2011年07月27日

『結晶銀河』

 1年に1回出る、創元の年刊SF傑作選、今年は僕の「アリスへの決別」が収録されました。

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488734046

【収録作品】
冲方 丁「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」
小川一水「アリスマ王の愛した魔物」
上田早夕里「完全なる脳髄」
津原泰水「五色の舟」
白井弓子「成人式」
月村了衛「機龍警察 火宅」
瀬名秀明「光の栞」
円城 塔「エデン逆行」
伴名 練「ゼロ年代の臨界点」
谷 甲州「メデューサ複合体」
山本 弘「アリスへの決別」
長谷敏司「allo, toi, toi」
眉村 卓「じきに、こけるよ」
酉島伝法「皆勤の徒」(第2回創元SF短編賞受賞作)

 日下三蔵氏もまえがきで書いてるけど、去年までは「これははたしてSFなのか?」と疑問に思う作品が多かったんだけど、今年はストレートなSFが多くなったという印象です。
 実はまだ全部読んでないんだけど、伴名練「ゼロ年代の臨界点」がすごく気に入りました。20世紀初頭を舞台にした架空の日本SF史! 3人の若き女流作家が書いたSFが、どれも面白そう。腕木信号のネットワーク知性!
 最初から最後まですべて嘘っぱちなのに、もっともらしくて、わくわくしちゃうんですよねえ。こういうタイプの話、僕は好き。
 作中に明示されていない裏設定を推理するのも楽しい。フジの最後の言葉の意味とか。


 ところで創元の近刊予告を見てびっくり。笹本祐一さんの『妖精作戦』、復刻するんだ!

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488741013

 しかも、解説がやっぱり有川浩さんだ! ああ、そりゃもう、解説頼むならこの人以外ありえないわ!
(分からない人は『レインツリーの国』を読むように)
  
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Posted by 山本弘 at 15:02Comments(4)PR

2011年07月27日

『僕の妹は漢字が読める』の感想がひどい件

 かじいたかし『僕の妹は漢字が読める』(HJ文庫)というライトノベルが話題になっている。
 日本人の国語力が衰退し、漢字を読める者がほとんどいなくなっている23世紀の日本。そこで生まれ育った少年が主人公のコメディだ。
 まず最初に言っておくと、僕はこの作品を評価しない。
 5点満点で2点ぐらい。
 なぜかというと、せっかくの面白い設定をぜんぜん使いこなしていないからである。
 まず、主人公の生きている23世紀の日本の描写。アニメやラノベ的な感性が当たり前になっているという設定なんだけど、そこの描写が甘い。「二次元総理」というネタには笑ったけど、笑えるのはそこぐらい。
 こういうのは、もっといろんなディテールをぶちこんで、この世界のおかしさをたっぷり見せれば、はるかに笑える作品になっていたはずだ。だが、作者はそこまで深く考えなかったようだ。そのへんがSFを読みなれた人間には、ものすごく歯がゆい。
 たとえば主人公が「童貞」という昔の言葉を知らないというシーンがある。じゃあ、この世界では「童貞」はどう呼ばれているのだろうか。いや、そもそもこの世界では、童貞という概念は現在の我々のそれとはまったく異質なものになっているのではないか。たとえば、2次元の方が3次元より重視されている世界では、むしろ肉体を持った女性との性交渉が異端とされているのではないか。そのせいで人口は減少に向かっているのでは……と、いくらでも想像は広がるはず。
 また、妹が「童貞」という言葉の意味を質問されて恥ずかしがるというのも、よく分からない。この世界でも童貞は恥ずかしいことなのか? 彼女は漢字が読めるというだけで、この世界で生まれ育ったんだから、感性は基本的に23世紀人のそれのはずなんだが。
 あと、主人公が精巧なロボットを見て「これは凄い」と感心したりするのも変。2世紀経ったらそんなものは当たり前だろう。
 しかも、この時代になってもまだ本は紙でできていて、主人公が尊敬する作家に見せてもらう原稿も、紙にプリントアウトしたものなのである。ないない、それはない。「30世紀にちゃぶ台」並みにありえない。
 主人公が21世紀のエロゲのポスターを見て「宗教画だ」、美少女フィギュアを見て「マリア像だ」と勘違いするというのも、明らかに作品の世界観に反している。むしろ宗教画を見てエロゲのポスターだと勘違いするべきではないのか。
 まあ、ギャグ作品で細かいところまでつじつまを合わせろとは言わないが、主人公の考え方が作品の設定と矛盾しているのは、さすがにいただけない。
 この作品を「ラノベ批判だ」と早とちりしている者もいる。そんなことはない。僕の目には、むしろ作者はラノベの定石に忠実すぎて、そこから飛躍できていないと感じる。
 後半、21世紀にタイムスリップしてきた主人公が高校に通うようになるのだが、その展開に無理がありすぎるうえ、必然性がまったくない。漢字の読み書きができないので苦労するのを見せたいなら、学校でなくても、日常生活で十分だろう。どうも「ラノベの主人公は学校に通うもの」という定石に縛られているだけのように見えるのだ。
 主人公と妹の関係も、さすがに見飽きた。新味がない。

 つーか、この設定だけくれ! 僕に書かせろ!
 頭からすべて書き直して、面白い作品にしてやるから!

 ……とまあ、いろいろ書いてきたけど、僕はべつにこの作品に腹は立たない。シオドア・スタージョンが言うように、どんなジャンルでも90%はクズなのだ。ハズレに当たるたびに、いちいち腹立ててなんかいられない。
 僕が腹が立ったのは、むしろこの作品を批判している連中の方である。

http://blog.livedoor.jp/goldennews/archives/51641055.html

>地の文が酷いw
>ラノベってこんなレベルばっかりなの?

>設定以上に文章がひどい
>これでプロの作家を名乗れるんだから、ラノベはマジキチ

 ……あのさあ。
 君ら、一ページ目に書かれている設定、ちゃんと読んだ?
 これは漢字の読み書きができない主人公が書いたハチャメチャな文章を、現代の読者に向けて「意訳」したっていう設定なんだよ。それで文章が上手かったら、逆におかしいだろう。
「我輩」の一人称のパートを読めば分かるように、作者はちゃんとした日本語を書ける人なのだ。わざと下手な文章にしているのである。

>このものがたりちゅうにつかわれている『じゅうこうだ』のひとことをとりあげてもいみがとくていできない。
>ぜんごぶんのつながりで、そのいみをはんだんするしかなく、にじゅうさんせいきせかいではあるいみどくしょのちからはこうじょうしているのだろう。

 もちろん「重厚だ」というのも原文では「ずっしりん」とか書いてあったのを意訳したということなんだろう。それぐらい分からんのか。

>隙のない美貌の妹を持つ兄が何でこんなB級顔なんだよ

 義理の妹だって、ちゃんと説明されてるだろ!?

> こんなのが許せられる時代って・・・・

 うん、確かに「許される」という言葉もまともに書けない奴がいる時代って悲しいよね(笑)。

>それとも俺が知らないだけで、こういう良い意味で阿保なラノベって多いの?

 無理して慣れない漢字使うことないぞ。阿呆はカタカナで書け。
 もしかしたらスラングのつもりで使ったのかもしれないが、阿保(あぼ)という姓の人は実在するので、こういう使い方をしてはいかんと思う。

>ラノベやケータイ小説なんかが面白いとか言ってる馬鹿が増えれば、いずれ日本はこんなアホみたいな世界になるぞって、警笛を鳴らしてるわけだ

 鳴らすのは「警鐘」な。警笛鳴らしてどうする。

>発想は良かった、のだと思う。過去形。
>「現代文学」とやらが、日常会話とかけ離れている時点でもはや「韻文」なのだろうか、これはまさに「読めません」だ。文学ならばそれでいいのだろう。読めないが。

 お前の文章の方が読めません(笑)。日本語が崩壊している。そもそも「韻文」の意味を分かってるのかも疑問。

>なんかブラッドベリの「華氏411」思い出した。

 有名なタイトルを間違えるな。

>この程度のやつと筒井康孝を比べるなよ

 筒井康隆氏を引き合いに出すなら、名前ぐらいちゃんと書け。失礼だ。

>何がどうすごいかすげえ気になるけど長すぎて読む気分になれない・・・

 ギャグだよな!? ギャグだと言ってくれ!
 かと思えば、変な深読みしている連中もいる。

>もしかしてこれって漢字教育廃止した某半島国家を揶揄してるんじゃないのか・・・?

>というより、どう考えても元ネタはハングルと漢字が読めない韓国人をネタをしているとしか思えん。

 いや、そんな意図、ないない(笑)。

>「自分は文筆業である。
> 漢字を繰り、
> 言葉を紡ぐ者である。」
>という自負に溢れた文章書きが放つ、
>独特の自己(と同類)への陶酔を伴った
>自慰作品であると感じた。

>ケータイ小説とかラノベを皮肉ってるように思わせて、実は村上春樹を始めとした現在の純文学を皮肉ってるんじゃないか

 だからそんな高尚な意図ねえって!
 君ら、赤いパンツが「重税に苦しむ日本国民の心情を表現している」と言った、作中のオオダイラ先生と同じ間違い犯してるよ!

>これラノベを暗に否定(危惧?)してるわけだよね。
>普段からラノベ通読してる人達はこれ読んでどう思うんだろう…

 どうも思いません。ジャンルの定石を皮肉った自虐ネタなんて、ラノベには珍しくないよ。
 これで「すごい」と騒ぐのは、ラノベにどんな作品があるかを知らない人間ではなかろうか。

>ラノベは文学じゃない
>絵の書けない漫画家の逃げ道

 はいはい、ラノベを読んだことのない奴の典型的な偏見ね(笑)。
 ついでに言うと、絵は「書けない」じゃなくて「描けない」って書くんだよ。「描」は小学校で習う漢字だと思うけど?

>こんな引き込まれない導入は始めてだが、ラノベってみんなこうなのか?
>普通の小説は最初の半ページでガッツリ掴んでくれるぞ?

 普通の小説でも半ページでがっつりつかんでくるものなんて、そうそうないんだが。お前はいったい何冊ぐらい小説を読んだうえで言ってるのかと、小一時間ほど(以下略)。

>イラストが致命的にダメだ。もうその時点で読む気せぇへん

 イラストで否定!

>内容に主義・主張があればこんなどこかで見たようなタイトルにはなるまい。

 タイトルすら否定!
「僕の妹」というフレーズが入っているだけで、便乗作品だと思いこんでいるらしい。

>他人の作ったものを踏み台にするような作品はちょっと

 パロディとかオマージュとか全否定!?
 いや、参った。あきれた。
 頭の悪いラノベを笑っているつもりかもしれないが、実はそのラノベの設定や作者の意図を理解する読解力さえない(難解な文学作品ならともかく、ラノベだよ?)。
 作者の文章を笑っているつもりかもしれないが、実は自分もまともな日本語が書けない。
 さらには、中身すら読まず、タイトルやイラストの印象で評価する。
「普通の小説」と比べてラノベをバカにしてるけど、実は決定的に読書量が少ないことが露呈しているではないか。おそらく普段、ラノベすら読まず、マンガばっかり読んでるんじゃないかしらん。
 これでは2世紀ぐらい経ったら、本当にこの作品のような世界になってしまうんじゃないだろうか。心配だ。
  


Posted by 山本弘 at 14:00Comments(58)ライトノベル

2011年07月27日

スタンフォード大の科学者が地球空洞説を支持!

 ……というデマが流れている。

 時系列を逆にたどってみよう。まずはこちらの7月23日のリアルライブの記事。

地球内部にある『もう一つの地球』 再燃する『地球空洞説』
http://npn.co.jp/article/detail/60091094/
 それでは、21世紀となった現在、この説が忘れ去られてしまったのかというと、実はそうでもない。未だにこの説を研究し続けている科学者も多くいる。アメリカはスタンフォード大の物理学者によると、宇宙を創造したと言われる『ビッグバン理論』より考えられる仮説的な宇宙の数を計算した結果、惑星にはその内部にもう一つの大地、パラレルワールドを内包する可能性が高いというのだ。勿論それは、我々の住む地球にも当てはまる。

 かねてより、UFOは地下世界の住人の乗り物で、極地方に開いたワームホールより出入りしているのだ、という説があった。今回の理論は、それを裏付けているようで興味深い。
 パラレルワールドと地球空洞説は何の関係もありません!(笑)
 そもそもパラレルワールドってどういうものか分かってないだろ、この記事書いた奴。
 注目すべきは「スタンフォード大の物理学者」というだけで、名前が書かれていないこと。これだけでかなり怪しい記事だと分かる。新聞記事などからの直接の引用なら、名前が載っていないとおかしい。おそらくどこかのサイトからの孫引きだなと見当がつく。
 さかのぼって調べてみると、7月17日のカラパイアの記事が見つかった。

地球内部に隠されたパラレルワールド、もうひとつの地球が存在する可能性(米研究者)
http://karapaia.livedoor.biz/archives/52026001.html
 米スタンフォード大学の物理学者によると、ビッグバンの結果として形成された仮説的な宇宙の数を計算した結果、惑星には内部に隠されたパラレルワールドが存在する可能性が高いという。それは我々の地球も例外ではなく、地球の内部には、もうひとつの隠された別の地球がある可能性があるというのだ。

 この記事からリンクされていたサイトがここ。

THE TRUTH BEHIND THE SCENES
http://thetruthbehindthescenes.wordpress.com/2011/06/07/parallel-world-hidden-inside-earth/

 めちゃくちゃ怪しいサイトだな、おい!(笑)
 問題の記事の最初の部分を読んでみると、
 It seems that scientists find more and more evidence to prove the existence of parallel worlds. Physicists at Stanford University managed to calculate the hypothetical number of universes that were formed as a result of the Big Bang. According to them, the Big Bang created 101016 universes. It is quite possible, though, that they may exist inside one another, including our planet. Therefore, there is probably another Earth hidden inside planet Earth.

 つまりスタンフォード大の科学者が宇宙の数は10の1016乗個ぐらいだと計算したのを、この記事を書いた奴が、「だったら地球の内部に宇宙があってもおかしくない」と曲解して、地球空洞説を紹介する記事の枕に使った。それをカラパイアの記者が訳す際、スタンフォード大の科学者が地球空洞説を支持しているかのように誤訳したのだ。(リアルライブの方は、カラパイアからの孫引きかもしれない)
 さらに元記事を検索してみたら、

Physicists Calculate Number of Universes in the Multiverse
http://www.physorg.com/news174921612.html

 科学者の名前はAndrei Linde と Vitaly Vanchurin。どうやって計算したのか、読んでも今ひとつよく分からないけど、たぶん宇宙のすべての粒子の取り得る状態の数を求めたんじゃないかと思う。
 案の定、本来のニュースには地球空洞説のことなんかまったく出てこない。「THE TRUTH BEHIND THE SCENES」の記事を書いた奴がつけ加えただけだ。

 あと、パラレルワールドがたった「10の1016乗個」ってえらく少ないなと思っていたら、これも間違いだった。「10の(10の16乗)乗個」以上、最大で「10の(10の(10の7乗)乗)乗個」らしい。
「10の1016乗」だと、1の後に0が1016個並ぶ。それに対して「10の(10の16乗)乗」だと、1の後に0が1京個並ぶ。「10の(10の(10の7乗)乗)乗」はさらに大きい。10の(1の後に0が1000万個並んだ数)乗である。「桁違い」なんてもんじゃない。

 それにしても、この前のエレーニン彗星の件もそうだが、こういう海外のトンデモ系サイトに載ってるヨタ話をさらに誤訳して、信憑性があるかのように広める奴って、どうにかならんもんか。
 個人ならともかく、ニュースサイトだぞ?
  


Posted by 山本弘 at 12:46Comments(8)メディアリテラシー