2012年07月20日

山本弘のSF&トンデモNight #12

 うっかりしてて、今月のイベントの告知を忘れてました。

山本弘のSF&トンデモNight #12
「デマ・都市伝説との楽しいつき合い方」

【出演】山本弘(SF作家/と学会会長)
【時間】7月29日(金)
     開場19:00〜 開演19:30〜(約二時間)
【場所】トークシアターなんば紅鶴
大阪市中央区千日前2-3-9 『レジャービル味園』2F
南海なんば駅より南海通り東へ180m
【入場料】前売り¥1500- (当日500円up)
 ※飲食代別途

 かつて日本を騒がせた「口裂け女」や「猫バーガー」の流行から30年。口コミでじわじわとうわさが広まっていた昔と比べ、ブログやツイッターが普及した現代社会では、うわさは猛烈なスピードで日本中に拡散します。その多くは何の根拠もないデマで、そのせいで迷惑を蒙る人も大勢います。
 地震デマ、放射能デマ、差別デマ、予言、陰謀論……ネットに氾濫する膨大な誤情報の数々。それらとどう向き合えばいいのでしょうか。
 都市伝説を題材にした『妖魔夜行』シリーズなどでも知られるSF作家・山本弘が、奇想天外なデマ・都市伝説の数々を紹介しつつ、デマに騙されない方法をレクチャーします。

 前売り券などの情報は公式サイトへ
http://go-livewire.com/

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 もう1年もやってるイベントですが、正直、ぜんぜん儲かりません(笑)。小さいお店ですし、お客さん、いつも10人前後ですしね。喋るのが楽しくてやってる部分が多いです。
『妖魔夜行』を書く前から、ジャン・ハロルド・ブルンヴァンの本を読んで都市伝説にハマってました。最近もいろんなデマをウォッチングしてます。
 タイトルを「楽しいつき合い方」にしたのは、デマにせよ都市伝説にせよ、この世から根絶するのは不可能なんで、それに惑わされないように注意しつつ共存する方法を考えよう……という主旨です。
 このブログで取り上げたデマ以外にも、世の中には本当にばかげたデマというのが無数にあるので、それらをまとめて紹介しようと思っております。
  


Posted by 山本弘 at 12:53Comments(21)PR

2012年07月19日

いじめ問題:やっぱりこんな事件が起きていた

 昨日の記事でうっかり書き忘れていたことがあった。
 僕は、たとえいじめ加害者を糾弾する目的であっても、ネットで実名を上げるのは反対である。なぜなら、そうした風潮はスマイリー・キクチ氏のような冤罪事件を生む可能性が高いから……。
 と書こうとしたら、なんと、まさにそういう事件がすでに起きていたことが明らかになった。

いじめた生徒の親族?ネットに偽情報で被害深刻
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120718-OYT1T00756.htm

 大津市で昨年10月、市立中学2年の男子生徒(当時13歳)がいじめを苦に自殺したとされる問題に関連し、インターネットの掲示板で知らぬ間に無関係の人の実名がさらされ、職場に中傷やいたずらの電話がかかるなどの新たな被害者を生んでいる。

 被害届を受けた滋賀県警は名誉毀損容疑で捜査している。

 滋賀県内の男性は今月上旬、ネット掲示板に「男子生徒をいじめたとされる同級生の親族だ」と、事実と異なる書き込みをされた。職場の連絡先も書かれ、嫌がらせの電話が相次いだ。いわれのない内容のメールも次々寄せられる。

 電話は、無言のものを含めると多い日で数百件。今も連日約60件かかるといい、男性を電話口に呼ぶよう求める場合もある。同僚たちが誤解を解くよう応対し、届いたメールには事情を書いて返信しているが、「嫌がらせがやむまで耐えるしかないのか」と困惑する。職場の配慮で電話応対のないデスクワークに配置換えになった男性は7日、草津署に被害を届け出た。

 大津市の女性も今月上旬、ネット掲示板に「加害者とされる同級生の母親」と誤った情報を書き込まれた。所属する民間団体の事務所の連絡先も載せられ、普段、業務連絡のほかはあまり電話が入らない事務所に、毎日50件以上がかかるようになった。呼び出し音で、会議がたびたび中断するため、今は留守番電話に切り替えている。

 掲示板には、女性の顔写真を探すよう求める書き込みもある。「個人情報が流れはしないか」。女性は怖くて夜中に突然目が覚め、そのまま眠れない時もある。「掲示板にうそを書かれ、最近は体調も良くない。いつまで続くのか」。不安な女性は、被害届を出そうと大津署に相談中という。

 ネット掲示板への悪質な書き込みは、名誉毀損や業務妨害にあたる場合がある。特定の人物・団体を中傷する書き込みをした投稿者が名誉毀損罪で有罪判決を受けた例のほか、書き込みで名誉を傷つけられた人が、投稿者についてプロバイダー(接続業者)から氏名の開示を受けて損害賠償請求し、認められたケースもあった。

 日刊スポーツの情報がもう少し詳しい。
http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20120716-984196.html
 この男性も、いじめの加害者とされる少年と同じ名字であることから、親族という臆測が先行。複数のブログなどで「滋賀県警OBで、(滋賀県内の)病院に天下りした」「自殺現場から数十キロ離れているにもかかわらず、自殺生徒がこの病院に搬送され、死因が隠された」などと指摘されていた。警察が捜査に動かないのは、このOBがいるからだとの書き込みもあった。

 この男性は実名のほか、勤務先の病院名までネット上に掲載され、職場に電話が相次いだことから、滋賀県警草津署に被害届を提出。同署が捜査を進めている。男性は自殺現場近くの交番に勤務していたが、いじめた側とされる生徒とは関係がないという。勤務先の病院も9日付で「大津市教育委員会をめぐる報道で誤った情報が流布されておりますが、当院および当院の職員は、一切関係がございません」などとする文書を発表。騒動の余波が広がっている。

 あるタレントもブログで、この男性の本名や勤務先の病院名を掲載。「男性が警察OBの地位を悪用し、病院に被害者を搬送させ、事件後の司法解剖を阻止した」などと、ネット上の未確認情報を記した。その後、この男性が加害者側の少年と無関係と判明したことを受け、関係者に迷惑をかけたことを謝罪。この男性に関するブログ上の記載を削除した。

 このニュースに関するmixi日記を読んで愕然となった。
 全部目を通したわけではないが、けっこう多くの人間が、「警察や学校や大津市やマスコミが加害者の実名を公表してればこんなことは起きなかった」とか「いじめた奴が悪い」とか言って開き直り、この冤罪事件の犯人たちを擁護しているのである。
 おいおいおいおい! それは違うだろ!(怒)
 たとえば、Aという人物が放火をして、その現場で別のBという人物が火事場泥棒を働いたとする。
 その場合、「Aが火をつけなかったら火事場泥棒も起きなかった」と言って、Bのやったことを許すのか?
 違うだろ。Aの罪とBの罪は別々に論じなきゃいけないだろ。放火も悪いけど火事場泥棒も悪いだろ?
 それと同じ。いじめも悪いけど、無関係の人間を傷つけるデマを流すのも悪いことなんだよ。それを自覚しろよ!
 正義感からの行動だったら許されるとでも思ってるのか? スマイリー・キクチ氏の事件から何も学んでいないのか?

 あと、「実名を公表していたらこんなことは起きなかった」という理屈は、明らかに間違いだ。この被害者の男性が疑われた原因のひとつは、加害者の少年と同姓だったからだ。つまり加害者の実名が判明したからこそ冤罪が発生したのだ。
 こうした冤罪事件はこれが初めてではない。昨年、大阪で「指をなめてくれ」と言って女性の口に指を入れるという事件が起きたのだが、逮捕された容疑者と同姓同名だった大学生が、ネット上で犯人扱いされたのである。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110609/crm11060923450029-n2.htm

 2年前には札幌で、強姦致傷事件の容疑者の姓と同じ名前の不動産会社が、容疑者と血縁があるとネットで書きこまれ、電話攻撃を受けた。

http://teisei.info/archives/39

 韓国でも昨年、今回の大津いじめ自殺事件とよく似た事件が起き、やはり冤罪が発生しているという。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%94%B0%E5%A5%B3%E5%AD%90%E9%AB%98%E7%94%9F%E8%87%AA%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6

>加害生徒達は個人を特定できる情報を流出させられたが、そのため実際には無実の1人が被害を受けた。インターネットに流布している生徒の担任教師の写真は同姓同名の他の教師の写真だった。また、事件とは全く関係のない生徒たちまで中傷メールを送られ、ホームページが荒らされたりした。

 大きな事件が起きると、必ず面白がって悪質なデマを流す奴が出てくる。
 小学生10人をはねた京都亀岡の暴走事故では、3人しか逮捕されていない時点で、6人の「犯人」の名前がネットに流れた。(のちに6人が乗っていた時間帯もあったことが判明したが、事故が起きた時に乗っていたのは3人である)

京都亀岡暴走事故で3人の犯人の名前を6人分「暴い」たネットの暴走
http://www.kotono8.com/2012/04/27bousou.html

 つまり、今回の冤罪はたまたま起きたことじゃない。同じようなことはこれまで何度も起きてきたし、これからもおそらくセンセーショナルな事件が起きるたびに何度でも起きるのだ。
 それにしても、日記を書いている連中の文章を読むと、胸糞が悪くなってくる。 たとえばこんなことを書いている奴がいる。

>だが、こんな報道に左右されて手を緩めてはいけません。
>今回ばかりは徹底的に真の悪者を炙り出すのです。

「真の悪者」って誰? ネットでさらされている実名が「真の悪者」の名前だと、あんたにどうやって分かるの?

>「いじめたらいじめていいの?」
>はい。いじめていいとおもいますよ。ましてや命を落とすほど追い詰めてるんだから、それぐらい追い詰めていいとおもいます。

 だから追い詰めてる相手が無関係の人間かもしれないという危険性は頭に浮かばないのか!?

>いいぞ、もっとやれ。
>もっと、被害者を増やせ。
>収集がつかないレベルまで悪化させてしまえ。

>死んだ被害者に比べたらテメーらの苦しみなんかケツ毛以下だっつーの

>許してやれよ。遊びだろ?ネットの与太を鵜呑みにして真面目にやるやつなんていないだろ。
>いじめが遊びて許されるんだから大したことないだろ?こっちは人死んでないしな。

>それぐらい大目にみてやったら?
>庶民には、流通する情報の"検証手段"なんてありませんwww。
>あと、被害者側はもっともっと比較にならないぐらいに屈辱味わってると思います。

 こえーっ!
 なるほど、そうか。こういう連中が無責任にデマを拡散して、被害者を増やすわけだな。
 中には「被害届を出して受理されたなら、自分は無関係!を主張するために、氏名だけでも出したらどうでしょう」と言ってる人もいるんだけど、

>本当に加害者の母親なのにしらばっくれるなwww
>被害者ヅラするな!
>いい気味www

>各々方、誤射もあったかも
>しれませんが、これは明らかに
>敵の攪乱工作!決して
>惑わされぬようご注意を!

>さて、これらの人々は本当にいじめ加害者と無関係なのか。

>本物の加害者親族で『私たちは偽物であり、被害者ヅラ』しているだけなんじゃない?

>関係ないって言ってる人だって責任逃れで言ってる可能性だって十分あるからねぇ。

>もしかしたらこの記事は
>世論の怒りを消すために用意された、フェイクかもしれない。

>火のないところに煙りはたたぬ

> そもそも 加害者が加害者の自覚がないのいで
> 情報があたっていたとしても「当事者でなないので別人です」
> っていいそうだなあw

>どうせほんの少し間違ってるとこを誇張してるんじゃないかな。
>読売新聞は信用できない。

>なに一概に被害者面しとんや
>頑固爺も名誉毀損しとんぢゃ
>ボケ

>本当に偽情報なの?

 などと書いている奴がうじゃうじゃいるのを見ると、実名出すのはかえって火に油を注ぎそうな気がする。スマイリー・キクチ氏だって、実名でデマを否定したのにああなったんだからなあ。
 あと、ほんの2人ほどではあるんだけど、記事を読んで、被害届を出したのが本当に加害者親族だと勘違いしてる奴もいた。どこまでメディア・リテラシー低いんですか。いい歳して日本語がちゃんと読めないって絶望的だよ。

 むしろ僕は、こいつらの言動の根底にこそ、「いじめ」と同種の臭いを感じる。「ほら、あそこに悪者がいるぞ」と、ターゲットを見つけては、寄ってたかって叩いて快感を覚えているだけなのではないのか。
 叩く対象があればいいんであって、それが無実の人間かもしれないなんて可能性は夢にも思わないし、間違っていても「いじめた奴が悪い」とか「実名を公表しないのが悪い」とか言ってけろりとしている。
 本当にいじめを受けた被害者の苦しみを思っているなら、無実の罪で大勢の人間から嫌がらせを受ける者の苦しみだって理解しなくてはいけないはずなのに。
 もちろん悪を糾弾し、正義を貫くのは大切だが、「その結果、無関係の人間に被害が及んでも知らんこっちゃない」という思想を、僕は容認しない。

 そんなもんは断じて正義じゃない。
  
タグ :いじめ


Posted by 山本弘 at 18:39Comments(60)社会問題

2012年07月18日

いじめ問題をめぐって(後)

 その僕の目から見て、この人たちが言っていることは、本当にどれもその通りだと思う。

いじめられている人に見てほしいツイまとめ
http://togetter.com/li/333249

>いじめが本当に深刻なのは、いじめられる側が「いじめられてもしかたない」と自ら思ってしまうことだ。「原因」という含意の大きな言葉がこれを可能にしてしまう。原因はあるかもしれないが、責任はないのだ。原因があるとしても堂々と生きていい。

>何回も言うけど「いじめはいじめる側が100%悪い」からね。なんでいじめられる側にも責任があるみたいなことになってんの。あるわけないだろ。鍵が開いてたら勝手に他人の家に入ってもいいの? 悪い悪くないは防犯とは違う話でしょ。

>「イジメから逃げた」なんて思うな。自分に改善点があるかも……それは勿論そうだ、だけど、それ以前の問題だ。心と体が健全に成長する上で不適切な環境下に自分を置いておく義務はない。人には権利がある、好きなことを好きといって、友達と遊んだり笑ったりイジワルされないのは立派な権利だ。

>実際やるかどうかは置いといて、「あいつら許せねえ復讐してやる」って思うことは罪じゃないよ。復讐なんて考えちゃダメ!><強く生きようよ! なんてのはいじめられてない奴のきれいごと&戯言。恨みにまみれてたっていいじゃないか。

>いじめられてて本気でどうしようも無くなったときは家に引きこもってその中で自分のためになることをしよう。勉強ごとき通信教育でもええねん。大検だってある。あとは好きな事を見つけて一つの分野に”尖った”人間になればワンチャンあるで

 そうだよ、逃げたっていいんだよ。
 ただし、逃げるのは「いじめから」「学校から」だよ。人生から逃げちゃだめ。
 窓から飛び降りなかったら、いつかいいことあるから。僕みたいにかわいい嫁さんもらってかわいい娘が生まれたりするから。
 ひとつだけ、異論を唱えたいのはこういう意見。

>あと、「将来コイツらを見返してやろう」なんて思うな。その気持ちは重荷になる。そんなクソみたいなことされた事実なんて、君を構成するべきモンじゃない。過去は関係ない、好きなように努力して好きなように幸せになればいい。原動力にしようなんて思うな。ただの不運に、意味を見出さなくていい。

 僕は「こいつらを見返してやろう」と思って生きてきた人間なんで、これはちょっと賛成しかねる。確かにそれが「重荷」になる子もいると思う。でも、その執念が生きる原動力になる子もいるはずだ。
 重荷にならないのであれば、生きる力になるのであれば、そういう執念を背負ったっていい。「恨みにまみれてたっていい」んだよ。
 もちろん、物理的に復讐しちゃだめだけどね。誰かを傷つけたら、自分の人生もダメになるから。
「あいつら」はクズだ。クズには刺し違える価値なんかない。
 クズより上を行ってやれ。

 あと、意外と誰も注意してないんだけど、いじめられていても、絶対にやってはいけないことがある。
「あいつら」の側に立つこと。
 いじめから逃れるために、「あいつら」の仲間になって、他の誰かをいじめること。これはもう絶対にやっちゃだめだ。
 実際にネットにいるんだよ、そういう奴。自分がいかにいじめられてきたかを書いてるんだけど、その一方で、ものすごい差別発言を連発する奴。「いい歳こいて漫画やアニメなんか見てる異常者は強制入院してただちに脳の手術をするべき」とか「子供の人権を守るならロリコンを見つけしだい処分しなければならない」とか「体育会系の世界ではホモセクハラが日常茶飯事」とか「聖書とコーラン以外の全ての書物を焼却処分するべき」とか「進化論を信じる邪教徒は問答無用で処刑するべき」とか。
 そのくせ、自分はあくまで被害者だ、かわいそうなんだと主張しているのが気持ち悪い。自分がもう加害者になってるという自覚がないらしい。
 いじめられるのに嫌気がさして、いじめる側に回ったんだろうなあ。そりゃまあ、人を差別するのは、さぞ気持ちがいいだろうさ! でも、やっちゃいけないだろ。自分をクズに貶めてどうする。被害を広げてどうする。
 いじめられていたことは免罪符にはならない。
 いじめられる者の心の痛みを知っているなら、それがどれほど罪深い行為かも知っているはずではないか。
「あいつら」の側になったいじめられっ子を、僕は侮蔑する。

 僕が差別問題に敏感で、作品中で何度も外国人差別を題材にしたり、原発事故をめぐる被災者差別に腹を立てるのも、やっぱり少年時代のいじめ体験に少なからぬ原因があると思う。僕自身は在日でも被差別部落出身でも障害者でもないが、なぜか「差別」を受け続けた。差別する連中が、少しの心の痛みも感じることなく、笑いながら弱者を踏みにじるのを、身をもって体験した。
 だから「あいつら」の側には絶対に立たない。絶対に。

『妖魔夜行 闇への第一歩』も、今まさに亜季と同じようにいじめを受けている誰かへのメッセージとして書いた。亜季は誰にも頼らず、努力によって自分の過去を乗り越え、幸せをつかむ。

 人生で嫌なことはいっぱいあった。自分に生きている価値があるのかと悩んだこともあった。だが、もうそんなことはどうでもいい。自分は一人じゃない。生まれてきて良かったんだ――心の底からそう思える。
  
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Posted by 山本弘 at 18:36Comments(24)社会問題

2012年07月18日

いじめ問題をめぐって(前)

 大津のいじめ自殺問題がらみで、こんなおぞましい発言をしている奴がいるというのを知った。

『オタクは数年後には犯罪者に成り下がるんだから自殺においこんでもいい』という大津いじめ自殺加害者擁護する者達
http://togetter.com/li/336774

 釣りじゃないかという意見もあるけど、たとえ釣りでもこんなことを書いていいわけがない。
「狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。悪人の真似とて人を殺さば、悪人なり」(『徒然草』)
 人間のクズのまねをして不快な差別発言をまき散らす奴は、人間のクズである。

 僕も小中高校といじめの対象で、自分の体験をこれまで何度も小説の中に反映させてきた。『サーラの冒険』のサーラ、『妖魔夜行』の摩耶、『神は沈黙せず』の優歌、「審判の日」の悟、「宇宙をぼくの手の上に」の祐一郎なんかがそうだ。最近では『妖魔夜行 闇への第一歩』で、ヒロインの亜季にこんなことを言わせている。

「何ででしょうね? あたし、いっつもターゲットになっちゃうんですよね……ははは」亜季は今にも泣きそうな声で、空ろに笑っていた。「カッターで脅されたり、おなか蹴られたり……クラスの中でのいじめもよくありましたよ。三階の窓から落とされそうになったことも……『殺される』って思ったこと、何度もありますよ。誰も助けてくれなくて……一時、登校拒否になりかけたりしてね。ははは……」

「ほら、人間の嫌なところ、いっぱい見ちゃってるから。人間やだなー、やめたいなー、ってずっと思ってたの。中学の頃は、よく校舎の三階の窓から下眺めて、ぼんやり考えてたよ。死んだら猫か何かに生まれ変われるかなー、って♪ ははは……」
「お前……それ、重いよ……」
「あと、こんな風にホームに立ってると、電車が近づいてきた時に、つい前に踏み出したくなったり。橋を渡ってる時も、つい手すり乗り越えたくなったりね。ははは……」

「分かりますよ! 分からないとでも思ってるんですか!? あたしもあなたと同じなんですから! 中学の三年間、アニメに出てくるようなかっこいい男の子が空から降ってきて、あたしをみじめな境遇から救ってくれるのを、どれだけ待ったことか! 待って、待って、待って……」
 亜季の言葉が数秒、途切れた。胸をえぐる哀しみに耐えるため、歯を食いしばらなくてはならなかったのだ。
「……ようやく分かったんです。そんなのは嘘だって。現実にはそんなことはないんだって――幸せは空から降ってこない。努力してつかみ取らなくちゃいけないんだって」

 だいたいこのへんの台詞は僕の実体験が元になってる。もちろん小説的に脚色はしているので、事実そのままではないが。
 あるよ、マジで。「殺される」「死ぬ」って思ったこと。
 亜季のように、校舎の三階から下を見下ろして、ここから飛び降りたらどうなるかと真剣に考えたことも、何度もある。

 いちばん恐ろしかったのは(『神は沈黙せず』でもちらっと書いたが)、中学校で階段を降りようとしていたら、後ろから背中を強く突かれたことだ。バランスを崩し、勢いで踊り場まで十数段を一気に駆け下りた。最後の数段はジャンプして着地し、手をついた。運動神経の鈍い僕が途中で転ばなかったのは奇跡と言っていい。転んでいたら大怪我はまぬがれなかっただろう。
 踊り場に手をついたまま、恐怖で震えている僕の横を、数人の同級生が何事もなかったかのように通り過ぎていった。誰が突いたのかは分からない。だが、他の者もその瞬間を目撃していたはずだ。なのに何も言わなかった。
 その時、思った。階段を転びそうになって駆け下りる僕の姿は、あいつらにとってはさぞ滑稽に見えたんだろうな、と。
 やはり『神は沈黙せず』の「廊下ですれ違いざまに蹴りを入れられた」とか、「宇宙をぼくの手の上に」の「上履きに水飴を入れられた」というのも、実際に僕が体験したことだ。
 その日は高校の文化祭で、校内で水飴が売られていた。僕が下履きで校舎の外に出ていたわずかの時間にやられた。仕掛けた側にしてみれば、上履きに水飴を入れるというのは、気の利いたいたずらでしかなかったのだろう。
 上履きの内側にこびりついてなかなか取れない水飴を洗い落とす作業が、どれほどみじめで悔しいか、想像もつかなかったのだろう。

 いじめる側といじめられる側の心理には、決定的な断絶が存在する。
 いじめる側はおそらく、それがたいしたことだとは認識していない。階段で背中を突くのも、上履きに水飴を入れるのも、ちょっとしたいたずらで、たいしたことだとは思っていない。もしかしたら、そんないたずらをやったことなんか、とっくに忘れているかもしれない。
 だから、実際はいじめていたのに、「いじめてなんかいなかった」と認識している奴もいるのだろう。罪を認識していない奴に、罪の意識が生まれるはずもない。
 だが、やられる側にとって、それは死を覚悟しなければならないほど重大なことなのだ。
 だから死ぬまで忘れない。死ぬまで許さない。

「いじめられてるのに、どうして学校や親に訴えないの?」

 いじめられた体験のない人は、そう疑問に思うかもしれない。
 お答えしよう。いじめられっ子は、どこかの時点で絶望してしまうのである。「大人に訴えてもどうにもならない」と。
 中学の時の僕の体験を書こう。
 授業の前の教室で、以前から僕をいじめていた奴が、僕をサンドバッグのように殴っていた。関西弁で言うところの「どつく」というやつで、顔に傷がついたりしない程度の打撃だ。奴にしてみれば本気ではなく、手加減していたのかもしれないが、やられている側はそんなことで感謝するわけがない。
 チャイムが鳴り、そいつは自分の席に戻ろうとした。僕はそいつの腰にしがみついた。そいつは僕を引き離そうと、またさんざんにどつき回した。それでも僕は放さなかった。
 すぐに教師が来る。僕が殴られている現場を目撃する。「何をやってる!?」と問い詰めてくるに違いない。そうなったら、これまでのことを洗いざらい教師にぶちまけよう──そう決心していた。
 僕にとって精いっぱいの勇気だった。
 教師が教室に入ってきた。だが、彼が僕らを見て発した言葉は、僕の予想していたものではなかった。

「いつまでふざけてるんや。さっさと席に着かんか」

 たったそれだけだった。教師はそれ以上、何の追及もせず、ごく普通に授業を開始した。
 僕は拍子抜けした。そして絶望した。
 僕が一方的に殴られている光景は、教師には「ふざけてる」としか見えなかったのだ。

 それ以来、いじめ行為を教師に訴えようとは思わなくなった。きっと他の教師も同じだろうと思ったのだ。目の前で決定的な現場を目撃していながら、それを認識できない人間に、言葉で「いじめられています」と訴えても、聞き入れてくれるはずがない、と。
 上履きに水飴をいれられた時は、さすがに教師にそのことを知らせ、こうした嫌がらせを頻繁に受けていると説明した。上履きという決定的な証拠があるのだから、僕の訴えを聞いてくれるはずと思ったのだ。
 しかし、教師は何ひとつリアクションを起こさなかった。何ひとつ。
 きっと、「ただの害のないいたずらだ」と判断したのだろう。

 だからこうしたいじめ事件の報道で、「なぜ大人に相談しなかった」と被害者を非難する声を聞くたび、被害者の心理になってこう思う。
「相談したって、どうせ聞く耳持たないんでしょ」「真剣に考えてなんかくれないんでしょ」と。
  
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Posted by 山本弘 at 18:20Comments(7)社会問題