2012年07月19日

いじめ問題:やっぱりこんな事件が起きていた

 昨日の記事でうっかり書き忘れていたことがあった。
 僕は、たとえいじめ加害者を糾弾する目的であっても、ネットで実名を上げるのは反対である。なぜなら、そうした風潮はスマイリー・キクチ氏のような冤罪事件を生む可能性が高いから……。
 と書こうとしたら、なんと、まさにそういう事件がすでに起きていたことが明らかになった。

いじめた生徒の親族?ネットに偽情報で被害深刻
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120718-OYT1T00756.htm

 大津市で昨年10月、市立中学2年の男子生徒(当時13歳)がいじめを苦に自殺したとされる問題に関連し、インターネットの掲示板で知らぬ間に無関係の人の実名がさらされ、職場に中傷やいたずらの電話がかかるなどの新たな被害者を生んでいる。

 被害届を受けた滋賀県警は名誉毀損容疑で捜査している。

 滋賀県内の男性は今月上旬、ネット掲示板に「男子生徒をいじめたとされる同級生の親族だ」と、事実と異なる書き込みをされた。職場の連絡先も書かれ、嫌がらせの電話が相次いだ。いわれのない内容のメールも次々寄せられる。

 電話は、無言のものを含めると多い日で数百件。今も連日約60件かかるといい、男性を電話口に呼ぶよう求める場合もある。同僚たちが誤解を解くよう応対し、届いたメールには事情を書いて返信しているが、「嫌がらせがやむまで耐えるしかないのか」と困惑する。職場の配慮で電話応対のないデスクワークに配置換えになった男性は7日、草津署に被害を届け出た。

 大津市の女性も今月上旬、ネット掲示板に「加害者とされる同級生の母親」と誤った情報を書き込まれた。所属する民間団体の事務所の連絡先も載せられ、普段、業務連絡のほかはあまり電話が入らない事務所に、毎日50件以上がかかるようになった。呼び出し音で、会議がたびたび中断するため、今は留守番電話に切り替えている。

 掲示板には、女性の顔写真を探すよう求める書き込みもある。「個人情報が流れはしないか」。女性は怖くて夜中に突然目が覚め、そのまま眠れない時もある。「掲示板にうそを書かれ、最近は体調も良くない。いつまで続くのか」。不安な女性は、被害届を出そうと大津署に相談中という。

 ネット掲示板への悪質な書き込みは、名誉毀損や業務妨害にあたる場合がある。特定の人物・団体を中傷する書き込みをした投稿者が名誉毀損罪で有罪判決を受けた例のほか、書き込みで名誉を傷つけられた人が、投稿者についてプロバイダー(接続業者)から氏名の開示を受けて損害賠償請求し、認められたケースもあった。

 日刊スポーツの情報がもう少し詳しい。
http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20120716-984196.html
 この男性も、いじめの加害者とされる少年と同じ名字であることから、親族という臆測が先行。複数のブログなどで「滋賀県警OBで、(滋賀県内の)病院に天下りした」「自殺現場から数十キロ離れているにもかかわらず、自殺生徒がこの病院に搬送され、死因が隠された」などと指摘されていた。警察が捜査に動かないのは、このOBがいるからだとの書き込みもあった。

 この男性は実名のほか、勤務先の病院名までネット上に掲載され、職場に電話が相次いだことから、滋賀県警草津署に被害届を提出。同署が捜査を進めている。男性は自殺現場近くの交番に勤務していたが、いじめた側とされる生徒とは関係がないという。勤務先の病院も9日付で「大津市教育委員会をめぐる報道で誤った情報が流布されておりますが、当院および当院の職員は、一切関係がございません」などとする文書を発表。騒動の余波が広がっている。

 あるタレントもブログで、この男性の本名や勤務先の病院名を掲載。「男性が警察OBの地位を悪用し、病院に被害者を搬送させ、事件後の司法解剖を阻止した」などと、ネット上の未確認情報を記した。その後、この男性が加害者側の少年と無関係と判明したことを受け、関係者に迷惑をかけたことを謝罪。この男性に関するブログ上の記載を削除した。

 このニュースに関するmixi日記を読んで愕然となった。
 全部目を通したわけではないが、けっこう多くの人間が、「警察や学校や大津市やマスコミが加害者の実名を公表してればこんなことは起きなかった」とか「いじめた奴が悪い」とか言って開き直り、この冤罪事件の犯人たちを擁護しているのである。
 おいおいおいおい! それは違うだろ!(怒)
 たとえば、Aという人物が放火をして、その現場で別のBという人物が火事場泥棒を働いたとする。
 その場合、「Aが火をつけなかったら火事場泥棒も起きなかった」と言って、Bのやったことを許すのか?
 違うだろ。Aの罪とBの罪は別々に論じなきゃいけないだろ。放火も悪いけど火事場泥棒も悪いだろ?
 それと同じ。いじめも悪いけど、無関係の人間を傷つけるデマを流すのも悪いことなんだよ。それを自覚しろよ!
 正義感からの行動だったら許されるとでも思ってるのか? スマイリー・キクチ氏の事件から何も学んでいないのか?

 あと、「実名を公表していたらこんなことは起きなかった」という理屈は、明らかに間違いだ。この被害者の男性が疑われた原因のひとつは、加害者の少年と同姓だったからだ。つまり加害者の実名が判明したからこそ冤罪が発生したのだ。
 こうした冤罪事件はこれが初めてではない。昨年、大阪で「指をなめてくれ」と言って女性の口に指を入れるという事件が起きたのだが、逮捕された容疑者と同姓同名だった大学生が、ネット上で犯人扱いされたのである。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110609/crm11060923450029-n2.htm

 2年前には札幌で、強姦致傷事件の容疑者の姓と同じ名前の不動産会社が、容疑者と血縁があるとネットで書きこまれ、電話攻撃を受けた。

http://teisei.info/archives/39

 韓国でも昨年、今回の大津いじめ自殺事件とよく似た事件が起き、やはり冤罪が発生しているという。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%94%B0%E5%A5%B3%E5%AD%90%E9%AB%98%E7%94%9F%E8%87%AA%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6

>加害生徒達は個人を特定できる情報を流出させられたが、そのため実際には無実の1人が被害を受けた。インターネットに流布している生徒の担任教師の写真は同姓同名の他の教師の写真だった。また、事件とは全く関係のない生徒たちまで中傷メールを送られ、ホームページが荒らされたりした。

 大きな事件が起きると、必ず面白がって悪質なデマを流す奴が出てくる。
 小学生10人をはねた京都亀岡の暴走事故では、3人しか逮捕されていない時点で、6人の「犯人」の名前がネットに流れた。(のちに6人が乗っていた時間帯もあったことが判明したが、事故が起きた時に乗っていたのは3人である)

京都亀岡暴走事故で3人の犯人の名前を6人分「暴い」たネットの暴走
http://www.kotono8.com/2012/04/27bousou.html

 つまり、今回の冤罪はたまたま起きたことじゃない。同じようなことはこれまで何度も起きてきたし、これからもおそらくセンセーショナルな事件が起きるたびに何度でも起きるのだ。
 それにしても、日記を書いている連中の文章を読むと、胸糞が悪くなってくる。 たとえばこんなことを書いている奴がいる。

>だが、こんな報道に左右されて手を緩めてはいけません。
>今回ばかりは徹底的に真の悪者を炙り出すのです。

「真の悪者」って誰? ネットでさらされている実名が「真の悪者」の名前だと、あんたにどうやって分かるの?

>「いじめたらいじめていいの?」
>はい。いじめていいとおもいますよ。ましてや命を落とすほど追い詰めてるんだから、それぐらい追い詰めていいとおもいます。

 だから追い詰めてる相手が無関係の人間かもしれないという危険性は頭に浮かばないのか!?

>いいぞ、もっとやれ。
>もっと、被害者を増やせ。
>収集がつかないレベルまで悪化させてしまえ。

>死んだ被害者に比べたらテメーらの苦しみなんかケツ毛以下だっつーの

>許してやれよ。遊びだろ?ネットの与太を鵜呑みにして真面目にやるやつなんていないだろ。
>いじめが遊びて許されるんだから大したことないだろ?こっちは人死んでないしな。

>それぐらい大目にみてやったら?
>庶民には、流通する情報の"検証手段"なんてありませんwww。
>あと、被害者側はもっともっと比較にならないぐらいに屈辱味わってると思います。

 こえーっ!
 なるほど、そうか。こういう連中が無責任にデマを拡散して、被害者を増やすわけだな。
 中には「被害届を出して受理されたなら、自分は無関係!を主張するために、氏名だけでも出したらどうでしょう」と言ってる人もいるんだけど、

>本当に加害者の母親なのにしらばっくれるなwww
>被害者ヅラするな!
>いい気味www

>各々方、誤射もあったかも
>しれませんが、これは明らかに
>敵の攪乱工作!決して
>惑わされぬようご注意を!

>さて、これらの人々は本当にいじめ加害者と無関係なのか。

>本物の加害者親族で『私たちは偽物であり、被害者ヅラ』しているだけなんじゃない?

>関係ないって言ってる人だって責任逃れで言ってる可能性だって十分あるからねぇ。

>もしかしたらこの記事は
>世論の怒りを消すために用意された、フェイクかもしれない。

>火のないところに煙りはたたぬ

> そもそも 加害者が加害者の自覚がないのいで
> 情報があたっていたとしても「当事者でなないので別人です」
> っていいそうだなあw

>どうせほんの少し間違ってるとこを誇張してるんじゃないかな。
>読売新聞は信用できない。

>なに一概に被害者面しとんや
>頑固爺も名誉毀損しとんぢゃ
>ボケ

>本当に偽情報なの?

 などと書いている奴がうじゃうじゃいるのを見ると、実名出すのはかえって火に油を注ぎそうな気がする。スマイリー・キクチ氏だって、実名でデマを否定したのにああなったんだからなあ。
 あと、ほんの2人ほどではあるんだけど、記事を読んで、被害届を出したのが本当に加害者親族だと勘違いしてる奴もいた。どこまでメディア・リテラシー低いんですか。いい歳して日本語がちゃんと読めないって絶望的だよ。

 むしろ僕は、こいつらの言動の根底にこそ、「いじめ」と同種の臭いを感じる。「ほら、あそこに悪者がいるぞ」と、ターゲットを見つけては、寄ってたかって叩いて快感を覚えているだけなのではないのか。
 叩く対象があればいいんであって、それが無実の人間かもしれないなんて可能性は夢にも思わないし、間違っていても「いじめた奴が悪い」とか「実名を公表しないのが悪い」とか言ってけろりとしている。
 本当にいじめを受けた被害者の苦しみを思っているなら、無実の罪で大勢の人間から嫌がらせを受ける者の苦しみだって理解しなくてはいけないはずなのに。
 もちろん悪を糾弾し、正義を貫くのは大切だが、「その結果、無関係の人間に被害が及んでも知らんこっちゃない」という思想を、僕は容認しない。

 そんなもんは断じて正義じゃない。
  
タグ :いじめ


Posted by 山本弘 at 18:39Comments(60)社会問題