2014年05月14日

続・鼻血効果

「鼻血効果」についてこのブログで書いたのは、もう3年も前のことである。

http://hirorin.otaden.jp/e197219.html

 この時は、「こんなデマが広まったらまずいな」という危機感があったのだが、まさか3年経ってこんな大騒ぎに発展するとは夢にも思わなかった。
『美味しんぼ』の鼻血問題については、すでにメディアでも詳しく報じられているし、ネットでもさんざん取り上げられている。簡単にまとめると、

1.そもそも福島で鼻血を出す人が増えているという統計的証拠がない。
2.低線量被曝で鼻血が出るという科学的根拠がない。

 という2点に集約されるだろう。
「いや、げんに原発事故の後で鼻血を出している人は大勢いるのだ!」と主張しても無意味である。1954年のシアトルでも「核実験の後でフロントガラスに傷がつく車が増えた」と言われていたのだから。
「増えている」というのなら、他県に比べてどれぐらい多いのかを、きちんと調査してから言うべきである。
 鼻血が出るメカニズムについて、今週号の『美味しんぼ』で、岐阜環境医学研究所所長の松井英介という人が、水の分子が放射線で切断されて、水酸基と水素ラジカルに分離して……という説明をし、山岡が「そうか、それで鼻の粘膜が破れて鼻血が出るんだ」と納得するという展開になっている。
 いやいや、ちょっと待て。、定量的な問題、つまりどれぐらいの量の放射線を浴びせれば血管が壊れて血が出るのかという点を、まったく無視してるぞ。
 低線量被曝で鼻血が出るのなら、放射線医療を受けている人にも鼻血が多発しているはずで、放射線の専門家が何十年も前に気がついているはずなのだが。

 ちなみに「岐阜環境医学研究所」という名称から、何やら科学機関のような印象を受けるが、実はこんなところ。

http://21.town-web.net/~zazendoh/index.html

 専門は「呼吸器疾患」「止煙相談」「漢方相談」だそうである。

 もうひとつ、今週号には許しがたいデマも書かれていた。同じく松井英介氏の発言。

「大阪で、受け入れたガレキを処理する焼却場の近くに住む住民1000人ほどを対象に、お母さんたちが調査したところ、放射線だけの影響と断定はできませんが、眼や呼吸器系の症状が出ています」
「鼻血、眼、のどや皮膚などに、不快な症状を訴える人が約800人もあったのです」


 はい、大阪に住んでいる人なら、即座に疑問を抱きますよね。「ガレキを処理する焼却場の近く」ってどこよ? と
 そもそも舞洲のゴミ処理工場ってこういうところである。

http://www.asahi.com/kansai/travel/kansaiisan/OSK201109290029.html
http://www.asahi-net.or.jp/~up5t-iisk/19osaka/02.html

 外観があまりにも奇妙なもので、テレビで何度も紹介されている。おそらく大阪に住む人の多くが、舞洲ゴミ処理工場が住宅地から離れた人工島の上にあることは知っていると思う。
 さらに、そこで燃やされたのは、福島ではなく岩手県のがれき

http://www.pref.osaka.lg.jp/shigenjunkan/haikibutukouikishori/index.html

 その燃やした後の灰の放射線量は、「不検出から21ベクレル/kg」。
 これがどれぐらいの量かというと、たとえば、うなぎの蒲焼に含まれる天然のカリウム40は90ベクレル/kg、まぐろの赤身は126ベクレル/kg。

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010404/01.gif
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010404/02.gif

 セシウム137の実効線量係数がカリウム40の約2倍であることを考慮に入れても、21ベクレル/kgの灰を口に入れた場合の被曝量は、天然のうなぎの蒲焼やまぐろの赤身を食べた場合より少ない。もちろん、仮に処理工場から灰が飛散したとしても、何キロも離れた住宅地にいる人が吸いこむ量など、ものすごく少ない。
 これで健康被害が起きるわけない! 実際、大阪市も否定している。

http://www.pref.osaka.lg.jp/shigenjunkan/haikibutukouikishori/comic.html

 じゃあ、「お母さんたちが調査したところ」「不快な症状を訴える人が約800人」という話がどこから来たかというと、どうやらここらしい。

大阪おかんの会のブログ
http://ameblo.jp/osakaokan2012/entry-11498469658.html

 これのどこが「焼却場の近くに住む住民1000人ほどを対象に」だ!?
 大阪市内どころか、関西全域で806名じゃん! 兵庫とか京都とか滋賀や奈良の人、どう考えたって無関係だろ。
 その中で大阪市内からの報告は219件。大阪市の現在の人口は268万人だから、1000人中800人が不快な症状を訴えたのではなく、268万人中219人が不快な症状を訴えたということである。
 そりゃあ、人間なら1年に1回くらい、体調を崩したり不快な症状が出たりすることがあるよ。確率的に見れば、268万人いたら、毎日、その中の数千人は「不快な症状」を体験しているはずだ。
「大阪おかんの会」のブログの内容を改変したのが、松井英介氏なのか、原作者の雁屋哲氏なのかは分からない。何にしても、『スピリッツ』編集部はまったく裏を取らないまま掲載してしまったということである。
 どこまでずさんなんだ。

 もう一人、『美味しんぼ』に登場する前双葉町町長の井戸川克隆氏について。どんな人なのかと検索してみたら、こんなことを言ってるのを見つけた。 2013年7月16日の街頭演説だそうだ。(3分45秒あたりから)

https://www.youtube.com/watch?v=kNGH17igez8

>あのー、今日はもうひとつ、とんでもないことを喋らせていただきます。2011年津波のあった年の3月3日、3月3日に、地震津波のあることを日本政府は知ってました。知ってたんですよ。8日前に、地震津波の8日前に知ってました。しかし、それを止めたのは、政府と東京電力と東北電力と日本原電が発表を止めてしまったんです。こんなことって許されますか、みなさん。

 何と、政府は3月11日に地震が来ることを知っていたというのだ!
 はて、その話のソースはどこだ……と思って検索してみたら、こんなのが見つかった。2012年2月25日の記事である。

電力会社求め巨大津波警戒を修正 地震調査報告書で文科省
http://www.47news.jp/CN/201202/CN2012022501001655.html

> 東日本大震災の8日前、宮城―福島沖での巨大津波の危険を指摘する報告書を作成中だった政府の地震調査委員会事務局(文部科学省)が、東京電力など原発を持つ3社と非公式会合を開催、電力会社が巨大津波や地震への警戒を促す表現を変えるよう求め、事務局が「工夫する」と修正を受け入れていたことが、25日までの情報公開請求などで分かった。
> 報告書の修正案は昨年3月11日の震災の影響で公表されていない。調査委の委員を務める研究者らも知らされておらず「信じられない」などの声が出ている。電力会社との「擦り合わせ」とも取られかねず、文科省の姿勢が問われそうだ。

 どう見ても、政府が3月11日に地震が来ることを知っていたという内容ではない。いつ来るか分からない地震による津波の危険を指摘する報告書を作成中、電力会社から表現を変えるよう求められたために、修正したうえで発表しようとしていたら、震災が起きたもので発表できなくなった……ということだ。
 これが井戸川氏の頭の中では、「地震津波のあることを日本政府は知ってました」「政府と東京電力と東北電力と日本原電が発表を止めてしまった」ということになるらしい。

 僕はほんの数分、検索しただけで、こういうことが分かったというに、なぜ『スピリッツ』編集部は気づかなかったのだろうか? 不思議だ。
  
タグ :放射能デマ


Posted by 山本弘 at 17:40Comments(38)メディアリテラシー