2011年04月30日

これがイルミナティ・カードだ!

 以前にも「誤解されているスティーブ・ジャクソン」で、カードゲーム『イルミナティ』のことを取り上げたけど、あまりにも間違った情報が流布しているもので、あらためて詳しく解説してみたい。
 1975年からロバート・シェイとロバート・アントン・ウィルソンの伝奇小説『The Illuminatus!』3部作が出版された。世界を裏で操る秘密結社同士が争うという話である。日本にも訳されているのでストーリーは読んでもらえれば分かるけど、相当にふざけた内容だ。



 これが欧米で大ヒット。サブカルの世界で陰謀論ブームが起きた。陰謀論の世界で「イルミナティ」がクローズアップされてきたのは、実はこの小説の影響が大きいらしい。
 このブームに便乗して作られたのが、スティーブ・ジャクソン・ゲームズのカードゲーム『イルミナティ』なのである。初版は1982年。このゲームは大ヒットして、アメリカのゲーム大会〈オリジン〉で、ベスト・サイエンス・フィクション・ボードゲーム賞を受賞した。
 そのヒットを機に、スティーブ・ジャクソン・ゲームズは自社のマークを例の「ピラミッドから覗く目」にした。
 その後も『イルミナティ』は何度も追加キットが発売されたり、改訂版が出たりしている。

 1990年、SJゲームズでテーブルトークRPG『ガープス サイバーパンク』の開発に携わっていた社員の一人が、コンピュータ犯罪に関わっていると疑われ、SJゲームズはシークレット・サービスの強制捜査を受けた。彼らはマヌケなことに、『ガープス サイバーパンク』の原稿を「コンピュータ犯罪のハンドブック」とみなして押収した。
 業務を妨害されたSJゲームズはシークレット・サービスを訴え、勝訴している。

THE TOP TEN MEDIA ERRORS ABOUT THE SJ GAMES RAID
http://www.sjgames.com/SS/topten.html

Steve Jackson Games, Inc. v. United States Secret Service
http://en.wikipedia.org/wiki/Steve_Jackson_Games,_Inc._v._United_States_Secret_Service

 この件はカードゲーム『イルミナティ』とは何の関係もないのだが、なぜかベンジャミン・フルフォードはごっちゃにして解説しており、日本の陰謀論者たちはみんなその間違った解説を鵜呑みにしている。
 ちょっと検索すりゃ分かることなのに。

 1993年、ウィザード・オブ・ザ・コースト社のトレーディングカードゲーム(TCG)『マジック・ザ・ギャザリング』が大ヒット。日本でもその後、『ポケモン』や『遊戯王』のトレーディングカードゲームがヒットするが、そのすべての元祖が『マジック・ザ・ギャザリング』なのである。
 アメリカでも『マジック・ザ・ギャザリング』のヒットに便乗して、各社からTCGが雨後の筍のように発売された。SJゲームも遅れてはならじと、『イルミナティ』をTCG化して1995年に発売する。それが『Illuminati: New World Order』(INWO)なのである。このゲームも1997年の〈オリジン〉でベスト・カードゲーム賞を受賞している。
 ベンジャミン・フルフォードが「このカードが作られたのは1990年である」と書いているのが大間違いであることが分かるだろう。『マジック・ザ・ギャザリング』は世界初のTCGであり、それより前にTCGの企画なんかあるわけがないのだ。
 この他にもSJゲームズは、テーブルトークRPG版の『GURPS Illuminati 』も発売しているし、プレイ・バイ・メールの『Illuminati PBM 』なんてのもあるそうだ。(いちいち解説するのは面倒なんで、詳しく知りたい方は検索していただきたい)

 じゃあ、そのINWOの元になったカードゲーム『イルミナティ』とはどんなゲームだったのか。お目にかけよう。ジャジャーン。

 先日、グループSNEに行った時に借りてきたもの。1988年に出たデラックス版である。
 どのへんがデラックスかというと、箱が大きくなって、カードの紙質が良くなった(笑)。いや、追加カードも入ってますけどね。僕が初めてプレイしたのは確か第二版あたりで、紙質はかなりしょぼかったと記憶している。

(クリックすると拡大します)
 これがプレイヤーの演じる陰謀組織のカード。おなじみの〈バヴァリアのイルミナティ〉をはじめ、〈クトゥルフのしもべ〉〈チューリッヒのノーム〉〈UFO〉〈バミューダ・トライアングル〉などいろいろ。それぞれに能力が異なり、勝利条件も違う。世界征服が目的のやつとか、混乱が目的のやつとか。

 メインの組織の周囲に、他の組織のカードをこのように並べ、組織をどんどん拡大してゆく。カードに印刷された矢印の向きに従わなくてはいけないので、配置を間違えると伸び悩んでしまう。(上の配置の場合、〈バヴァリアのイルミナティ〉の右側がふさがれてしまっている)
 そうしてパワーや金を蓄え、勝利を目指す一方、他のプレイヤーを妨害するわけである。
 カードにはどんなものがあるか見てみよう。

(クリックすると拡大します)
 カードの左下にあるのは〈パワー〉〈抵抗力〉〈収入〉である。〈抵抗力〉の大きい組織は支配しにくい。当然、支配する組織が増えれば、そこからの収入も増える。
 右下にあるのは組織の属性で、同じ属性の組織は支配しやすい。〈カリフォルニア〉はLiberalでWeirdでGovernment、〈テキサス〉はViolentでConservativeでGovernmentといった具合。どちらも絵がいかにもって感じでありますな。
 特に〈郵便局〉のカードが笑える。カタツムリですよ。おまけにこのカード、〈収入〉がマイナスなの! 赤字だから、持ってるとお金を払わなくちゃいけないの!

 注目していただきたいのは〈国連〉の弱さ。パワーが1! 抵抗力も低い! 〈マフィア〉や〈南米のナチス〉よりはるかに弱いのである。「国連なんて役に立たないじゃん」というゲームデザイナーの皮肉がこもってますな。
〈フェミニスト〉のカードではブラジャーが燃えている。これ、ウーマンリブ運動を覚えている世代でないと、もう分からないかな。

(クリックすると拡大します)
 悪そうな顔の人たち。〈議員の妻〉がきつそうだ。
 注目していただきたいのは〈高利貸し〉(ローン・シャーク)の異常な強さ。パワーも抵抗力も収入も最高レベル! すごいよ〈高利貸し〉!

(クリックすると拡大します)
 ボーイ・スカウトならぬ〈ボーイ・スプラウト〉(さすがにこのへんは実名はまずかったか?)や、〈ビデオゲーム〉〈タブロイド新聞〉〈コミックブック〉など。
 ちなみに〈ビデオゲーム〉や〈タブロイド新聞〉があると〈コンビニエンスストア〉を支配しやすくなる。

(クリックすると拡大します)
 こんなカードまである。〈SFファン〉〈金魚愛好家〉〈地球平坦論者〉〈トレッキー〉〈葬儀屋〉〈精神科医〉……〈金魚愛好家〉はPeacefulでFanaticらしい。そうなの?

(クリックすると拡大します)
 出ました! 〈オービタル・マインドコントロール・レーザー〉〈ロボット・シー・モンスター〉! 大バカであります。
 陰謀論者はこういうカードを見ると、「イルミナティはロボット怪獣を持っている!」とか「軌道上からレーザー光線でマインドコントロールされる!」とか真剣に思っちゃうのかな。
 ちなみに、どちらも属性はCommunist。まだソ連があった時代のゲームだからね。
〈L4協会〉というのは、実在する〈L5協会〉のもじり。スペース・コロニーを作ろうと運動していた団体である。

 もうお分かりだろうけど、『イルミナティ』というのは冗談ゲームなんである。世にはびこる陰謀説をパロディにしているのだ。
 だからゲームの内容が陰謀論者たちの妄想と一致するのは当たり前なのだ。もともと彼らの妄想をおちょくって笑い飛ばす意図で作られているのだから。
  


Posted by 山本弘 at 13:05Comments(15)トンデモ

2011年04月29日

『地球移動作戦』と『謎解き古代文明』

『地球移動作戦』文庫版(上下巻)が発売になります。

 ご覧のように、表紙はマイカ(上巻)と魅波(下巻)です。やっぱり鷲尾直広さんのイラストは素敵ですね。僕が意図した「ちょっとレトロだけどかっこいい未来」というコンセプトを、しっかり理解してくださってます。

 この機会に自分のHPのストーリー解説ページを書き直しました。どんな話なのか知りたいという方は、目を通してみてください。

地球移動作戦
http://homepage3.nifty.com/hirorin/earthshift00.htm

 前にも書きましたが、この本の印税はすべて東日本大震災の被災者のために寄付いたします。みなさんに買っていただいて、増刷がかかれば、それだけ寄付金額も増えます。ご協力をお願いいたします。
 上下巻とも660円(+税)。5月上旬発売予定。早いところではもう書店に並んでるかもしれません。



 同時期にASIOSの新刊も発売されます。

謎解き古代文明
彩図社 1429円+税

 タイトル通り、古代文明の謎を一挙に解明してしまおうという本です。ナスカ地上絵、サンダルで踏まれた三葉虫、クリスタル・スカル、ノアの箱舟、ピラミッド、ムー大陸、モーゼの墓といった定番のネタから、アダムの橋、ネブラ・ディスク、中国・明代のスイス製腕時計、サラマンカ大聖堂の宇宙飛行士といった最近のネタまでいろいろ。ネブラ・ディスクって僕も初めて知りました。
 詳しいラインナップと各項目の執筆者は、ASIOSの公式ブログを参照してください。僕が担当したのは「ノアの箱舟」と「レイライン」。「ノアの箱舟」は前に『トンデモ超常現象99の真相』でも取り上げたことがありましたが、説明不足の点や間違っていた点があったので、今回、最新の情報を取り入れて徹底的に書き直しました。

ASIOSの新刊『謎解き古代文明』が出ます。
http://asios-blog.seesaa.net/article/197442218.html

 例によってオカルト・マニアの方々の夢を壊してしまうような話ばかりなんですが(笑)、真相を知ると「そうだったのか!」と驚き、感動することも多いです。「サラマンカ大聖堂の宇宙飛行士」や「チャーチワード=日本人説」の真相などは、バカバカしすぎて傑作です。
 ラストの「皆神山ピラミッド」は、当時、騒動に深く関わった皆神龍太郎氏(実はペンネームはここから来てます)による執筆。意外すぎる真相に唖然となってください。
 5月6日より全国発売。関東の一部書店ではすでに発売されています。
  


Posted by 山本弘 at 14:09Comments(18)PR

2011年04月26日

『トンデモ本大賞前日祭』:娘の反応

 24日の日本トンデモ本大賞前月祭、多くの方にお越しいただき、まことにありがとうございました。
 直前までバタバタしていたせいで、このブログで告知するのをうっかり忘れてたんですが、実はトンデモ本大賞候補作の紹介の模様は、ニコニコ動画で生中継されておりました。1万人を超える方が視聴して、リアルタイムでコメントがいっぱい書きこまれていたそうです。(会場のモニターにも表示されてたんですが、僕の位置からは見えなくて残念)

 我が家でも中学3年の娘が生中継を見ていました。実は娘は、トンデモ本大賞はもちろん、トンデモ本シリーズも読んでいない。これがトンデモ本初体験だったんですね。
 終了後、すぐにメールを送って感想を訊ねたところ、返事が返ってきました。

>メガメ楽しかったw

 やっぱりメガメか(笑)。いやあ、メガメがあんなに受けるとは思わなかった。
 何でも、あの瞬間にメガメ弾幕が画面を埋め尽くしただけでなく、終了後もずっと「メガメ」「メガメ」と流れ続けてたんだそうです。
 他の出演者からは「『こんなの読んでたなんてパパ不潔! 嫌い!』とか言われるんじゃない?」とからかわれたけど、ぜんぜんそんなことはなかったです。まあ、さすがにあのプロローグ以外は娘に見せませんけどね。

>あとリア獣もww

 お前さあ、パパの説明じゃなくてコメントのほうで喜んでるだろ(笑)。
 しかし、誰が言ったのか知らんけど、「リア獣爆発しろ」というのは秀逸ですな。

>それから、酸素が減るのも笑った(^w^)

 中学生に笑われてるよ。どうすんだよ、苫米地さん。
 そうだよね。中学生でもおかしいって分かるよね。

>でもやっぱりあたし的には2番が好きだったwwww

 あー、はいはい、ケンタウロスα星人との会話ね。あれは子供にも受けると思った。
 でも、あれを笑わずに、それどころかありがたがって真剣に読んでる大人が大勢いるんだよ。それがこの世界の現実。

 それにしても、ちゃんと全部見てくれてて、パパは嬉しい。


 結果発表は6月の20周年記念大会です。
 今回はニコ生を見ている人にもボタンを押して投票してもらったんですが、ノミネート作にしか投票できないシステムなもんで、「何でメガメに投票できない」と不評だったらしいです。
 だって、さすがにあの一発ネタでノミネートできないでしょ?
 実物を読みたい方はこちらをどうぞ。ただ、僕が持ってるのは初版なんで、ひょっとしたら再版分からは訂正されてるのかもしれませんけどね、メガメ。



 ちなみに「リア獣」はこちら。



 酸素が13%に減るのはこれ。



 ケンタウロスα星人が「はい」しか言わないのがこれ。



 アダムスキーが下手な英語で喋るのがこれ。これも僕が持ってるのは初版なので、再版分からは正誤表は入ってないかも。

  


Posted by 山本弘 at 16:21Comments(13)トンデモ

2011年04月23日

「ちきゅう」陰謀説のバカさ加減

(ちょっと気分転換にテンプレート変えてみました)

 ちょっと想像してみてほしい。
 あなたが何も悪いことをしていないのに、ある日突然、ネットで悪評を立てられたら。それもただの悪口ではなく、「あいつは大量虐殺者だ」というおぞましいことを、何十人何百人もの人間が真剣に主張していたら?
 そんな恐ろしいことが、今、この日本で現実に起きている。

「ちきゅう」は2005年7月に完成、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が運用している地球深部探査船である。水深3000メートルの海底から7000メートルの深さまで掘削できる性能を有しており、地球内部の解明を目的とする国際プロジェクト、IODP(統合国際深海掘削計画)の主力船の一隻として調査活動を行なっている。

「ちきゅう」公式サイト
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/jp/index.html

 ところが、東日本大震災の直後、この船に陰謀論者たちが目をつけた。
 この船は地下10キロまで穴を掘れる。今度の地震も、震源の深さは地下10キロだった。この船が穴を掘って原爆を仕掛け、地震を起こしたのだ!――というのだ。
 僕が最初に気づいたのはこのブログ。書かれたのは3月20日である。

Kazumoto Iguchi's blog
http://quasimoto.exblog.jp/14462938/

> 私が不思議に思っていたのは、この地震の生じた時に、掘削船地球がどうしてそんな危ない所にいたのかということである。その理由は分からなかったが、どういうわけか、ちきゅうはかなり地震に近い場所にいた。なぜだろうか? そういえば、NZのクライストチャーチの大地震でも地球掘削プロジェクトが存在した。偶然の一致だろうか?

「ちきゅう」は3月11日、青森県八戸港に停泊中、震災に遭遇、津波を避けるため、見学中の児童を乗せたまま沖合に出て難を逃れた。48人の児童は、翌12日の午後1時半すぎ、海上自衛隊のヘリで救助されている。
(読売新聞・2011年3月12日)
 今回の震災の震源地は宮城県沖で、八戸から200キロ以上離れている。つまり地震が起きた時、「ちきゅう」は「かなり地震に近い場所」になどいなかったのだ。
 ちなみに「ちきゅう」は3月15日から、八戸沖80キロの海域で、メタンハイドレートなどの資源調査のため、海底から2200メートルまで掘り進む計画だった。だが、震災で船体の一部を損傷し、掘削計画は中止されている。

【5月3日訂正】
 資源調査ではなく、地球微生物学をメインテーマに据えた「科学研究航海」だったそうです。
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/jp/Expedition/exp337.html


 今回、48人の児童が乗船していたことでも分かるように、「ちきゅう」は見学や乗船体験を頻繁に受けつけており、大変にオープンな体制である。テレビの取材も何度も入っているし、映画『日本沈没』(2006年)の撮影に使われたこともある。多くの人の注目を集めている中、こっそりと宮城沖に出かけていって穴を掘るなど、とても無理なのである。

 さらに言うと、東日本大震災の震源の深さは「10キロ」ではなく24キロである。つまり、「ちきゅう」の掘削能力の限界を2倍以上も超えているのだ。
 実は震災の発生直後、震源の深さが「10キロ」と発表されたことがある。それはすぐに修正されたのだが、陰謀論者の多くは、いまだに「震源の深さは10キロ」と信じているのだ。
 実は地震の第一報が発せられた時、現地の気象台はまだその全貌を把握しておらず、とりあえず「10キロ」とか「20キロ」というキリのいい推定値を発表することが多いのだ。2008年の四川大地震も、2010年のハイチ地震も、当初の速報では、震源の深さは「10キロ」と発表されていた。しかし、データが集まってきて正しい震源の深さが分かってくると「19キロ」「13キロ」に訂正されている。

 しかも「ちきゅう」の掘削能力が7000メートルというのは公称であり、まだそこまで深く掘ったことは一度もない。
「ちきゅう」公式サイトによれば、「ちきゅう」の2000~3000mの深海での掘削能力は1日に70メートルだそうである。
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/jp/QandA/archives.html
 じゃあ、100日で7000メートル掘れるのか? そんなことはない。深く掘るほど地中の圧力が高まるので、掘削は困難になる。実際は7000メートルを掘ろうとすると、1年半から2年かかると言われている。24キロも掘ろうとしたら(掘れると仮定しての話だが)何十年かかるか分からない。
 ちなみに、これまで掘られた縦穴の深さの世界記録は、旧ソ連の「コラ半島超深度掘削坑」である。1970年から19年間かけて1万2261メートル掘ったという。
 ドイツで行なわれた、KTB(ドイツ大陸科学掘削計画)では、まず1987年9月から1年半かけて4000メートルのパイロットホールを掘り、次に1990年から4年かけて9101メートルを掘ったという。かかった費用は5億2800万マルク(422億円)。
 陰謀論者の中には、1995年の阪神淡路大震災も核爆弾による人工地震だと主張する者がいる。当時、ベクテル社が明石海峡大橋のボーリング工事を行なっていた。この工事に偽装して地中に核爆弾を仕掛けたに違いない……というのだ。
 明石海峡大橋の工事が開始されたのは1988年。KTBと同時期である。阪神淡路大震災の震源の深さは16キロ。陰謀論者の説によれば、ベクテル社はKTBどころか世界記録のコラ半島超深度掘削坑をも上回る深さの穴を、誰にも気づかれずにこっそり掘ったことになる!
 さらに言うと、阪神淡路大震災の震源は、明石海峡大橋から2キロも離れている。
 
「ちきゅう」陰謀説にさらに油を注いだのが、911陰謀論者リチャード・コシミズ(ワールドトレードセンターは「純粋水爆」で爆破されたと主張している人物)の4月18日のブログだ。
http://richardkoshimizu.at.webry.info/201104/article_122.html
大量虐殺兵器搭載の艦船、『ちきゅう』関係者の証言」というひどい題で、こんな動画が紹介されたのだ。

Deep Sea Drilling Vessel CHIKYU Expedition 314-02
http://www.youtube.com/watch?v=Ca9jnd5iJr4

 この動画の中で、「ちきゅう」の掘削操業監督がLWD(Logging While Drilling)というものを紹介している。ドリルパイプの先端近くに各種のセンサーを搭載し、掘削作業と同時に地層の性質を計測するという技術だ。
 その動画の2分あたりのところで、こんな発言がある。

「その他、人工地震等を発生させまして、その地震波を測定するための装置です」

 さあ、これに陰謀論者たちが飛びついた。「ちきゅう」関係者が人工地震を起こしたと認めたぞ! やっぱり陰謀はあったのだ!
 このブログはたちまちコピペされて広まった。検索してみると、実に1400件もヒットする。
 しかし、彼らの誰一人として、この「人工地震」がどういうものなのか検索してみようとはしなかったようだ。
 この人工地震は「ちきゅう」が起こしているものではない。海洋調査船「かいれい」が曳航しているエアガン(高圧の空気を放出することで大きな音を発生させる装置)から発した音波を海底にぶつけ、地層の境界面で反射してきた波を「ちきゅう」が海底に埋めた地震計で検知し、地層の構造を探るというものなのだ。


【参考サイト】
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/jp/special/201003_1.html
http://www.nmeweb.jp/duties_tectonic_mcs2.html
http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/IFREE_center/data/MCS_all.html
http://www.sci.u-toyama.ac.jp/earth/facility_old/facility_old.html

 これは反射法地震探査と呼ばれており、以前から海底の地質調査に使われているものである。このエアガンの発する音波が「人工地震」と呼ばれているのだ。
 ちなみに一回に放出される圧搾空気は最大24リットル。当然、その音のエネルギーは、東日本大震災のエネルギー(TNT爆薬に換算して4億8000万トン)とは比べものにならない。

 上のYouTubeのコメント欄を見ると、エアガンだと説明されてもなお、「エアガンではなくて 純粋水爆で人工地震を起こしたらどうなると思いますか?」と言っている奴がいる。震源の深さの件もそうだが、彼らは正しい情報を耳にする気すらないらしい。
「ちきゅう」はこれまで、紀伊半島沖の熊野灘において、南海トラフ地震発生帯の調査などを行なっている。つまり地震予知につながる研究をやっているのだ。
 そんな人たちが、何の証拠なしに、「大地震を起こして何万人も虐殺した」と非難されている。

 無知であること自体は罪ではない。分からないことがあれば調べればいいことだ。だが、陰謀論者たちはすぐに分かることを調べもせず、無知と怠慢を元に、妄想を膨らませ、あげくに無実の人間を大量虐殺者だと非難するのだ。
 陰謀論者には知識だけではなく、モラルが欠如している。彼らは自分のやっていることが邪悪な行為であることを理解できないのだ。

【4月26日追記】
「ちきゅう」が損傷した経緯が、今月号の『日経サイエンス』に書いてあったので紹介しておく。

> 津波による被害を受けたのは世界最大の科学掘削船「ちきゅう」。大地震が起きた当日は青森県八戸港に接岸、下北半島東方沖での掘削調査の準備を進めていた。大津波警報を受け、急きょ離岸した。万一、大津波で内陸に流されたりすれば、船そのものが大ダメージとなるほか、多くの建物を破壊してしまう事態になるからだ。
> 津波は「ちきゅう」が港内から出る前にやって来た。ブリッジでは操船に全力が注がれたが、全長約200m、総トン数約6万トンの巨大な船体が狭い港内で大きく回転、船尾の推進装置一基が岸壁にぶつかり、脱落した。

 こわっ!
 6万トンの船が大回転って……そんなすごいことがあったのか。光景を想像すると身の毛がよだつ。
 搭乗していた48人の子供たち、生きた心地がしなかっただろうな。
  


Posted by 山本弘 at 12:24Comments(75)トンデモ

2011年04月22日

『魔法少女まどか☆マギカ』最終話感想(ちょいネタバレ?)

 昨夜、『まどか☆マギカ』11・12話を、深夜にリアルタイムで視聴した。
 これから観る人もいるだろから、なるべくネタバレしない範囲で書く。

 この番組、第1話を見た感想は、「なんかちょっと面白そう」という程度だった。
 見続けるうちにだんだん自分の中の評価が上がっていった。「これは傑作だ」と。
 そして、10話を見て圧倒された。これまで納得いかなかったほむらの言動の数々に、実はどんな意味があったのかを知った時、愕然となり、認識を改めた。

「これは『傑作』じゃない! 『大傑作』だ!」と。

 そして、スタッフがこの絶望的な物語にどんな結末をつける気なのかと、いっそうの興味をそそられた。
 だって、考え得る様々なパターンのバッドエンドを10話で見せてしまった以上、真のエンディングはそれを超えるものでなくてはいけないはずだから。
 それはきっと、バッドエンドではないはずだから。

 そして、待った甲斐はあった。

 実は僕は、「時間を遡ってキュゥべえの星をぶっ壊しに行く」と想像していたのである。彼らの存在そのものを消滅させれば、ハッピーエンドになるんじゃないかと。
 ところが、驚いたことに、11話の最初で、その可能性さえも封じられてしまった。インキュベーターや魔法少女の存在は、人類にとって不可欠なものだったことが示されたのである。
 だったらどうするんだ?

 考え得るすべての逃げ道をふさいだ末に、ひとつの解決策が提示される。
 そして、それは世界でただ一人、まどかにだけ可能であることも。
 だからまどかはそれを選択する。
 この物語の主人公は、やはりほむらではなくまどかだった。

 最終話Aパートは、SF的な大風呂敷を広げまくった、とてつもなく壮大な展開。
 詳しくは書かないけど、とにかく圧倒され、感動する。

「ああ、これは僕が好きな話だ」

 観ながら、そう思った。僕はこういう話が好きなんだと。

 でも、Bパートもいいんだよ。
 まどかも、スタッフも、さやかを救いたかったことがよく分かった。
 これはさやかにとっても最良の結末だ。

 これは安直なご都合主義のハッピーエンドではない。
 他の可能性をすべて否定された末にたどり着いた、大きな犠牲を伴うハッピーエンドだ。
 すべての人が幸せになれたわけではない。
 悪は絶えることはなく、魔法少女たちは永遠に戦い続けなくてはならない。
 でも、最後にほむらが見せた微笑みで、すべてが救われる。

 スタッフのみなさん、ありがとう。
『魔法少女まどか☆マギカ』は本当に大傑作でした。
 DVD1~5巻、すでに予約済みです。

 震災の影響で完結が危ぶまれていた作品だが、むしろこんな時代だからこそ、この作品にこめられたテーマが胸を打つ。

「誰かを救いたい」
 その願いや努力が報われない世界は間違っている。




追記:
『まどか☆マギカ』の前にやっていたのが『Dororonえん魔くん』第3話。
 うーん、惜しい!
 EDの後のエピローグが蛇足だ!
 あのまま投げっぱなしで終わってたら、伝説として語り継がれただろうに。
  


Posted by 山本弘 at 15:36Comments(53)アニメ

2011年04月20日

『花咲くいろは』がすごい件

 今期のアニメ、まだ全部は見ていないんだけど、クオリティの点で群を抜いているのは、『TIGER&BUNNY』と『花咲くいろは』である。

『TIGER&BUNNY』の1話はものすごく面白かった。作画も素晴らしいんだけど、スーパーヒーローが8人も出てきて、それぞれの見せ場があって、個性の違いが表現されて、さらにこの世界の設定やら主人公の抱える事情やらまで、30分できちんと説明してしまったのには、まったく恐れ入った。最近、第1話を見ただけでは設定の分からない作品がちょくちょくあるからなあ。これはストレスたまらなくていい。
 ただ、2話と3話で話のテンションが落ちて、ちょっとがっかり。いくらでも燃える話にできそうな設定なんで、これから盛り返してくれることに期待したい。

 それに対し、『花咲くいろは』は1話からまったくテンションが落ちない!
 月曜の夜、リアルタイムで第3話を見てたんだけど、面白いったらありゃしない。まさかのサービス・シーン(笑)では、深夜にもかかわらず、声を上げて笑っちゃったよ。最近、アニメの必然性のない入浴シーンには飽きがきてたんだけど、これはバカすぎて最高。しかもそれが単なるバカで終わらず、ちゃんと伏線になってるのが偉い。
(まあ、常識的に考えると、犯罪者を警察に突き出さずに店で雇っちゃうというのは、かなり無茶な話ではあるんだが)
 考えてみれば、次郎丸の書いた小説の一場面という設定にしたら、エロ同人誌、いくらでも創れるんじゃないか? これはもう、今、日本中で同人作家が夏に向けて燃えてると見たね!

 あ、ちなみに、小説の原稿料は書いてもすぐに振り込まれるわけではありませんよ。普通は掲載された翌月あたり。それはエロ小説でも同じはず。
 あと、最近は原稿用紙に手書きする作家はあまりいないんだけど、まったくいないわけではないので、そのへんはフィクションの嘘として許容範囲かな。

 設定自体は『小公女』みたいな古典的パターンなんだけど、緒花の言動や考え方がとにかく面白い。第一話の冒頭の会話から、ガツンとやられた。

>緒花「ママ、私、ママの子じゃないの。ママの親友が病弱なジャズシンガーで、港にやって来た米兵さんとの間で産んだ子なの」
>母「あー、あたし女友達いないしー。それに子供から告白する台詞じゃないわねえ、それ」
>緒花「残念」

 小説家として言わせてもらうと、これ、すごく計算された上手い会話なんである。たったこれだけで、緒花が現実から抜け出すことを夢見ている少女であること、母親がダメ人間であること、緒花はそんな母親を嫌ってはいるけど憎んではない(憎んでたらそもそもこんな会話はしない)ことなどを、番組開始から40秒で視聴者に分からせてしまうのだ。

 周囲の人間もみんな個性的。今回も、何でもお見通しの女将さんや、菜子の思いがけない一面やらが良かったけど、民子のノート(先週、書いてたのはこれだったのか!)でとどめを刺された。
 古いドラマだと、民子みたいに主人公を嫌うキャラは嫌な奴のはずなんだけど、この番組では、逆に民子の嫌い方が面白すぎて、魅力的に見えちゃうんだよなあ。緒花の「ここまで一生懸命嫌われると、なぜか清々しいものが」という台詞には同意。
 岡田麿里、こんなに上手い脚本書ける人だったんだな。

「アニメでやる必然性がない」と言っている連中がいるけど、そんなことないよ。全編、アニメとしての面白さがあふれ返ってるよ。日常のちょっとした動きがいちいちいいんだよ。
 OPで緒花がたすきを掛けながら階段を駆け下りてくるカットなんて、あまりに素晴らしくて、何度リピートしたことか。民子といっしょに走るカットや、風呂場にブラシかけている時に足がスリップするところなんかも、本当に上手い。
 第1話では、民子が女将に呼ばれて部屋に入ってきて座るまでのカットで、横にずれる緒花の動きや民子の脚の動きが、さりげないけど上手かった。
 第2話では、緒花が味噌汁作るシーンで惚れ惚れした。
 第3話でいちばん感心したのは、岩に打ち寄せる波。こんなリアルな波、これまでアニメで見たことない。CGだと思うんだけど、手描きのように見えるところがすごい。
 そういえば、OPのあの階段はCGなのかしらん? 『TIGER&BUNNY』もそうだけど、最近のアニメは手描きとCGの境目が分からなくなってるな。

 他にもいろんな番組があるんだけど、個人的には『Dororonえん魔くん メ~ラめら』が意外な拾い物。詰めこみまくった膨大な量のレトロネタと、いかにも永井豪チックなお下劣ギャグが、僕らの世代には懐かしくていい感じ。『TIGER&BUNNY』の1話のコンテも切ってたけど、やっぱり米たにヨシトモって上手い人なんだと再確認。

 そうそう、これも忘れちゃだめだ。

『魔法少女まどか☆マギカ』
MBS:4/21(木) 26:40~
 ※第11話・第12話連続放送
TBS:4/21(木) 27:00~
CBC:4/24(日) 26:45~
 ※第10話・第11話・第12話連続放送

 僕は録画もするけど、リアルタイムで最後を見届けるつもり。
  


Posted by 山本弘 at 10:34Comments(15)アニメ

2011年04月17日

『地球移動作戦』文庫版印税を全額寄付します

 5月10日、『地球移動作戦』(早川書房)の文庫版が出版されます。21世紀後半から22世紀初頭にかけての時代を舞台に、迫り来る巨大天体がもたらす大災害を避けるために、人類の力を結集して地球を動かすという話です。

 内容の紹介
http://homepage3.nifty.com/hirorin/earthshift00.htm
(ご注意! これは文庫版の表紙ではありません)

 2年前に出た作品の文庫化なんですが、問題がひとつ。いや、ふたつ。

・最初の方で登場人物が放射線障害で死ぬシーンがあること。
・クライマックスで、日本を高潮と津波が襲うシーンがあること。

 2年前の作品なんで、震災に便乗したわけでも何でもないんですが、今、これで儲けるのは不謹慎なんじゃないか……と悩んだ末に、ひとつの決断を下しました。

『地球移動作戦』文庫版(上・下)の印税を、すべて東日本大震災の義援金として寄付いたします。

「印税」というものをご存知ない方のために、少し解説を。
 本が出版されると、その定価(税抜き)と発行部数と「印税率」というものを掛けた金額が著者に支払われます。これが印税です。

(定価)×(発行部数)×(印税率)=(印税)

 印税率は普通、10%が相場です。オリジナル作品ではなく、マンガやアニメやゲームのノヴェライズなど、他に著作権者がいる場合は、そちらにも配分されますので、小説の作者の印税率は10%よりも小さくなります。
 基準が売り上げではなく発行部数であることに注意してください。発行部数1万部で、5000部しか売れなくても、著者には1万部分の印税が支払われます。逆に、よく売れて増刷がかかった場合、増刷のたびに印税が支払われます。

『地球移動作戦』の場合、予定では上下巻とも660円(税抜き)で、初版1万3000部(計2万6000部)です。

660円×26000部×0.1=1716000円

 となります。実際には源泉徴収が引かれるので、もうちょっと少なくなります。150万円ぐらいでしょう。
 これは初版だけの額です。売れ行きが良くて増刷がかかれば、その分、寄付する額も増えます。みなさんに買って楽しんでいただければ、その分、被災者が助かるのです。
 今年は他にも本が何冊か出る予定なので、収入はそちらでカバーしようと思っています。

 寄付する先はまだ決めていませんが、公明正大に、どこそこにいくら寄付したと、このブログで発表してゆくつもりです。
 多くの方のご賛同をいただくことに期待しております
  


Posted by 山本弘 at 17:51Comments(22)PR

2011年04月17日

『日本トンデモ本大賞』&前月祭

 イベントのお知らせです。
 今年は「日本トンデモ本大賞」も20回目ということで、それを記念して、いつもと少し違うスタイルでやります。

日本トンデモ本大賞2011前月祭

日時:2011年4月24日 日曜日 16時半開場/17時半開催(予定)
会場:新宿ロフトプラスワン
入場料:前売り2,200円/当日2,500円 ※飲食別
チケット販売方法:ローソンチケット(Lコード:34960)&ロフトプラスワン店頭販売
出演者:山本弘 with と学会

日本トンデモ本大賞2011

日時;2011年6月11日 土曜日 12時開場/13時開演(予定)
会場:銀座ブロッサム
出演者:米粒写経、山本弘 with と学会、他豪華ゲスト
入場料:前売り3,800円/当日4,000円
前売り券販売方法:ローソンチケット(Lコード:38189)

 何が違うかというと、恒例のトンデモ本大賞のノミネート作紹介と投票は、前月祭でやってしまいます。と学会エクストラ(会員によるトンデモ物件の発表)もあります。

 本チャンのトンデモ本大賞では何をやるかというと、過去20年間の受賞作の中から、「トンデモ本・ベスト・オブ・ベスト」を選びます!
 いろいろありましたね。フロッピー挿入口に写真入れちゃう人とか、ニャントロ星人の陰謀とか、サタンとの漫才とか、エッチしながらエヴァ論をぶつ小学生とか、人類の月面着陸は無かったとか、平和宇宙戦艦とか。その中から一番トンデモない一冊を投票で決定しようというものです。
 今年の演芸ゲストはお笑いコンビの米粒写経です。

 どちらもローソンで前売り券が発売中ですが、売り切れの際はご容赦ください。
  


Posted by 山本弘 at 17:34Comments(3)

2011年04月06日

花見をやろうよ!

「誰のための自粛なの?」乙武洋匡の"不謹慎厨"に対する思いとは!?
http://www.cyzo.com/2011/04/post_6969.html

 うむ、乙武さん、いいことを言ってくれた。
 僕が震災直後から言っているのは、「被災者のためになることを考えろ」ってことなんだよね。
 たとえば放射能を過度に危険視する風潮。
 医師が被災者の診療を拒否したり、トラック会社や運転手が怖がっているせいで被災地に物資が届かないっていうのは、言語道断である。
 もちろん、規制値以上の放射能が検出された野菜は出荷しない、口にしないというのは当然だ。でも、規制値以下の安全な野菜を「買わない」「食べない」ってはおかしいだろう。
 これから福島や茨城の農家は、風評被害と戦うことが大きな課題となるだろう。「安全だと分かっていても、何となく気味が悪いから食べない」という非科学的な行為、オカルト信仰とでも言うべき根拠のない行動が、被災地の農家の人たちの収入を断ち、彼らを苦しめることになるのだ。なぜそれが分からない?

 イベントに関してもそう。
 大量の電気を使うイベントが節電のために自粛するっていうのは、まだ分かる。関東地方では、大量の仮設トイレが被災地に動員されているために、野外イベントができないところもあるという。それはしかたのないことだ。
 アニメなどでも、震災を連想させるようなシーンは、被災者の心の傷を考えると、しばらく自粛した方がいいのかもしれない。
 でも、明らかにそうじゃないものがある。物理的な事情や、被災者のことを考えてじゃなく、「派手なことをやるのは不謹慎だ」とかいう理由で自粛している例が多い。
 その自粛は、はたして被災者のためになっているのか。
 今、「自粛不況」ということが言われている。多くのイベントが自粛されたせいで、損害を受けた業者、収入が落ちこんでいる業者が多いのだ。
 これから東北地方は、というか日本は復興しなくちゃいけないのに、自粛するあまり経済の活力が失われたら何にもならないだろう。それじゃ被災者も救済できない。

 また、海外からの観光客の激減、日本製品の不買とかも、これからは重くのしかかってくるはず。
 それを吹き飛ばすには、「日本はこんなに元気です」ってアピールするしかないじゃないか。
「放射能? ああ、福島第一原発の近くは深刻ですよね。でも日本の他の地域は安全ですよ。僕らも元気にやってますよ」
 って姿を世界に見せなきゃいけないだろ?

 こっちの意見も、おおむね同意。↓

東京都民よ!「自粛」なんかよして、花見に行こうぜ!
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0402&f=national_0402_011.shtml

 また、被災地の人たちも「自粛しないで」「お花見をやって」と訴えている。

被災地のお酒でお花見を! 過剰な自粛「ちょっと待って」…「二次的な経済被害」の声も
2011.4.5 20:31
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110405/dst11040520360051-n1.htm

> 東日本大震災以降、列島を覆う自粛ムード。しかし、被災地にある酒の蔵元が「酒を飲んで支援につなげてもらえれば」とインターネットの動画サイトに投稿するなど、行き過ぎた自粛に対しては、被災者側から「待った」をかける声も上がり始めている。
> 東京・上野公園などの花見スポットでも宴会自粛が求められているなか、動画サイト「ユーチューブ」に「被災地岩手から『お花見』のお願い」と題した動画が投稿された。
> 投稿したのは、明治35年創業の老舗酒造「南部美人」(岩手県二戸市)の5代目蔵元、久慈浩介さん(38)だ。自粛ムードを「経済的な二次被害」と表現する。
> 久慈さんの会社は震災で酒蔵が損壊。蔵が流され、従業員が亡くなった同業者も多いという。
> 無事だった施設でなんとか再開した酒造り。しかし、待っていたのは蔓延(まんえん)する自粛ムードだった。
> 「行きすぎた自粛は逆に復興を妨げるのでは」。短文投稿サイト「ツイッター」でつぶやくと賛同が相次いだ。このため、「あさ開」(盛岡市)など地元酒造会社と「ハナ★サケ!日本の会」を組織、動画での情報発信を始めた。
> 「花見で東北のお酒を一杯だけ飲み、東北の食材を一品だけ食べるという形で支援していただければ」と久慈さんは話す。
> 厳しい生活が続く避難所からも、過剰な自粛に反対する意見が聞こえてくる。
> 宮城県石巻市の釜小学校で避難生活を送る主婦の斉藤明美さん(42)は「こっちのために我慢して自粛しないでほしい。少しでも日常に近づいた方が気が休まります」と話す。無職の木村俊子さん(69)も「大いにやってもらったらいい」と笑った。
> 岩手県陸前高田市の避難所で避難生活を送る建設業の須藤明さん(55)は「多少は被災者を気に掛けてほしいが、全部そうなると日本経済全体の活気がなくなる。元気な地域に頑張ってもらうことが復興につながると思う」と話した。
> 経済評論家の山崎元さんは「首都圏の消費低迷が続けば、民間企業の投資意欲は冷え込み、被災地の復興を遅らせてしまう可能性すらある」と指摘。「復興には長い時間がかかる。計画停電による制約はあるが、なるべく普段通りに生活し、経済活動を活発に回していくように意識すべきだろう」と話している。

 これがその「お花見のお願い」の動画。↓

南部美人
http://www.youtube.com/watch?v=UY0FtSqrMBc

月の輪酒造店
http://www.youtube.com/watch?v=RcKCKO8ppbA

あさ開
http://www.youtube.com/watch?v=hHucTlBohfg

 こういう雰囲気が盛り上がってきたのは、やっぱり石原都知事(またか!)の「花見禁止令」に対する危機感が大きいと思う。

【東日本大震災】石原知事“花見禁止令” 戦争時の「連帯感は美しい」
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/110330/mca1103302006015-n1.htm

> 死者・不明者だけで2万7000人を超えた大震災。29日の会見で石原氏は、太平洋戦争を引き合いに「同胞の痛みを分かち合うことで初めて連帯感ができてくる」「戦争の時はみんな自分を抑え、こらえた。戦には敗れたが、あの時の日本人の連帯感は美しい」と、都民に対し、事実上の“花見禁止令”を通達した。

「同胞の痛みを分かち合う」? いや、それは変でしょ。僕らが花見を自粛したって、被災地の人たちの痛みが減るわけじゃない。「痛みを分かち合う」んじゃなくて、「どうすれば痛みを減らせるか」と考えなくちゃいけないでしょ?
「あの時の日本人の連帯感は美しい」というのも、まるで今の日本人には美しい連帯感がないかのようである。冗談じゃない。4月2日までに日本赤十字に届いた義援金は約980億円、中央共同募金会に約180億円。関東地方では「ヤシマ作戦」で団結している人たちも多い。
 これが「連帯感」ってもんじゃないのか。
 だいたい、山下汽船の重役の息子で、戦争中も飢えや貧しさと無縁だったであろう人に、「戦争の時はみんな自分を抑え、こらえた」なんて言われてもなあ。その「みんな」の中にあんたは入ってなかったでしょ、とツッコミたくなるんだけどね。
 何度でも繰り返す。被災者のためになることを考えろ。

 だからね、花見をやろう!
 夜桜見物だと電力消費が増えるかもしれないけど、昼間、そこらの公園でやる分には問題ないはず。あるいは屋外でなくても、居酒屋で宴会をするだけでもいい。
 僕は酒は飲めないけど、飲める人はぜひ、岩手のお酒を買って飲んであげてほしい。
 被災者を支援するためにもイベントを自粛しないというのが、真の「連帯感」だと思うのだ。

 ちなみに、うちの町内会では先週、花見があった。焼肉や焼きソバが売られ、その収益は被災地のために寄付されるということだった。
 被災者のためになる花見なら、じゃんじゃんやるべし。
  


Posted by 山本弘 at 15:23Comments(37)社会問題

2011年04月05日

放射線をめぐる誤解・その2

【誤解】
 放射性元素は半減期が長いものほど危険。
 プルトニウムは半減期がとても長いので超危険。

【事実】
 単純にそうとは言い切れません。
 ヨウ素131は崩壊して8日ごとに半分になっていきますので、80日で1/1000、160日で1/100万になってしまいます。
 一方、セシウム137の半減期は30.07年です。80日では0.5%、160日では1%しか減りません。
 しかし、よく考えてみてください。放射線というのは元素が崩壊する際に出るものなのです。
 ヨウ素131が160日間でほとんどすべて崩壊するのに対し、セシウム137が1%しか崩壊しないということは、同じ160日間で比較すると、ヨウ素131が放つ放射線の総量はセシウム137の100倍だということなのです。
 よく報道に出てくる「ベクレル」というのは、放射能の単位で、1秒間に何個の原子核が崩壊するかを意味します。たとえば「水1リットルあたり130ベクレル」というと、1リットルの水の中で1秒間に130個の原子核が崩壊していることを意味します。
 仮にヨウ素131とセシウム137を同じ量だけ水に混ぜたとすると、当然、ヨウ素131の入った水の方が、ベクレルははるかに高くなります。原子の数が同じであるなら、ヨウ素131の方がはるかに危険と言えます。
 プルトニウム239の場合、半減期は2万4110年です。人の一生を100年としても、その間に全体の0.29%しか崩壊しません。160日間ではわずか0.0013%です。同じ原子数のヨウ素131とプルトニウム239を比較すると、ヨウ素131の放射能(ベクレル)の方がはるかに高いということになります。
 使用済み核燃料の中に含まれているプルトニウムの半減期と、その1kgあたりの放射能強度(単位は兆ベクレル)は、次のようになっています。

           半減期   放射能強度
プルトニウム238 87.7年    630
プルトニウム239 2万4100年  2.4
プルトニウム240 6560年    83
プルトニウム241 14.4年    3800
プルトニウム242 37万3000年 0.15
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/23.htmlを基に作成

 同じ量でも、半減期が短いものほど放射能が強いことがよく分かります。
 プルトニウム241が一番危険? いえ、そうとも言えないのです。プルトニウム241のみがベータ線を出し、他の4つはアルファ線を出します。アルファ線はベータ線の20倍もの害を人体に及ぼします。
 量が同じであるなら、おそらく最も危険なのはプルトニウム238でしょう。

 しかし、放射性物質の影響を考える際に重要なのは、物質の量ではなく、放射能量(ベクレル)です。
 ベクレルが同じであれば、プルトニウム239はプルトニウム238よりやや危険と言えます。なぜなら、プルトニウム238の放射線は87.7年で半減するのに対し、プルトニウム239の放射線は、人間の生涯のうちにほとんど減らないからです。
 しかし、プルトニウム239、プルトニウム240、プルトニウム242に関しては、いずれも半減期が人の一生よりかなり長いので、半減期と危険度はあまり関係がないと言っていいでしょう。強いて言うなら、どれも同じぐらい危険です。
 よくプルトニウム239が危険とされているのは、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの中で最も割合が多いからです。

           重量比(%)
プルトニウム238 1.8
プルトニウム239 59.3
プルトニウム240 24.0
プルトニウム241 11.1
プルトニウム242 1.8

 プルトニウムの場合、経口摂取した場合より吸入した場合の方が危険です。消化器に入ってもすぐに排出されますが、肺に入ると、肺の中に長い間とどまって強いアルファ線を出し続けるからです。たとえば1万ベクレルのプルトニウム239の不溶性酸化物の場合、経口摂取した場合の被曝量は0.090ミリシーベルトにすぎませんが、吸入すると83ミリシーベルトにもなります。
 放射性物質の体内被曝を考える際には、その物質の半減期だけではなく、それが体に吸収される量や、体外に排出されるのにかかる時間(生物学的半減期と呼ばれます)も考慮しなくてはならないのです。

「プルトニウムは微量でも危険」というのは事実です。同じベクレルで比較すれば、ヨウ素131よりはるかに危険です。
 しかし、その「微量」というのは、あくまで重量や原子の数ではなくベクレルで見た場合です。また、「半減期が長い方が危険」とも言い切れません。

【誤解】
 CTスキャンやX線撮影の影響を、経口摂取による影響と同列に論じるのはごまかしだ。同じシーベルトでも、放射性物質が体内に入ることによって起きる体内被曝の影響は、体外被曝よりはるかに大きい。
 現在の水や野菜の規制値は、体外被曝しか考慮されていない。規制値以下でも危険だ。

【事実】
 よく誤解されていますが、「シーベルト」というのは放射線の絶対量ではなく、放射線が人体に及ぼす影響を示す数値なのです。
 そのためには、ちょっとややこしいですが、「吸収線量」「等価線量」「実効線量」という言葉の違いを頭に入れてください。東大病院の放射線治療チームの解説が参考になります。

team nakagawa
「全身被ばく」と「局所被ばく」
http://tnakagawa.exblog.jp/15130037/

 よく言われている「胃のX線撮影が4ミリシーベルト」といった数字は、単にX線の強さを表わしたものではなく、体内に浸透したX線が組織や器官に与える影響を計算に入れた数字(実効線量)なのです。
 たとえば体から1mの距離に1万ベクレルのヨウ素131があると、ガンマ線によって1日に0.000014ミリシーベルト被曝します。(ベータ線はほとんど皮膚の表面で止められます)
 ところが同じ1万ベクレルのヨウ素131でも、経口摂取した場合、0.22ミリシーベルト被曝します。こちらは1日あたりや1時間あたりの数字ではありません。摂取した1万ベクレルのヨウ素131が、放射能が減衰するか体外に排出されるかするまでに受ける、被曝量の総量(実効線量)を意味します。
 なぜ経口摂取の方が危険かというと、ベータ線が体内で出続けるからです。外側から浴びたなら皮膚の表面で止められるものが、大きなダメージを与えるわけです。

 経口摂取による実効線量は、元素によっても異なります。

1万ベクレルを経口摂取した場合の実効線量
 ヨウ素131     0.22ミリシーベルト
 セシウム134    0.19ミリシーベルト
 ストロンチウム90 0.28ミリシーベルト
 ラジウム226    2.8ミリシーベルト
 ウラン238     0.076ミリシーベルト
 プルトニウム239  0.090ミリシーベルト

 放射能量(ベクレル)が同じでも、実効線量(シーベルト)が異なるのは、放射線の種類や強度、体内に吸収される量や体外に排出されるスピードが、物質によってみんな異なるからです。
 当然、水や食品の規制値は、こうした元素ごとに、経口摂取による体内被曝の量(実効線量)を元に決められています。「体内被曝が考慮されていない」というのは、ひどい誤解なのです。
 たとえば水に含まれるヨウ素131の規制値は、1リットルあたり300ベクレルです。さっきも書いたように1万ベクレルのヨウ素131を経口摂取すると被曝量は0.22ミリシーベルトになりますから、300ベクレルなら0.0066ミリシーベルトです。
 この数値の水を毎日3リットル飲み続けたとしても、1日の被曝量は0.02ミリシーベルトで、1年間で7.2ミリシーベルトにしかなりません。
  


Posted by 山本弘 at 11:39Comments(14)サイエンス