2016年03月16日

「保育園落ちた」陰謀論

 例の「保育園落ちた日本死ね!!!」ブログに対して陰謀論が起きている。政府を攻撃するために作られたニセのブログではないかというのだ。
 なんと、「誰が書いたんだよ」などとヤジを飛ばした平沢勝栄議員自身が、「これ、本当に女性が書いた文章なんですかね」と言いだした!

http://www.huffingtonpost.jp/2016/03/09/katsuei-hirasawa-hooted_n_9423292.html

 当たり前だけど、あの文章を女性が書いたものではないとする証拠なんかない。
 そんなことを言いだしたら、どんな歴史的文書だって、タイムマシンで過去に戻ってそれを本人が書いている現場を確認できない以上、「これ、本当に○○が書いた文章なんですかね」と疑うことが可能になる。
 証拠のない主張に、何の意味がある?

 mixiニュースのつぶやきでも、陰謀論を唱える者が多い。

「保育園落ちた」きっかけに2万7千署名 制度充実求め
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=3890657&media_id=168

>こっちにも張っとくか 日本共産党による『保育園落ちたの私だ』デモ なりすましの可能性 な ん と デモ後の打ち上げで韓国酒whttp://hosyusokuhou.jp/archives/47002172.html あ~やっぱり(棒

 焼肉食べながら韓国酒飲んだら韓国人である証拠らしいです(笑)。 だったら中華料理食べながら中国酒飲んだら中国人である証拠か? メキシコ料理食べてテキーラ飲んだらメキシコ人である証拠?

>こいつらみんな共産顔と朝鮮顔だなwww(感想はあくまで個人的なものであり、事実とは異なる場合があります)

「朝鮮顔」も変だけど「共産顔」って何(笑)。

>保育士が辞める原因“モンペ”ってのが、この一連の流れを見ててどれだけ恐ろしいのかがよく分かる。基本、モンペの人たちって在日だと思ってるが…。

 保育士が辞める主な原因は労働環境の劣悪さなんですけど? だいたい「モンペの人たちって在日」と思う根拠は?
 つーか、保育所不足の問題に在日コリアン、何の関係もないよね?

保育園落ちたブログ 「日本死ね!」とつぶやいた女性が現在の心境を明かす 「正直、反応の大きさに驚いている」とまどいも…
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=3890173&media_id=133

>日本死ね!なんて普通の主婦が言うか?憲法9条にノーベル平和賞の怪しげな主婦(プロ市民)と同じ臭いがするんだよ。

 なんで普通の女性が言わないと思うんだ? つーか、憲法9条も関係ないし。

>東京都内の30代の女性? 母親だかなんだか知らんが、日本中の朝鮮成分の三分の一はこの女に取憑いているな。

「朝鮮成分」(笑)。なんか「朝鮮」が悪霊扱いされてるぞ。

>保育園落ちた~ってつぶやきは毎年沢山あるのにこれだけが広まったってのは最初から裏があるんじゃないかという気がします。

 論理が逆だ! 毎年たくさんある中から、たまたま国会で取り上げられたから話題になったんでしょ?
 そもそも「保育園落ちた」というつぶやきが毎年たくさんあるということは、それをわざわざ新たに創作する必要なんかないってことなんだけど、そんな理屈も分からないのだろうか? 

>”共産党プロデュース”ということはネットで暴かれてますけど?

 ええっと、それって保守速報かどこかですか?(笑)

>氏素性も知れぬ上に、更に手際よく共産党が便乗しているのに、よく「市井の人」だと断言できるもんだwww自作自演サポーター乙www

 政府への抗議に共産党や反安倍主義者が便乗するのは、不自然でも何でもないですが? 便乗しなかったらそれこそ不自然でしょ?

>デモの打上で韓国料理で酒飲んでたらしいじゃないですか?母親が酒飲んでる間に子供は何処行ったニダ?そもそもガキなんて居るのか?

 先週号の『週刊文春』によれば、この女性はデモには参加していませんが?

>「日本死ね!」って書いてる時点で在日なんだろ?どうせ。

>朝鮮人でしょ?

>共産党が出てくる時点で察し。

>で、日本死んだら祖国チョーセンにでも子供を預ける気でしょうか?

>「日本死ね」って朝鮮人の口癖でしょ。働きもせずデモやってるヒマ人が保育園に受かってたまるもんか。、

>共産党の名前があるだけで胡散臭い。在日ならではの言葉だねぇ。

>「生粋の日本人」なら「日本死ね」なんて言わないよな。普通は。


 だから何でそう思っちゃうんですか?
 あと、陰謀論とは違うけど、この女性に対して「お前が死ね」と暴言吐いてる奴も多数。彼らのモラルでは、女性が「日本死ね」とは言っちゃいけないけど、女性に向かって「お前が死ね」と言うのはかまわないらしいぞ(笑)。

 ツイッターでも盛り上がっている。

待機児童工作に釣られてる人達
http://togetter.com/li/945887#c2537786

「保育園落ちたの私だデモ」を画像などから考えてみる
http://togetter.com/li/948103#c2551670

 僕はtogetterのコメント欄に、こう書いた。

>本物の陰謀と妄想の「陰謀論」の違いは、具体的な証拠があるかどうか。「俺はそう思った」というのは証拠じゃないからね?

 ところが、あきれたことに、そのすぐ下に、別の奴がこんなコメントを書いたのである。

>自治体やそこの担当者への不満でなくいきなり「日本死ね」になっちゃってるのも不自然なんですよね。どこが保育園担当なのか知らないのかと。こんな違和感だらけな行動で疑惑を持つなという方が無理だと思います。

 いやいやいや、僕はこの女性の激しい怒りが「日本死ね」という暴言になるのはまったく「不自然」とは思わなかったし、「違和感だらけ」とも思わなかったんですけど?
 確かに「日本死ね」は暴言である。それは僕も否定しない。しかし、この女性は保育園に落ち、激しく怒っていた。ものすごく腹が立った時に思わず「死ね」と言ってしまうことは、誰だってある。
 それに待機児童問題への不満は、「自治体やそこの担当者」にぶつけたってどうなるものでもない。いわば今の日本社会全体の構造が抱えている問題だ。まして首相は「一億総活躍社会」なんてスローガンを掲げてるんだから、「どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか」と愚痴りたくなるのも分かる。
 それが「日本死ね」という言葉になることの、どこが「不自然」なのだろう? むしろ自治体の担当者の名前を出して「〇〇死ね!!!」なんて書いたら、そっちの方がよっぽど問題じゃないか?
 つまり、「不自然」「違和感」というのは、そう言っている人の主観──「俺はそう思った」にすぎないんである。
 具体的な証拠ではなく、こうした主観を根拠に語るのが「陰謀論」だ。

 たとえば「アポロの飛行士の月面活動の映像は不自然だ! あれはやらせだ!」というのは、典型的な陰謀論。
「東日本大震災は不自然だ! あれは人工地震だ!」とかいうのもそう。
 反原発派の人が批判されると、相手を「御用学者」とか「原発推進派の工作員」とか決めつけたりするのもそう。

 もちろん、世の中には本物の陰謀もある。
 たとえばウォーターゲート事件。民主党本部に盗聴器を仕掛けようとした奴が逮捕されて、しかもニクソンが関与していたことが分かった。そうした証拠が出てきたからこそ、本物の「陰謀」であることが証明されたのだ。
 でももし、何の証拠なしに「誰かが私の生活を盗聴している。どこかに盗聴器が仕掛けてあるに違いない」と言いだす人がいたら、それは陰謀論──もっとストレートに言えば「頭がおかしい」。
 でもねえ、そういう妄想を抱いている人間って、けっこういるんだよね……。

 で、僕がいちばん腹が立ったのは、こんなこと書いてる奴。

>『疑うのは面倒だ、考えるのは面倒だ、誰かの言ったことを鵜呑みにするのは楽でいいーその心の隙に、トンデモは忍び込んでくるのだ。疑う心は、トンデモの予防策である」とトンデモ本の世界Rで「疑うことの大切さ」を説いた山本弘さんが『何でもかんでも陰謀に見えてしまう「陰謀脳」』とか言い出すとはなあ。

 いやいやいや何言ってんだよお前!
 僕が説いている「疑うことの大切さ」というのは懐疑論だよ。陰謀論っていうのはまさに、誰かが言ってることや、自分がふと思いついたことを、何も考えずに鵜呑みにしちゃうこと。懐疑論とは正反対なの。
 そんな基本的なことから説かなくちゃいけないのか……(ため息)。

 そもそもみんな忘れてるかもしれないけど、今回の騒ぎが何で拡大したかって言ったら、単に「保育園落ちた」ブログが国会で取り上げられただけじゃない。「誰が書いたんだよ」「ちゃんと本人を出せ」というヤジが飛んだからだ。
 それがきっかけで、保育園に子供を預けられなかった人たちの怒りが爆発し、ツイッターで「#保育園落ちたの私だ」というタグが炎上した。

「保育園に落ちたの誰だ?私だ!デモ」が起こりそうな雰囲気高まる #保育園落ちたの私だ
http://togetter.com/li/945691

 自民党の平沢勝栄議員のヤジがなかったら、こんな大騒ぎにはならなかった。
 つまり、これが陰謀だとしたら、そのシナリオには平沢議員も加わってることになる。
 その方がよっぽど「不自然」だろ?

 他にも、こんな意見も飛び出した。

「『保育園落ちた』の署名を渡したママはブランド品の抱っこ紐を使ってるからプロ市民」に対する反応
http://togetter.com/li/949308

 デモに参加した女性たちの写真が「プロ市民臭い」「全員がオサレママ()御用達の某海外ブランド品を使っている」と邪推する人が出現。
 しかし、その「海外ブランド品」とは、エルゴベビーという人気商品で、今はお母さん方がごく普通に使っているものだった。
 知っている人間にとってはごく普通のことなのに、知識のない人間にとっては「不自然」で陰謀の証拠に見える……これはアポロ陰謀論や神州7号陰謀論とまったく同じ構造である。

 結論。
 陰謀論というのは、自分の世界観と現実の世界が食い違うところに生じる。

 Aという勢力が好きな人が、Aを貶めるような情報を目にする。
 その逆に、Bという勢力を嫌っている人が、Bを貶める情報が少ないことに不満を抱いてる。

 そこで彼らは、自分の世界観と現実のギャップを、主観による陰謀論で埋めようとする。

「Aを貶める××という情報はBの流したデマだ」
 とか、
「Bを貶める情報は隠蔽されているのだ」
 とか。

 ぶっちゃけて言えば「現実逃避」だ。

 保育園が足りない。子供を預けたくても預けられない人が大勢いる。それが現実。
 陰謀論を唱える人間は、その現実から目をそらしたいだけだ。

  
タグ :陰謀論デマ


Posted by 山本弘 at 15:42Comments(39)事件社会問題ツイッター

2016年03月16日

文庫化『UFOはもう来ない』『SF JACK』

 こちらも告知遅れました。以前に出した本の文庫版が2冊、すでに書店に並んでおります。


『UFOはもう来ない』は2012年発表の長編小説。宇宙船の事故によって京都の山中に取り残された異星人を3人の小学生が発見。巨大UFOカルトによって誘拐・監禁された異星人を、インチキUFO番組のディレクターと美人のUFO研究家、それに小学生たちが力を合わせて奪還に挑む……というお話です。
 ファースト・コンタクトもののSFであると同時に、コン・ゲーム小説であり、ジュヴナイル冒険小説でもあります。UFOをめぐるうんちくもたっぷり入ってます。
 単行本との違いは、各章のタイトルが日本語になったこと。さすがに『アウター・リミッツ』のサブタイトルの原題というのはマニアックすぎたかと反省しました(笑)。いちおう第一章の「宇宙人現わる」と最終章の「見知らぬ宇宙の相続人」は『アウター・リミッツ』なんですけどね。
 僕が『アウター・リミッツ』を見てた頃の、「何かすごいことが起きてる!」というプリミティヴなわくわくどきどき感を再現できないかと思って書きました。

 詳しい解説はこちら。
http://homepage3.nifty.com/hirorin/ufohamoukonai.html


『SF JACK』は2013年、日本SF作家クラブ50周年を記念して出版されたアンソロジー。新井素子、上田早夕里、冲方丁、小林泰三、今野敏、堀晃、宮部みゆき、山田正紀、山本弘、夢枕獏、吉川良太郎の作品を収録。
 単行本との違いは、瀬名秀明さんの作品が抜けていること(ご存知の通り、日本SF作家クラブを退会されたので)。
 僕の作品「リアリストたち」は、人類の大半が仮想現実で暮らすようになった22世紀の社会での、新たな差別意識の話。
 出版社の自主規制などもあり、現実の差別問題はなかなかストレートに描くのは難しい。でも、SFの形でなら、今はまだ存在しない架空の「差別」を描けるんじゃないか……。
 と思いついて書いた話なんですが、ネットでのレビューを見ると、これが差別をテーマにした話だと認識している人がほとんどいなくて、ちょっとがっかりしてます。それどころか、こういう未来世界を肯定しているような人もいて、頭抱えてます。
 ヒロインの一人称で書き、まず読者に感情移入させておいて、実は彼女はこういうおぞましい考えの持ち主だった……と明かしたらショックだろうと計算して書いたんですが、けっこうみんなショックを受けず、ヒロインの考え方を平然と受け入れてるみたいなんですよね。それは僕の意図と正反対なんですけど。
 ふと思いました。22世紀を待つまでもなく、この差別ってすでにはじまってんじゃないですかね? 最近のツイッターの「エルゴ」批判とか見てると、そう思えてきて怖いです。

 僕以外の作品では、冲方丁「神星伝」がダントツに面白いです。TVアニメの1クール分を短編に詰めこんだような和風ワイドスクリーン・バロック。おすすめです。
  
タグ :PRSF


Posted by 山本弘 at 09:25Comments(1)SFPR

2016年03月16日

『ウルトラ』シリーズ50周年・勝手に盛り上げよう関西SF作家の特撮トーク

山本弘のSF秘密基地LIVE#56
『ウルトラ』シリーズ50周年・勝手に盛り上げよう関西SF作家の特撮トーク

『ウルトラQ』『ウルトラマン』が放映開始されて今年で50年。特撮とともに育ってきた世代が、今やSF作家としてデビューし、怪獣やウルトラマンを題材にした小説を次々に発表しています。 『ウルトラマンデュアル』を上梓したばかりの三島浩司さんをゲストに迎え、怪獣やウルトラマンを愛する作家たちが、怪獣映画や『ウルトラ』シリーズの思い出、創作の裏話、創作にこめた熱意を語ります。SFファン、特撮ファン必見!


[出演] 山本弘、三島浩司(SF作家)

[日時] 2016年3月25日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] なんば紅鶴(大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F)(地図)南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円  
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)

 詳しい情報はこちらから。
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=99735536
--------------------------------------------------

 すみません、今月は前半に入院してたり(たいした病気じゃないのでご心配なく)、中盤は確定申告でひーひー言ってたんで、告知が遅れました。
 ご覧の通り、今月は特撮、それも『ウルトラ』をテーマにしたトークです。 これまでもLiveWireではいろんな特撮関係の話をしてきましたけど、そう言えば『ウルトラマン』に絞った話はまだしてなかったかも? もちろん『MM9』の話もしますし、三島浩司さんからは『ウルトラマンデュアル』の裏話とかも聞けると思います。お楽しみに。


  


Posted by 山本弘 at 08:14Comments(4)特撮PR