2011年12月26日

『突然、僕は殺人犯にされた』


スマイリー・キクチ『突然、僕は殺人犯にされた』(竹書房)

 ネット上で殺人犯の汚名を着せられた、お笑いタレントのスマイリー・キクチこと菊池聡。その10年に及ぶ苦闘の記録である。
 僕もネット上で中傷されたことがあるが、菊池氏の受けた苦しみは僕のそれとは比べものにならない。はるかに重く、恐ろしい。
 1999年、菊池氏は所属事務所のHPの掲示板に誹謗中傷が載っていることを知らされる。

「事実無根を証明しろ、強姦の共犯者、スマイリー鬼畜、氏ね」
「ネタにしたんだろ??犯罪者に人権はない、人殺しは即刻死刑せよ」
「レイプした過去を思い出せ、白状して楽になれよ」

 1988年、東京都足立区で起きた女子高生暴行殺害事件。その犯人の一人が菊池氏だというデマが2ちゃんねるに書きこまれ、それを信じた者たちが掲示板を荒らしに来たのだ。
 菊池氏にはまったく身に覚えがない。足立区出身で犯人と同世代という以外、事件とは何の接点もないのだ。
 ホームページで噂を否定するが、今度は「貴様が犯人じゃないという証拠をだせ」と書きこまれる。たまりかねて2ちゃんねるに削除を要請するが、「事実無根を証明しなければ削除に応じません」と断られる。
 ひどい話である。殺人をやってないって、どうやって証明すりゃあいいの? しかもネット上で、言葉だけで? そんなの無理だぞ。
 こういうことを言う奴は、自分が同じ立場に立たされたら、という想像ができないのだろうな。
 さらには、「ライヴで事件をネタにしているのを見た」とか、「『ボキャブラ天国』で殺人事件をネタにした」などと、ありもしないことが2ちゃんねるに次々と書きこまれ、それをまた信じて憤る者が大勢現われる。
 何の証拠もないのに、2ちゃんねるに書いてあるというだけで「事実だ」と信じてしまう愚かしさ。そして恐ろしさ。
 
 一時下火になっていた噂が、2006年、再燃する。出演した番組のスタッフに「殺人事件の犯人をテレビに出すな」という抗議の電話がかかってくるようになったのだ。それも一本や二本ではない。
 2008年、菊池氏はブログを開設するが、ここにも中傷のコメントが殺到する。
 再燃した理由は、テレビにもよく登場する、「元警視庁刑事」を名乗る人物(あの人だな)が、2005年に出版した本にあった。その中で足立区の事件が扱われ、「犯人の一人は出所後、お笑いコンビを組み、芸能界にデビューしたという」と書かれていたのだ。おそらくネット上で流れていた噂を書いただけなのだろうが、「元警視庁刑事」という肩書きの人物が書いたことで、一挙に信憑性を増したのだ。
(本書の中では、この「元警視庁刑事」の正体も、警察関係者の口から説明されている。もちろん中傷にならない範囲でだが)

 最初のうち、警察の腰は重い。菊池氏は窮状を訴えるが理解してもらえず、何度も門前払いを食わされる。しかし、親身になってくれるOという警部補と知り合えたことで、一挙に事態が進展する。O警部補は足立区の事件の記録を調べ、被疑者にもその仲間にも「菊池」という人物がいないことも証明してくれた。
 警察の手によってアドレスをたどられ、次々に摘発される犯人たち。合計18人(これでも氷山の一角だろう)。その正体が明らかになってゆくくだりが、驚きと戦慄の連続。
 僕はこういうことをやるのは何となく若者のようなイメージがあったのだが、意外にも上は46歳から下は17歳までと幅広く、住んでいる地域も性別もバラバラ。大手企業に勤めている者や、年頃の娘がいる父親もいたという。
 その全員が菊池氏と個人的な面識がなかった。ネット上の根拠のない噂だけを元に、菊池氏に対する憎悪を燃え上がらせていたのだ。
 Nという男は、0警部補には「二度としません」と反省したような態度を見せておきながら、その日のうちに「ヤロー警察に被害届け出したな」「犯罪犯しといてお回りに通報入れるなんてどこまでクズなんだ」などと2ちゃんねるに書きこみ、捜査関係者を絶句させる。
「チンカス社会のゴミ菊池」などと、下品きわまる罵倒の言葉をブログに書き並べていた人物は、なんと23歳の女性、それも妊婦だった。
 外資系の自動車会社のドメインから書きこんでいたのは、その会社のセキュリティ部門の責任者だった。ドメインに企業名が出ることに気がつかず、職場のパソコンで仕事中に書きこんでいたのだ。これでセキュリティ責任者……。
 あきれた。人間はここまでバカになれるものなのか。

 愚かなのは犯人たちだけではない。警察官や弁護士や検事が、インターネットについてあまりにも疎いことにも驚かされる。読んでいて、あまりの無知と危機意識のなさに唖然となり、歯がゆくなる。
 たとえば菊池氏が2008年に警視庁のハイテク犯罪対策総合センターに相談すると、「削除依頼をしてはいかがですか」と言われる。削除依頼は9年も前にやったのだが。
 あげくに「あなたが犯人だなんて誰も信じてませんよ。どうせ遊びでやってるんじゃないですか」などとお気楽なことを言う。大勢の人間から殺人者呼ばわりされ、「氏ね」などと書かれることがどれほどの恐怖か、理解できないらしい。遊びなら中傷や脅迫を書いても許されると思っているのか。
 ある警察官は、「殺されたら捜査しますよ」と言う。菊池氏が誰かに殺されるまで事件にならないから捜査できないというのだ。

>「その時は一一〇番に電話してください」
>「部屋にいて突然、変な奴が襲ってきたら、そいつに警察に電話するので待ってください、って言うんですか」
>「そうです」

 シュールな会話である。コントとしか思えないのだけど、菊池氏にとっては笑い事ではない。
 ある弁護士は、中傷が書きこまれた画面をプリントアウトしたものを見せられ、「このダブルダブル……て何?」と訊く。URLというものを知らなかったのだ。
 ある刑事は、「Yahoo!知恵袋」のプリントアウトを見せられ、「これは『2ちゃんねる』ですか?」と訊ねる。「Yahoo!」という文字が出ているのに。
 いちばんすごいのはIという検事の対応。被害届けや告訴状に目を通しもせず、菊池氏がインターネットをやらなければいいとか、足立区出身と公表したのが問題だとか、まるで被害者である菊池氏の方に非があったかのようにのたまう。
 あげくに、こんなすごいことを言う。

>「あの~、菊池さんは、インターネットをやらなければ問題は起きないと思います」
> この言葉を聞き、I検事にカマをかけた。
>「そうですか、じゃあ捕まった全員の名前と生年月日と会社と、ブログに送ってきたコメントは書き込んでもいいんですか?」
>「あっ、う~ん、『2ちゃんねる』はダメです、まぁ、ブログなら」
> このI検事の言葉を聞いたY事務官が、両目と口を大きく開けあわてて振り返った。

 ブログなら犯人の個人情報を載せてもいいと思っているのだ。どこまで非常識なのか。
 さらには、犯人の一人が謝罪したいと言っているので「菊池さんの電話番号を伝えて連絡させます」などと言い出す。犯人に被害者の連絡先を教えようとする検事! こわっ!
 ここまで無能な検事が実在するというのは、驚きを通り越して絶望的な気分になる。

 事件は新聞でも報道されるが、著者に言わせれば事実誤認だらけの「しっちゃっかめっちゃか」な記事で、その誤報がまたテレビ番組や別の新聞によって拡大してゆく。ネット同様、テレビや新聞もうかつに信用できない。

 本書を読んで特に痛感したことが二つ。
 ひとつは、犯人たちのあまりの非常識と無知。2ちゃんねるに書かれた情報を裏を取らずに信じこむのもどうかしているが、ネットではどんな中傷や脅迫を書いても許される、匿名だから捕まらないと無邪気に信じていたらしい。ネットに脅迫を書きこんだ人物が逮捕されたというニュースは、しょっちゅう流れているというのに。
 もうひとつは警察や司法の体制の不備。インターネットという新しい文明の利器への対応が、ひどく遅れている。ネット上での中傷や脅迫が、紙の怪文書や脅迫状と同じもの(影響力はそれ以上だろうが)であることを認識できておらず、「インターネットを見なければいい」などとのんきなことを言う警察官や弁護士がいる。被害者自身が見なくても、被害は拡大するというのに。
 菊池氏の事件はいちおうの解決は見るものの、満足のいく結果とはとうてい言いがたい。金持ちなら民事訴訟に持ちこんで犯人たちから賠償金も取れるのだろうが、弁護士費用も払えない者にはそれもできず、泣き寝入りに近い状態である。
 こんなことが許されてはならない。
 ネット上での中傷や脅迫は立派な犯罪だという事実を、もっと世間に浸透させる必要があるだろう。「言論の自由」の中には、「無実の人間を恐怖に陥れていい自由」は含まれない。

 ちなみにアマゾンで調べてみたら、レビュアーの中にこんなことを書いている奴がいて唖然となった。

>色々調べてみて思ったのだがこの事件に関しては炎上のきっかけとなる書籍もあり事件の関係上、書き込みをした者=悪で書き込みをされた者=善という単純な二項対立でとらえて議論することはかなり無理がある上この事件でネット社会における日本人の精神の脆弱性云々などという話は偏見や恣意性に基づく飛躍甚だしく論外であるとさえ思われる。実際のところ書き込みをした者は社会的に問題があるような方々ではなくごくごく普通の主婦であったり女子高生であったり会社員であったりしたようでそういったごく普通の方々がむきになって書き込みをする原因となった書物や筆者のテレビでのおよそネタを通り越した凶暴な発言などに思いをはせ、その問題の所在について考える必要があるのかもしれない。

 犯人を擁護するなあ! ごくごく普通の主婦や女子高生や会社員ならやってもいいってわけがあるか、バカ者が!
  


Posted by 山本弘 at 18:59Comments(35)最近読んだ本

2011年12月26日

『最終兵器の夢』


 H・ブルース・フランクリン『最終兵器の夢』(岩波書店)

 副題は〈「平和のための戦争」とアメリカSFの想像力〉。アメリカの核兵器開発や戦争の歴史と、戦争SFの歴史を並行して語り、それらが互いにどのような影響を及ぼしあってきたかを論じた本。
 クラシックSFファンとしては、古い未訳作品のストーリーがたくさん紹介されているのが嬉しい。戦前の作品で既訳なのは、ウェルズ『宇宙戦争』『解放された世界』、マート・トウェーン『アーサー王宮廷のヤンキー』(タイムスリップ+架空戦記の元祖)、ジャック・ロンドン「比類なき侵略」ぐらい。意外なのは、フルトンの潜水艦の話が出てくるのにヴェルヌの『海底二万里』が出てこないこと。まあ、あれ戦争ものじゃないしね。
 ギャレット・P・サーヴィスの『エディソンの火星征服』(勝手に書かれた『宇宙戦争』の続編。主人公はトーマス・エディソン)は、前に野田昌宏さんの本でも紹介されてたっけ。
 本物のトーマス・エディソンの言動もいろいろ紹介されているのだが、ドクター中松ばりの大ボラを吹きまくってるのがおかしい。

 本書によれば、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、強大な敵(黒人、中国人、日本人、ドイツ人)が圧倒的な力でアメリカを侵略し、それを天才科学者の発明した新兵器(細菌、飛行船、ミサイル、放射能など)で撃退するという架空未来戦記がたくさん書かれていたという。前述の『エディソンの火星征服』も、その流れの中の一本なのだ。
 マンハッタン計画以前、それどころかウラニウムの連鎖反応が発見される以前から、核兵器を登場させていた作品もいくつもあった。
 その中には、強大な破壊力を持つ新兵器が登場すれば戦争は根絶される、と論じたものも多かった。反面、カール・W・スポー『最終戦争』(1932)のように、大国同士の兵器開発競争がエスカレートした末に文明が崩壊するというストーリーもあったのだが。
 著者はこうしたSF作品の予言の正確さよりも、むしろその後の現実の歴史がSFとどう違っていたかに注意を向ける。アメリカの領土は、太平洋戦争の初期を除けば、他国に軍事侵略されることはなかった。核兵器の発明は戦争を根絶しはしなかった。
 ハインラインの「不満足な解決」(1941)では、アメリカはドイツに対して放射能を使った大量殺戮兵器を使用する前、三度もベルリン市民にその威力を警告し、降伏と都市からの退避を呼びかける。だが、現実の広島ではそんなことは行なわれなかった。

 広島以後、今度は核戦争の脅威を描いたSFがどっと登場する。前半と対照的に、ここでは紹介される作品の多くが既訳である。スタージョン「雷と薔薇」「記念物」、ハミルトン「審判の日」、ムーア「ロト」「ロトの娘」、ワイリー「偶発」、ブラッドベリ「百万年ピクニック」「優しく雨ぞ降りしきる」、ライバー「セールスマンの厄日」、メリル「ママだけが知っている」、クロート「爆圧」などなど……読んだことのある話ばかりが続々と出てきて、前半とは逆の意味で面白かった。
 ウィル・ジェンキンズ(マレイ・ライスター)の『アメリカ殺害事件』は、まあ訳されないのも無理はないな、と思う。あらすじを読む限りでは、いかにもダメそうな話だ。

 惜しむらくは本書が全訳ではないこと。特に80年代のスターウォーズ計画を扱った第4部が省略されているのが、何とももったいない。絶対、面白い話がいっぱいあるはずなのに。
  


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2011年12月26日

『冷たい方程式』

トム・ゴドウィン他『冷たい方程式』(ハヤカワ文庫)

 SFアンソロジー。以前にもハヤカワ文庫で同じタイトルのアンソロジーが出ていたが、今回は前のものとは二編しか重複していない。
 オビには「初心者に最適なSF入門書」とあるが、まさにその通りで、ユーモア、サスペンス、パロディ、ほのぼのした話や泣ける話など、様々なパターンが集められていて、これ一冊でSFというジャンルの幅広さが分かる仕組み。
 印象に残った作品をいくつか。

●トム・ゴドウィン「冷たい方程式」

 辺境の惑星に血清を届けるために発進したEDS(緊急発進艇)。その倉庫には、兄に会いたくて軽い気持ちで密航した若い娘が潜んでいた。だが、EDSにはぎりぎりの燃料しか搭載されていない。彼女の体重の分だけ質量が増加すれば、減速の燃料が足りなくなって墜落してしまうのだ……。

 海外のSF界では「五大名作短編」のひとつに数えられている不朽の名作(他の四本は、アシモフ「夜来たる」、ブラッドベリ「雷のような音」、クラーク「星」、キイス「アルジャーノンに花束を」)。日本のSF界にも大きな影響を与え、多くのパロディや類似作品が書かれて、「方程式もの」というジャンルを生み出した。
 前に『トンデモ本? 違う、SFだ!』でも書いたけど、ゴドウィンはほとんどこの一作でしか知られていない作家。訳者の解説によれば、本国では「ゴドウィンにあんな話が書けるはずがない」とやっかまれ(笑)、編集長のジョン・W・キャンベルの影響が大きかったとか、先行する元ネタがあったとか言われているとか。
 まあ、成立の経緯はどうであれ、「冷たい方程式」が名作であることは間違いないのだけど。

●C・L・コットレル「危険! 幼児逃亡中」

 ある街から市民が退避されられる。軍が追っているのは、政府の施設を脱走して街に潜入した八歳の少女ジル。彼女はとてつもない超能力を持つ危険な存在だったのだ。

『MM9』第二話「危険! 少女逃亡中」の元ネタになった作品。好きなんだよなー、この話。全編にあふれる緊張感がたまらない。
 こういう話では子供は被害者として描かれるものだが、この作品では逆に、強大な力を持ちながら自制のきかない無邪気な子供の恐ろしさが描かれる。
『MM9』と読み比べていただければ、類似点と相違点がよく分かると思う。キングの『ファイアスターター』の元ネタではないかとも言われているとか。なるほど。

●ロバート・シェクリイ「徘徊許可証」

 犯罪のない平和な惑星ニュー・デラウェア。二百年ぶりに地球との通信が復活し、新たに地球帝国に組み入れられることになった。しかし、地球の文化には犯罪が不可欠と言われている。漁師のトムは、市長から《徘徊許可証》を与えられて犯罪者に任命され、窃盗と殺人を行なうよう命じられる。

 シェクリイお得意の、価値観のひっくり返った世界を舞台にしたコメディ。他にも「生贄降臨」「怪物」とかがこのパターンの話だ。
 ああ、でもシェクリイには他にも傑作短編が山ほどあるんだよ! 「危険の報酬」は今読んでもちっとも古くない話だし、「幽霊第五惑星」「救命艇の反乱」「ラクシアの鍵」などの〈AAAエース惑星浄化サービス〉シリーズも面白い。他にも「天職」「悪魔たち」「千日手」「ポテンシャル」「思考の香り」……。
 ああっ、シェクリイのオリジナル短編集、作りたい! 僕に選者やらせて!
 
●ジョン・クリストファー「ランデブー」

 妻の急死で悲しみに沈んでいた私は、休暇旅行の帰りの船上で、シンシアという老女と知り合う。シンシアは自分が飛行機に決して乗らない理由を打ち明ける。

 途中まで読んで、前に読んだ話だったのを思い出した。このオチはよく覚えてる。呪いという題材はホラーだが、このひねくれた発想はまさにSF。
 単なるオチ話になりかねないところを、主人公の心情を重ね合わせることで、ちょっといい話に仕上げている。

●アイザック・アシモフ「信念」

 大学教授のトゥーミィは、ある夢を見たのがきっかけで、空中浮揚の能力に目覚める。この能力を研究してもらおうと科学者に手紙を送るが、誰も信じてくれない。彼は戦術を変えることにした。

 科学者に超常現象の存在をいかに認めさせるか、という話。ストーリーはたいしたことはないんだけど、ハインラインやヴァン・ヴォクトならともかく、がちがちの懐疑論者だったアシモフがこういうものを書くというのがおかしい。
 訳者の解説によれば、作中に登場する頭の固い主流派科学者のモデルは、ライナス・ポーリングだとのこと。へー。

●クリフォード・D・シマック「ハウ=2」

 ゴードン・ナイトは、ハウ=2セット社から組立式のロボット犬を通販で買った。だが、届いたのはまだ発売されていない新型ロボット。アルバートと名乗るそのロボットは、ナイトに奉仕するため、あり合わせの材料を使って次々に新しいロボットを作る。だが、それがハウ=2社にバレてしまい、裁判沙汰に発展する。

 確かに前に読んだ話なのに、筋をすっかり忘れていた。若い頃に読んだ時は、結末の意味がよく分かってなかったんじゃないかという気がする。これ、よく考えると、ハッピーエンドじゃないんだよなあ。
 どうでもいいけど、アルバートを美少女ロボットに変えたら、このまんまラノベになるんじゃないかと思ってしまった(笑)。
  


Posted by 山本弘 at 18:42Comments(0)最近読んだ本

2011年12月26日

『万里の長城は月から見えるの?』

 今年が終わる前に、ここ一か月のほどの間に読んだ面白い本をまとめてご紹介したいと思います。

武田雅哉『万里の長城は月から見えるの?』(講談社)

「万里の長城は月から見える唯一の人工物である」
 もちろん間違いである。万里の長城は全長は長くても、幅は10メートルほどしかない。それを38万キロ離れた月から見るのは、幅1ミリの糸を38キロ離れたところから見るのと同じだ。見えるわけがない。
 本書は、明らかに誤ったこのトリビア(ガセビア)が、いつ頃からあり、どのように拡散したかを検証した本。デマや都市伝説の虚構を暴いた本はよくあるが、ただひとつのガセビアにこだわって掘り下げたという点でユニークである。
 このガセビアにはいくつものバリエーションがある。月面に立った宇宙飛行士の証言(言ったのはアームストロングだとかオルドリンだとかサーナンだと言われている)だとするものもあるが、実際は18世紀の文献にすでに見られるという。月だけではなく火星からでも見えるとする説もある。
 月ではなく「宇宙から」とするバージョンもある。しかし、高度400キロの軌道上から見下ろしたとしても、40メートル向こうの幅1ミリの糸を見るようなもので、まず視認は不可能である。ただ、太陽が低い角度にあって、長城が大地に長い影を落としている状態なら、その影が見えるのではないかという主張もある。(もっとも、実際に見た飛行士はまだいないらしい)
 特に広まったのは中国である。アメリカの宇宙飛行士が宇宙から万里の長城を見たとする逸話が、国語の教科書に載ったこともある。中国人にとって、万里の長城が宇宙からでも見えるというのは、大きな誇りだったのだ。
 だもんで、2003年、神舟5号で宇宙を飛んだ楊利偉飛行士が、テレビ番組で「長城は見えませんでした」と発言すると、大センセーションが起きた。教科書の記述を削除すべきかどうかで議論が巻き起こったという。本書にはその騒動も詳しく紹介されている。

 しかし、中国人だけを笑うわけにはいかない。日本の書籍やテレビ番組でも、「万里の長城は宇宙から見える」という話が紹介された例がいくつもある。もちろん欧米でもだ。有名なリプレーの『信じようと信じまいと!』にも出てくる。
 笑ったのは、19世紀なかば頃のヨーロッパには、「万里の長城など存在しない」という説があったということ。そんな巨大建造物など作り話だというのだ。今のように気軽に中国観光に行ける時代ではなかったから、実在を疑う者がいたらしい。G・N・ライト卿という人物がわざわざ、この「万里の長城はなかったろう論」を批判する文章を書いているほど。いつの時代、どこの国にも、副島氏のような人物がいたということか。

 著者はあとがきで、この本を「シロートの手慰みの仕事」と謙遜しているが、そんなことはない。巻末の参考資料一覧を見れば、著者が実に膨大な資料を調べまくったのが分かる。この熱意には頭が下がる。
 だって、『スター・トレック ヴォイジャー』からの引用まであるんだよ!(117話「蘇るジェインウェイ家の秘密」で、ジェインウェイ艦長とニーリックスの会話の中に、「(万里の長城は)21世紀までは、地球の軌道上から肉眼で見える、唯一の、人の手による構造物でした」というくだりがあるのだ)
 また、火星について触れたくだりで、ウェルズの『宇宙戦争』、バローズの『火星のプリンセス』あたりは当然としても、ハミルトンの「ベムがいっぱい」にまで言及されているのには、ちょっと感動した。しかも参考資料リストを見ると、この人、今では入手困難なハヤカワSFシリーズ版の『フェッセンデンの宇宙』で読んでるのだ。SFファンなんだろうか。
 著者の名前は記憶になかったんだけど、著者略歴を見て思い出した。あの『翔べ!大清帝国』(リブロポート)の人か! あれも面白かったなあ。
  


Posted by 山本弘 at 18:33Comments(6)最近読んだ本

2011年12月26日

2011年冬コミ直前情報&「野生のハリーハウゼン」のこと

 今月は締切いくつも抱えてしまい、めちゃくちゃ忙しくて、告知が遅くなってしまいました。ごめんなさい。(実は年賀状もこれから書くところ)

 冬コミにも参加します。

31日(土)東08-a 心はいつも15才

 新刊はいつものMAD本、『MADなボクたち』最新号です。今回の特集は2011年後期新番組と「野生のハリーハウゼン」です。
 昔からハリーハウゼンとかは大好きだったんだけど、実は今、ニコ動でもYouTubeでも、アマチュアの人形アニメが熱いんですよね。
 こういうのとか。

【figma】2期後半OPみたいなものを作ってみた!【けいおん!!】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16479939

アイドルマスター The world is all one !! ライブ風 【カクテル単Lサイズ】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm15769815

アマゾネス VS. 骸骨剣士
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13665029

ある一日
http://www.youtube.com/watch?v=kNx-tRgVKPg

Final Fantasy Stop motion- Sephiroth the World's Enemy 世界毀滅者
http://www.youtube.com/watch?v=EPl_kpwyAyA

Lego Call of Duty Modern Warfare 3
http://www.youtube.com/watch?v=byuiOs2iqxE

 ガンプラの人とかもいつも素晴らしいんだけど、台湾のcounter656さんの作品も感心しますね。クラウドがあのバカでかい剣を自由自在に振り回してるのは、いったいどうやってんのか。
 えにこPの作品も前から注目してました。可動部分の少ないねんぷちをここまで活き活き動かせるってのは、まさに「神」と呼ぶにふさわしい。
『けいおん!!』の人は前に1期のOPや『なのはA's』OPも再現してて、これも素晴らしかったです。
 レゴのやつもバカバカしいんだけど再現度すごいし。
 CGとか手描きアニメだけじゃなく、ぜひこうした「野生のハリーハウゼン」たちの作品にも注目していただきたいと思ってます。

 あと、コミケカタログで予告してた妖魔夜行本ですが、印刷所の締切に間に合わなかったので、ごく薄いコピー誌を少部数出すことにしました。ごめんなさい。
  


Posted by 山本弘 at 18:13Comments(2)コミケ

2011年12月01日

『MM9』の話題2件

『ザ・スニーカー』に連載された『MM9 怪獣のいる風景』が、書き下ろし一本を加え、『トワイライト・テールズ』という題で発売されました。『MM9』の世界を舞台にした番外編です。


ストーリー解説はこちら↓
http://homepage3.nifty.com/hirorin/mm9twilighttales.html

 いつもの気特対のメンバーはあまり登場しません。舞台も日本だけでなく、アメリカ、タイ、コンゴと、世界各地のいろいろな怪獣をお見せします。「スクリューのガー助」が出てくる小説なんて、たぶんこれだけじゃないかと(笑)。
 話のパターンも、『トワイライト・ゾーン』のようなトリッキーな話、さわやかなジュヴナイル、気の滅入るトラウマ話、秘境冒険ものと、バラエティに富んでいます。特に「平成版『怪獣使いと少年』」を目指した「怪獣神様」は、自分で言うのもなんだけど、けっこう泣けます。

 本のタイトルに「怪獣」「MM9」と入れなかったのは、怪獣に興味のない人にも読んでもらおうという配慮です。もっとも、特撮が好きな人なら、いっそう楽しめると思います。いつものように、細かいネタがいっぱい詰まってますので。


 もうひとつ、『MM9』関係のニュース。
 このたび『MM9』の英語版が出版されることになりました。本の実物はまだ届いてないんですが、写真を見る限り、装丁がなかなかいいですね。

http://www.haikasoru.com/mm9/

 内容の一部が掲載されてるんですが……ああ、これは第2話のあのシーンですね。僕が考えた「MMD」という略称をちゃんと使っていただいているのがありがたいです。
 アメリカ人にも受けるといいんですが。
  


Posted by 山本弘 at 19:23Comments(9)PR

2011年12月01日

イベント 「料理を作るように、小説を書こう」


 イベントのお知らせです

トークライブLive Wire
山本弘のSF&トンデモNIGHT#4
「料理を作るように、小説を書こう」

[出演]山本弘

[日時] 2011年12月21日(水)
 開場・19:00 開始・19:30(21:30~22:00終了予定)

[会場] なんば紅鶴
  (大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F)
   南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円(当日券500円up)
 
「どうすれば小説が上手く書けるか分からない」「アイデアはどこから見つけてくるの?」「キャラクターはどうやって創るの?」そうした悩みを抱えるアマチュア作家や作家志望者のために、星雲賞受賞SF作家・山本弘が、創作の秘密を大公開。小説の書き方を料理にたとえて解説します。「イルカの惑星方式」「動物ステロとステロ崩し」「キャラクター・レイヤー」「穴を埋めると宝が見つかる」「セルフツッコミ」「最初からクライマックス」などなど、すぐに役立つ安直なテクニックの数々! 他にも「小説家はどれぐらい儲かるのか」といった、実体験に基づくリアルな話題も満載です。
 なお、11月30日発売の新作『トワイライト・テールズ』(角川書店)のネタバレを大量に含みますので、ご来場の方はなるべく事前に読んでおいていただけるとありがたいです。

Live Wire公式サイト(前売り券などの情報はこちらから)
http://go-livewire.com/
  
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Posted by 山本弘 at 18:39Comments(4)PR