2012年09月17日

中国問題:井上純一氏の提言

「詩音が来た日」の舞台は2030年の日本の介護老人保健施設。この時代、日本とロシアの関係が悪化しているという設定である。その状勢を見て、アンドロイドの詩音はこう言う。

 詩音はつけっぱなしになっていたテレビを指差した。ニュース番組が今日の事件を報じていた。ロシアとの関係はいよいよ悪化、モスクワでは日本人観光客に対する暴行事件が起こり、それに刺激されて、日本でもロシア料理店の窓ガラスが割られたり、ロシア人の少女が石を投げつけられて重傷を負うという事件も起きていた。
「あの行動は理屈に合いません。自分や仲間を守るために、自分たちに害を成そうとする相手を攻撃するというなら、まだ筋は通ります。しかし、あの料理店のオーナーや女の子は、誰にも何の危害も加えようとはしていなかったのは明白です。なぜ攻撃の対象にされるのですか?」
──「詩音が来た日」(『アイの物語』に収録)

 今まさに、中国ではこうしたことが起きている。日系企業のスーパーや工場が襲撃され、日本車が壊され、日本人がラーメンをかけられたり眼鏡を割られたりといった被害を受けている。
 この事件に関して、ゲームデザイナーで『中国嫁日記』の作者の井上純一さんがこんなことを言っている。

http://togetter.com/li/373047

>「俺も日本にいる中国人に嫌がらせしてやるか!」と考えている愛国者の皆様、それは逆です。ことのほか親切にしてあげましょう。すると中国の愛国者に「日本で嫌がらせあっただろ!」と言われた時「すごい親切にされた。日本人は紳士だ」としか言えないので、結果的に愛国者が「ぐぬぬ」となります。

> もとより「やられたからやりかえす」という行動こそ、向こうの活動家が望んでいることであり 「ほら、日本人はやり返した。俺たちの日本人個人への嫌がらせは正しいのだ!」と暴力が拡大するだけです。国のことは国が対応するべきで、個人の暴力の応酬は事件をよりややこしくするだけです。

 そうだよね! やられたら逆に親切にするってのは、相手にとってものすごくダメージになるんだよ。攻撃すればするほど、自分の方が悪役になっていくんだもの。
 みんな、2年前の「日本鬼子(ひのもとおにこ)」のことを思い出せ!

http://suiseisekisuisui.blog107.fc2.com/blog-entry-1563.html

 僕はこれはすごいと思った。罵倒に対して罵倒の言葉を投げ返すより、はるかにエレガントで効果的ではないか。「日本鬼子」と侮蔑して、こういう反応が返ってきたら、もうその言葉の威力が失われてしまうのである。
 だから僕は今回、「井上メソッド」を支持する。わざわざ街で中国人を探す必要はないけども、もし中国人に出会ったら親切にしてあげよう。それは「やられても耐えろ」「無抵抗を貫け」というのではない。逆だ。効果的に反撃する手段なのだ。

 井上氏が言うように、暴力でやり返すというのは、問題解決につながらないばかりか相手を利するだけの最低の手段だ。仕返しという行為自体にも問題があるが、そもそも、日本にいる中国人をいじめたって、ちっとも「やり返した」ことにはならない。だって、中国で日本人にラーメンを浴びせた中国人と、日本にいる中国人は、同一人物じゃないのだから。
 被害者でもない人間が加害者とは別人に「仕返し」するなんて、まったく無意味だ。アホらしい。そんなのは頭の悪い奴がすることだ。

 以前に『超能力番組を10倍楽しむ本』(楽工社)という本の中で、ドキュメンタリー作家の森達也氏の『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)という本の一節を引用したことがある。


 たぶんほとんどの人が記憶していると思うが、9・11同時多発テロ直後、歓喜するパレスチナの人々の映像が世界中に配信された。ある意味で、その後のアメリカの報復行為もやむなしと世界を納得させた映像だった。(中略)知り合いの民放ニューススタッフが、この映像について調べた経緯を教えてくれた。
「結論としては、9・11直後のパレスチナの映像であることは間違いなかったよ」
「じゃあ彼らは実際に喜んでいたの?」
「そこが微妙なんだ。実はあの映像にはまだ続きがあってさ、キャメラが引いてゆくと、喜ぶ人たちの周りには多くの野次馬たちが集まっていて、不思議そうに撮影風景を眺めているんだよ。おまけに画面の隅にはディレクターらしき姿も映っていた」
――『ドキュメンタリーは嘘をつく』79ページ

 それを受けて、僕は本の中でこう続けた。

パパ「これは決して外国だけの話というわけじゃないよ。日本でだって起こりうることなんだ。たとえば、どこかの国で何度も反日デモが起きて、それが日本のニュースで毎日のように流れたとしよう。それを見た多くの日本人は、『あの国の人はみんな日本人が嫌いなんだ』という印象を抱いてしまうんじゃないか?」
夕帆「本当はデモに参加していない人のほうが多いのにね」

 読売新聞によれば、「中国各地の抗議デモは16日、さらに拡大し、十数人規模まで含めると約100都市で行われた」とのこと。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120916-OYT1T00629.htm

 正確な数は不明なので大雑把に計算してみる。仮に1都市につきデモの人数が平均1000人として、100都市なら約10万人だ。
 中国の現在の人口は13億人だから、全中国人の1万分の1、0.01%である。かなり大目に100万人と見積もっても0.1%だ。暴徒化して破壊や傷害事件を起こすのは、その中のさらに一部だろう。
 こうしたニュースを見る時には、デモや暴動に参加していない、つまり日本人や日本企業に危害を加えていない99.9%以上の中国人の存在も忘れないでほしい。そして今、日本にいる中国人はみんな、こうした暴挙には加わっておらず、何の罪もないのだということも。
 当たり前のことだけど、みんなすぐ忘れちゃうんだよね……。
  


Posted by 山本弘 at 16:56Comments(69)社会問題