2013年11月09日

「インディアナポリス」は差別語か?

 先日発売された創土社の『超時間の闇』だが、その中に収録された僕の原稿について、ちょっとしたトラブルがあったことを報告しておきたい。
 
 ゲラチェックも完了して編集部に返送した後、10月17日になって、編集者から電話がかかってきた。「一箇所直してほしい」というのである。
 オクラホマの田舎の農家の主人が、近くに住んでいる学者について語っている箇所だ。時代設定は1940年である。

>「いや、大学で数学を教えてたとか聞いたな。今はこのあたりで、インディアンの塚を調べてる」

 この「インディアン」が差別語だから「先住民」に変えてくれというのだ。
 いや、1940年のアメリカ人、しかも田舎の農夫が 「先住民」なんて言ったらおかしいじゃん。「インディアン」と言うのは普通でしょ?
 ちなみに、僕も地の文では「先住民」という言葉を使ってる。ここは台詞だから「インディアン」でないといけないと思ってこうしたのである。
 でも編集者は、「“インディアン”という言葉を使ったら100%抗議が来る」と主張する。いや100%は来ないでしょ。

「1人でも不快に思う人がいるなら、その言葉を使うのを控えるべきだと思うんです」

 いやいやいや、それ危険思想だから! 出版業界の人間が自分の首を絞める行為だから。
 だって、どんなことを書こうが、不快に思う人間は絶対いるんだから。世の中には『ガールズ&パンツァー』や『艦隊これくしょん』を不快に思う人間だっているんだから(バカバカしい話だけど事実)。「1人でも不快に思う人がいるなら」書いちゃいけないってことになったら、文章なんて何も書けないよ。
 まして創土社はホラーを出しているのだ。特にラヴクラフト作品は人種偏見の要素が強い。たとえば差別的表現を使わずに「レッドフック街怪事件」をどう紹介するっていうの? 

 抗議が来ることを恐れてるらしいけど、日本在住で日本語が読めるアメリカ先住民の方が『超時間の闇』を読んで、一箇所だけある(しかも差別的なニュアンスを含まない)「インディアン」という単語に抗議してくるってことなのか? もちろんそんな可能性はゼロではないけど、そういう人はまず、アメリカ国内にある膨大な西部劇の中の「インディアン」という言葉に抗議するんじゃないだろうか。

「そう言えば今、西部劇はどうなってるんですか? 『ローン・レンジャー』とかは?」
「あれも吹き替えで“インディアン”という言葉は“先住民”に変えてるそうです」
「吹き替えでは……ってことは、原語では“インディアン”って言ってるんですよね?」
「はい」
「じゃあ、“インディアン”を“先住民”に言い換えてるのは日本だけ?」
「いえ、日本だけではないと思いますが……」

 意味がない。
 そもそも「Indian」という言葉を「Native American」と言い換えることについては、当のインディアンの人たちからも反対の声があるという。なぜなら「Native American」と言ってしまうと、アラスカのイヌイット(この言葉についても議論はあるんだけど)やハワイの先住民なども含むことになり、いわゆる「American Indian」という集団を指す言葉がなくなってしまうのだ。
 逆に「Native American」を「American Indian」の同義語とすると、それ以外のアメリカ先住民の存在が無視されることになり、それはそれで問題である。

http://en.wikipedia.org/wiki/Native_American_name_controversy

 僕は前に小説で「インディアン」という言葉を使ったけど、何の問題もなかったことを編集者に説明した。『シュレディンガーのチョコパフェ』に収録した「闇からの衝動」だ。時代設定は1936年、場所はインディアナ州のインディアナポリスである。

>「インディアンの遺跡じゃないでしょうか」彼は意見を述べた。「このあたりはインディアナポリスというぐらいだから、昔はインディアンが大勢住んでたんでしょう?」

 これ、最初に『LOGOUT』に発表した時も、早川の短編集に収録した時も、何も言われなかった。もちろん抗議なんかなかった。

「“インディアン”という言葉を使っちゃいけないってことは、“インディアナポリス”という言葉もダメなんですか? 実在の人物が住んでた実在の場所なんですけど」
「“インディアナポリス”は……難しい問題ですね」

 そりゃ難しい問題だわ(笑)。
 それでも編集者は折れない。僕一人の問題だったらもう少しねばったんだけど、今回の本は共著である。僕が意地を張ったせいで出版が遅れたら、他の著者に迷惑がかかる。かと言って、素直に改変に応じた場合、事情を知らない読者に、「山本は1940年の話なのに“先住民”なんて言葉使ってやがる!」と嘲笑されるのもしゃくだし……といったことを考え、僕はこう言った。

「だったら“先住民”に変えてください。その代わり、ブログでこの経緯を説明させていただきます」

 編集者がほっとした様子で「それでいいです」と言ったので、ここでこうして経緯を紹介するしだいである。 僕は“先住民”という言葉を使いたくなかったけど、編集者に不本意な改変を強いられたということを。
 もうほんとに、こういう問題は面倒だ。

 マスコミのみなさん! 「インディアナポリス」も差別語ですか? 使っちゃいけないんですか? 外国作品に「Indianapolis」という単語が出てきたら、「センジュウミナポリス」とか言い換えなきゃいけないんですか?
「Indiana Jones」は「センジュウミナ・ジョーンズ」ですか? 『センジュ・ジョーンズ/最後の聖戦』?
 星座の「インディアン座」も「先住民座」に変えるんですか? 
 あと、「テン・リトル・インディアンズ」が使えなくなったら、クリスティの『そして誰もいなくなった』はどうなっちゃうんですか?

 僕も差別には断固反対な立場だけど、歴史的に正しい用法で、しかも差別的意図を含まない表現まで規制しないでほしい。何も考えずに、機械的な言葉の言い替えだけで済ますのは、単に厄介な問題から目をそむけているだけ。それこそ差別だから。
  


Posted by 山本弘 at 17:51Comments(38)メディアリテラシー

2013年11月09日

「あなたの知らないマイナー特撮の世界#6」

Live Wire 13.11.29(金) なんば紅鶴|山本弘のSF&トンデモNIGHT#28

あなたの知らないマイナー特撮の世界#6

『ウルトラマン』や『仮面ライダー』や『ゴジラ』ばかりが「特撮」じゃない!
 一世紀以上に及ぶ特撮の歴史の中には、一般にほとんど存在を知られていない作品、よほどの特撮マニアでさえ言及することの少ない作品が山ほどあるのです。
 歴史の闇に埋もれたそうした作品の再評価や、作品の生まれた時代背景、特撮シーンの見どころなどを紹介しつつ、愛にあふれるツッコミを入れまくろうというのがこの企画。
 前回紹介したのは1973年までの作品でしたが、今回も第二次怪獣ブームの70年代黄金期のマイナー番組について、特撮をこよなく愛する小説家でゲームデザイナーの友野詳さんと、特撮マニアでB級アイテム・コレクターの鋼鉄サンボさんからなる、「ナニワの特撮三兄弟」が熱く語ります!

[出演] 山本弘(SF作家/と学会会長)、友野詳(小説家、ゲームデザイナー)、鋼鉄サンボ

[日時] 2013年11月29日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] なんば紅鶴(大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F / Tel. 06-6643-5159)(地図)
     南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)

 前売り券はこちらから。

http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=65370969

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 すっかり恒例になったこの企画。いったいいつになったら70年代が終わるのかと(笑)。話すことが多すぎるんですよね。
「70年代後半からは作品数が激減するんでさくさく進むんじゃないか」とは言ってるんですけどね。
 今回も『日本沈没(TV版)』とか『マッハバロン』とか『ノストラダムスの大予言』とか『エスパイ』とか、話すこと多そうだなあ……。
  
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Posted by 山本弘 at 16:10Comments(3)PR

2013年11月09日

『謎解き 超科学』

 すみません。先月出た本なんですが、うっかりPRするの忘れてました。

ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)
『謎解き 超科学』
彩図社 1470円+税

 執筆陣はいつものメンバーに加え、菊池聡さん(信州大学人文学部准教授)、黒川ゆきさん(ホメオパシー・ウォッチャー)、小波秀雄さん(京都女子大学部教授)、道良寧子さん(管理栄養士)にお願いしました。

―目次―

はじめに――かつての自分に贈りたい本(本城達也)

【第1章】日常に潜む超科学の真相

電磁波は健康被害を引き起こす!?
【浴び続けるとガンになる恐怖の波長】(蒲田典弘)

サブリミナル効果は存在するか?
【潜在意識に訴え、相手を意のままに操る】(皆神龍太郎)

牛乳を飲むと不健康になる?
【ベストセラー本に書かれた衝撃の事実】(道良寧子)

「磁気がコリをほぐす」は本当か?
【磁気治療器は効果があるのか?】(蒲田典弘)

ゲルマニウムで治癒力が上がる?
【身につけるだけで効果が期待できる?】(本城達也)

デトックスで毒素を排出できる?
【フットバスや足裏樹液シートで体内洗浄】(蒲田典弘)

「水からの伝言」の不思議
【ありがとうの言葉が水の結晶を美しくする】(蒲田典弘)

「マイナスイオン」とはなにか?
【浴びるだけで効果がある大気イオン】(小波秀雄)


【第2章】自然界に潜む超科学の真相

万能細菌「EM菌」とは?
【あらゆる分野に効果がある奇跡の細菌】(蒲田典弘)

ポールシフトは起きるか?
【かつて地球を襲った大異変ふたたび?】(山本弘)

フリーエネルギーは実現するか?
【エネルギー問題はこれで解決?】(山本弘)

隕石落下はどれぐらい危険か?
【ロシアを襲った脅威はまたくる?】(山本弘)

百匹目の猿現象は本当か?
【ある群れの行動が他の群れへと伝播する?】(本城達也)

動物の地震予知はあてになるか?
【動物の行動から地震が予測できる?】(横山雅司)

キルリアン写真はオーラを写す?
【生命のオーラをとらえた奇跡の写真】(本城達也)

相対性理論は間違っている?
【物理学界を揺るがす大スクープ】(山本弘)

「ID論」とはなにか?
【アメリカの科学者たちが提唱する新しい科学】(ナカイサヤカ)


【第3章】人体にまつわる超科学の真相

血液型性格判断は信用できるか?
【人間の性格は血液型で決まる?】(菊池聡)

『ゲーム脳の恐怖』の真実
【ゲームをやりすぎるとゲーム脳になる?】(山本弘)

逆行催眠でよみがえる記憶
【潜在意識から記憶を取り出すテクニック】(菊池聡)

母乳神話の真相
【乳幼児の食事で母乳にまさるものはない】(道良寧子)

千島学説は信用できるか?
【ガン細胞は汚れた血液から生まれる?】(ナカイサヤカ)

死者の網膜写真
【網膜に残された死者の記憶】(本城達也)

人間は真空中で破裂する?
【世間にまかり通る科学の俗説?】(横山雅司)


【第4章】美容と健康にまつわる超科学の真相

サプリメントの効能と効果の錯覚
【効果の裏側には大きな錯覚が存在した】(石川幹人)

健康食品の広告トリック
【広告に張り巡らされた巧妙な罠】(石川幹人)

ホメオパシーで病気は治るか?
【日本でも静かに広がる“代替療法”】(黒川ゆき)

マクロビオティックの真実
【現代病を退ける奇跡の食事療法】(道良寧子)

酵素栄養学の誤解
【酵素が健康で病気知らずの体を作る】(道良寧子)

「オーリングテスト」とはなにか?
【筋肉の反応でなんでもわかる診断法】(ナカイサヤカ)

手かざし療法の危険性
【手をかざすだけで病気が消失する】(原田実)


あとがき――「科学的に考える」ということ(蒲田典弘)
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 マイナスイオンやゲーム脳については、かなり真相が知れ渡ってきましたけど、磁気治療器、ゲルマニウム、血液型性格判断、デトックスなど、すっかり日本に定着してしまって、「あれはウソだよ」と教えてあげても信じてくれないものが多いですね。ホメオパシーとかマクロビとかEM菌なんかも信者多いですし。
 最近では「酵素ジュース」なんてものが流行ってるそうです。これも科学的にはまったく根拠がないものなんですが。

「酵素ジュースできれいになれる」は本当か?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38051

 単に効果がないだけならいいんですが、細菌とかカビとかが繁殖してヤバいんじゃないの? という実験結果があります。少なくとも僕はおすすめしませんね。

スズメ8さんが酵素ジュースで実験してみた
http://togetter.com/li/571728
  


Posted by 山本弘 at 15:42Comments(5)PR