2010年10月08日

『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』

 SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー第2弾。
 実は第1弾の宇宙開発SF傑作選と銘打たれた『ワイオミング生まれの宇宙飛行士』が、ちょっと期待はずれだったんである。表題作は感動的なんだけど、他の作品が似たようなパラレルワールドもの(歴史が異なる世界での宇宙開発を描く)ばっかりだったもので、セレクトの偏りがおおいに不満だった。もう宇宙開発というテーマは、パラレルワールドやノスタルジーに逃避しなくちゃいけないほど行き詰まってんのかい、と(笑)。

 今回は大森望氏がセレクトした時間SF傑作選である。いや、これがなかなかいいセレクト。おおいに推薦させていただく。

 まず、何と言ってもいいのは表題作、F・M・バズビイ「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」。人生をバラバラの順序で生きる男の物語。中年から少年時代に戻ったり、はたまた老人になって臨終を体験したり、もう大変。
 こんな無茶な設定なのに、きちんと論理的に描ききって、最後に感動を持ってくる。こういうのを読むと「SFは筋の通ったホラ話だ」と思う。

 デヴィッド・I・マッスンの「旅人の憩い」は、南に行くほど時間が速くなる奇妙な世界を描く。『時の果てのフェブラリー』のヒントになった作品のひとつだけど、長らく入手困難だったので、この再録はありがたい。
 もっとも、論理的に突き詰めてみるとつじつまの合わない点が多い(1日の長さがどうなってるのか、とか)。それをつじつまを合わせたのが『時の果てのフェブラリー』であるわけだけど。

 奇想という点では、シオドア・スタージョンの「昨日は月曜日だった」も素晴らしい。とてつもないバカ話で、初めて読んだ時は「前、横、上」「そっち」のくだりで、ひっくり返って喜んだもんである。TVシリーズ『新トワイライト・ゾーン』の一編としてドラマ化されている。

 他にも、ボブ・ショウの「去りにし日々の光」、プリーストの「限りなき夏」、スチャリトクルの「しばし天の祝福より遠ざかり……」など、どれも傑作。
 実はラインナップを見た時に、ハインラインの「時の門」が入っていないのが不満だったんだけど、テッド・チャンの「商人と錬金術師の門」が入っていたので納得。どっちも循環型のタイムパラドックスものなんで、かぶるのを避けたのか。 しかもいい話なんだよ、これが。
 でも、これは「ハードSF」じゃないっすよ、大森さん(笑)。

 初訳作品もいくつか。
 H・ビーム・パイパー「いまひとたびの」は、1947年に書かれた「リプレイ」ものの元祖(たぶん)。少年時代に戻った主人公が父親と交わす時間に関する議論は、今となっては当たり前というか、いちいちこんなことを話すのは野暮ったいと感じるのだが、当時は斬新だったのかもしれない。
 ところで僕はパイパーの「オムニリンガル」という中篇(『SFマガジン』1968年12月号)がとても心に残っている。滅亡した古代火星文明の言語を解読しようとする言語学者の話。ロゼッタ・ストーンが無い状態で未知の言語をどうやって解読するかという難問に、感動的な回答を用意している。これもぜひ再録してほしい作品。つーか、もういっぺんクラシックSFアンソロジー作らせてよ、早川さん!

 リチャード・A・ルポフ「12:01PM」は、1973年に書かれた時間ループもの。 TVムービーにもなっている。
 大森氏は筒井康隆「しゃっくり」(1965年)の方が早いと書いているが、実はもっと早い作品がある。リチャード・R・スミス「倦怠の檻」だ。ジュディス・メリル編『宇宙の妖怪たち』(ハヤカワSFシリーズ)に収録されている。原著が出たのが1955年なんで、それ以前の作品のはず。
 火星人の財宝を奪い取った男が、無限に繰り返される10分間に閉じこめられる話。「エンドレス・エイト」の遠いご先祖様である。ひと夏や1日ではなく10分間では、まったく何もできないに等しく、まさに地獄。
 メリルのアンソロジーだから、たぶん欧米のSFファンならかなり読んでいるのではなかろうか。「12:01PM」の中に、「五分間の檻に閉じこめられたら、何もできない」というくだりがあるのは、ルポフが「倦怠の檻」を読んでいて、そのオマージュとしてこの作品を書いてるんじゃないかと思うのだ。
『恋はデジャ・ヴ』という映画が公開された時、ルポフはアイデア盗用で訴訟を起こそうとしたが、断念したという。まあ、「倦怠の檻」という先行作品がある以上、アイデアのオリジナリティは主張できないだろうな。

 収録作品中、いちばんがっくりきたのは、イアン・ワトスンの「夕方、はやく」。確かに奇想は奇想なんだけど、「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」や「昨日は月曜日だった」と違って、この世界がどうなってんのかさっぱり分かんない(笑)。奇想だけじゃだめで、ちゃんと筋は通してほしい。だいたい、イアン・ワトスン作品が2本(1本は共作)も入ってるって変じゃない?
 ワトスンはいらんから、フリッツ・ライバーの「若くならない男」は入れてほしかったな。あれも初めて読んだ時、「1940年代にこんなすごい発想の小説が書かれてたのか!?」と仰天したもんである。

 これと、創元から出たロマンティック時間SF傑作選『時の娘』を合わせると、海外の時間SFの傑作短篇はかなり網羅されたと言える。



 あと、不満というと、やっぱり……

「たんぽぽ娘」だよねー(^^;)。

 何年も前から河出書房新社の〈奇想コレクション〉のラインナップに入っているのに、いっこうに出る気配がない。伊藤さん、お願いですから死ぬ前に『たんぽぽ娘』だけは出してください。みんな待ってるんだから。


タグ :SF

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この記事へのコメント
「トンデモ本? 違う、SFだ!」の時間SF紹介を読んだ時に思い浮かんだのが、ディーン・R・クーンツの「ライトニング」でした。
ちょいと捻った設定が印象深かったですよ。
読んでないのでしたら、一応オススメします。
Posted by Rick=T at 2010年10月11日 10:41
リクエストが反映されないんですか
(涙)
Posted by toorisugari at 2010年10月11日 23:11
50周年だったんですか。言われてみると、1960年が区切りの年に思えてきます、って暗示にかかってますね。
BSで2001年見て、植物食から肉食に変ってる事に気づきました。遅いって?
Posted by 理力不足 at 2010年10月13日 23:25
個人的にはムアコックの「乱流」とかハーネスの「時間の罠」とかも収録して欲しかったです。
「乱流」はムアコックの日本初紹介作品という意味でも重要な短編なんですが、時間SFとしても面白い。ウェルズの影響が強いですよね。

ハーネスはとにかくもっと翻訳を!です。
日本ではなんか伝説だけが一人歩きしてる感がありますので。
「現実創造」も「時の娘」も面白かったなぁ
Posted by RANDIA at 2010年10月29日 23:11
山本先生の「トンデモ本?違う!SFだ!」シリーズにハマり、過去のSF短編集、他長編をアマゾンから40冊ほど取り寄せ、読みまくりです。
「夜のオデッセイ」最高!

こちらは日本海がわなので地震も津波も大丈夫ですが、あの時は震度5強でした。ちょうど「審判の日」「地球移動作戦」読んでたので共時性が凄かったです。
Posted by わらリン at 2011年06月24日 23:17
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