2012年04月29日

僕の原発に対するスタンス

 デマの話の続き。
 最近、よく目にするのが「山本弘は原発推進派だ」というデマである。
 どうやら、前に「福島産の農産物をじゃんじゃん食べよう!」と書いたのが、そうした誤解を招いたらしい。中には僕を「御用学者」と呼んでいる人もいる(笑)。
 冗談じゃない。僕は昔から反原発派である。
 それを証明しよう。まずは『妖魔夜行 戦慄のミレニアム(下)』(角川スニーカー文庫)の第10章から。なお、これを書いたのは2000年なので、ヨーロッパの情勢は現在では変わっている。

「何ということだ……」大統領はまた頭を抱えた。「我々はせっせと原発を作って、彼らが人類を滅ぼすための手助けをしていたのか……」
 現在、世界で使われている商業用一次エネルギーのうち、原子力が占める割合はわずか七パーセント。つまり、少し省エネを実行しさえすれば、世界は原子力なしでもやっていける。化石燃料には資源枯渇や環境汚染の問題もあるが、何十年もかけてゆっくりとソフトエネルギーに転換することは可能だ。
 にもかかわらず、大国が原発を競って建設したのは、核兵器開発とのからみや、電力業界の思惑があったからだ。それに気づいたヨーロッパ諸国は、脱原発に向かって動き出している。九九年一二月に稼動したフランスのシヴォー原発二号炉を最後に、ヨーロッパでは新たな原発の建設計画はない。それでもなお、世界には四〇〇基以上の原発が稼動しており、危険な高レベル放射性廃棄物を休みなく生産している。
 ちなみに、一〇〇万キロワットの原発一基が一年間で生み出す核分裂生成物は、広島に落ちた原爆がまき散らした量の一三〇〇倍に相当する。


 次に2007年の『「環境問題のウソ」のウソ』(楽工社)のエピローグより。

 たとえば僕は原発をこれ以上増やすのには反対である。しかし、「原発をなくすのが正しいことだ」とは言わない。なぜなら、自分の考えが漠然とした不安にすぎず、客観的なデータに基づくものではないと分かっているからだ。
 僕が恐れているのは深刻な原発事故が起きることである。狭い日本で大規模な放射能汚染が発生したら、どれぐらいの範囲が汚染されるか、どれほどの被害が出るか、予想できない。
 無論、原発推進派は「事故なんて起きません。安全対策は完璧です」と言うだろう。もちろんそれは分かっている。本当に安全対策が完璧なら、心配することはない。
 しかし、人間は時として、とてつもなく愚かなことをする。
 たとえば1986年のチェルノブイリ原発事故は、低出力運転の実験中に起きた。この実験中、緊急炉心冷却装置を含むすべての安全装置をカットした状態で、制御棒をすべて引き抜くという、とても信じられない危険な行為が行なわれた。そのせいで原子炉は制御できなくなって爆発した。
 死者2名を出した1999年のJCO東海村ウラン加工施設臨界事故では、正規のマニュアルを無視した手順で作業が行なわれていたのが事故の原因だった。「ウランを大量に集めると自然に連鎖反応が起きる」という原子力についての初歩的知識が、作業員に徹底されていなかったのだ。
 2004年、美浜原発3号機の蒸気漏れ事故では、4人が死亡、7人が重軽傷を負った。事故を起こした配管は、1991年に寿命が切れていたにもかかわらず交換されていなかった。設置時には厚さが10ミリあったが、内部を通る冷却水によって磨耗し、事故当時はわずか1.4ミリにまで薄くなっていた。
 どれも信じられない話である。小説で書いたら「そんなバカなことはありえない」「リアリティがない」と言われるに違いない。でも、これが現実なのだ。
 じゃあ、日本で近い将来、重大な原発事故が起きる可能性はどれぐらいか?
 そんなの分からない。「かなり小さい確率だけどゼロじゃない」としか言いようがない。「原発に勤める職員が信じられないほどバカなミスをやる確率」なんて、誰に計算できるというのか。
 分からない、という点が、僕はこわい。だから少しでも確率を減らしたくて、原発を増やすのに反対している。


 この頃はまだ「漠然とした不安」にすぎず、「これ以上増やすのには反対」という消極的な反原発論だったのだが、危惧していた「重大な原発事故」が起きてしまった後はこう変わる。2011年11月刊行のASIOS『検証 大震災の予言・陰謀論』(文芸社)の巻末座談会である。

山本弘 誤解されないように言っておくと、僕は以前から原発反対派なんですよ。原発はこれ以上増やさない方がいいと思ってたし、福島第一原発の事故が起きてからは特にそう思うようになりました。事故が発生した場合の影響の大きさを考えると、やっぱり原発はやめた方がいい。ただ、今すぐすべて廃止してしまうのは無理がある。電力が足りなくなることで、かえって多くの人が危険にさらされるかもしれない。代替エネルギーを確保しつつ、10年以上かけて、少しずつ廃止していくべきだろうと思うんです。
 ただ、原発が嫌いであっても、「微量の放射線でも危険だ」という極論には与したくない。嘘で不安を煽るのは明らかに間違ってるし、被災者の差別にもつながるから。


 他にも、僕は小説の中でしばしば原子力を否定的に扱ったり、放射線の危険を題材にしたりしている。『妖魔夜行 魔獣めざめる』の中で空母エンタープライズの原子炉が日本近海でメルトダウンを起こしかけたり、中編「審判の日」で原発が爆発したり、『MM9』で放射能怪獣グロウバットを出したり、『地球移動作戦』で登場人物が急性放射線障害で死んだり、『去年はいい年になるだろう』でエクスキューショナーが2万8000発の核ミサイルを撃ちまくったりしたのも、僕の核嫌い、原発嫌いの心情の影響である。
 こうした明白な証明がある以上、「山本弘は原発推進派だ」という根拠のないデマは、二度と言わないでいただきたい。



同じカテゴリー(メディアリテラシー)の記事画像
『ビーバップ!ハイヒール』出演裏話
「イルミナティカード」でテレビに出たのはいいけれど……
鬼怒川決壊をめぐるデマ・3
鬼怒川水害をめぐるデマ・2
鬼怒川水害をめぐるデマ・1
お前の行為はアイコンに恥じないものなのか?
同じカテゴリー(メディアリテラシー)の記事
 『ビーバップ!ハイヒール』出演裏話 (2017-09-06 21:41)
 LiveWire:またしてもニセ科学を楽しもう! (2017-03-06 17:23)
 最近のデマ・2017 (2017-01-31 22:27)
 と学会がやっていたことは「弱い者いじめ」だったのか?・4 (2016-11-22 18:02)
 と学会がやっていたことは「弱い者いじめ」だったのか?・3 (2016-11-22 17:53)
 と学会がやっていたことは「弱い者いじめ」だったのか?・2 (2016-11-22 17:35)

この記事へのコメント
おお、懐かしき妖魔夜行……。

そういえば「核」に関しては山本先生は否定的なニュアンスで扱ってたのを思い出します。
リプレイ「東京クライシス」しかり、「戦慄のミレニアム」でのザ・ビーストの核兵器の使用しかり。

しかし、世の中には故意の有無に関わらずデマが流されるのですから不条理ですねぇ。
妖魔夜行だったら何か妖怪が生まれそうです。というか、そういうネタの話も作れそうですね。
新・妖魔は本当に残念に思ってます……。
Posted by ドードー at 2012年04月29日 22:01
「環境問題のウソ」の作者である武田教授が、推進派から手のひらを返し、時勢にのって放射能を過剰に煽ってるのに対して、反原発派の山本先生が理論的に放射能の害を論じてるのに、御用学者呼ばわりされている。

なんて皮肉なんでしょう。

実態のない霊でさえ、騙される人がいるんだから、測定出来る放射能がペテンのネタにならないわけがない・・・なんて、半分諦めムードになっています。

そんな中で発言を続けてくれるのは嬉しい限り。

今後もご自愛願います。あと新刊まだ?
Posted by さる at 2012年05月04日 21:27
はじめまして。

私も原発に対してはそれほどよいイメージはありません。

しかし、ツイッターやネットの議論を見ていると「原発再稼働」=「原発推進派」のレッテル貼りをしている気がします。

話は変わりますが、美浜原発の事故は死者数5、負傷者数6ではありませんか? (ソース「知恵蔵2011」コトバンク上の文章)
Posted by 名も無き人 at 2012年05月16日 20:40
山本さんが原発が安全対策を行ってるのはわかってるけど使う人しだいで大きな事故を起こすと言ったことが福島の原発事故が東電や民主党政権の無策が起こしたことから分かるようにそのお考えが正しいことが見事なまでに実証してしまいました。自分も今は原発は必要だとは考えてるけれどそれでも新しく作るべきとは思いません。日本には技術があるから原発に代わるエネルギーを早いうちに開発できるはずですからね。あと、ひとつ気になってたんですけど。山本さんは核嫌いと言ってましたけど暴走せず高レベル廃棄物を出さないと言われる核融合発電に対してどう思れてるんですか
Posted by とおりすがり at 2012年09月06日 22:10
山本さんの「バイオシップ・ハンター」でも、

「仕事というのは、どれほどうまく成し遂げたかによって評価されるのであって、成し遂げた速さとは無関係だ」

というのを哲学とするイ・ムロッフという種族がいましたよね。
いい結果が得られると期待できるなら、何十年をかけることを厭わない…すぐに原発をなくすことは無理でも、代替エネルギーを研究・確保しながら、徐々に原発依存を減らしていくことからコツコツ進めていくしかないのかなぁ…
などと、かつて「チェルボナ・カリーナ」にボランティア参加していた身ながら、拙いながらも考えました。
尤も、「どれほどうまく成し遂げたか」にばかり拘って、結局何もしませんでした…とならないように、一人一人の行動力も大事だと思いますが。
…そう考えると、「かなりの度合の原発容認派」という人がいるのも、どうなのかな、と思ってしまって…

http://www.tobunken.com/news/news20120904041857.html (下の方の文章)

色々失礼しました。
Posted by toorisugari at 2012年09月07日 10:33
 原発関連で新たに「いちえふ」という漫画作品が描かれ、それが読み切りから連載に変わった、という情報を得たので、ここにまた追記を失礼いたします。

 原発というとチェルノブイリを思い浮かべますが、それに関連した漫画作品も結構あります。

http://www.sakuranbo.co.jp/livres/cs/2013/03/post-67.html
 「チェルノブイリ 家族の帰る場所」(レビュー)

http://www.youtube.com/watch?v=vaFBxMj6r7o
http://sokuyomi.jp/product/cherunobui_001/CO/1/
 漫画家・三枝義浩氏の作品です。
 私は「チェルノブイリの少年たち」と「AIDS―少年はなぜ死んだか」を直接読んだことがあります。後者は被曝した人たちの生活を題材にした短編が収録されています。チェルボナ・カリーナのボランティア活動の傍ら、これらの作品を読むことが出来ました。

 遡ればさらに原発事故が起こる以前に原発の危険性を指摘した漫画作品などもあります。
 そして「いちえふ」では、原発の作業員として活動していた筆者の視点から描かれたドキュメンタリー、とのことです。新人賞を取ったり多くの人から高い評価を得られているようです。私は山本さんと同様、「(今すぐ、は無理でも少しずつ)原発は廃止していくべき」だと考えていますが、今の私たちの生活を支えているのは電気であり、それを生み出しているのが原発に限らずとも発電所であり、そこで働く人たちにも当然生活がある、という当たり前のことを忘れてはいけないと思います。
Posted by toorisugari at 2013年11月23日 02:31
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。