2013年05月13日

ハリーハウゼンの思い出

 僕がレイ・ハリーハウゼンのアニメートしたモンスターを初めて目にしたのは、たぶん1964年ごろのこと。
 当時、『森繁ハリウッド物語』という番組があった。森繁久彌がナレーションを努め、毎回、いろいろな洋画の名シーンを紹介するというもので、その中でB級怪獣映画を紹介した回があったのだ。
『大怪獣出現』『巨大カニ怪獣の襲撃』『巨人獣』などが紹介されていたと記憶している。『巨大カニ怪獣の襲撃』では、「うおー、よくも今まで俺たちをカニ缶にして食ってくれたなー」という森繁のナレーションが入っていたっけ。
 その中に、『地球へ2千万マイル』の映像があった。もちろん当時、日本未公開で、そんな映画があるなんて知るわけがない。しかし、コロシアムの上に立った怪獣が、バズーカ砲の直撃を受け、胸を押さえて苦しみながら、「うーむ、やられたー」(by森繁久彌)と言いながら落下するシーンは心に残った。「こんな怪獣映画があるんだ。見たいなあ」と。
 その後、たぶん1966年ごろ、『少年マガジン』だったか『少年サンデー』だったか忘れたが、何かの少年雑誌のグラビア記事で、『地球へ2千万マイル』のスチールを目にした。前にテレビでちらっと見た怪獣が「金星竜イーマ」であることを知った(今は「イミール」とか「イーミア」とか表記することが多いけど、僕らの世代では「金星竜イーマ」と呼ばれていた)。驚いたのは、イーマがローマの街に立って街灯をねじ曲げているカットだ。

http://file.tokusensitu.blog.shinobi.jp/cap034.jpg

 イーマの後ろに人間が立っているのが理解できなかった。当時、すでに『ウルトラQ』『ウルトラマン』に夢中の怪獣少年だった僕だが、巨大怪獣は人間と同じフレームに映らないと思いこんでいた。せいぜい、ビルの向こうに合成されているだけだと。
 なぜこいつは人間と同じ道路に、しかも人間の前に立てるのだ?
 あと、別の雑誌だったと思うが、『アルゴ探検隊の大冒険』の骸骨戦士との戦闘シーンのスチールも目にした。これも不思議だった。どうやって人間と骸骨が戦えるんだ?
 不思議だった。まったく理解を絶していた。

 そして1967年、10歳の頃に、劇場で『恐竜100万年』を見た。僕が初めて劇場の大スクリーンで目にしたハリーハウゼン特撮だった。
 原始人が投げた槍がアーケロン(当時は「アルケロン」と表記していた)に突き刺さるカットには驚いた。
「えっ? 今のどうやったの?」
 当時すでに、特撮の基本的な原理は知っていて、コマ撮りというものは分かっていたが、それでも飛んでいった槍が人形にワンカットで刺さるというのは謎だった。
 さらに興奮したのが、対アロサウルス戦。相手の突進力を利用して木の棒を腹に突き立てるというアクションにも興奮したが、その後、アロサウルスがすぐには死なず、腹が上下しているのにはしびれた。怪獣がただの人形じゃなく、本物の生物として描かれていることに感動したのだ。

 その後、テレビ放映で念願の『アルゴ探検隊の大冒険』や『シンドバッド七回目の航海』を目にした。特に『アルゴ探検隊』の骸骨戦士との死闘は素晴らしく、もうビデオで何十回見直したか分からない。
 子供の頃にちらっと見た『地球へ2千万マイル』も、その後、アマチュアの上映会とビデオでようやく見ることができた。アロサウルスと同じく、イーマはただのモンスターじゃなく、本当に生きているように描かれていた。
 ハリーハウゼンは特撮のテクニックがすごかっただけじゃない。モンスターを愛し、生命のない人形に命を吹きこんでいた。まさに本来の意味での「アニメーター」だった。

 20年ぐらい前、若いゲーマーが参入してTRPGのゲーム人口が増えていた頃、SNEの古参のメンバーに疑問をぶつけたことがある。
「ひょっとして、最近のゲーマーは、スケルトン・ウォリアーがどれほど怖いか知らないんじゃないか?」
 もちろんあれは『アルゴ探検隊』をヒントにしてるんだが、当時の若い人の中には、『アルゴ探検隊』を知らない者が多かったのだ(今はもっと多いだろう)。スケルトン・ウォリアーがどんな動きをしてどんな風に襲ってくるか、具体的にイメージを思い浮かべてないんじゃないだろうか。単にデータとして知っているのと、映像として思い浮かべるのとでは、大きな違いがあるんじゃないだろうかと。
 スケルトン・ウォリアーだけじゃない。『ソード・ワールド』のインプは、『シンドバッド黄金の航海』のホムンクルスをイメージしている。サイクロプスやヒュドラやメデューサにしても、ギリシア神話に元ネタはあるものの、やはり僕らの世代が具体的に思い浮かべる映像は、『シンドバッド7回目の航海』や『アルゴ探検隊』や『タイタンの戦い』ではないだろうか。
 ハリーハウゼンは神話の生物にも生命を吹きこんだ。
 もちろん『原子怪獣現わる』『水爆と深海の怪物』『空飛ぶ円盤地球を襲撃す』『SF巨大生物の島』『SF月世界探検』『恐竜グワンジ』なんかも忘れちゃいけない。僕らにとって、ハリーハウゼンの影響はあまりにも大きい。

 レイ・ハリーハウゼン。1920年生まれ。12歳の時に初めて見た『キング・コング』に夢中になり、自分でもそんな映画を作りたくて、独学で人形を作り、アマチュア特撮映画を製作。ついには『キング・コング』の特技監督ウィリス・H・オブライエンに弟子入り。その後、次々に素晴らしい才能を発揮し、特撮の世界で師匠を超えるほどのメジャーにのし上がった男。
 まさに子供の頃の夢を実現した男だ。

 彼の素晴らしい才能を知りたければ、1949年の『猿人ジョー・ヤング』をお勧めする。オブライエンの名でクレジットされているが、事実上、ハリーハウゼンの初のメジャーでの大仕事。『キング・コング』の亜流ではあるものの、見どころがいっぱいで、映像として抜群に面白い。ジョーがライオンの檻を揺らして倒すシーン、ハンターたちが馬に乗って走り回りながらジョーに投げ縄をからみつかせるシーン(のちに『恐竜グワンジ』で再現された)、10人の力持ちとの綱引き、酔っ払ったジョーの大暴れ、そしてラストの孤児院の火災のシーンに至るまで、全編に才気がほとばしっている。
 だいぶ前にどこかの上映会で見た時、どうやって撮ったのか分からないカットがいくつかあった。のちにDVDでコマ送りで確認し、「ああ、こうなってたのか!」と、あらためて感心したものだ。半世紀以上も前の作品に、今でも驚かされるとは。「やっぱりすごいよ、ハリーハウゼン!」と。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/B006LWPX30/

 言うまでもなく、『滅亡の星、来たる』は『恐竜100万年』のオマージュだし、『トワイライト・テールズ』に収録された「怪獣無法地帯」で、ヒロインの名前が「マリオン・ヤング」なのも、『猿人ジョー・ヤング』へのオマージュだからである(もちろん『北京原人の逆襲』とかも混じってるけど)。

 僕をこの道に導いてくれた恩人は何人もいるが、彼は間違いなくその一人だ。
 ありがとう、ハリーハウゼン。


タグ :怪獣特撮

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この記事へのコメント
 自分が最初に見たのは、TV放送されていた「シンドバッド虎の目大冒険」だったと思います。
 骸骨剣士を彷彿とさせる、三体のグールとシンドバッドとのチャンバラ(武器が曲刀と斧と、拾った棒ってのがまたいい)、青銅の自動人形ミナトン、ヒヒと化したカシム王子、巨大セイウチ、穴居人と戦う剣歯虎など、子供心に夢中になりました。今でもそれは変わっていません。

「アルゴ探検隊の大冒険」はその後で、やはりTV放送で見ました。
 骸骨戦士たちとの戦いも大興奮ものでしたが、自分はタロスが印象深かったですねー。最後に踵の栓を開けられて敗れるとこなんかは、「タロスかわいそう」みたいな事を口走ってたっけなあ。それだけ、タロスが画面の中で「生きている、存在している」と強く感じてたからなのですが。

「シンドバッド七回目の航海」「同・黄金の航海」なども然り。自分もヒロイックファンタジーにおいて最初に思い浮かべる映像は、これら映画に登場するハリーハウゼンのモンスターたちのそれです。
 サイクロップスは、あの角があり下半身ヤギっぽく蹄のあるサイクロップスがベスト(というか、すべての映画や映像作品におけるサイクロップスでも五指に入るデザイン・キャラでは)。一つ目ケンタウロスはちょっと怪物寄りですが、「蛮族の王」としてのキャラならば、あれもまた魅力。それと戦うグリフォンも、またイメージ通り。唯一の不満があるとしたら、飛行シーンがなかったことくらいか。
 六本腕のカーリーとの剣戟も、またスゴかった! あの「ズッチャチャズッチャチャ♪」ってBGMとともに、シンドバッド一向に切りかかるとこなんかは、「不気味さ」「禍々しさ」までもが漂っており、「こんなやつに勝てるのか」と初見時にはハラハラしたものです。

「恐竜100万年」の恐竜たちも良かったなー。とくに自分が一番好きな恐竜であるトリケラトプスが、敵の肉食恐竜に勝利するとこが良かったです。見てた当時、様々な作品でティラノサウルスなどと戦っても、最後に敗れて食われるってのを多く見てたので、溜飲を下げた思いでした。
 もちろん、恐竜としての造形や動きなども見事。サイクロップス同様に、数あるトリケラトプスの映像作品中でも、自分の中でベストな一匹です。

 そのモンスターの多くは、児童向け怪獣もの書籍のスチール写真にて知りましたが、やはり動いている様子を実際に見ると、その素晴らしさを実感しますね。
 特撮の偉大なる巨人に感謝するとともに、改めて合掌。

 そして海洋堂さんには、特撮リボルテックにて骸骨剣士の再販と、ハリーハウゼン作品のモンスターの新製品を出していただきたく。骸骨剣士に劣らず、遊び倒せるものになるかと。
Posted by 塩田多弾砲 at 2013年05月13日 16:55
 骸骨戦士との戦闘シーン、大学に通っていたころのアニメーション研究と人形ストップモーション制作に必要不可欠なシーンでした。
 更新が滞っていたことと相まって(多分違うでしょうけど)、山本さんの最上級の悲しみが伝わってきました。全てのクリエイターの人々が同じ気持ちでしょう。

 有難うございました、そしてお休みなさい。レイ・ハリーハウゼン。
Posted by toorisugari at 2013年05月13日 17:19
私もハリーハウゼンは大変好きです
情念の込められた架空生物には強く魅了されました。サイクロプスと骸骨戦士は今でも怖いですね。
Posted by アリ at 2013年05月13日 18:08
>単にデータとして知っているのと、映像として思い浮かべるのとでは、大きな違いがあるんじゃないだろうかと。

TRPGは想像力を活用するゲームですからねえ。
(グループSNEにとっては商売敵の話で申し訳ないですけど)
FEARのゲームのルールブックにはゲームの世界をイメージしやすくするための参考となる
小説や映画や漫画やゲームのリストが載ってたりしますし。
グループSNEの場合、ソードワールドや妖魔夜行は小説やリプレイがイメージの元だったとも思います。
Posted by ドードー at 2013年05月14日 02:44
『恐竜100万年』はなんど観てもラクエル・ウェルチの皮ビキニ姿にばかり目がいってしまう!
あれも女ターザンの系譜にふくまれるのだろうか?
Posted by 無名 at 2013年05月14日 07:02
本日(5/14)の読売新聞夕刊、唐沢なをき先生のマンガ「オフィスケン太」がハリーハウゼンネタでした。
私はリアルで最初に見たのが「タイタンの戦い」だったので、むしろ後からビデオとかで見て凄さを思い知ったようなものです。それにしても、「タイタン―」を見たときには自分が後に某ムックでその紹介文書くことになろうとは思いもしなかった(笑)
 あと、外せないのはブラッドベリとの交流ですね。新潮文庫「恐竜物語」は私の宝物です。ジャンプの某マンガじゃあるまいし、作家と特撮マンが親友だったなんて、奇跡的な関係でした。
CG全盛の時代ですが、NHKの投稿DO画でスマホ使ってストップモーションアニメを撮っている人が出てきました。今でもそのフォロワーは耐えていないんですね。ご冥福を心からお祈りいたします。
Posted by 土左衛門 at 2013年05月14日 22:31
初めてコメントいたします。

山本さんも『恐竜100万年』の合成のすごさに衝撃を受けたのですか!

『恐竜100万年』は、東京では『サンダーバード』が併映で封切られたと記憶してます。
東宝特撮や大映の『大魔神』なんか見ても、ブルーバック合成の青いマスクがチラチラして、しょせん合成画面って不自然なものなんだな、と特撮好きの少年として思っていました。

その意味で『恐竜100万年』の合成のすばらしさは、正に衝撃でした。
アロサウルスに原始人の槍が突き刺さり、特に杭がアロサウルス の腹に突き刺さるシーンは、座席で「えっ?えっ!」と思わずつぶやいたものです。
山本さんも触れてる様に、死に際のアロサウルスの腹が上下してるのも素晴らしかったですね。

私は『2001年宇宙の旅』も『スター・ウォーズ』も『エイリアン』もリアルタイムで見ていますが、衝撃という意味ではこの『恐竜100万年』に及ばないですね。

『シンバッド7回目の航海』は、東京では1975年に再ロードショーされましたが、関西ではやらなかったのでしょうか?
もっとも画面の上下をカットしてシネスコサイズで公開するという、ひどい代物でしたが・・・
同じ年に渋谷全線座という名画座で『アルゴ探検隊の大冒険』が上映されました。
まっ茶色に変色したフイルムでしたが・・・

山本さんのこういう文章は、アニメや特撮が好きで好きでたまらない人の持つ良さを感じます。
また筋道の立たない考え方は絶対に容認しないという、社会問題に対する山本さんの姿勢にはすがすがしさを感じます。
Posted by 50代 at 2013年05月22日 21:16
はじめてハウンゼンの映画を見たのは、小学校中学年の時、黄金の航海が最初だったと思います。
が、好きな方には、申し訳ありませんが、最初はワンダーを感じませんでした。
それを見る少し前、兄と一緒にSWep6を見、スピーダーバイクのシーンや、エンドア上空(?)の帝国軍同盟軍入り乱れてのドッグファイトシーン、エンドアでのスカウトウォーカーと同盟軍の戦闘etc,etc。
純粋に、映像に対するワンダーを感じ、SFX(当時はこうよんでいましたよね)に対する洗礼でもありました。
その後、兄(少し年が離れていて、すでにその方面に興味を持っていたので)が、深夜に放送されるハウンゼンの映画を見ると言っていたので、私も興味を持ち、眠い目をこすりながら、深夜放送された黄金の航海を見ました。
当時私が海外の特撮映画に求めていたのは、SWを見たときに感じた、あの強烈なワンダーでした。「SWみたいな脅威の映像が又見えれるのか。」と期待していた私の目に映ったのは、カクカクとある意味ぎこちなく動くくりーチャート、少々大げさな演技をする出演者たち。
「違う、ぼくが見たいのはこういうのじゃなくて。」
食い入るように画面を見ている兄の横で少々失望する私。
その時はそれで終わりました。
その後、兄の影響(洗脳かも)で、私も、特殊撮影の技術面にも興味を持つようになり、色々な情報・知識(皆様に比べれば生半可なレベルですが)を得た後、改めてハウンゼンの映像を見て、初めてワンダーを感じました。
しかし、そのワンダーは、当然SWを見たときのワンダーとは別種の物でした。
ハウンゼンの作品、とくに傑作の誉れが高い50年代60年代の作品をリアルタイムで見た人たちは、私が、SWを見たときと同じワンダーを感じたのだと思います。
私がワンダーを感じたSWも、今の子供たちが見たらおそらく私の感じた様なワンダーは感じないことでしょう。
今の子供たちがSWを見てワンダーを感じるとしたら、たぶん、私がハウンゼンの映画に感じたワンダーと同種のものになると思います。
ただ、それがどのような種類であれ、人にワンダーを感じさせる作品の裏には、人にワンダーを与える映像を作り出したい。と言う作り手の情熱がある野だと思います。
そしてその情熱が、見る人にワンダーを感じるのではないだろうか。そう感じる次第です。
駄文真に失礼いたしました。
最後になりますが、世代を超え、ワンダーを与えてくれた、そしてこれからも与え続けるであろうハウンゼン氏の冥福を心よりお祈り申し上げます。
Posted by zzstop at 2013年05月28日 22:26
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