2012年11月06日

「地震雲」について考える(前)

 先月の話になるが、『週刊現代』(2012年11月3日号)にこんな記事が載った。

>本誌は警告する 不気味な地震雲も出始めた
>そろそろやってくるM7クラスの首都直下型地震
http://www.bitway.ne.jp/kodansha/wgendai/sannet/article/121022/top_04_01.html

 ……あのー、『週刊現代』さん?
 貴誌は2005年にも、地震雲などを根拠に、「関東にもうすぐ大地震が起こる!」とさんざん騒いだんですが、もうお忘れですか?


・2005年4月7日号
 福岡沖地震が警告!!「東京&名古屋」
 次にくる巨大地震

・2005年4月30日号
 南関東大地震「GWが危ない!」

・2005年6月18日号
 5・25に“予兆雲”が発生
 地震雲を追い続けてきた本誌だから書ける
 関東・東海大地震「6・18までが危険日」

・2005年7月9日号
 迫り来る東京大地震!「7月の危険日」

・2005年8月13日号
 首都“縦断ベルト地帯”が最も危険
 この夏「巨大地震」が東京を襲う!
 恐怖!「平成の関東大震災」へのカウントダウン

・2005年9月3日号
 9・11衆院選を目前に無気味な前兆現象を確認
「巨大地震が“選挙”に起こる!」

・2005年9月17日号
 雲から動植物の変化、ラジオのノイズまで前兆現象を網羅
 巨大地震「9月のXデー」

・2005年11月5日号
 東海大地震か超台風の襲来か!?
 10・30 火星大接近で「地球大異変!」

・2005年12月3日号
 南海トラフが誘発する「恐怖のM8」のシステム
「12月大地震」に備えよ

・2006年2月18日号
 豪雪が「2月大地震」を呼ぶ! 東京・仙台

 ほとんど毎月、「地震雲が出た」とか「もうじき大地震が来る」って言ってましたよねえ?
 大はずれに終わったこれらの記事は、無かったことにしてるんですか?

 今回の記事の中では、大気イオン地震予測研究所(e-PISCO)の矢田直之氏が、10月9日に中央自動車道の土岐(岐阜県)あたりで撮影されたという「地震雲」の写真について、こんなことを述べている。

>(前略)確実なことは言えませんが、私の経験に照らすと、岐阜、愛知付近でM(マグニチュード)7クラスの直下型地震が発生する危険があります。
>震源が深ければ震度5ですみますが、万が一浅ければ、M7でも震度6強の地震が愛知・岐阜エリアを襲う可能性があるのです。

> 通常、地震雲が観測されてから数週間以内に地震が発生する可能性が高い。実際、10月16日にも岐阜では珍しい地震が起きた。M2.9の小さな地震でしたが。愛知・岐阜エリアでは10月いっぱい、十分な注意が必要です」


 岐阜では地震は珍しいのだろうか? 調べてみたら、今年の8月、愛知や岐阜を震源とする有感地震(M1.9~3.4)が11回も観測されているのだが。

http://www.jma-net.go.jp/gifu/gaikyo/632_08.html

 だいたい、矢田氏は岐阜の地震を警戒しているのに、記事のタイトルが「そろそろやってくるM7クラスの首都直下型地震」というのも変な話である。

 矢田氏が10月9日に岐阜で撮影された雲が「地震雲」だと信じた理由は、阪神淡路大震災の8日前に神戸で撮影されたという「地震雲」に似ていたからである。


>「言うまでもありませんが、この地震雲が観測された8日後、阪神淡路大震災が発生しました。あの時は野島断層が動いたと言われていますが、雲の位置は震源地の真上に相当する。まさに震源地からまっすぐ立ち昇るように伸びている。

 矢田氏をはじめ、「地震雲」の存在を信じる人々はみな、この雲が「震源地からまっすぐ立ち昇るように伸びている」と言う。
 しかし、ちょっと待っていただきたい。この雲は本当に垂直なのか? 撮影者の頭上から地平線方向へと水平に伸びている飛行機雲ではないのか?
 こんな指摘をしている人もいる。


http://sky.geocities.jp/takotako_m8/tarumi.htm
>どちらの写真が先に撮られたのかは、別として・・・そう、明らかに雲は移動しているのである!これは何を意味しているのか!!??
>そう、少なくとも地下の断層・1点から、噴出しているのではない。1点から噴出しているのだから、垂直に立ち上るのであって、であれば、強風によって上端は移動するにしても、下端は同じ場所に固定されるはずである。 噴出口が移動しているとしたら、もっと幅広い扇状に広がるはずである。どうみても、地震雲と考えると不自然だ。

http://mmasamurai.blog100.fc2.com/blog-entry-793.html
>写真を見れば分かる通り,この時刻は完全に日没後であり,明石海峡大橋も淡路島も黒くシルエットになっている.しかし,くだんの雲は下端とされる部分まで陽が当たっており,美しく輝いている.このため,雲が垂直になっているのではなく,奥に向かって水平にたなびいていると考えた方が無理がない.

 まことにもっともである。
 もしこの雲が本当に明石海峡大橋の上に出ているのなら、雲の下端は橋の高さ(298.3m)よりほんの少し高いだけ、ということになる。それなら橋と同様、真っ暗に写っていなくてはならない。
 この写真は神戸の垂水港から明石海峡大橋の方向を撮影したものだという。明石海峡大橋は垂水港から見て南西にある。
 すると、雲は明石海峡の西側にあることになる。しかし、阪神淡路大震災の震源地は明石海峡の東である。つまり、どう考えても、この雲は「震源地の真上」にはないのだ。
 地上は真っ暗なのに雲にはまだ陽が当たっているということは、この雲はかなりの高空、おそらく高度10km以上にあると推測される。とすると、手前に写っている明石海峡大橋との位置関係から見て、この雲は明石海峡大橋より何十kmも向こうにないとおかしい。
 ということは、雲の西の端(画面では下端)が存在するのは四国の香川県の沖合の上空である。

(写真をクリックすると拡大します)

 この雲が飛行機雲だと考え、グーグルマップ上で垂水港から明石海峡大橋へ線を引き、それをさらに延長してみると、東の端が大阪国際空港(伊丹空港)の位置に到達することが分かる。西側に延長すると、四国の松山空港、九州の長崎空港・熊本空港・大分空港などが位置している。
 当時の時刻表は分からないが、現在でも午後5時台に何本もの旅客機がこの航路を飛んでおり、1995年当時もそのはずである。

伊丹空港フライト情報
http://osaka-airport.co.jp/timetable/

 実は我が家も伊丹空港の近くにあり、何日かに一度は、きれいな飛行機雲が見られる。
 明石海峡の上を毎日5時台に旅客機が飛んでいるのだから、垂水港から見て明石海峡大橋の上に、何日かに一度、西南西へと伸びる飛行機雲が必ず出ているはずだ。つまり阪神淡路大震災の8日前に飛行機雲が撮影されていても、何の不思議もないことになる。

 矢田氏は言う。

> 飛行機雲だと反論する人もいますが、絶対に違う。飛行機雲が高度1万mくらいのはるか上空でつくられるのに対し、地震雲は5000mくらいの高度から伸びていくのです。

 この説明は三重におかしい。
 第一に、飛行機雲は高度5000mぐらいからできるとされている。
 第二に、1枚の写真から、雲の高度が5000mだなんて、どうやって分かるのだろうか? まず神戸で撮影された写真の「地震雲」が、高度5000mであることを証明してもらわねば困る。
 第三に、この雲の高度が5000mだとすると、明石海峡大橋より何十キロも向こうの香川県沖にあることになり、逆に地震雲ではないことになってしまうのだ。

 もちろん岐阜で10月中に大きな地震は起こらず、矢田氏の予言ははずれた。
 10月9日に撮影されたという「地震雲」は、やはりただの飛行機雲だったのだろう。
  
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Posted by 山本弘 at 14:14Comments(19)サイエンス