2012年10月30日

それってすごく安全なんじゃね?


韓国産即席ラーメンに発がん物質 厚労省が回収指導
http://news.nicovideo.jp/watch/nw412342?marquee

 韓国内の基準値を超える発がん性物質「ベンゾピレン」を含んだかつお節が即席めんや調味料に使われ、韓国内で自主回収されているとして、厚生労働省は26日、これらの食品を輸入した業者に回収を指導するよう自治体に通知した。厚労省は「微量で食べても影響はないレベルだが、韓国の回収を受けて対応することにした」としている。

 回収対象は基準値を超えた製造時期のかつお節が使われた即席めんや調味料で、韓国の大手食品メーカー農心の「ノグリラーメン」などを含む9製品。日本でも人気のある「辛ラーメン」は含まれていない。ベンゾピレンは食べ物の焦げにも含まれ、日本国内では基準値は設けられていない。

 このニュースについたコメントを読むと、

>韓国・中国産の食べ物は信用できない。

>韓国の衛生基準は当てにならんと何回言ったら・・・

>なんで大陸の大雑把な危ないもの食べる気になるのか

>太古から悪い物は大陸から到来する。大陸は人間が多い分、人の価値は低く、限りある資源の価値が高い。

>中韓の食品なんざ絶対食わんわ

>韓国製品がクズなのは世界常識でしょ?、何をいまさら…

>この国に食品衛生は存在しない。

>検疫なしで入ってくるから当然だよね

>家にここのメーカーのやつあったから捨てるか。

>こんなもん食えるはずがないだろ。考えろよ。


 といったコメントがずら~っと並んでるんだけど。

 ……あのさあ。

 君ら、記事ちゃんと最後まで読んだ?

「ベンゾピレンは食べ物の焦げにも含まれ、日本国内では基準値は設けられていない」

 NHKのニュースも見てみよう。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121026/k10013044841000.html
ベンゾピレンは、魚を焼いた際のこげた部分などに含まれる発がん性物質ですが、一度に摂取する量が少ないため、直ちに健康への影響はないとして、日本では規制の対象になっていません。

 そう、日本の食品ではベンゾピレンは野放しなんである。今回も、本当ならベンゾピレンを含んだ食品を日本で回収する必要なんかなかった。日本の基準は破っていない(そもそも基準が存在しない)からだ。もちろん厚労省も「微量で食べても影響はないレベル」と言っている。
 他の物質はともかく、ベンゾピレンに関しては、規制している韓国の食品の方が「安全」ということになりはしないか?
 記事の文章からこの程度のことも読み取れないというのは、日本語が読めないのか、お前ら本当に日本人か、と疑問に思ってしまう。見出しだけしか読んでないんじゃなかろうか。

 誤解を受けないように言っておくが、僕は韓国を擁護する気はない。特に今回、問題になった農心というメーカーは、以前から何度も異物混入事件を起こしているので、その点について非難されて当然だと思う。
 ただ、このベンゾピレン事件に関して、僕が非難したい点はそこではない。

 まず、ベンゾピレンというのはどういう物質かを見てみよう。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%BE%E3%83%94%E3%83%AC%E3%83%B3

> 2001年、アメリカ国立癌研究所は十分に焼いたバーベキュー、特にステーキ、鶏肉の皮、そしてハンバーガー等の食べ物にも一定量のベンゾピレンが含まれているという報告を出した。日本の研究者は、焼いた牛肉に変異原が含まれており、DNAの化学構造を変化させる可能性があるとの報告を出した。

 実はベンゾピレンは、350~400度の高温で炭水化物やタンパク質や脂肪を調理した場合に発生する。珍しい物質ではなく、直火で焼いた肉や魚には必ずベンゾピレンが含まれているのである。
 韓国発のニュースでは、ベンゾピレンのことを「一級発がん物質」だと報じている。いかにも恐ろしそうに見える単語だ。
 ところが、この「一級発がん物質」という言葉、定義を知ろうと検索してみても、なぜか韓国のニュースしかヒットしない。どうやらこれは、国際がん研究機関(IARC)による発がん性リスクの分類、「Group1」の誤訳であるらしい。
 しかし、この分類は毒性の強さによるものではない。Group1は「ヒトに対する発癌性が認められる(Carcinogenic)」、Group2Aは「ヒトに対する発癌性がおそらくある(Probably Carcinogenic)」、Group2Bは「ヒトに対する発癌性が疑われる(Possibly Carcinogenic)」、Group3は「ヒトに対する発癌性が分類できない(Not Classifiable as to its Carcinogenic)」、Group4は「ヒトに対する発癌性がおそらくない(Probably Not Carcinogenic)」という分類だ。

IARC発がん性リスク一覧
http://ja.wikipedia.org/wiki/IARC%E7%99%BA%E3%81%8C%E3%82%93%E6%80%A7%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E4%B8%80%E8%A6%A7

 ちなみにWikipediaのリストでは、ベンゾピレンはGroup2Aになっているが、IARCの2012年のデータによると、Group1に昇格していた。確かに発がん性があることが証明されたらしい。

http://monographs.iarc.fr/ENG/Classification/ClassificationsGroupOrder.pdf

 このGroup1には、危険そうな物質も多い反面、「太陽光曝露」(紫外線に当たりすぎると皮膚がんになるから)「アルコール飲料」「タバコの喫煙」なども含まれる。IARCの基準によれば、太陽光も「一級発がん物質」なのである。
 つまりこれは発がん性があるかどうかの可能性による分類であって、Group1だからといって危険性が高いわけではないのだ。
 ではベンゾピレンの毒性はどれぐらいか。環境省のデータのデータを見てみよう。

http://www.env.go.jp/chemi/report/h18-12/pdf/chpt1/1-2-2-22.pdf

 ベンゾピレンを経口した場合の無毒性量は、0.21 mg/kg/day。このレポートでは、動物実験の結果がそのまま人間にあてはまるかどうか分からないから10で割り、さらに発がん性を考慮して10で割って、0.0021 mg/kg/dayを無有害影響量としている。
 0.0021 mg/kg/dayというのは、体重1kgあたり1日に0.0021mgという意味。つまり体重50kgの人なら、ベンゾピレンを0.11mg以上、毎日継続して(←ここ重要)摂取し続けると、体に何らかの影響が出る可能性があることになる。
 韓国での燻製乾燥魚肉食品のベンゾピレンの基準値は10ppbだという。

http://www.meari.org/2012/10/1.html

 1ppbは10億分の1の濃度だから、その10倍、1億分の1の濃度である。
 今回、韓国で基準値の超過が見つかったかつお節は、10.6~55.6ppbだという。最大の55.6ppbだとすると、体重50kgの人が毎日2kgのかつお節を食べて、ようやく0.11mgに達する。
 食えるか!(笑) 
 しかも、そのかつお節は粉末スープに使われるものだったという。

http://health.chosun.com/site/data/html_dir/2012/10/24/2012102401619.html
(以下、google翻訳)
国会保健福祉委員会、民主統合党イオンジュ議員は23日、食品医薬品安全庁が提出した `スモーク乾燥かまぼこ(かつおぶし)粉末ベンゾピレン試験成績書"を引用して粉末スープで発ガン物質のベンゾピレンが検出されたことを明らかにした。この議員によると、袋製品の "まろやかなたぬき" "辛くてぴりぴりするたぬき"、使い捨て機製品の "いきいきうどん" "セオタン大きなサバルミョン" "たぬき大きなサバルミョン" "たぬきカップ"など農心ラーメン6種のスープで㎏あたり2.0〜 4.7ppbのベンゾピレンを検出した。
しかし、食品医薬品安全庁は、ベンゾピレン量がスモーク乾燥魚肉基準値である㎏あたり10ppbにはるかに及ばない水準に安全だと説明した。市中流通しているラーメンのスープ重量が10g程度であることを照らしてみればならスープを食べた時ベンゾピレンにさらされる量は一日平均0.00005㎍にこれをグラムで比較してみると、100万分の1グラム程度だ。普段三枚肉などの肉を焼いて食べるときに公開されるベンゾピレン量が1日平均0.08㎍であることと比較すると不十分なレベルである。

 つまり基準値の10ppbを超過したのは原料のかつお節粉末であって、それから作られた粉末スープは基準値以下の2.0〜4.7ppbだったのである。スープにはかつお節以外の成分も混ざっているのだから当然だろう。つまり日本だけではなく韓国でも回収する必要はなかったことになる。
 ただ、この記事の計算はおかしい。濃度なのに「㎏あたり」と書いているのも変だが(このへんはgoogleの誤訳かもしれない)、10gの4.7ppbなら0.000047mg、つまり0.047μgのはずである。
 つまりそのラーメンスープを1日に2300杯ぐらい飲んで、ようやく無有害影響量である0.11mgを超えるかどうかといったところ。
 ちなみに、先ほど引用した環境省のレポートでは、日本人が水や食事から摂取するベンゾピレンの平均暴露量を「0.00044μg/kg/day 以上0.0010 μg/kg/day 未満」としている。体重50kgの人間なら、1日0.022~0.05μgである。つまり韓国製のラーメンスープなど飲まなくても、僕らはそれぐらいのベンゾピレンは常に摂取しているのだ。
 ラーメンスープを飲んだ場合に摂取するベンゾピレンの量は、焼き肉を食べた場合より少ないらしい。

 すなわち、今回の事件に関して、韓国を非難すべきなのは、

 ベンゾピレンの基準がきびしすぎる!

 という点なのである。
 何で10ppbなんて基準を使ってるんだろうか。つーか、日本と同様、基準なんかいらないんじゃないか?
 実は加工食品に対するベンゾピレンの基準を設けている国は韓国だけらしい。そりゃそうだ。店で売られている加工食品のベンゾピレンだけ規制したって意味がない。家庭で肉や魚を焼くだけでベンゾピレンは発生するのだから。
 というわけでみなさん、ご家庭で肉や魚を焼く際には、なるべく焦がさないように、焦げた部分は食べないようにしましょう。
  


Posted by 山本弘 at 17:16Comments(35)メディアリテラシー