みゆき』の最終回で、賛否両論が巻き起こったのを思い出す。僕の知り合いにも、「あの終わり方は許せない!」と怒っている奴がいた。
 二者択一の結末でさえこうなのだ。『俺妹』みたいに五者択一(数えようによっては六者か七者かも)の場合、結末に満足しないファンの方が多いと予想される。
 まして作者は、熱狂的なファンから脅迫された過去がある。同じようなことが起きるかもしれないと予感して、明確な結論を出すことに不安や迷いを覚えていたとしても不思議じゃない。

 ところが。

 作者はこっちの予想を上回るど真ん中の剛速球を投げてきた。

 最高の見せ場は、何といっても、本のちょうど真ん中。見開きで発せられる、たった2文字の台詞。
 僕がその瞬間、覚えた感情は「痛快」。そして「感無量」。
 この2文字を言わせるために、この物語はあったんだな。
 しばらく本を伏せて、この2文字の余韻にひたってましたよ、ええ。

 しかもそこで終わりじゃなくて、後半の展開がさらに悶絶もの。京介たちの会話に何度噴き出したことか。こーの、バカップルがーっ!(笑)
 あやせのヤンデレ、黒猫の厨二病も例によって全開で、最後の最後まで笑わせてくれる。ラブコメの「ラブ」だけじゃなく「コメディ」の部分を大事にしてくれているのが嬉しい。

 でも、笑えるだけじゃない。
 京介に選ばれなかった女の子たちが、順に退場してゆく。そのくだりがもう、泣ける泣ける。
 彼女たちは傷つき、怒り、泣き叫ぶ。ハーレムを終わらせるということがどれほど残酷なことなのかを、作者はしっかり描いてみせる。

 特に盛り上がるのはクライマックスの「最終決戦」。
 これも予想してた展開とはいえ、本当に「修羅場」と化した。ああ、ここまで書いちゃうんだ。彼女にこんなひどいこと言わせるんだ。そして京介にこんな残酷なこと言わせるんだ。
 彼女のファンなら胸かきむしられること必至。
 でも、ここまで徹底的にやらなきゃ決着がつかないのも確か。
 さらにその後、京介が「この物語のラスボス」に対して啖呵切るのが、最高にかっこいい。

 ネットでこの結末への不満をぶちまけている連中の発言も読んだけど、はっきり分かるのは、彼らのほとんどが実際にはこの最終巻を読んでないということだ。ネットにアップされた乱暴な要約や2ページの抜粋だけ読んで腹を立て、あるいは嘲笑している。
 なぜそれが分かるかというと、作者は予想される反論や批判に対して、先回りして答えを書いているからだ。京介の口からはっきり「キモイ」と認めさせているのに、「キモイ」と批判するのは無意味だろう。
 そう、この話はキモイ。でも、かっこいい。
(ま、倫理的なこと言い出したら、中学生の女の子がエロゲやってる時点ですでにアウトなんだけどね(笑))

 もちろん、欠点を挙げ出したらきりがない。今回も「何でそれを録音してたんだよ黒猫!?」とか、笑いながらもツッコんじゃったし。他にも、上手く使われなかった伏線とか、途中から設定を変えたらしい部分もあり、作者が最後までどういう結末にもっていくか迷っていたのがうかがえる。読者に対してアンフェアな部分(京介の一人称で本当のことを言ってない)や、キャラクターの心理が不自然な部分もある。
 でも、それらを認めたうえでなお、僕はこの最終巻を評価する。

 作者は逃げなかった。
 物語を終わらせるために、愛すべきヒロインたちを傷つけることを決意した。京介といっしょに物語に向き合い、安易な結末や非現実的な結末をすべて否定し、最良の落としどころを模索した末に、ぎりぎりの妥協点にたどりついた。
 その真摯さと勇気に、僕は感動した。

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の最終巻は、おそらくライトノベル界の伝説として語り継がれることになるだろう。

 しかし、ここまでやられたら、同じような作品を書いてる他の作者はつらいだろうなあ。同じことをやっても二番煎じになるだけだし、これ以下の結末を書いたら「『俺妹』に比べたらぬるい」と言われるだろうし。



同じカテゴリー(ライトノベル)の記事画像
伊藤ヒロ×山本弘トークLive「僕らはエロい小説が書きたい!」
ライトノベルについていろいろと(後)
ライトノベルについていろいろと(前)
『マップス・シェアードワールド2―天翔ける船―』
同じカテゴリー(ライトノベル)の記事
 伊藤ヒロ×山本弘トークLive「僕らはエロい小説が書きたい!」 (2017-12-14 19:02)
 ライトノベルをめぐる仮説いろいろ (2014-10-25 16:32)
 『ラプラスの魔』(完全版) (2014-09-18 18:41)
 日下一郎『“世界最後の魔境"群馬県から来た少女』 (2014-02-04 16:34)
 ライトノベルについていろいろと(後) (2012-10-28 16:38)
 ライトノベルについていろいろと(前) (2012-10-28 15:42)

この記事へのトラックバック
アニメを2期の9話まで見てようやく原作に手が伸び、ちびちび読み進めておりました。
TV放映最終話の2期13話まではアニメが先、そっから最終巻までは原作が先という変則進行でした。

...
【ネタバレ感想】俺の妹がこんなに可愛いわけがない 全12巻【低予算ブログ】at 2013年07月18日 00:22
この記事へのコメント
>ネットでこの結末への不満をぶちまけている連中の発言も読んだけど、はっきり分かるのは、彼らのほとんどが実際にはこの最終巻を読んでないということだ。
>ネットにアップされた乱暴な要約や2ページの抜粋だけ読んで腹を立て、あるいは嘲笑している。


そういう連中が多い理由のひとつはおそらくこれ↓です。

三木一馬
http://dic.nicomoba.jp/k/id/5073966

ココロコネクトのパワハライベントと同じように悪い意味で作品が注目されてるんですよ……。
ココロコネクトの時も思いましたが作品が内容以外の要因でまっとうに批評されない事が哀しくてなりません……。
Posted by ドードー at 2013年06月16日 18:29
いろんな深読みができるところが、俺妹の一番楽しいところですよね。読み方は人それぞれだと思いますが、がっかりしてる人は、是非視点を変えて読み直して欲しいと思います。
この物語は京介が語り部の物語で、全てを語っている訳じゃなくて、語っていないことに一番大切な意味があるんじゃないかなと。
京介が最初に、手を抜くのはもったいない、と覚悟を決めて言っているのが何なのか。
そういう視点に気づいたら、きっと評価が全く違うものになると思います。すごくわかりにくいですけどね。
「うし、やるかね。」
京介はやっぱりすごいお兄ちゃんでした。
Posted by hide at 2013年06月16日 21:51
発売日に購入し、二日で読み終えました。
正直、僕の「見たかった」物語とは、全く違う終わり方でした。不満が残らなかったと言えば、嘘になります・・・しかし!それよりも、僕も中盤見開きの「アレ」にヤられてしまいました。もうそれから、しばらく頭の中によぎるのは、そのヒロインの事ばかり。あぁ、悔しい。そう思わされた時点で僕の負けです(笑)まあ、それに皆が幸せになれるハーレムエンドなんて、あり得ない訳ですし。
よくよく考えたら、これまでの展開も、この最終巻に向けての伏線と考えたら、スッキリする部分も多いんですよね。

賛否両論ある、この最終巻ですが僕も楽しませてもらった以上、「支持」にまわりたいと思います。
Posted by スバル最高! at 2013年06月16日 22:19
>ハーレム状態にけりをつける

 個人的には「ましろ色シンフォニー」を思い出しました。すみません引き出しが狭くて…
 ハーレムもの、(関係を)そのままで完結するかけりをつけるかで作風がガラリと変わりますよね。まだまだ色々ありそうです。

>ここまでやられたら、同じような作品を書いてる他の作者はつらいだろうなあ。

 タイムパラドックスものでの「まどか☆マギカ」ですか。
 またまた個人的には、ヒメや詩羽・アイやシャナナ達山本さん作品歴代ヒロインの出てくるハーレムもの、というのが読みたいのですが如何でしょう、山本さん。(勝手なリクエストを失礼)
Posted by toorisugari at 2013年06月17日 17:08
自著の宣伝もそこそこに、他人のラノベを絶賛とな?
ちっとも儲からないトークイベントの為に東京までホイホイ出かけちゃうし、そんな商売下手な山本先生が…大好きだ!


…という訳で、人気のラノベってやたら巻数が多いし、自分は性根がひん曲がってて流行りもんは敬遠しがちなので、今まで『俺妹』はアニメを数回観ただけでしたが、先生がそこまで激賞されるのならちゃんと読んでみようかしらん。

ところで、自分の好きな事を仕事にしてる感のある先生ですが、ラノベは自分で書くより人のを読む方針なのでしょうか?
『MM9』からひかる様主演のスピンオフなんて素敵だと思うんですけどね-。
ヘタレな一騎に対して、万能過ぎるひかる様が『化物語』のガハラさんと『ベン・トー』の白梅様を足しっぱなしで2で割らない感じの大暴れの上、クライマックスではシャンタッ君の一万倍くらい頼りになるゴズ&カガミが奇跡の左右合体とかすると楽しそうじゃないですか。きっと勝てますよww
さらに、表紙がジト目のひかる様でタイトルが『返事は?セクハラ野郎』とか…夢と妄想と厨二病が止まらない!どうしよう!?
Posted by 活字スキー at 2013年06月17日 22:50
こんにちは、いつもブログを楽しく拝見させていただいています。
ネット上の評判も様々で、アマゾンでの評価も1と5に真っ二つに分かれていて、感想は個人個人が感じるものなので周りがどうこうあろうが、自分が良かったと思えばそれで良いはずなんですが…、正直なところ山本先生の評価を拝見して少し安心している自分がいたりしていますw
一応サーラの頃からなので…、20年来の一ファンとして山本先生の感性を信頼しておりますもので…

でもこれって「テレビで言っているから正しいだ」ってのとあまり変わらないですよね(反省)
Posted by ぬ~ at 2013年06月18日 01:33
最終巻の批判の半数以上は兄妹恋愛EDになったことでなく、
「中途半端」な兄妹恋愛EDだったことにあると思うのですが。

それを「アンチはまともに読まずで批判している」とは、
レッテル貼りの詭弁もいいところで、
「Amazon.co.jpで購入済み」レビュアーなど、
明らかに購入して読破した上で評価したレビュアーに
失礼ではないでしょうか?

ただし、この中途半端な結末に至った
2人の兄妹の本心は描かれておらず、
如何様に想像することもできるので、
その部分を各自で補完することによって
(自分にとっては)完璧な終わりと解釈することもできます。

例えば、期間限定で付き合い、
けじめをつけて別れたはずなのに、
それでも機会さえあれば平気でキスをするのは、
まだ理性や社会常識が勝ってる桐野の心を
少しずつ誘導するためだとか、そういう仮説ですね。

そして、こういう「ほのめかし」で終わらせた理由も
若年者が主要購買層のメディアで強い影響力を持つ作品になってしまい、
本気で「突き抜けた」ことが描けない状況だから
ある意味表現の妥協をせざるを得なかった、というような仮説です。

しかし、これは仮説でしかないわけです。
別にこの仮説が正しいと言いたいわけではなく、
他のどんな仮説でも同様で、仮説は仮説でしかない。
結果だけ見れば、非常に「中途半端」な兄妹恋愛EDにしか見えない
読者が多かったわけです。

そこが今までのファンにすら批判される核の部分であり、
それを無視することは、ある意味確証バイアスでしかないと思います。

もちろん、プロ作家として出版業界にまつわる
様々な事情を考慮した上での総括なのかも知れませんが、
「裏事情を考慮しないと読めない小説なんて!」とも思うのです。

一意見でしかありませんが、思うところあったので書き込ませていただきました。
Posted by 匿名 at 2013年06月19日 01:42
>安易な結末や非現実的な結末をすべて否定し、

確かにそういう類いの結末に逃げなかったというのは評価できるかもしれませんね。
先日、例によって女の子がたくさん出てくる類いの3巻完結のラブコメ漫画(作品名は伏せます)を読んでいて
他にも女の子たちはいる中で幼馴染みの女の子に私は共感し応援してたんです。
2巻まで読んで「本命っぽい子はいるけど、俺はこの子が一番良いな。くっついてほしいな。無理かな……」と思いつつ
3巻目を読んだわけですが、あまりにも非現実的かつ安易なラストを読んで「ちょっ!?ふざけんな!」と思いましたね。
ハーレムを終わらせないためにラストで作者が逃げてましたわ。あんなんだったらフラれてくれた方がまだ良かったです……。
まあ、打ち切りが決まって畳んだのかもしれませんし、恨みを買いたくなかったというのはあったのかもしれませんが、
そういうわけで、安易な結末や非現実的な結末をすべて否定したというところは私も評価しますね。
Posted by ドードー at 2013年06月29日 17:30
>匿名さん

>「Amazon.co.jpで購入済み」レビュアーなど、
>明らかに購入して読破した上で評価したレビュアーに
>失礼ではないでしょうか?

山本先生は「ネットで」と言ってますし、別にAmazonレビューに限定した話じゃないと思いますが。
ネット上には裏が取れない匿名掲示板とか個人ブログとかTwitterとかもありますし……。
まあ、細かい事ですがそこが少し気になったもので。あとは匿名さんの意見として興味深く拝見いたしました。
あと、明らかに現物を読んでもいないのに(観てもいないのに)否定的な感想をネット上に書き込む愚か者というのは本当にいますしね……。
Posted by ドードー at 2013年07月10日 16:46
ただ、現物を読んで批判してても、誤読してたり、読み飛ばしてたり、作者の意図を突拍子もないものに曲解してたりするケースもあるので一概には言えませんが。
個人的に内容や作風が気に入らないというのは仕方ないとして上記のものは指摘してもいい事ですね。泉パウロ氏みたいなのは手遅れですが……(苦笑)。
Posted by ドードー at 2013年07月10日 16:58
作中でキャラがキモイと認めているからって
キモイという感想がなんで無意味に?
「書いてる俺も分かってるから」という予防線を作者が貼ったところで
読者が実際にキモイと思ったら、ちゃんと全部読んでても普通は素直にキモイと言うのでは?
逆に、京介が明確にそれを認める場面がなかったら
キモイけどかっこいいという感想にはならなかったんですか?
そんな一部分で決定されることじゃないですよね、全体の感想って
Posted by 問 at 2013年09月28日 20:40
無難でありきたりな最後ではなかったからこそ
他の作品とは一線をひいたものになったんだと思います
本当に面白かったし、ふられてしまったヒロイン達は
本当に可哀想だった
そこまで感情移入できる作品なんて滅多にないです

自分はレンタルで今日アニメの最終巻みた口ですが
感想が微妙に固まらなかったんですが
この感想をみて確信をもてましたよ
ありがとうございました
Posted by りく at 2014年01月23日 01:43
学生の頃、「ラプラスの魔」という本を読んで、山本弘という作家は凄い、と驚いた記憶はまだ色褪せません。

俺妹のアニメを遅ればせながら観て、その賛否両論ぶりを眺めるうち、この記事に辿り着きました。

私が感じたままを代弁してくれてました。
やっぱり、山本弘の書く文章は凄いし、好きです。

以下は私的な感想です。

仄めかしと可能性に満ちた完全なる桐乃エンドの先には、
黒猫と桐乃と京介の理想の世界エンドがあり得る気もします。

決着を着ける潔さ
書きたいものから逃げない勇気
幸せな未来を予感させる善意

その全てに感謝を捧げたい気持ちですね。
素晴らしい作品でした。
Posted by LS at 2014年02月05日 11:31
実の兄と妹が結ばれるという点だけで、俺妹は単なる駄作だよ。どんな理屈をつけてもそれは変わらない。逆説的になるが、このブログの主張がその証拠。
ハーレムの崩壊という点に着目してその根本を
誤魔化そうとしているのが何とも滑稽に見える。
Posted by コメンター at 2015年05月09日 21:53
碌に本を読まない人たちにとっては、三島の『熱帯樹』や中上健次の『岬』も駄作にしか思えないのでしょうね。
兄妹のインセスト・タブーを扱った文学作品は古代から沢山あるのですけれど、古事記やアラビアン・ナイトすら読んでない人が知ったかぶりしていることのほうが滑稽に見える。
Posted by UL at 2015年05月11日 21:48
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。