2012年11月09日

「地震雲」について考える(後)

 誤解しないでいただきたいのだが、僕は地震の前兆現象そのものを全否定したいとは思わない。地震についてはまだ分からないことが多すぎる。地震の直前に発生するイオンや電磁波や低周波が、雲の生成に影響を与える可能性だって、ゼロではないだろう。
 しかし、それはあくまで可能性であって、科学的に証明されたわけではない。
 そして今のところ、「地震雲」は科学とはほど遠いところにある。というのも、「地震雲」を信じている人の多くは、地震や雲について無知なのだ。

 googleで画像検索してみると分かるが、「地震雲」としてネット上にアップされている雲の多くが、明らかにただの飛行機雲波状雲放射状雲だ。
 僕は子供の頃、よく飛行機雲を眺めていた。最初は細かった飛行機雲が、時間が経つにつれて横に広がり、広い帯になるのを見てきた。前にも書いたが、今は伊丹の近くに住んでいるので、飛行機雲は頻繁に見られる。
 ところが、世の中には飛行機雲を見たことがない、あるいは見た経験が少ない人がいる。そうした人がたまに飛行機雲を見ると、「おかしな雲だ!」「地震雲ではないか」と思ってしまうらしい。

「でも、地震雲が観察されて数日以内に地震が起きたという例が多いんじゃない?」

 あなたはそう言うかもしれない。しかし、それはよく考えてみると、不思議でも何でもないのだ。
 日本各地には大勢の地震雲ウォッチャーがいて、ほとんど毎日、「地震雲」(厳密に言えば、撮影者が「地震雲ではないか」と思った雲)の写真を撮ってネットにアップしている。
 そして日本国内では、M8以上の地震が年平均0.2回、M7.0~7.9の地震が3回、M6.0~6.9の地震が17回、M5.0~5.9の地震が140回、M4.0~4.9の地震が約900回、M3.0~ 3.9の地震が約3,800回も発生している。

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq7.html#9

 M5以上の地震に限定しても年160回。1日平均0.44回である。つまり「地震雲」が撮影されたかどうかに関係なく、ある日から数日以内に日本のどこかでM5以上の地震が発生する確率は、かなり高いのだ。
 地域を「東北」とか「関東」とかに限定すると、確率は数分の一になる。仮に北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の8つの地域に分割し、それぞれの地域の確率がおおざっぱに日本全体の1/8だとしても、年平均20回、1日で0.055回。10日間なら0.55回。やはり半分ぐらいの確率で地震が起こることになる。
 こういうたとえで言うと分かりやすいだろうか。

「このクラスで授業中にチョークが折れたら、10日以内にクラスの誰かが病気で欠席するだろう」

 この予言が当たる確率がかなり高いことは、誰でも分かるだろう。授業中にチョークが折れることも、誰かが病気で欠席することも、しょっちゅうあるからだ。だからといって、「チョークが折れること」と「誰かが病気で欠席すること」の間に、何か因果関係があるわけではない。
 東日本大震災のような大きな地震の前に撮影された「地震雲」があるのも、やはり不思議なことではない。「地震雲」の写真は一年中、ほぼ毎日のように、日本のどこかで撮影されている。大地震がいつ起ころうと、その何日か前にその地域で撮影された「地震雲」が必ずあるはずなのだ。大地震が起きてから、「これが地震の●日前に撮影された地震雲です」と出してくることができるのである
 しかし、その逆──地震が起きる前に「地震雲」から大地震の発生を予言することは、かなり難しい。大きな地震ほど起きる確率が小さくなるからだ。前述の矢田氏のように、地震雲研究の専門家でも、大きな地震の予言ははずすことが多い。
 たとえば今年の6月25日には、北陸地震雲予知研究観測所・所長の上出孝之氏が「6月25日から7日以内に関東でM7以上震度6-7の地震が起きる」と発表したことが、日刊ゲンダイで報じられた。もちろん、そんな地震など起きなかった。

http://matome.naver.jp/odai/2134088505332049701

 上田氏は東日本大震災を予知していたと言われている。「3月1日より10日以内に東北地方に大きな地震が起こる」と警告して的中させたというのだ。しかし、規模に関しては、「あんなに大きな地震になるとは思いませんでした」と言っている。M9の地震を予言していたわけではないのだ。
 先の教室のチョークのたとえで言うなら、

「チョークが折れたのを見て、『10日以内にクラスの誰かが病気で欠席するだろう』と予言したら、病欠どころか事故で急死する子供が出てびっくりした」

 といったところだろうか。
 地震雲研究家以外の「地震雲警報」となると、さらにあてにならない。

【地震雲】東京の空がヤバイ!!!!! ヤベーのが来るぞ ━━━━!!!
http://blog.livedoor.jp/rbkyn844/archives/5521590.html

 これは今年の5月21日に起きた騒ぎである。
 えーと、すいません、どのへんがヤバイんでしょう? ありきたりの巻雲にしか見えませんが。

 10月13日には、やはり関東地方の広い範囲で、「地震雲が出た」と騒がれた。

地震雲ヤベー!
http://www.negisoku.com/archives/54212076.html
【速報】東京から千葉にかけて秋のいわし雲が綺麗 Twitterでは「地震雲」と話題
http://itaishinja.com/archives/3581964.html

 いやー、実にきれいないわし雲だわ(笑)。
 もちろん、冷静に「秋によくある雲だよ」「普通の雲にしか見えない」「こんなんしょっちゅう見てたわ」「すっかり秋ですな~」とツッコんでる人も多いのだが、「やべぇ」「気持ち悪い」「こんなのみたことないけど」と真剣に怖がってる奴もいて、頭が痛くなる。
 日本の秋の風物詩を見たことがないとは、お前らはいったい日本で何年生きてきたんだと。

 10月29日には衛星写真が騒がれた。

今日の気象衛星写真がやばすぎると話題に「時は・・・きた!」
http://togetter.com/li/398290

 前線ではよくこういう空を直線状に二分する雲が見られるんだが。僕は何回も見てるぞ。
 ちなみに29日の気圧配置はこんな感じ。

低気圧と前線抜け弱い冬型へ。来月にかけゆっくり気温低下(121029)
http://blog.livedoor.jp/kasayan77/archives/19480416.html

 このように、「地震雲警報」は頻繁に発生している。そして、頻繁にはずれている。当たったものだけが注目されているため、信憑性があるかのように思われているのだ。
 他にも、こういう現象もある。

 これは僕が今年の1月22日の午後3時、大阪で撮影したもの。昼間の空の天頂近くに虹が出ている。
 これは「環天頂アーク」という現象で、太陽の高度が32度以下の時、太陽から上方46度の位置に出現するらしい。珍しい現象だが、やはり地震とは関係がない。

 赤い月を見て「不吉だ」とか「地震の前触れじゃないか」と騒ぐ人もいる。
 僕は毎晩、午後7時頃に仕事場から帰宅するので、帰り道、東の空によく昇ってきたばかりの月を見る。血のように赤い月は、年に1回ぐらいは必ず見ている。その直後に大きな地震が起きたことは一度もない。
 赤い月を見て不安に思うのは、普段から月を見ることの少ない人だと思う。

 最後に、「地震雲」の存在を信じている方にお願いしたい。
 まず、普通の雲について学んでください。雲には放射状雲、波状雲、房状雲、蜂の巣状雲、乳房雲、尾流雲、アーチ雲、K-H波雲、消滅飛行機雲など、いろんな美しいバリエーションがあることを知ってください。また、普通の虹の他にも、彩雲、反薄明光線、ハロ、環天頂アーク、環水平アーク、タンジェントアークなど、様々な光学現象があることも知ってください。


 そして何より、普段からもっと空を見てください。そうすれば、飛行機雲や巻雲やいわし雲がちっとも珍しくないことも、赤い月がしばしば見られることも分かるはずです。
 地震雲を信じるなとは言いません。しかし、それならせめて、普通の雲とは解釈できない、明らかに異常な雲だけに注目してください。飛行機雲やいわし雲を見て「こんな雲見たことがない」などと騒ぐのは、とても恥ずかしいことです。


タグ :地震雲

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この記事へのコメント
山本先生今晩は。

私も結構飲んだときなどに「今年中に日本でM6の地震が起きる!」等と大予言ごっこをしていますが、統計を取ってみるとこんなに起きているんですね。

先日イタリアで地震予知(予測)を外した学者が刑事裁判で有罪になりましたが、日本の場合、これだけ多い以上、「予知」は勿論「予測」さえある意味無意味な様な気がしないでもないですが。
Posted by nns at 2012年11月09日 22:29
私も地震雲については何度かブログで記事にしたことがあります。みんな、最近は特に下の方ばかり見て空を仰ぐことが少ないのではないかと思います。スマホばかり見てないで、時には空を見て欲しいですね。
そういえば、ウチの母も一時期、ちょっと変わった雲を見ると地震雲じゃないかなどとと言っておりましたが、最近は飽きたようです(笑)。

空半分だけを覆う雲は、一昨年の台風接近の時にも見られました。
http://kuroki-rin.cocolog-nifty.com/heaven_or_hell/2010/10/post-3097.html

珍しい雲としては、内之浦のロケット打ち上げの雲が九州各地のみならず、山口県あたりまで見えたことがありました。
たまたまウチの妹が犬の散歩中に目撃して激写メしたものがあります。
http://kuroki-rin.cocolog-nifty.com/heaven_or_hell/2006/02/niftynewsnifty_d9a3.html
これも、一部の人が地震雲だと騒いだようです。

ところで、このコメント欄の文字、小さい上に色が薄くて、老眼には読みにくくて辛いです。
Posted by 黒木 燐 at 2012年11月10日 02:41
普段からもっと空を見て欲しいというのは同感ですが、昔ほど自然現象と生活が結びついていない現代社会では難しいかも知れません。

ただ「飛行機雲やいわし雲を見て「こんな雲見たことがない」などと騒ぐ」事を恥ずかしいというのは、少し酷かなと思います。そういう人が多くなったということは、色々な意味で余裕のない人が増えたということなんでしょう。空を見る余裕もなくなったんでしょうし、子供に空を見て雲のことを教える余裕も無くなってきたのかな、と思います。
あ、でもいわし雲はさすがに恥ずかしいかも知れませんね。

普通の雲とは解釈できない、明らかに異常な雲だけに注目すべきというご意見には賛成です。そのためにも、地震雲を肯定する方々(ネット上で地震雲だと騒ぐ人達も)には、色々な雲を見て経験値を上げて欲しいと思います。

仮に地震雲があるとしても、明確な分類基準を定めて誰でも観測できるのでなければ、実際に活用することはできないと思うのですが、地震雲を信じる方にはそうした点を重要視しない人が多いように感じます。個人的にはそちらの方が問題かな?と思います。
Posted by カルスト at 2012年11月10日 19:42
最近の人は空を見上げないですからねえ。ウルトラマンコスモスの最初の劇場版で、コスモスに乗って空を飛んだムサシが
「なんでみんな空を見上げないんだろう」
と言っていたシーンを思い出します。
Posted by 蝙蝠 at 2012年11月12日 19:34
赤い月は、最近初めて見ました!
車で走っていて、海に赤っぽい月が浮かんでいました。

雲に関する正しい知識と、まともな観察力を身に付けなければならないのは、当然のことですね。
ただ、地震雲研究者の雲の知識と観察力は信用できるのかな?

>普通の雲とは解釈できない、明らかに異常な雲だけに注目してください。

そもそも、本当に今までそんな雲が、観測された事はあるのでしょうか?

地震を確実に予測するには、もう未来からメッセージを送ってもらうしかありませんよ(笑)。
たしか、マレット教授という人が過去に情報を送る為のタイムマシンの研究をしているらしいですよ。
レーザー光線で時空を曲げるらしい。期待しましょう。
Posted by 匿名 at 2012年11月13日 08:30
なるほど、雲の種類も随分あるものなのですね。
四半世紀ほど前、夕暮れ時に空を見上げたら虹色の雲を見たことがあります。「彩雲」というそうですが、あれも人によっては天変地異の前触れに見えるのでしょうかね。
逆に、地震雲とされるものを吉兆とする地方もあるかもしれませんね。
Posted by 取手呉兵衛 at 2012年11月13日 11:45
UFOは本当にいるのか、見たことがない、と尋ねた人に対する矢追純一氏の回答
「UFOはいます。あなたは一日中空を眺めた事がありますか?」
そんな話を思い出しました。
色々と趣のある言葉で好きです。
Posted by すけべビーフ at 2012年11月13日 23:03
代表的な雲の種類くらいは小学校の理科で習ったような覚えがありますが、最近は違うんでしょうか。
季節や天候を表現するものは国語でも活用されるので、あまり取り溢されても困りそうなものですが。

珍しい雲が発生し撮影された折には、TVのお天気コーナーで取り上げられたりしてけっこう楽しいものですが。
そういうのも興味ない人は完全スルーして、後で騒ぐんでしょうかね。
Posted by 空彦 at 2012年11月18日 01:21
地震雲、横から見ればただの雲
UFOと騒ぐ奴ほど星見ない

以前、菜の花や…をひいて、昔の人の方がまし、と書きましたが、訂正します。
地震雲と騒ぐ奴は…
昔の人の爪の垢でも煎じて飲め
Posted by 理力不足 at 2012年11月18日 11:57
「UFOだ!」
「コンビニ袋」
「UFOだ!」
「風船」
「UFOだ!」
「鳥」
「UFOだ!」
「金星」

「UFOを見たことが無い」と言うのはこういう事だったりして。
Posted by RT at 2012年11月18日 15:22
そう言えば、小学生くらいの時に遠足で行った阪神大震災の資料館みたいな所で、典型的な「地震雲」の写真が「地震発生数日前に現れた雲」みたいなキャプション付きで展示されてましたね・・・
あの当時は自分も地震雲の存在信じてて、飛行機雲とかを見ては「地震雲だ!」とかビビったりしてたなあ
Posted by AA at 2016年07月08日 18:30
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