2011年10月30日

ラジウムだってこわいんだ

 少し前、東京都世田谷区弦巻の民家の床下から、ラジウムの瓶が発見されたというニュースが流れた。
 最初、近くの路上で異常に高い放射線値が検出された際、多くの専門家は「原発から飛散したものではない」と直感したらしい。いくらホットスポットとかいっても、空から降ってきたものが狭い地域でそんなに高濃度に濃縮されるわけがないからだ。
 実際、調べてみたら、ラジウムの入った古い瓶(夜光塗料らしい)が見つかった。
 また、世田谷区八幡山のスーパーの敷地でも、最大で毎時170マイクロシーベルトという線量が計測され、これも何か放射性物質が埋まっているのだろうと推測されている。
 ところで、このニュースについて書かれたmixi日記をざっと見てみると、おかしなことを書いている人が多いことに気がついた。
 まず、陰謀論を唱えている人たち。
「嘘つけー」「情報操作の為に”誰か”が意図的に行った事の様に思うのは私だけ?」「そんなもんが床下に埋まってるわけがない!」「果してそんなに都合よくラジウムなんて物質が出てくるだろうかね?」「誰かが筋書きを書いたものかも?」「茶番劇とはまさにこういうのを言う」「瓶とか政府が置いたんじゃないの?」「こんなの政府側やマスコミ側のやらせとしか思えないんだけど」「これ信じろといわれても信じれないだろ」「でっちあげすぐるだろ」「また政府と東電が捏造」「これを信用しろと?」「ホットスポットの大半はこんなやり方で捏造されたのかもね」「どう考えてもウソかマッチポンプ全開ですね」「自作自演なんじゃないか(笑)」「んな訳ねぇ~だろ」……などなど。
 僕が650件の日記を調べた限りでは、うち28件、約4%が、ラジウム発見のニュースを嘘だと決めつけたり、嘘ではないかと疑っているものだった。
 その意図については、政府やマスコミによる隠蔽工作(本当は原発から洩れた放射能なのに、ラジウムだと嘘を言っている)だと思ってる人が多かったが、反原発派の自作自演(放射能の危険を煽るためにわざとラジウムをばらまいている)と解釈してる人も何人かいた。
 どっちしても、「そんなわけねーだろ!」と全力でツッコミたくなってしまうが。
 ツイッターでも、同様のことをほざいている人が何人もいるようだ。

“世田谷のラジウムは東電の陰謀!”なまとめ
http://togetter.com/li/200257

 他にも、多かったのがこういうパターンの意見。

・ラジウムなんかがそこらにあるわけがない。

 数十年前まで、ラジウムは時計の文字盤などに塗る夜光塗料として広く使われていた。僕の家にも、子供の頃、暗い所で文字盤が光る時計があったが、あれもラジウムだったのだろうと思う。
 おそらく、使われなくなった夜光塗料が、日本のあちこちに放置されているのではないだろうか。今までは、わざわざ街の中で放射線を計測しようという人がいなかったため、問題にならなかったのだろう。

・これはテロだ!

 何者かが無差別殺人の目的でラジウムを置いたのだという、これも一種の陰謀説。気が長いうえに効果の薄いテロだなあ。

・ラジウムはアルファ線を出すが、アルファ線は紙一枚で止められるはずだから検知できるはずがない。だからラジウムではありえない。

 科学知識が中途半端にあると、こういう誤解をする。
 確かにラジウム226はアルファ崩壊だが、それが最終的に鉛206となって安定するまでの間に、おもに次のような崩壊系列をたどるのである。

(⇒はアルファ崩壊 →はベータ崩壊)
ラジウム226(半減期1600年)⇒ラドン222(半減期3.8日)⇒ポロニウム218(半減期3.1分)⇒鉛214(半減期27分)→ビスマス214(半減期20分)→ポロニウム214(半減期160マイクロ秒)⇒鉛210(半減期22年)→ビスマス210(半減期5日)→ポロニウム210(半減期140日)⇒鉛206

 このように、ラジウムから生まれる放射性同位元素は、アルファ崩壊もしているしベータ崩壊もしている。もちろんガンマ線も出している。アルファ線は瓶で遮られても、それらは洩れ出してくるのだ。また、瓶にひびが入っていたり、蓋がゆるんでいたりしたら、ラドンがガスとなって洩れていた可能性もある。

・この家に50年も住んでいた女性が死んでいないというとは、放射線が安全であることが立証されたことになる。

 いや、年に30ミリシーベルトぐらいの被曝量だと、1年間にがんで死ぬ確率が0.1%増えるかどうかってところなんですが。 (771さんの指摘を受けて訂正いたしました)
 つーか、たった1例をサンプルとして論じられてもなあ。
 もしこの人ががんで亡くなってたら(高齢者だから、放射線に関係なく、がんで死ぬ可能性は高いのだが)「放射線は危険だ」ってことになるんですか?

 僕がいちばん気になったのは、こういう意見である。

・原発から出た放射能じゃないと分かってほっとした。

 いやいやいやwwwwww
 ほっとするなよ。「原発から出たセシウムなら危険だけどラジウムなら安全」なんてことはないから!
 よく誤解している人がいるが、シーベルトというのは放射線の絶対的な量の単位ではなく、人体に与える影響を表わす単位である。たとえば「毎時100マイクロシーベルト」と言ったら、それがセシウムから出たものだろうがラジウムから出たものだろうが、はたまたプルトニウムから出たものだろうが、人体に及ぼす影響は同じなのだ。
 ラジウムの場合、危険なのは外部被曝ではなく内部被曝である。そこで、内部被曝の影響がどれぐらいなのか、他の物質と比較してみよう。
 よくニュースで「ベクレル」という単位が出てくるが、これは放射性元素が1秒間にどれだけ崩壊するかを示すものである。しかし、放射線の種類と強さ、その物質が体内にどれぐらい蓄積するかによって、同じベクレルでも生体に与える影響(シーベルト)はまったく違う。
 その違いを表わしたのが「実効線量係数」という数値である。ベクレルに実効線量係数を掛けるとシーベルトが求められる。これはとても簡単な計算なので、覚えておいた方がいい。
 放射性元素に関するデータは、原子力資料情報室というサイト(ちなみに反原発系のサイトである)のものが分かりやすくまとまっているので、いつも参考にさせていただいている。

原子力資料情報室/放射能ミニ知識
http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/1.html

 さて、実効線量係数そのままだと、直感的に分かりにくいので、仮に100万ベクレルを摂取したとして、いろいろな放射性元素の内部被曝の影響を比較してみた。(なお、100万ベクレルというのは、よほど高濃度の汚染地域でないと摂取しない量であることをお断りしておく)

●炭素14
吸入摂取 0.0065ミリシーベルト
経口摂取 0.58ミリシーベルト

●カリウム40
吸入摂取 3.0ミリシーベルト
経口摂取 6.2ミリシーベルト

●セシウム134
吸入摂取 9.6ミリシーベルト
経口摂取 19ミリシーベルト

●セシウム137
吸入摂取 6.7ミリシーベルト
経口摂取 13ミリシーベルト

●ラドン222
吸入摂取 6.5ミリシーベルト
(気体なので経口摂取はない)

●ラジウム226
吸入摂取 2200ミリシーベルト
経口摂取 280ミリシーベルト

●プルトニウム238(不溶性の酸化物の場合)
吸入摂取 11000ミリシーベルト
経口摂取 8.8ミリシーベルト

●プルトニウム239(不溶性の酸化物の場合)
吸入摂取 8300ミリシーベルト
経口摂取 9.0ミリシーベルト

(いずれも100万ベクレル摂取した場合の被曝量)

 ご覧の通りだ。同じ100万ベクレルでも、ラジウムによる被曝量は、セシウムより桁違いに高い!
 プルトニウムと比較すると、吸入摂取ではプルトニウムの被曝量の方が大きいが、経口摂取ではラジウムの方がずっと大きい。プルトニウムが生体に必要のない元素であるのに対し、ラジウムはマグネシウムやカルシウムと同じアルカリ土類元素なので、間違って生体に吸収されてしまうかららしい。
 セシウムなどと比べて影響が大きいのは、アルファ線を出すからである。先にも書いたように、アルファ線は紙一枚で防げるから、外部から当たっても皮膚の表面で止まってしまう。ところが体内に入ると内側から被曝するから危険なのである。
 ラドン222もアルファ崩壊だが、これは気体なので、吸いこんでも肺からすぐに出ていってしまうので、影響は小さいらしい。ラジウムやプルトニウムは、細かい粉末を吸いこむと、それが肺の内側に付着するから、そこで放射線を出し続ける。
 ものすごく大雑把に要約すると、ラジウムはプルトニウムと同じぐらい危険な物質と言えるだろう。
 実際、ラジウムのせいで、これまでに多くの人が犠牲になっている。昔、アメリカでは、時計などに夜光塗料を塗るダイヤルペインターと呼ばれる職業の女性がいた。彼女たちの中には、筆の先を尖らすために舐める者がいた。そのため、塗料に含まれるラジウムが体内に入り、主として骨に蓄積して、多くの人ががんで亡くなった。

ATOMICA/夜光塗料による放射線がんの発生
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-03-01-10

 また、近年の日本では、トルマリンだのゲルマニウムだのマイナス・イオンだのがブームになったが、アメリカでも1920年代、ラジウムのブームがあった。ラジウムの放射線によって健康になると信じられ、ラジウム水やラジウム内服薬、ラジウム歯磨き、ラジウムチョコレート、ラジウムサポーター、はてはラジウム座薬なんてものまで売られていたという。
 今から思えば、何とも恐ろしい話だが、これもやはり死者が出ているそうな。

六城ラヂウムBlog
http://www.rokujo-radium.com/blog/index.php?entry=entry080519-110033
http://www.rokujo-radium.com/blog/index.php?entry=entry110929-004530

 だからセシウムやプルトニウムをこわがる人たちが、ラジウムをあまりこわがらないというのが、僕には不思議なのである。純粋に人体に及ぼす危険性だけ考えたなら、「民家の床下からラジウムが発見された」というニュースを聞いたら、「民家の床下からプルトニウムが発見された」というのと同じぐらいこわがらないとおかしいのだ。ましてや、セシウムよりはるかにこわがるべきではないのか。
 どうもこういう感覚の根底にあるのは、「人工のものは危険、自然のものは安全」という神話なんじゃないかという気がする。ラジウムやラドンは天然に存在する元素で、昔からラジウム温泉やラドン温泉として親しまれている。だから人間が作ったプルトニウムより害が少ないと思われているのかもしれない。
 言うまでもないが、危険性を論じるのに、「人工か自然か」なんて関係ない。問題は毒性の強さと量である。

 不安を煽らないように言っておくと、ラジウムも大量に体内に入れない限り、まず害はない。夜光塗料を塗った時計が家の中にあっても、何の心配もない。(夜光塗料を削って食べるとかいうバカなことをしない限りは)
 実際、ラジウム健康グッズは今の日本でも普通に売られている。迷惑がかかるかもしれないのにリンクは避けるが、興味がおありの方は「ラジウムシート」「ラジウムボール」などといった言葉で検索してみてほしい。実にたくさんのラジウム商品が見つかるはずだ。
 もちろんこれらは、かつてのラジウム健康グッズと違い、体内に入れるものではない。外から放射線を浴びるだけだし、被曝量も少ない。(もっとも、健康にいいかどうかはきわめて怪しい。少なくとも僕はおすすめしない)
 たとえば、毎時7.5マイクロシーベルトのラジウムシートというのが売られているのだが、このシートの上で1日8時間寝ても、被曝量は年間20ミリシーベルトぐらいにしかならない。ラジウムの瓶の上で寝起きしていた世田谷の女性の場合、年間30ミリシーベルトほど被曝していたとされているから、市販のラジウム健康グッズより少し多い程度なのだ。
 世界には自然放射線が10ミリシーベルトぐらいある地域がいくつもあるが、その地域の住民にがんの増加は認められていない。だから、その2~3倍ぐらい浴びたところで、そう簡単に死にはしない。

 ただ、注意しなくてはいけないのは、「がんの増加は認められない」というのは、「がんが増加していない」と同義ではないということだ。
 日本国内でも、都道府県によってがんによる死亡率は何%も異なる。同じ県内でも、年ごとに何%も上下する。
 つまり、仮に年間20~30ミリシーベルトの放射線のせいで0.1%ぐらい死亡率が増加したとしても、それは統計では立証できない。その程度の増加は、統計のゆらぎの中にまぎれてしまうのだ。
 低線量被曝の影響がよく分からなくて、議論の的になっているのは、そのためなのだ。統計から被曝の影響を見出すことはできない。だから「これぐらいの被曝量ならこれぐらいリスクが上がるはず」という理論的な類推しかできないのだ。
 つまり「確かなことは分からない」としか言いようがないのである。

 これを聞いて「影響があるかどうか分からないのはこわい」と思うか、「なんだ、統計に出ないほど小さな害しかないのか」と思うかは、あなたの自由である。
 僕としては、0.1%程度のリスクの増加を恐れるより、他にもいくつもある、がんのリスクを増加させる要因(喫煙、飲酒、肥満、運動不足、野菜不足、塩分の取りすぎなど)を警戒する方が、はるかに合理的で有益だと思うのだが。
  


Posted by 山本弘 at 19:18Comments(37)サイエンス

2011年10月22日

『電人ザボーガー』と『キャプテン・アメリカ』

 長いことブログを放り出していて申し訳ない。今月は前半が死ぬほど忙しかったのである。
 昨日、ちょっと時間に余裕ができたので、梅田でレトロなヒーロー映画を2本続けて見てきた。

『電人ザボーガー』は観客を選ぶ映画だなあ。僕はけっこう楽しんだけど、「何だ、これは!?」と怒る人も多そう。
 まあ、僕も意図的なギャグ(それもしょーもないやつ)が随所に入ってるのが、ちょっと嫌だった。「大男による辱め」とか「オナラでロケット噴射」とか。笑えるんじゃなく、逆に引いてしまう。ギャグが出てくるたびに現実に引き戻される感じがして、映画に没頭できないのである。
 単に監督がしょーもないギャグが好きな人なのか、それとも「真剣にやってるんじゃありませんよ。ふざけてますよ」というサインを発してるのか。後者だとしたら余計なお世話である。『ザボーガー』ってだけで最初からマジじゃないのは分かってますから(笑)。 つーか、『ザボーガー』はそのまんまやるだけで笑えるから!
 ギャグなんか入れなくても、むしろ徹底して大真面目にやった方が、心の底から笑えたと思うんだがなあ。『Gガンダム』とか『プリンセス・ナイン』みたいに。

 でも、いい場面がいろいろあるんだよ。
 アバンの後で主題歌とともに展開されるOPのアクションが、ダサいのに猛烈にかっこいいの。ダサかっこいい。「飛竜っ三っ段っ蹴りっ!」という掛け声にすごく力が入ってる。
 最終決戦に向かうためにマシーンストロングザボーガーが疾走するシーンで、子門真人版の主題歌が流れたのにも大感激。
 クライマックス、ザボーガーとブラックホークが人型→バイク→人型とめまぐるしく変形しながら戦うカットなんか、ちょ~かっこいい。
 ウォシャウスキーの『スピードレーサー』(マッハGOGOGO)とかがOKな人なら、この映画もOKのはず。
 それだけに「ギャグは要らんかったなあ」と思えるのである。

 EDでは旧作のダイジェスト映像が流れるんだけど、「ニコニコ団の恥ずかしいピンクのユニフォーム」「ブル・ガンダーのものすごく目立つ弱点」「巨大ロボの体を垂直に駆け上がるザボーガー」などのシーンが、ちゃんと原典通りだったのには、あきれるやら感心するやら。
 しかし、ブル・ガンダーとかは旧作のまんまなのに、ジャンボメカがああなるとは思ってもみなかったなあ……などと『MM9』書いた人間が言っちゃいかんか(^^;)。

『キャプテン・アメリカ』も良かった。元々、第二次世界大戦中(アメリカが参戦する前の1940年)に生まれた国粋主義的ヒーローなんだけど、その胡散臭い出自を逆手に取って、いい話に仕上げている。
 まず、キャプテン・アメリカになる前のスティーブ・ロジャースがじっくり描かれている。肉体はひ弱だけど、心優しく、正義感は人一倍の純粋な青年。「ナチを殺したいか」と問われ、「本当は人殺しなんかしたくない」と答える。その善良さこそが、超人兵士としての資質なのだと語られる。
 また、超人兵士となった直後のスティーブは、前線で戦ったりなんかしなくて、戦時国債を買うキャンペーンのキャラクターとして利用される。舞台の上でヒトラーをノックアウトしてみせたり、映画に出演したり。
 分かる人なら分かるけど、「ヒトラーをノックアウト」という絵は、1940年の『キャプテン・アメリカ』創刊号の表紙なんである。つまりこの映画では、1940年代のコミックスは、戦意高揚のために創られたフィクションとして位置づけられているのだ。
 あの派手な青いコスチュームも、元は舞台の上で着ていたもの。キャプテン・アメリカは最初、架空のキャラクターにすぎなかったわけだ。
 しかし、前線を慰問に訪れたスティーブは、戦争の現実を目にし、さらに親友が敵に囚われたことを知って、架空のキャラクターであることに嫌気が差し、本物の戦場に身を投じることを決意する。
 しかも戦う相手はナチそのものではなく、レッド・スカル率いるヒドラだ(レッド・スカルは途中でヒトラーと袂を分かつ)。ドイツ人全体を悪者にしないための配慮だろう。
 このあたりの、観客に嫌悪感を抱かせないための気配りの数々、本当に上手い。

 当然、スーパー・ヒーロー映画だから、派手なアクション・シーンもぎっしり。
 ヒドラは現代科学をも上回る超テクノロジー兵器を有している。あのハワード・スターク(トニー・スターク=アイアンマンの父親)に「どうやって動いてるのか分からない」と言わしめるほど。そのハワードも、すでに反重力装置を開発してたりするんである。この映画版では、もしかしてS.H.I.E.L.Dの空中母艦とかもハワードの技術を使ってるとかいう設定なのかな?
 しかし、ニューヨーク万博で新発明をプレゼンするハワードの言動が、息子そっくりなのには笑った。
 笑ったといえば、レッド・スカルが逃亡する際に使ったメカにも爆笑した。トリープフリューゲルだよ! すごいよ! 映像作品にトリープフリューゲルが出たのって、これが初めてじゃないか? この映画のリアリティ・レベルにぴったり合ってて、良い選択だ。
 クライマックスに登場する巨大全翼機も素敵。ホルテンのHo229やH VIIIあたりをごちゃ混ぜにした感じの、これまた「分かってる」デザインなんである。 珍兵器好きの人間には感涙もの。

『電人ザボーガー』は笑って許せる人にしかおすすめできないけど、『キャプテン・アメリカ』は万人におすすめできる。
  


Posted by 山本弘 at 20:21Comments(12)映画

2011年10月07日

復活の『妖魔夜行』 Night


 イベントのお知らせです。

トークライブLive Wire 山本弘のSF&トンデモNIGHT#3
復活の『妖魔夜行』Night
[出演]山本弘
[ゲスト]友野詳

[日時] 2011年10月21日(金)
 開場・19:00 開始・19:30(21:30~22:00終了予定)

[会場] なんば紅鶴
   大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F
   南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円(当日券500円up)

 都市に暮らす妖怪たちを描いたシェアードワールド・ノベル『妖魔夜行』。そのスタートから20年、新シリーズ第1作『闇への第一歩』(角川スニーカー文庫)の発売を記念して、トーク・イベントを開催します。ゲストはご存知、友野詳。シリーズの裏話をはじめ、妖怪、都市伝説、ホラー小説やホラー映画の魅力などを存分に語ります。秋の夜長、妖怪の話で楽しみましょう!

 前売り券などの情報はこちらから↓

 LiveWire公式サイト
http://go-livewire.com/
  


Posted by 山本弘 at 16:28Comments(9)PR

2011年10月02日

「ショタコン」は中国語でどう書くか

 先日、台湾で発売された『アイの物語』の中国語版が届いた。英語版と韓国語版は前に出てたんで、これでこの作品の海外翻訳は三回目ということになる。

 ハングルはさっぱり分からなかったけど、中国語の場合、言葉を習っていなくても漢字を見るだけで何となく意味が分かるのが面白い。
 この表紙の最初の3文字「艾比斯」、これで「アイビス」と読む。「アイビスの夢」という題になっているようだ。
 収録作品のタイトルは、「宇宙盡在我指尖」「令人雀躍的虛擬空間」「鏡子女孩」「黑洞潛者」「正義不打折的世界」「詩音翩然到來之日」「愛的故事」と、ほぼ直訳に近いようだ。ブラックホールって「黑洞」って言うんだな。
 しかし「ときめき」が「令人雀躍」になるとは思わなかった。

『アイの物語』の特徴はいろんなカタカナ言葉が頻出すること。人名、英語、科学用語、さらに僕の造語も大量に入っている。それらをどう訳したんだろう?……と思ったら、親切にも、巻末にカタカナと漢字の対訳リストが付いていた。
 分かりやすいのをいくつか挙げると、

 アバター 化身
 アンドロイド 機器人
 イベント・ホライズン 黑洞表面
 ヴァーチャル・リアリティ 擬眞
 クラッカー 怪客
 シェアード・ワールド 共創世界
 シンクロトロン輻射 同歩輻射
 スペース・コロニー 太空殖民地
 スペースオペラ 太空劇
 ディープ・ダンジョン 深淵地底城
 ティラノサウルス 暴龍
 トラクター・ビーム 牽引光束
 ナノメタル粒子 奈米金属粒子
 ニュートリノ 中微子
 ヒューマノイド 人型
 ペルソナ 人像
 マスター・スレイブ方式 主従式
 マスドライバー 加速軌道
 ワームホール 蟲洞

 なるほど中国語ではこう書くのか。
 天体の名前では、

 アンドロメダ星雲 仙女座星雲
 エリダヌス座82 波江座82號星
 カシオペア座イータ 仙后座η星

 アンドロメダは台湾では「仙女」らしい。
 他にも「A・E・ヴァン・ヴォート」「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア」「アラン・チューリング」「フォン・ノイマン」「ノストラダムス」などの漢字表記も分かったけど、漢字をいちいち探すのが面倒くさいのでパス。
 ちょっと感心した訳がこれ。「宇宙をぼくの手の上に」に、ちらっとだけ出てくる単語なんだけど。

 グレーザー砲 γ光砲

 作中に用語の説明は何もない。これ、グレーザーがガンマ線レーザーのことだと分かっていないとできない訳である。翻訳家、勉強してるなあ。
 もっとも

 フライバイ 探測飛行

 というのは、ちょっとどうかと思うが。
 映画などのタイトルでは、

 スペース・サタン 土星三號
 鉄腕アトム 原子小金剛
 ターミネーター 魔鬼終結者
 トゥームレイダー 古墓奇兵
 ロボコップ 機器戦警

『スペース・サタン』は英語の原題(Saturn 3)から訳している。台湾でも公開されたのだろうか。
 オタク用語も出てくるぞ。

 ギャルゲー 美少女恋愛遊戯(「恋」は難しい方の漢字)
 ショタコン 正太控

 おお、中国語で「ショタコン」ってこう書くのか!?
 ネットで調べてみたら、確かにこの「正太控」という表記が広く使われていた。語源が金田正太郎であることをちゃんと分かってるんだなあ。
 でも、オタクならともかく、台湾の一般読者に「正太控」という言葉が理解できるのか……と思ったら、該当ページにちゃんと注釈がついていた。
 これは少女の場合の「ロリコン」(「ロ」は草かんむりに「羅」、「リ」は草かんむりに「利」、「コン」は「控」)に相当する言葉で、

 是指強烈喜愛未成年少男的人。

 と解説してある。「強烈喜愛」ですか(笑)。
 他にも「アイの物語」の中の、「それはウロボロス、または「あたま山」という事態を招く」というくだりに、落語の「あたま山」についての注釈が5行も入ってた。そうか、向こうは落語が無いからなあ。

 カバー見返しには僕の著者略歴も載っているのだが、《原野英豪》で「奇想天外科幻小説賞新人佳作」を獲ったと書いてある。「スタンピード」って「原野英豪」と訳すんだろうか?
 それ以外のタイトルでは、《神不會保持緘黙》《拉普拉斯之魔》《無法預見的非傷冬色》とかはまだしも、

《二月結束的時候・紅方偏移世界》

 てのに笑ってしまった。いや、確かに「二月」なんですけど!
 ちなみに肩書きの最後の方には、

>「不可思議的書」研究學會會長一職。

 と書いてありました。
  


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2011年10月02日

「光より速いニュートリノ」をめぐる誤解・3

  実際に来た質問や、来ることが予想される質問に、まとめてお答えします。

「ニュートリノは本当に超光速粒子だと思いますか?」

 だったら面白いなあ、とは思いますが、実際にはまあ無理じゃないかな~と(笑)。

「どうやってニュートリノが光より速いと分かったのですか? 光とニュートリノを競走させたのですか?」

 今回のOPERA実験では、ニュートリノはイタリアのグランサッソからスイスのCERNまで、730kmも地中を貫通して飛ばしています(ニュートリノはきわめて透過力の大きい粒子で、地球など楽々と通り抜けます)。同じ距離を光を直線で飛ばそうとしたら、730kmのトンネルを掘らなくてはいけませんが、そんなことは不可能です。
 実際は2点間の正確な距離をGPSで求めて、光が2点間を進む時間を計算したのだそうです。 ニュートリノがその距離を飛ぶのに要した時間が、それよりもほんのちょっと速かったということらしいです。
 具体的に言うと、光速で飛んできた場合より、60.7±6.9(統計誤差)±7.4(系統誤差)ナノ秒早かったそうです。(1ナノ秒は10億分の1秒です)
 これはニュートリノが光より10万分の2.5ほど速い(光速の1.000025倍)ことを意味します。

「1回や2回の測定では誤差ということもあるのでは?」

 3年間の1万5000回の反応を分析して得られたデータだそうです。

「GPSの測定ミスなのでは?」

 世界各国から頭のいい物理学者が大勢集まってやっている実験なので、そうした単純な原因によるミスならすぐに見つかっているはずです。

「ミスだとしたら原因は何?」

 分かりません。
 ネット上ではミスの原因をあれこれ推測している人がいるようですが、素人がすぐに思いつくような原因なら、とっくに専門家も気がついているはずです。つまり、ミスがあるとしたら、科学者にも容易には分からないし、ましてや素人には想像もつかないような原因であるはずです。
 だから僕は原因の推理はしないことにしています。それは科学者にまかせるべきでしょう。

「科学者は今回の発表をどう受け止めているの?」

 おおむね懐疑的なようです。
 ただ、早くも、ニュートリノが光より速い理由を説明する理論を発表している科学者も、何人もいるそうです。
 たとえば、ニュートリノはこの4次元時空の外側の5次元空間をショートカットしてくるんだ、という理論もあるそうです。
 SF作家としては思わず「超空間航法かよ!?」とツッコミを入れてしまいましたけどね(笑)。

「タキオンが光速に近づくとエネルギーが大きくなるというのが分かりません」

 この公式をもう一度見てください。

 仮に静止質量をiと置いて計算してみると、

v=cの時 m=∞
v=2cの時 m=0.577
v=3cの時 m=0.353
v=4cの時 m=0.258
v=5cの時 m=0.204
v=∞の時 m=0

 というように、速度が上がるほど質量(エネルギー)が小さくなることが分かります。タキオンはブレーキをかけようとするとかえって加速してしまうのです。
 逆にタキオンを減速させて光速に近づけようとしたらエネルギーが必要です。

「超新星からのニュートリノが4年早く届いているはずだというけど、16万光年で4年ぐらいの誤差は当たり前じゃないのか?」

 超新星1987Aの爆発に最初に気づいたのは、南米チリのラスカンパナス天文台に勤めていたイアン・シェルトンです。2月24日に大マゼラン星雲の写真を撮ったところ、前日の写真にはない星が出現していることに気がついたのです。
 そのニュースが流れてから、超新星爆発ならニュートリノが出ているはずだというので調べられたところ、23日7時35分35秒に、岐阜県のカミオカンデが11個のニュートリノの反応をとらえていることが判明したのです。
 つまり、超新星からのニュートリノは、爆発の光とほぼ同時に地球に届いていたことになります。
(実際は星の中心核で起きた爆発の衝撃波が表面まで及ぶのに何時間もかかるのに対し、ニュートリノはほぼ光速で恒星内部をすり抜けてくるので、ニュートリノが飛び出してきて何時間かしてから明るくなりはじめたはずです)
 もしニュートリノが光より10万分の2.5も速いのなら、爆発の光が届く何年も前に地球に届いていたはずです。

「もしニュートリノが超光速なら、タイムマシンはできますか?」

 人間が乗ってタイムトラベルする機械を想像しておられるなら、それは無理です。
 人間は普通の物質でできている以上、光速を超えられないし、過去には戻れません。

「ワープ航法はできますか?」

 上と同じ理由で無理でしょう。

「じゃあ、超光速粒子なんてあっても役に立たないの?」

 いいえ、もしタキオンというものがあるなら、それを送ることで過去にメッセージを伝えることぐらいなら、もしかしたらできるかもしれません。
 大事故や大災害に関する情報を過去に送って、惨事を回避することもできるでしょう。
 まあ、現代の科学ではまだとうてい無理ですけどね。

「SFのネタになりませんか?」

 とっくになってます。
 理論物理学者でもあるSF作家グレゴリー・ベンフォードが1980年に書いた『タイムスケープ』(早川書房)です。環境汚染によって滅亡の危機に瀕している未来世界(といっても1998年なんですが……)の科学者が、タキオンによる警告メッセージを1963年に送って、歴史を変えるというストーリーです。

『タイムスケープ』解説
http://www.asahi-net.or.jp/~li7m-oon/doc/kaisetu/timescape.htm

 ちなみに僕の『地球移動作戦』でも、タキオンを使った警報システム「シビュラ計画」というのが出てきます。
『地球移動作戦』の中では「ピアノ・ドライブ」というものが実用化していることになっています。これは「結城効果」という架空の原理によって、速度無限大よりわずかに速いタキオンを発生させるというもので、それを宇宙船の推進に使っています。エネルギーも推進剤も消費せずに加速が可能という、永久機関のような代物ですが、実はエネルギー保存則も運動量保存則もちゃんと満たしてます。

「過去に情報を送ったらパラドックスが起きませんか?」

 はい、起きます。いわゆる「親殺しのパラドックス」というやつで、「タイムマシンで過去に戻って、自分を生む前の親を殺したらどうなるか」というものです。
 実際に過去に行かなくても、通信を送るだけでパラドックスは起きます。たとえば、あなたが結婚する前の自分の親に「結婚をやめろ。絶対に不幸になる」というメッセージを送り、親がその指示に従ったらどうなるでしょう?
 あなたは生まれてこなくなります。でも、生まれなかったはずのあなたが過去にメッセージを送ったことになる。矛盾ですよね?
「だから時間をさかのぼるのは不可能なのだ」というのが、科学界の主流の考えです。当然、タキオンなんてものは存在しないのだ……という結論になります。
 その一方、未来からのメッセージを受け取ったとたん、時間の流れが分岐して、歴史の異なる別の世界(パラレル・ワールド)が生まれるという考え方もあります。SFではこちらの考えがよく使われます。
  


Posted by 山本弘 at 17:24Comments(3)サイエンス

2011年10月02日

「光より速いニュートリノ」をめぐる誤解・2

 先日の記事の反響がやけに大きくて驚いている。
 同時に、超光速という概念について、実に多くの人が誤解していることにも驚いた。僕の周囲にいる、科学に詳しそうな人たちでさえ、基本的なことを間違えている例があった。
 この機会にそうした誤解をまとめて正したい。

 前回は時間に追われて書いてしまったので、説明不足のところがあった。そこで今回は図解入りで分かりやすく説明することにした。
 まずはこの図。(クリックすると拡大します)



 粒子の運動を表わした図である。見ての通り、縦軸が時間、横軸が空間。
 青と紫の線は、粒子の軌跡を表わしている。粒子はこの図の左から右へと飛んでいる。
 この図では、粒子の速度は角度で表わされる。角度が垂直だと移動していないことになる。つまり速度はゼロ。速度が上がるにつれて線は傾く。
 この図では光速は45度である。つまり45度以上傾いている軌跡は超光速ということになる。

 この図に描かれたタキオン(紫の軌跡)は、光よりも少し速い。しかし、時間を逆行しているわけではない。ちゃんと過去から未来に向かって進んでいることがお分かりになるだろう。
 
 普通の粒子は光速に達することはない。つまり軌跡は45度にならない。
 タキオンも光速まで遅くなることはできない。つまり、やはり軌跡は45度にならない。
 上の図では粒子は左から右に飛んでいるので、線は右に傾いているが、当然、左に向かって飛ぶこともできる。その場合、軌跡は垂直線より左に傾く。
 一方、タキオンでは軌跡は水平線より下に傾くことができる。
 普通の粒子とタキオン、その速度の範囲はこのようになる。(左側と下側の空白部分は、話が面倒になるので省略している)



 タキオンが過去に戻るというのは、こういうことである。



 さっきも説明したように、この図では、水平の軌跡は速度無限大を表わしている。タキオンはそれよりさらに傾ける。速度無限大より速くなれるのだ。
 その結果、出発した時刻よりも過去に戻れることになる。
 速度は距離/時間。この場合、時間がマイナスになっているのだから、速度がマイナスになったわけである。

 ここまで分かっていただいたところで、

よくある誤解1
「タキオンの質量は虚数である」

 これはなまじ特殊相対論を知っている人がよくやる間違いである。
 特殊相対論の有名なこの公式を見ていただきたい。

 m0は粒子の静止質量(静止した状態での質量)、mは運動している粒子の質量、vは粒子の速度、cは光速である。
 vが大きくなってcに近づくにつれ、分母が小さくなり、質量mは大きくなってゆく。粒子を加速するために投入されたエネルギーが、質量に変わると考えればよい。
 v=cでは分母が0になるので、mは無限大になる。
 粒子の速度を光速にするには無限大のエネルギーが必要だが、そんなことは不可能。だから質量を持った粒子が光速に達することはできない。
 ただしタキオンは(もし存在するなら)生まれた時から超光速であり、決して光速にはならないので、「光速の壁」は問題にはならない。

 ここでvがcより大きくなると、分母が虚数になる。たとえばv=2cなら分母はルート-3になってしまう。
 これで「超光速粒子の質量は虚数だ」と思いこんでしまう人が多い。
 そうではない。
 タキオンの場合、静止質量m0が虚数だと仮定するのである。そうすると分子と分母の虚数が打ち消され、mは実数になる。
「虚数の静止質量って何だ!?」と言われそうだが、そもそもタキオンは静止しないのだから、タキオンの静止質量なんてものは観測できない。あくまで方程式の上で「静止質量は虚数」と置いているだけで、そんなものが実在しているわけではないから、考える必要などない。

よくある誤解2
「ニュートリノには質量があることが分かっている。超光速粒子には質量はないはずだから、ニュートリノは超光速ではない」

 これは誤解1と同じ。タキオンは(もしあるとしたら)実数の質量を持っているはずだ。だから質量のあるニュートリノがタキオンであってもおかしくはない。

よくある誤解3
「速度無限大を超えられるはずがない。無限大より大きいものなどあるはずがないからだ」

「光速の壁」と違い、「速度無限大」というのは絶対的なものではない。光速はどんな立場から測定しても一定だが、「速度無限大」は立場によって異なるのだ。
 これは特殊相対性理論から導かれる「同時の相対性」を考えれば分かる。

 これは地球(青い軌跡)から光に近い速さで宇宙船が遠ざかっているところ(緑の軌跡)を表わした図である。(時間の遅れについては、面倒になるのでこの図では省略している)
 地球も秒速30kmで太陽の周囲を公転しているが、光速(秒速30万km)に比べれば十分に遅いので、ここでは分かりやすく、静止しているとみなすことにする。
 水平に描かれた線が同時刻面。本当は面なのだが、ここではそれを横から見て、黄色い線で表わしている。
 地球から見た同時刻面は、ご覧の通り水平である。地球にいる人の立場からは、地球で現在が時刻Cである時、宇宙船の現在も時刻cであるように見える。(この「見える」というのは比喩表現で、実際に見えるわけではない。念のため)

 ところが、光に近い速度で地球から遠ざかっている宇宙船から見ると、同時刻面はこんな風に傾いている。

 宇宙船内の時刻がcである時、それと同時なのは、地球のCではなくBなのである。
 地球と宇宙船の中では、「同時」が異なるのだ。「同時」というのは、観測者によってばらばらなのである。
 つまり絶対的な「同時」などというものは存在しない。

 粒子の速度無限大というのは、粒子が発射と「同時」にターゲットに命中することを意味する。
 ところがその「同時」というのは、ある観測者からは発射した後でターゲットに命中したように見え、別の観測者からは発射する前にターゲットに命中したように見える。(繰り返すが「見える」というのは比喩表現である)
 これが「光速の壁」と違うところである。

 この「同時の相対性」を応用すれば、光より少し速いだけのタキオンでも、過去に情報を送ることが可能である。

 地球から光速に近い速度で遠ざかっている宇宙船に向かって、タキオンで通信を送る。宇宙船はそれをただちに地球に送り返す。
 すると、通信を送信した時点Bより前のAの時点に、信号が戻ってくることになる。
 よく見ていただきたい。地球側が送信するタキオンの軌跡の傾きは、水平(同時刻面)より小さい。つまり地球から見てタキオンは未来に向かって飛んでいる。
 一方、宇宙から送り返すタキオンの傾きも、同時刻面より小さい。つまり宇宙船から見たタキオンも未来に向かって飛んでいる。
 どちらも未来に向かってタキオンを飛ばしたはずなのに、タキオンは過去に到着するのだ。

 ここで述べたことは僕が考えたのではなく、何十年も前から物理学者の間で議論されていたことである。
 僕が初めて知ったのは高校時代、都筑卓司『タイムマシンの話』(講談社ブルーバックス)で読んだ。初版は昭和46年。何年か前に新装版で復刻したので入手可能なはずである。


 
  


Posted by 山本弘 at 14:18Comments(9)サイエンス