2015年03月30日

近頃はやりのお手軽・ニセ歴史

 ニセ科学ならぬニセ歴史というものがある。
 ちょっと前まで、超古代文明がどうこういう話を信じている人が多かったけど(今ももちろんいる)、最近、それが変わってきているように思える。古代ではなく、資料もたくさんある近代の歴史について、嘘やデタラメを書き、歴史を書き換えようとしているものが目立つのだ。
 いわゆる「歴史修正主義」というやつだけど、「主義」など呼べる大層なものじゃない。単なる「素人の思いつき」程度のものを書き殴っただけのものが多い。当然。初歩的な間違いだらけなので、歴史にそれほど詳しくない人間でもツッコめる。
 今回はそういうのをいつくか並べてみた。

●例1・江戸しぐさ

 これなんかまさに、ニセ歴史の典型。前に書いたので、今回は省略する。

http://hirorin.otaden.jp/e362859.html

●例2・「関東大震災時の朝鮮人虐殺はなかった」

『翼を持つ少女』でも取り上げたけど、実際、近年になってこういうアホな説が唱えられ、それを信じる者が出てきている。
 ちなみにこの珍説を最初に唱えた『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』という本、産経新聞が出版している。AMAZONのレビューを見ると、やはり騙されている人間が多いことがよく分かる。

http://www.amazon.co.jp/dp/4819110837

 ネット上ではきちんと反論ページを作ってくれている方がいる。

「朝鮮人虐殺はなかった」はなぜデタラメか
http://01sep1923.tokyo/

 要するに、震災直後に流れた「朝鮮人暴動」のデマを本気にする一方、虐殺に関する大量の記録や証言をすべてなかったことにするという、まことに単純な手法なのだ。
 一方、『九月、東京の路上で』の方には、上の『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』に騙されたと思われる者たちが、大量の低評価をつけている。トホホ。

http://www.amazon.co.jp/dp/490723905X/

●例3・「少年犯罪は凶悪化している」

 これなんかも一種の歴史修正主義だろう。「昔の少年犯罪は今ほど凶悪じゃなかった」というニセ歴史を唱えてるわけだから。

稲田朋美政調会長「少年犯罪が凶悪化~」→根拠はあるの? Twitterの議論まとめ
http://togetter.com/li/789102

 竹田恒泰も「特に最近は、少年の凶悪犯罪が非常に増えてて」などと、テレビで堂々とデタラメを言っている。 しかも例に挙げてるのが「女子高生コンクリート詰め殺人事件」! いや、それ最近の事件じゃねーし。27年も前の事件だし。

https://youtu.be/AQLIy8gt3kE
(10分50秒のあたり)

 戦前や戦後すぐの少年犯罪がどれほど凶悪だったかは、少年犯罪データベースを見ればすぐに分かる。最近の傾向を見ても、特に凶悪化しているようには見えない。
 要するに、過去にたくさんあった凶悪事件を忘れているので、「犯罪が凶悪化している」という錯覚が生じるのだ。

少年犯罪データベース
http://kangaeru.s59.xrea.com/

●例4・「インパール作戦は成功したのである」

 太平洋戦争の中でも特に無謀で無計画、大勢の犠牲者を出して失敗に終わったことで名高いインパール作戦。それをまさか賛美する人間が現われるとは夢にも思わなかった。

日本会議のインパール作戦の記述に牟田口廉也中将がツッコム
http://togetter.com/li/792328

インパール作戦はどれほど無謀な作戦だったのか?
http://togetter.com/li/792801

 これほど見事に失敗して何万人もの兵士を無駄死にさせた作戦を肯定的に評価できるんだったら、もう何でもありだぞ!

●例5・「古代の昔から、日本という国は穏やかな民主主義精神に富んだ国家であった」

神話や建国記述「間違ってない」「感動した」 一宮市教委の注意で削除の中学校長ブログに激励
http://www.sankei.com/life/news/150222/lif1502220014-n1.html

 仁徳天皇の「民のかまどは賑わいにけり」という話は、僕も子供の頃に何かで読んだ。理想的な支配者のあるべき姿を示したいい話だと思うし、フィクションだと説明すれば、べつに子供に教えてもかまわないと思う。
 でも、仁徳天皇と昭和天皇、たった2例(しかも一方は伝説というか神話)を元に、こんな結論を導いちゃだめだろ。

> このように、初代、神武天皇以来2675年に渡り、我が国は日本型の民主主義が穏やかに定着した世界で類を見ない国家です。

> 日本は先の太平洋戦争で、建国以来初めて負けました。しかし、だからといってアメリカから初めて民主主義を与えられたわけではありません。また、革命で日本人同士が殺しあって民主主義をつくったわけでもありません。
> 古代の昔から、日本という国は、天皇陛下と民が心を一つにして暮らしてきた穏やかな民主主義精神に富んだ国家であったのです。

 えー(笑)。
 そもそも日本の歴史の中で、天皇がずっと政治の実権を握ってたわけじゃない。
 天皇や将軍が世襲制で、もちろん選挙なんかなく、身分の差もあった時代が「民主主義精神に富んだ国家」ってどういうことだ? この人の「民主主義」の定義って何だ?
 あと、明治維新は日本人同士が殺し合ったんじゃないのか?
 これは完全なニセ歴史。「水伝」や「江戸しぐさ」と同じぐらいデタラメだ。中学の校長ともあろう者が、こんなの子供に教えちゃだめだろ。

 こうしたお気軽・ニセ歴史、どれも基本的な歴史の知識があるか、知識がなくてもちょっと調べればすぐ論破できるものばかり。
 問題は、歴史に関する知識がなく、検索しようともしない人間が多いということ。そういう人間はころころひっかかる。「真実を初めて知った!」と感動するのだ。
 しかも、日本会議とか産経新聞とか、影響力のある組織やメディアが、こうしたニセ歴史を擁護しているという事実。
 彼らもやはり歴史に無知で、ニセ歴史に騙されているのか、それともニセ歴史と知りつつ広めているのか?
 どっちにしてもダメだろ。
  
タグ :ニセ歴史


Posted by 山本弘 at 18:22Comments(31)社会問題

2015年03月30日

無法を夢見る日本人たち

 前に韓国の転覆事故や中国の地震について、おぞましいことをつぶやく人たちがいることを書いたけど。

http://hirorin.otaden.jp/e312078.html

http://hirorin.otaden.jp/e316493.html

 今度はインドのニュースである。

■住民数千人がレイプ容疑者を惨殺 制御きかぬ“怒り”、収拾つかぬ「レイプ頻発インド」
(産経新聞 - 03月17日 20:37)
http://www.sankei.com/premium/news/150317/prm1503170006-n1.html
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=133&from=diary&id=3324284

 このニュースに関するmixiのコメント(647件)を読んでいて愕然となった。

>いや、ひどい言い方だけど、これぐらいしないと抑止力にならないのが現実(´・c_・`)観光客だって狙われてるしね(・ε・` )

>レイプ容疑者惨殺、当たり前の仕打ちだよ。それだけのことしたんだから。地獄で反省してね。

>悪人は殺されても仕方がないです。山口県光市での母子殺害事件の犯人や、酒鬼薔薇聖斗も無残な最期を遂げるべきです。悪が天寿を全うする世の中ではいけません。

>けどそれくらいしていいどころかすべきだと思う。レイプ犯は皆殺しの刑でいい!

>この一件の良し悪しは別として、やはり因果応報では?真っ当に生きていれば当然、違った人生だったのだろうしね。悪者が心穏やかに死ねる世の中なんて、それこそ世も末だよ。

>レイプ犯をリンチして亡骸を晒すというのは、寧ろもっとやっちまえと思うのだが、何より…インドという国…気持ち悪い、嫌い(笑)。

>レイプは「精神の殺人」だと考える。無神経な男性諸氏は「あなたの妻」「あなたの娘」がレイプにあったら冷静で居られるか?と考えてみたらいい。極刑でも良いと思う。。。

>レイプ犯は本来これぐらいやって然るべき。複数の人間を殺しでもしない限り、死刑にならないという現代法の方がおかしいと思う。

>法が手緩いから良かったじゃん レイプしたんだから当然だろ

>レイプ犯は、これくらいの仕打ち受けても飽き足りません。むしろこれが普通のような気がします。

>日本は法治国家だから、真似ろとは言わん。でもこの惨殺されたインド人がそれ相応の報いだとは思う。

>かっこいい


 ひー、怖いよー!
 民間人が犯罪者を寄ってたかって惨殺してもいいと思ってる人がこんなにいるよー!

 そもそもこのニュースを最後まで読んだら、この事件、冤罪の可能性が高いことが分かるんだけど、あんたら最後まで読まずにコメント書いてるの?
 と思ったら、ちゃんと最後まで読んだうえでこんなことを書いてる人たちも。

>同意の上というか、強姦ではなかったなら彼はかわいそうだとおもう。でも、本当に罪を犯してて、強姦をしていたなら言葉は悪いけどザマァが正直なところ。

>このニュースの主体の筈の男性は冤罪かもだけど、本当に強姦をしたヤツに対してはそれくらいされて当然。後半の話の男どもに対してやってほしいなと本気で思うんだけどな。

>レイプ犯にはこれくらいの制裁してもいいけど、無実の人にしちゃダメだろ。

>間違えて殺されたらなぁ…でも本物のレイプ犯なら妥当な私刑だが

>冤罪ならこの私刑は最悪やな。ほんまにレイプしたんなら当然やけど。何かが違う。

>日本でも、性犯罪者にはこれぐらいやっていいんでは? 勿論、どう調べても「クロ」な奴に限って。


 冤罪じゃなかったらやっていいのか!?
 いや実際、「やりたい」「日本でもやろう」と表明してる連中もいる。

>これはいい手本やね♪日本でもこれぐらいやらなあかん♪とくに未成年の犯罪者には♪

>川崎中1殺害事件の主犯と取り巻きにはこのくらいやってやりたくなる!

>日本も見習おう!大津のいじめ犯、川崎中1犯人などを始めwww痴漢冤罪を生み出した関係者や人殺し企業の幹部などなどwwww司法で許されても国民に殺される世の中がいい

>日本もレイプ犯を集団リンチで処刑は有りだと思う

>本当の加害者なら全裸にして歩かせ、石を投げつけたうえにバイクにロープでつないで引きずり回して良いんじゃない?日本でもヤってほしいね。ついでに殺人犯も~

>日本の強姦魔も同じ様にしてやれば?


 ひーっ、やめろーっ! 日本を『北斗の拳』や『マッドマックス』みたいな国にする気かあ!?

 まあ、さすがにこんな意見は大勢ではなく(印象としては10人に1人ぐらい)、こういうコメントを批判する声の方が多いんだけど……。
 でも、mixiの中の、それもこのニュースを読んだ人だけでこんなにいるってことは、「悪人はリンチにかけられて殺されるのが当然」「日本でもやりたい」と考えてる人間は、この何百倍、何千倍もいるってことだよなあ……。

 怖いよ。

『翼を持つ少女』の中でも「世の中で最も危険な思想は、悪じゃなく、正義だ」「悪には罪悪感という歯止めがあるが、正義には歯止めなんかない」と書いたけど、実際、こういう人たちは、自分の考えが正義だと信じて疑わないから、始末に悪い。反省もせず、いくらでも暴走する。
 実際、民間人が寄ってたかって無実の人を虐殺するという事件は、日本でも起きている。今から92年前、東京で。
 何かのきっかけで、また同じことが日本で起きる可能性も、無いとは言えない。
  
タグ :社会問題


Posted by 山本弘 at 17:48Comments(14)社会問題

2015年03月30日

『怪獣文藝の逆襲』

『怪獣文藝の逆襲』

角川書店 2052円 発売中
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見届けよ。
世紀の大決戦がいま、幕を開ける

怪獣と特撮を愛してやまない作家、映画監督、気鋭のコンセプト・アーティストが大集結!!
希代の怪獣マニアたちの筆が生みだすオリジナル怪獣が、縦横無尽に暴れまわる、夢の競作集。

迫力に満ちたカバー絵を手掛けたのは、『GODZILLA』『ハンガーゲーム2 キャッチングファイア』『レ・ミゼラブル』『寄生獣』『進撃の巨人』『ターミネーター ジェネシス』ハリウッドで活躍するコンセプト・アーティストの田島光二。

ここでしか味わえない驚きと興奮を、ぜひご堪能あれ。

【本書に収録されている作品】
樋口真嗣「怪獣二十六号」…秘蔵の怪獣映画の企画書、本書で初公開!

大倉崇裕「怪獣チェイサー」…怪獣省のベテラン職員が直面した、いまだかつてない危機。

山本弘「廃都の怪神」…密林の奥深く、先住民に育てられた白人少年が遭遇した恐るべきモノとは?

梶尾真治「ブリラが来た夜」…突如現れた怪獣に呼応するように、血族に隠された戦慄の事実が明らかになる……。

太田忠司「黒い虹」…謎の転校生と奇妙なTVドラマ「世紀の大怪獣ドノポリカ」との意外な関係とは?

有栖川有栖「怪獣の夢」…幼い頃から夢を見る。血にまみれ、おぞましく、神々しい怪獣の姿を……。

園子温「孤独な怪獣」…園監督初の怪獣小説! 映画監督を夢見る貧乏青年が語る、知られざる怪獣映画とは。

小中千昭「トウキョウ・デスワーム」…東京の地下に巣食う巨大な生物はいったい何なのか?

井上伸一郎「聖獣戦記 白い影」…元寇に立ち向かう家清の前に現れた黒い影の正体とは。


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 怪獣小説のアンソロジーです。
 前に『怪獣文藝』という本が出た時に、「何でこの企画で僕に声がかからなかったんだ?」といじけたもんでしたが(笑)、今回はちゃんとお声がかかりました。
 僕の作品「廃都の怪神」は、アフリカ奥地の秘境を舞台に、野性の少年ティムが邪教集団の崇拝する怪獣と対決するという話。1996年にメディワークスから出たアンソロジー『ドラゴン殺し』のために書いた「密林の巨龍」と同じシリーズなんですけど、覚えてる人いますかね?
 時系列的にはこっちの事件の方が一年前という設定にしてます。(「密林の巨龍」ではティムは13歳、「廃都の怪神」では12歳)
 19年ぶりのシリーズ第2作ですよ。このシリーズ全部書けるのは、何年先になることやら。

 樋口真嗣さんの「怪獣二十六号」は、幻に終わった怪獣映画の企画。怪獣を番号で呼ぶなど、『MM9』と似てる設定ですが、実は『MM9』より前の企画なんだそうです。 大倉崇裕さんの「怪獣チェイサー」もやっぱり『MM9』っぽい世界観。僕は逆に、「山本弘だからどうせ『MM9』だろう」と予想する人がいるだろうから、わざとぜんぜん違う話にしました。
 もっとも「密林の巨龍」を読み直してみると、怪獣は白人文明の世界観とは異なる世界の存在なんで、その近くでは銃が使えなくなる……という、多重人間原理みたいな設定を使ってるんですよね。この頃から『MM9』っぽい発想してたんだな。

 KADOKAWA代表取締役専務の井上伸一郎さんの初の小説「聖獣戦記 白い影」は、元寇に怪獣がからむという歴史もの。ネタバレになるので詳しくは書けませんけど、クライマックスでみんな驚くはず。いやー、権利持ってる強みだなあ(笑)。
 実は昨年、お会いした時に、二人とも怪獣映画が好きなもんで、怪獣の話をさんざんしたんですよね。その時に、僕がぽろっと口にしたちょっとしたアイデアがあるんですが、後で井上さんに「あのアイデア使っていいですか」と言われて、「どうぞどうぞ」と返事しました。こんな見事な小説になるとは、感慨深いです。

 怪獣小説というジャンルはまだまだ可能性があって、アイデアしだいでもっといろんなバリエーションが生み出せると思うんですよ。現代日本にこだわることはない。前に『トワイライト・テールズ』で、アメリカやタイやコンゴを舞台にしましたけど、他にもいろんな国を舞台にしていいし、他の惑星や異世界を舞台にしてもいいはず。夢枕獏さんや宮部みゆきさんみたいに、時代ものにしてもいい。舞台の数だけ異なるドラマが描けるはずなんです。SFにもミステリにもホラーにもギャグにもラヴロマンスにもできる。
 他にも、僕はからんでませんけど、洋泉社から『日本怪獣侵略伝 ~ご当地怪獣異聞集~』という怪獣小説アンソロジーも出るそうで、期待してます。今年は怪獣小説の当たり年になるかも?
日本怪獣侵略伝 ~ご当地怪獣異聞集~
  
タグ :PR怪獣


Posted by 山本弘 at 17:25Comments(8)PR