2011年10月02日

「光より速いニュートリノ」をめぐる誤解・3

  実際に来た質問や、来ることが予想される質問に、まとめてお答えします。

「ニュートリノは本当に超光速粒子だと思いますか?」

 だったら面白いなあ、とは思いますが、実際にはまあ無理じゃないかな~と(笑)。

「どうやってニュートリノが光より速いと分かったのですか? 光とニュートリノを競走させたのですか?」

 今回のOPERA実験では、ニュートリノはイタリアのグランサッソからスイスのCERNまで、730kmも地中を貫通して飛ばしています(ニュートリノはきわめて透過力の大きい粒子で、地球など楽々と通り抜けます)。同じ距離を光を直線で飛ばそうとしたら、730kmのトンネルを掘らなくてはいけませんが、そんなことは不可能です。
 実際は2点間の正確な距離をGPSで求めて、光が2点間を進む時間を計算したのだそうです。 ニュートリノがその距離を飛ぶのに要した時間が、それよりもほんのちょっと速かったということらしいです。
 具体的に言うと、光速で飛んできた場合より、60.7±6.9(統計誤差)±7.4(系統誤差)ナノ秒早かったそうです。(1ナノ秒は10億分の1秒です)
 これはニュートリノが光より10万分の2.5ほど速い(光速の1.000025倍)ことを意味します。

「1回や2回の測定では誤差ということもあるのでは?」

 3年間の1万5000回の反応を分析して得られたデータだそうです。

「GPSの測定ミスなのでは?」

 世界各国から頭のいい物理学者が大勢集まってやっている実験なので、そうした単純な原因によるミスならすぐに見つかっているはずです。

「ミスだとしたら原因は何?」

 分かりません。
 ネット上ではミスの原因をあれこれ推測している人がいるようですが、素人がすぐに思いつくような原因なら、とっくに専門家も気がついているはずです。つまり、ミスがあるとしたら、科学者にも容易には分からないし、ましてや素人には想像もつかないような原因であるはずです。
 だから僕は原因の推理はしないことにしています。それは科学者にまかせるべきでしょう。

「科学者は今回の発表をどう受け止めているの?」

 おおむね懐疑的なようです。
 ただ、早くも、ニュートリノが光より速い理由を説明する理論を発表している科学者も、何人もいるそうです。
 たとえば、ニュートリノはこの4次元時空の外側の5次元空間をショートカットしてくるんだ、という理論もあるそうです。
 SF作家としては思わず「超空間航法かよ!?」とツッコミを入れてしまいましたけどね(笑)。

「タキオンが光速に近づくとエネルギーが大きくなるというのが分かりません」

 この公式をもう一度見てください。

 仮に静止質量をiと置いて計算してみると、

v=cの時 m=∞
v=2cの時 m=0.577
v=3cの時 m=0.353
v=4cの時 m=0.258
v=5cの時 m=0.204
v=∞の時 m=0

 というように、速度が上がるほど質量(エネルギー)が小さくなることが分かります。タキオンはブレーキをかけようとするとかえって加速してしまうのです。
 逆にタキオンを減速させて光速に近づけようとしたらエネルギーが必要です。

「超新星からのニュートリノが4年早く届いているはずだというけど、16万光年で4年ぐらいの誤差は当たり前じゃないのか?」

 超新星1987Aの爆発に最初に気づいたのは、南米チリのラスカンパナス天文台に勤めていたイアン・シェルトンです。2月24日に大マゼラン星雲の写真を撮ったところ、前日の写真にはない星が出現していることに気がついたのです。
 そのニュースが流れてから、超新星爆発ならニュートリノが出ているはずだというので調べられたところ、23日7時35分35秒に、岐阜県のカミオカンデが11個のニュートリノの反応をとらえていることが判明したのです。
 つまり、超新星からのニュートリノは、爆発の光とほぼ同時に地球に届いていたことになります。
(実際は星の中心核で起きた爆発の衝撃波が表面まで及ぶのに何時間もかかるのに対し、ニュートリノはほぼ光速で恒星内部をすり抜けてくるので、ニュートリノが飛び出してきて何時間かしてから明るくなりはじめたはずです)
 もしニュートリノが光より10万分の2.5も速いのなら、爆発の光が届く何年も前に地球に届いていたはずです。

「もしニュートリノが超光速なら、タイムマシンはできますか?」

 人間が乗ってタイムトラベルする機械を想像しておられるなら、それは無理です。
 人間は普通の物質でできている以上、光速を超えられないし、過去には戻れません。

「ワープ航法はできますか?」

 上と同じ理由で無理でしょう。

「じゃあ、超光速粒子なんてあっても役に立たないの?」

 いいえ、もしタキオンというものがあるなら、それを送ることで過去にメッセージを伝えることぐらいなら、もしかしたらできるかもしれません。
 大事故や大災害に関する情報を過去に送って、惨事を回避することもできるでしょう。
 まあ、現代の科学ではまだとうてい無理ですけどね。

「SFのネタになりませんか?」

 とっくになってます。
 理論物理学者でもあるSF作家グレゴリー・ベンフォードが1980年に書いた『タイムスケープ』(早川書房)です。環境汚染によって滅亡の危機に瀕している未来世界(といっても1998年なんですが……)の科学者が、タキオンによる警告メッセージを1963年に送って、歴史を変えるというストーリーです。

『タイムスケープ』解説
http://www.asahi-net.or.jp/~li7m-oon/doc/kaisetu/timescape.htm

 ちなみに僕の『地球移動作戦』でも、タキオンを使った警報システム「シビュラ計画」というのが出てきます。
『地球移動作戦』の中では「ピアノ・ドライブ」というものが実用化していることになっています。これは「結城効果」という架空の原理によって、速度無限大よりわずかに速いタキオンを発生させるというもので、それを宇宙船の推進に使っています。エネルギーも推進剤も消費せずに加速が可能という、永久機関のような代物ですが、実はエネルギー保存則も運動量保存則もちゃんと満たしてます。

「過去に情報を送ったらパラドックスが起きませんか?」

 はい、起きます。いわゆる「親殺しのパラドックス」というやつで、「タイムマシンで過去に戻って、自分を生む前の親を殺したらどうなるか」というものです。
 実際に過去に行かなくても、通信を送るだけでパラドックスは起きます。たとえば、あなたが結婚する前の自分の親に「結婚をやめろ。絶対に不幸になる」というメッセージを送り、親がその指示に従ったらどうなるでしょう?
 あなたは生まれてこなくなります。でも、生まれなかったはずのあなたが過去にメッセージを送ったことになる。矛盾ですよね?
「だから時間をさかのぼるのは不可能なのだ」というのが、科学界の主流の考えです。当然、タキオンなんてものは存在しないのだ……という結論になります。
 その一方、未来からのメッセージを受け取ったとたん、時間の流れが分岐して、歴史の異なる別の世界(パラレル・ワールド)が生まれるという考え方もあります。SFではこちらの考えがよく使われます。



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この記事へのコメント
月遅れでコメントします。

もし、ニュートリノが超光速なら、「ビッグバン宇宙」である現世は、「スペオペ宇宙」となって、面白い事になるかな…。と呑みながら思ったスペオペヲヤヂでした。

……酔っ払らいの戯れ言、失礼いたしました。
Posted by 孤星 at 2011年11月18日 22:16
やっぱりこの実験結果は間違いだったようですね。
しかし機器の不良が原因だったとは情けない……。
Posted by ドードー at 2012年06月09日 08:51
実験機器はデリケートで接続の仕方だけでも結果に狂いが生じるものとはいえ、夢的には残念です。

>アインシュタインの相対性理論によると、「光速に近い速度で動くと、時間の進み方は遅くなる」という。
>実際に行った実験で結果が出ている。
 1971年ジョー・ハーヘルとリチャード・キディングが行った実験によるとジェット機で地球を一周する際に、地上とジェット機内の時計を比べるたもの。
 飛行機の時計の方が地上の時計よりも0.000000059秒遅くなった。
 この結果を当てはめると、光速の99%で進む超高速ロケットで1年間宇宙旅行をして地球に戻った場合、地球は6年進んでいる計算となる
(突然の引用、失礼)

「理論上タイムマシンはいつか作れる」とはいえ、50年経て今だ実用化しないイオノクラフトのように、超光速はまだまだ夢から脱しないようですね。ぬぅ…
Posted by 村川順泰 at 2012年06月13日 14:22
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