2015年02月24日

新刊『14歳からのリスク学』

『14歳からのリスク学』


楽工社 1500円+税
発売中

プロローグ ロボットが人間の安全を守るには
 ロボット工学三原則の難点/「正しくこわがれ」の原典/幽霊はいなくても幽霊はこわい/間違ったこわがり方をやめよう/

第1章 1966年の大虐殺
 ──迷信・宗教を信じるリスク
 科学の時代によみがえった迷信/危険で無意味な風習「女性器切除」/金曜日に冷蔵庫の扉が開けられない/神社にお参りするのは合理的/など

第2章 こんにゃく入りカップゼリーの不名誉
 ──新しいものを警戒する心理
 8000万人に1人が死ぬから法規制?/餅の方がはるかに危険だった!/それでも餅が規制されない理由/など

第3章 韓国産ラーメンを食べるとがんになる?
 ──こわい名前の化学物質、その正体は
 この危険物質は何?/見出しだけしか読まない人たち/日本のかつお節は韓国では基準値違反?/大さじ2杯の塩で死ぬ/など

第4章 中国産食品、買ってはいけない?
 ──危険を大げさに煽る人々
 『買ってはいけない』ふたたび/酒の危険はどうでもいい?/恐怖を煽る週刊誌/中国食品を追放するとかえって危険?/野菜の浅漬けの危険性/など

第5章 暴走“ロリ男”は増えてない
 ──アニメやゲームに対する偏見
 前代未聞のマヌケな誘拐事件/今や男が女児向けアニメを観る時代/それでも規制しようとする人たち/誰を何から守りたいのか?/など

第6章 1000年に一度の大災害
 ──「めったに起きない」という錯覚
 「防波堤は壊してはどうか」/「1000年に1度」は宝くじの5等と同じ/小さな小惑星の方が恐ろしい/スーパーフレアの脅威/など

第7章 福島の野菜をじゃんじゃん食べよう !
 ──小さすぎるリスクを恐れる必要はない
 「山本弘は御用学者」?/プルトニウムは飲んでも安全?/人間は自然の状態でも被曝している/野菜を食べてがんを予防しよう/など

第8章 原発はこわい? こわくない?
 ──リスクの計算が困難であること
 「信じられないほどバカなミス」が原発事故を招いた/20秒立っているだけで死ぬ/原発も地球温暖化も危険/など

エピローグ あなたが戦うべき「見えない敵」
 「シューマイの皮がない」と青ざめる母/本当に子供のことを考えてる?/喫煙してもいい場合──妻の選択/など

あとがき リスクに対する正しい感覚を持とう

--------------------------

 新刊です。
 本当は2012年ぐらいに出す予定だったんですが、他の仕事が忙しかったもので、僕の原稿が遅れに遅れ、今年の発売になってしまいました。
 人の感じている「不安」や「恐怖」の大きさは、実際の「危険」の大きさとは比例していない。小さすぎる危険を過剰に恐れたり、大きな危険を軽視したりする。迷信を信じたり、アニメやゲームの害を声高に唱えたり、聞き慣れない名前の化学物質や微量の放射性物質を恐れたりする一方、日常的に存在していて毎年多くの人の生命を奪っている危険に無頓着だったり、将来起こるかもしれない大きな災害に関心がなかったり……。
 この本はそうした、「人の感じている不安の大きさ」と「実際の危険の大きさ」の落差を検証し、リスクに関する考え方を見直してみようというものです。
 目次を見ると分かるように、一部はこのブログに載せた文章をベースにしています。ただし、大幅に書き直して、新しいデータをいろいろ入れています。統計もふんだんに盛りこんでいます。
 もっとも、難しい内容ではありません。なるべく多くの人に読んでいただけるよう、できるだけ平易に書きました。

 このタイトルは編集さんがつけたものです。似たようなタイトルの本はすでにあって、明らかに便乗なんですけどね(苦笑)。でも、提案されたタイトルを聞いたとたん、「あっ、確かにぴったりだ」と思ったので了承しました。
 実際、中学生でも理解できるはずですし、もちろん、大人が読んでも分かりやすい内容だと思います。
 あなたの頭の中にある「不安」「恐怖」が、本当に「危険」と釣り合っているのか、この本を読んで考えてみてください。



  


2015年02月14日

「埋もれた海外SFを掘り起こせ!」

山本弘のSF秘密基地LIVE#43
埋もれた海外SFを掘り起こせ!

 ハヤカワSFシリーズ、ハヤカワ文庫SF、創元推理文庫、サンリオ文庫、QTブックス……SFファンの本棚を彩った60~80年代の海外SFの数々。しかし復刊されず、今では読めない作品もたくさんあります。
『航時軍団』『宇宙震』『人間の手がまだ触れない』『テクニカラー・タイムマシン』『悪鬼の種族』『宝石世界へ』『鞭打たれる星』『マイクロチップの魔術師』などなど、タイトルを見るだけでわくわくしてくる作品群。どんな話だったか知りたくありませんか?
 それらを歴史の闇から掘り起こし、スポットを当てようという企画。クラシックSFを深く愛するSF作家・山本弘が、愛をこめて熱く語りまくります!


[出演] 山本弘

[日時] 2015年2月27日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] なんば紅鶴
(大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F / Tel. 06-6643-5159)
南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)

ご予約はこちらへ。
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=86454696 

-------------------------------------------------

 LiveWireでは以前、〈SFマガジン〉に載った短編を創刊号から順番に紹介するという企画をやりましたが、今回はその単行本版。ディックとかクラークとかの有名な作家の作品は何度も復刻されて、今でも読むことのできるものが多いのですが、ちょっとマイナーな作家のものとなると、一度出たきり、絶版になっても再版されず、忘れられてしまうという例がとても多いんですね。
『翼を持つ少女』の中でちらっとストーリーを紹介した『悪鬼の種族』『大魔王作戦』『マイクロチップの魔術師』、やはり『翼を持つ少女』にタイトルだけ出てきた『航時軍団』『テクニカラー・タイムマシン』『時間帝国の崩壊』などなど、どれも痛快だったりエキサイトしたりしたんですが、今は入手困難。イアンド・バインダーの『ロボット市民』のように、ストーリーは古臭いけど、SFの歴史という視点から見ると興味深い作品もあります。
 今回はそうした「忘れられたSF」を一挙に紹介しようという企画です。その魅力、面白さを、時間の許す限り語りまくります。お楽しみに!
  
タグ :SF


Posted by 山本弘 at 21:52Comments(6)SFPR

2015年02月10日

後藤さんたちのことはどうでもいいんじゃないの、この人たち

 前回からのつづき。

 まず最初に、無用な誤解を招かないように、あらかじめ言っておきたいことがある。
〈Webミステリーズ!〉で連載中の『BISビブリオバトル部 幽霊なんて怖くない』の第4話(最終話)、〈戦争〉をテーマにしたビブリオバトルの場面に登場する6冊の本の中に、今回の事件を思わせるものがあるが、まったくの偶然である。この6冊を使うことは、連載開始当初、つまり半年近く前から決めていた。(3話の部長と武人の会話の中で伏線は張ってある)
「山本弘は事件に便乗した!」とか誤解されるのは心外なので、事前に釈明しておく。


 さて、人質殺害という最悪の結末になってしまったこの事件。殺される直前に二人が味わったであろう恐怖を想像すると、胸が痛くなる。
 世界にはたくさんの悪や不幸や不条理が存在する。祈るだけではどうにもならない。どうしようもなかったのかもしれない。それは分かっているが、やはりいたたまれない気持ちになる。
 せめてこの事件を忘れないようにしたいと思う。

 だが。

 二人の日本人を殺したテロリスト(「国」とは呼びたくない)にも腹が立つが、彼らの死を自分たちに都合よく利用しようとする連中がいるのにも腹が立つ。右も左も関係なく。

 まず、この事件にかこつけて安倍政権を批判する奴。

安倍外交が「イスラム国」のテロを誘発した
http://toyokeizai.net/articles/-/59008

田原総一朗「イスラム国に『絶好の機会』を与えてしまった安倍外交」
http://dot.asahi.com/wa/2015020400060.html

【後藤さん殺害映像】人道支援演説めぐり共産「2人への危険、認識あったのか」vs首相「テロリストに気配り必要ない」
http://news.livedoor.com/article/detail/9745621/

 いや、僕もね、安倍政権を全面支持してるわけじゃないよ。でも、この件で安倍首相を批判するっておかしいわ。
 だってテロは非人道的な行為、まさに悪である。世界から根絶しなくちゃいけない。それはイスラム諸国の意思でもある。そのために日本も金を出すのは当たり前だ。
 当然、テロリストの側としては嫌がるだろうが、それこそ「気配り必要ない」である。
 日本国内の犯罪に置き換えてみればいい。暴力団対策のために警察の予算をアップするのに、いちいち暴力団の顔色をうかがう必要があるか?
 なんか、この件で安部首相を叩いてる連中って、後藤さんたちのことはどうでもよくて、自分たちの主義主張を広めるのに利用したいだけのように思える。

 でも、同じことは産経新聞についても言えるのだ。

http://www.sankei.com/column/news/150207/clm1502070003-n1.html


 途中まではふんふんと思って読んでたけど、最後の最後でひっくり返った。

>命の危険にさらされた日本人を救えないような憲法なんて、もういらない。

 平和憲法を持たない国の人たちだって、テロリストに拉致されて身代金要求されたり殺されたりしてるんだけど?
 しかもその前に、「護憲信者のみなさんは、テロリストに「憲法を読んでね」とでも言うのだろうか」と自分で書いてるではないか。テロリストが日本の憲法なんて気にしてないことを認めてるんである。なぜこの矛盾に気づかん?
 そう、テロリストは日本の憲法なんか気にしない。憲法9条があろうとなかろうと、たぶん後藤さんたちは殺されていた。
 9条で平和を守れると盲信する左寄りの人たちにも困っちゃうけど、憲法を改正すれば日本人が安全になるというこの無邪気な思いこみって、何なんだろう。護憲論者の考えを裏返しただけで、同じものなんじゃないだろうか。
 つーか、この事件を憲法論議にすりかえるなと言いたい。

 他にも腹が立ったのは、こんなデマ。

田母神氏「後藤さんと母の姓が違う。どうなってるの?」
http://togetter.com/li/775783

 何か事件が起きるたびに「在日認定」されるのはいつものことだけど、かつて空自のトップだった人まで、ネットに流れるデマを真に受けてるのは問題だ。親子で姓が違うなんてよくあることなのに。
 だいたい「マスコミにも後藤健二さんの経歴なども調べて流して欲しいと思います」って何だよ。後藤さんの経歴なんてそれこそマスコミでさんざん報じられてるじゃないか。テレビも見ないし新聞も週刊誌も読まないのか。

 在日疑惑に対する反論はこう。

後藤さんを在日認定するバカ共へ【ネトウヨ完全論破編】
http://togetter.com/li/777473

 やっぱりこういうデマが流れる背景には、「こういう厄介な事件に日本が巻きこまれるのは嫌だ」→「拉致されたのが日本人じゃなければいいなあ」という願望があるんだろう。

 他にも、「後藤さんのまばたきはモールス信号」なんてデマも流れた。まばたきで「見捨てろ」「助けるな」と伝えていたというのだ。

悪質なデマの可能性が高い
「後藤さんのまばたきはモールス信号」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4688

 こんなデマを流す人間、信じて拡散する人間の心理には、やはり「見捨てたい」「助けたくない」という願望があるんだろう。

テレ朝「報道ステーション」が「中東の日本人学校と日系企業の所在地一覧を放送した」というのはデマ
http://matome.naver.jp/odai/2142305692262526601

 テレ朝が嫌いなのは別にかまわないけど、事件に便乗してテレ朝を叩くデマを流す根性は本当に卑しい。

【ISIL】名古屋のモスクに脅迫電話「日本から出ていけ」 ⇒ 近くに韓国学校と在日民団本部があることが判明!!! あっ察し!!!
http://www.news-us.jp/article/413553154.html

 何が「あっ察し」だ!(怒)
 脅迫電話なんて日本全国どこからでもかけられるっていうのに、同じ区内に施設があるから犯人扱いなんて、デタラメもいいところである。
 善良なイスラム教徒の方々に対する差別だけでも気分が悪いのに、それをさらにネタにして在日コリアン差別。ほんとにもうどうしようもなく気分が悪い。

 他にも、例によってあのお方がやってくれました。

後藤さんたちは今何を思う? イスラム国、日本人人質事件の真相に迫る
http://the-liberty.com/article.php?item_id=9156

> 後藤さんの霊は、1月31日に大川総裁が行ったイスラム国の最高指導者アブバクル・バグダディ氏の霊言について、イスラム国側の主張だけを発表するのは中立的ではない、私たちの言い分も言わせてほしいと主張。今回は、大川総裁が、スピリチュアル・エキスパート(チャネラー)に、後藤さん、湯川さんの霊を入れる形で霊言が行われた。

 さっそく後藤さんと湯川さんの霊を呼んだんだそうですよ!(怒)
 これまで幸福の科学のやってることは何度も笑ってきたけど、今回のはさすがに笑える限度超えてる。二人の死を宗教宣伝のために利用するとは。「てめえらの血は何色だ!」と言いたくなる。
 いくら「言論の自由」と言っても、こんな奴の言論の自由まで守らなくちゃいけないのかと思うと、ほんと、情けなくなってくる。

 亡くなった人たちに本気で同情なんかしてないんじゃないですかねえ、この人たち。
  
タグ :デマISIL


Posted by 山本弘 at 18:09Comments(43)事件メディアリテラシー

2015年02月10日

遠近法を知らない人たち

 もう十数年も前のこと。 妻が知り合いの作る『名探偵コナン』の同人誌にマンガを寄稿することになり、僕が手伝ったことがある。服部平次がメインの本である。

「平次は好きやけど、顔にトーン貼るのが大変や」

 そう妻が言ったもんで、「アシスタント、やったげようか? トーンぐらい貼れるで」と申し出たのがきっかけ。成り行きで背景も僕が描くことになった。

「ここ、ボウリング場のシーンやから、背景にレーン描いて」

 と妻に頼まれた。ボウリング場のレーンなら、直線を何本か引いてピンを描き加えるぐらいだから、たいして難しくないよな……と、気軽に原稿を受け取って、困惑した。
 線が引けない。
 妻が描いた絵は、コマの中に同じぐらいの大きさのキャラクターが数人、適当に配置されてるだけなんで、どういう線を引いても矛盾が出てしまうのだ。画面手前のキャラクターが小人になってしまうか、奥のキャラクターが宙に浮いてしまうか。

「ごめん。この絵、消失点、どこ?」

 と訊ねると、妻はきょとんとした様子で、

「消失点って何?」

 と問い返す。

「学校で美術の時間に習わへんかった? 遠近法とか、一点透視とか二点透視とか」
「うーん、習(なろ)たような気もするけど、忘れた」

 妻はそれまで、同人でマンガを描いた経験は何度もあったが、背景を描かないか、あるいは奥行きのある背景を描いたことがなかったので、遠近法を知らなくても支障がなかったらしいのである。
 僕はしかたなく、「まず画面上に消失点を決めて、そこに向かって集中線を引いて、人物をその線に合わせて配置して」と、美術の基礎を講義しなくちゃならなかった。

 実は妻と同じように、遠近法というものを知らない(習ったけど完全に忘れている)人間が、けっこう多いらしいのだ。

イスラム国の映像は合成!!という主張
http://togetter.com/li/772235

 影の方向が違うから不自然だ! 合成だ! と主張する人が何人も。

>イスラム国の日本人殺害予告 身代金要求ビデオの人質の影が左右違うのでクロマキー合成の可能性があります。

>イスラム国の動画見てると、人質2人の首の影の出方が違うな。場所特定されないように、別々に撮って背景も合成してんのかな。

>なんか違和感があると思ったら影の向きが不自然。光源が2つあるのかあるいは合成か

>右の人質の首の影は左寄りにできてるけども左の人質の首の影はがっつり右にできてますよね。太陽光の当たり方が二人で違うわけないんだから。合成映像っすわこれwwwwwイスラム国もっと上手に作れよ脅迫するくらいなら 笑


 この合成説、ネットでの噂だけでなく、テレビのワイドショーでも取り上げられたんだそうで、けっこう多くの人が合成説を信じてしまったようなのだ。
 遠近法というものを知っていれば、この影がおかしくも何ともないことはすぐに分かるはず。二人の影は実際には平行だけど、画面奥の消失点に向かって伸びているため、画面上では平行になっていないというだけだ。
 と言うか、日常生活でもこんな影、みんなしょっちゅう目にしてるはずなんだけど?

 これは街でたまたま見つけて撮った影。3本の柱(電柱と信号機と街灯)は垂直に立っていて、影も実際には平行なんだけど、画面上では平行になっていない。画面奥の消失点に向かって収束しているように見える。

 首の影も不自然じゃない。湯川さんと後藤さんはまったく同じ方向を向いているではなく、カメラの方を向いている。つまり顔の向きが平行ではなく、平行よりわずかに内側を向いている。そのことに気づけば、これが自然な影だと分かるはずだ。

「影の向きが左右逆になる事がどうして有り得るのか」と、「影の向きが合っているのだとしたらなぜ合成っぽく見えるのか」
http://togetter.com/li/772457

 リンク先にもあるけど、この影の向きの話は、アポロ疑惑の時にも言われていた。 月面の宇宙飛行士の影が平行でないのは、光源が複数あるからだというのだ。
 僕にとっては逆に不思議なことだが、「画面に映る影はすべて平行であるはず」と思いこんでいる人間が多いのだ。平行ではない影なんて、みんなしょっちゅう見ているはずなのに、認識されていないのである。

http://www.asios.org/apollo.html#q11

 偶然だが、今週(2月14日)のNHK『幻解!超常ファイル』はアポロ疑惑を取り上げる予定だとか。この影の話も出てくるので、ぜひご覧いただきたい。

http://www4.nhk.or.jp/darkside/x/2015-02-14/21/2037/

 ISILの動画については、「風で衣服のなびき方も左右違いますね」と書いてる者もいる。これもおかしい。クロマキー合成のためにスタジオの中でグリーンバックで撮っているなら、そもそも風は吹かないはずである。
 これもやっぱりアポロ疑惑の時に言われた「月面で星条旗がはためいている」「スタジオの中で撮られた証拠だ」という主張と同じ。何でスタジオの中にわざわざ風吹かすんだよ。
「衣服のなびき方も左右違いますね」と言っている者は、やはり日常生活で風の振る舞いをよく見ていないのだろう。二人の女性が風に吹かれたら、スカートがまったく同じようにめくれると思っているのか?

 朝日新聞もこんな誤報を載せた。

背景の砂漠に人物後付けか 人質映像を専門家解析 「イスラム国」事件
http://www.asahi.com/articles/DA3S11564875.html

 上のTogetterにも説明があるけど、これは圧縮率の違いではなく、画像のコントラストの境界を誤認したもののようだ。実際、覆面の男の眼の部分にもはっきりノイズが出ていて、これが合成の証拠だと言うなら眼だけ合成したの? というおかしなことになってしまう。

 そもそも、この合成説が根本的におかしいのは、合成なんかしなくてはならない必然性が何もないということである。
「自分達の居場所がばれないために決まってるだろ」って? だったら屋内で壁をバックに撮影すればいいだけでしょ?
 つーか、背景に何もない砂漠で撮ればいいだけだよね? この映像みたいに。
 このへんは9.11陰謀説と同じ。「ペンタゴンに突入したのは旅客機ではなく巡航ミサイルだ!」と主張する者たちは、陰謀の黒幕がなぜそんな手間のかかることをしなくてはならなかったのかを、まったく説明できていない。

20日の映像「合成の痕跡なし」科警研分析、撮影日は不明
http://www.sankei.com/world/news/150128/wor1501280020-n1.html

 科警研は合成ではないと断言した。まあ、それでも「分析しても分からないような高度な合成だ!」という主張は可能だろうが(その場合、ISILの動画だけではなく、最近、世界で撮影されたすべての動画を疑わなくてはならないことになる)、少なくとも「影の向きが違うから合成」という主張は完全に崩壊した。

 前にも本で書いたが、知り合いの編集者に、「アポロの写真で影の向きが違うのは複数の光源があるからだという話がありますけど」と言われたことがある。僕が上のようなことを説明し、

「だいたい、光源が複数あったら、影も複数できるでしょ?」

 と指摘したら、その編集さん、

「ああ、言われてみればそうですね」

 と、おおげさに感心していた。
 その人も決して無知ではなく、ちゃんとした教育は受けているはずである。にもかかわらず、「光源が複数あったら影も複数できる」という当たり前のことに気がついていなかったのだ。

【今回の教訓】
・学校教育などで得た知識と、その実際問題への応用との間には、大きなギャップがある。
・多くの人は日常生活でよく目にしているものを見落としている。
  
タグ :ISILデマ


Posted by 山本弘 at 14:57Comments(27)事件メディアリテラシー

2015年02月04日

Monty Oum氏、死去

 昨日、流れてきた驚きのニュース。慌ててRooster Teethの公式情報を確認しに行った。

http://roosterteeth.com/members/journal/entry.php

 以前から健康を害していたらしく、治療中にアレルギー反応を起こして急死したらしい。
 享年33歳。
 よく有名人の訃報のたびに「早すぎる死」とか言われるけど、これはあまりにも早すぎる。

 僕が初めてこの人の作品を目にしたのは、2007年10月。ニコ動に転載された「Dead Fantasy Ⅰ」。びっくりして公式に配信された動画に飛んだ。
『ファイナルファンタジー』と『デッド オア アライブ』の女性キャラたちが戦うという3分ちょっとの作品。


 これだけでもすごいのだが、次の「Dead Fantasy Ⅱ」はさらにすごかった。10分以上ある動画のほとんどが戦闘シーン! しかも単純な繰り返しじゃなく、塔の上→塔の側面を落下→マグマの上を流れる岩の上→氷の上、とステージを変えながら、ありとあらゆるアクションを見せてくれる。
 塔の側面を滑り降りながらのバトルなんて、「そんなアホな!」「ありえねー!」と思いつつも、ものすごいスピード感と迫力に見入ってしまう。

 Monty Oumの描くアクションの魅力は、その「流れ」だ。このキャラがこうきて、それに対して相手がこう動いて、それに対してさらに……という一連のアクションの組み立て、日本で言うところの「殺陣(たて)」がものすごく流麗で絶妙なんである。
 もちろん、たくさんのゲームをさんざんやりこんだ成果なんだろうけど、単なるゲーム再現じゃなく、いろんな面白いアイデアが山のように詰めこまれている。
 これは「二次創作」なんて概念を軽く振り切ってる。完全に自分の世界にしてしまっているのだ。
 だいたい、これだけの長さと密度の動画のコンテを切るだけでも、大変な労力のはず。好きじゃなきゃできるわけがない。
「この人は女の子を戦わせるのが好きで好きでたまらないのだなあ」というのが僕の印象だった。

 だからOum氏がオリジナルのシリーズ『RWBY』をはじめた時には狂喜したもんである。しかもキャラクターが見事に日本のアニメ風の美少女で、やっぱりすごいアクションを見せまくる!

 このトレイラーにしても、ルビーの武器クレセントローズの描写がとにかく素晴らしい。変形して射撃用と格闘戦用の両方に使える武器なんて、僕ら日本人はそれこそ日曜朝の番組で見慣れてるんだけど、ここまでかっこよく表現してみせるとは。

 あと、やっぱり、ルビーのかわいさ。いや、もちろんワイスもブレイクもヤンもいいんですけど。
 これまでのアメリカのアニメでも、『ティーンタイタンズ』みたいに、日本のアニメの要素を取り入れようとしていた作品はあった。それはそれで誇るべき傾向だとは思うけど、やっぱり日本人の目から見て、「何か違うなあ」という苛立ちは感じていた。
 だが、『RWBY』にはそれがない。日本の「萌え」文化を完璧に理解して、吸収している。ゲームだけじゃなく、きっと日本のアニメも見まくったはず。
 これは好きじゃないと作れない。
「美少女が戦うアニメを作りたい」という欲求と、類まれな才能が一致して、『RWBY』が生まれた。

『RWBY』は第2シーズンが終わったところ。主要キャラクターが出揃って、おそらく最終的には、敵味方が入り乱れるものすごいクライマックスが構想されていたはず。
 ぜひ続けてほしいと思う反面、あんな超絶的なコンテを切れる人が他にいるのかと、少々不安でもある。

 とにかく早すぎる。
 早すぎるよ、ちくしょー!
 僕はあんたの作ったアニメをもっともっと観たかったんだよ!

 これから世界的に有名になっていくはずだった才能が失われたことが、残念でならない。
  
タグ :RWBYアニメ


Posted by 山本弘 at 19:08Comments(9)アニメ