2013年03月07日

『〈ウィアード・テールズ〉戦前翻訳傑作選 怪樹の腕』

会津信吾・藤元直樹編
『〈ウィアード・テールズ〉戦前翻訳傑作選 怪樹の腕』(東京創元社)

 アメリカの有名な怪奇小説誌〈ウィアード・テールズ〉に掲載された作品が、実は戦前の日本でもたくさん訳されていた。〈新青年〉〈少年少女譚海〉〈文藝倶楽部〉などに掲載されたそれらの作品を丹念に探し出し、一冊に集めた貴重な短編集。
 当然、その多くは無名の作家。日本で知られているのは、オーガスト・ダーレス、フランク・ベルナップ・ロング、ラルフ・ミルン・ファーリーぐらいだろうか。いやー、あたしゃフランク・ベルナップ・ロングのいかがわしさが大好きなんで(笑)、目次でロングとファーリーの名を見て衝動買いしちゃったんだけどね。
 原作の紹介ではなく、あくまで戦前の日本でどのように紹介されたかが主眼。だから明らかな誤植とか差別表現とかもそのまま再録されている。翻訳が複数ある場合、「より逸脱の程度の激しい方、すなわちゲテモノ度の高い方」を選んだという徹底ぶり。
 翻案ものも多い。海外の作家の作品を書き直し、主人公を日本人に変えたり、舞台を日本に置き換えたりしたうえ、原作者名を隠して、日本人の作品であるかのように見せかけて発表したのだ。本書に収録されている22編の短編のうち、8編が翻案である。
 いや、「翻案」と言えば聞こえはいいけど、要は「パクリ」だよね(笑)。当時の日本では、こういうことがごく当たり前に行なわれていたのだ。もちろん原作者に金なんか払っていないはず。
 翻案ではなく、原作者名を表記している作品でも、訳者が勝手に内容を変更することがよくあったらしい。登場人物の性別を変えたり、台詞を変えたり、大事な部分を省略したり、逆につけ加えたり。
 各作品の末尾には、編者による解説が付いていて、原作とどのように違うかも解説されている。たとえばエリ・コルターの「白手の黒奴」は、完訳すると125枚ほどの中編なのだが、4分の1の長さに縮められているそうだ。ロングの「漂流者の手記」では、モンスターの正体に関する重要な描写が欠落している。シーウェル・ピースリー・ライトの「博士を拾ふ」に至っては、ラストがぜんぜん違う話になっている。
 当然、無理も生じる。スチュワート・ヴァン・ダー・ビーアの「足枷の花嫁」は、原作は白人の黄色人種に対する差別意識がベースにあるのに、翻案で登場人物を日本人に変えたため、日本人が「蒙古人種の血」に恐怖するという、変な話になってしまっている。
 編者の解説によると、〈新青年〉の場合、原稿は基本的に訳者の持ちこみなので、編集部に採用してもらおうと、訳者が内容を面白くしなければならなかったのだという。また〈少年少女譚海〉は翻訳ものを載せない方針だったので、翻訳でも創作のように装わなくてはならなかったのだとか。

 何しろほとんどが80年以上前の作品(最も新しい作品で1939年作)なので、さすがに古めかしい。怪異の正体が吸血鬼だったとか、ミイラだったとか、霊の呪いだったとか、直球でひねりのないホラーが目立つ。
 一方、個人的に楽しめたのは、マッド・サイエンティストの出てくるB級SF群。現代では書けない話が多い。明らかに科学的に間違っていたり、あまりにも発想がアホらしかったり。 ゲテモノ好きとしては、そのB級っぽさが逆にたまらない。

 モーティマー・リヴィタン「第三の拇指紋」は、犯罪者になる人間は生まれつき決まっているという理論を元に、指紋から犯罪者になる人物を見分ける方法を発見した教授の話。後半の展開が面白い。
 エリ・コルターの「白手の黒奴」は、白人になることを目論む黒人が、天才外科医を雇って、全身に白い皮膚を移植するという話。もちろん人種差別思想が根底にあるんだけど、逆に差別思想を嘲笑っているようにも読めるところが興味深い。
 H・トムソン・リッチの「片手片足の無い骸骨」は、奇怪な症状をもたらす病原菌を用いて残酷な復讐を企む学者の話。グロい発想にぞくぞくする。
 ロメオ・プール「蟹人(かにおとこ)」も怪作。邦題でネタバレしちゃってるけど、新しい治療法の実験台になった男が、エビ(ロブスター)に変身してゆくというバカ・ホラー。エビなのになぜか題が「蟹人」。映画『恐怖のワニ人間』を連想したら、ちゃんと解説でも触れられていた。狼や蛇やワニならともかく、エビだとギャグになっちゃうよなあ。
 パウル・S・パワーズ「洞窟の妖魔」とR・G・マクレディ「怪樹の腕」はどちらも、隠遁しているマッド・サイエンティストがモンスターを飼育しているという話。どちらの科学者も美しい娘がいる。当時はこういうパターンの話、多かったんだろうな。
 きわめつけはラルフ・ミルン・ファーリーの「成層圏の秘密」。タイトルからドイルの「大空の恐怖」みたいな話かと予想したら、ぜんぜん違っていた。地球滅亡の危機を描いた小説は多いが、こんな発想は空前絶後だろう。よくこんなドアホウなアイデアで小説書こうと思ったな! いや、僕は喜んじゃったけどね。
 あと、編者の解説で、1937年頃に「ドイツのエンジン停止光線」という都市伝説があった、ということを知ったのも収穫。そうか、作られることなく終わったウィリス・H・オブライエンの『War Eagles』って、そのへんから発想してたのか。

 真面目なホラー小説マニアにはおすすめできない。ゲテモノ好きにはおすすめ。


タグ :SFホラー

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この記事へのコメント
 mixiのSFコミュでも書かれてましたね。
 イロモノやゲテモノは自分も好物なので、読んでみたいです。

 というか、以前に通ってた専門学校にて。
 講師からの課題に、「戦前のパルプマガジンからのキャラクターやシチュエーションなどから、物語を作れ」というのがあったのですが。その中にこのエビ人間もありました。流石です先生。

>あと、編者の解説で、1937年頃に「ドイツのエンジン停止光線」という都市伝説があった、ということを知ったのも収穫。そうか、作られることなく終わったウィリス・H・オブライエンの『War Eagles』って、そのへんから発想してたのか。

 あー、ありましたねー「War Eagles」。
 蛮族が巨大なワシを乗りこなし、恐竜と戦ったりドイツ空軍と戦ったりと、特撮誌「宇宙船」に掲載されてたあらすじを読んだだけでも、面白そうでした。
 今からでも、何らかの形で映像化しないものか。つーか、「アバター」にて。ナヴィたちがバンシーを駆ってスカイピープルの飛行部隊と交戦するとことか、ジェイクがレオノプテリックスを乗りこなして部族の英雄になるところとかを見ていたら、「War Eagles」を真っ先に連想してしまいました。
 ひょっとしたらキャメロン監督は、「War Eagles」をどっかで知ってモチーフにしてたりして。

 それはともかく、そんな都市伝説がありましたか。
 キャプテンアメリカをはじめとして、アメコミに登場するナチスは、色々と珍妙な兵器を繰り出していましたが。やはり当時からそういうイメージがあったんでしょうね。

 ううむ、書いててますます読みたくなってきた。
 
Posted by 塩田多弾砲 at 2013年03月07日 23:03
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