2011年04月30日

これがイルミナティ・カードだ!

 以前にも「誤解されているスティーブ・ジャクソン」で、カードゲーム『イルミナティ』のことを取り上げたけど、あまりにも間違った情報が流布しているもので、あらためて詳しく解説してみたい。
 1975年からロバート・シェイとロバート・アントン・ウィルソンの伝奇小説『The Illuminatus!』3部作が出版された。世界を裏で操る秘密結社同士が争うという話である。日本にも訳されているのでストーリーは読んでもらえれば分かるけど、相当にふざけた内容だ。



 これが欧米で大ヒット。サブカルの世界で陰謀論ブームが起きた。陰謀論の世界で「イルミナティ」がクローズアップされてきたのは、実はこの小説の影響が大きいらしい。
 このブームに便乗して作られたのが、スティーブ・ジャクソン・ゲームズのカードゲーム『イルミナティ』なのである。初版は1982年。このゲームは大ヒットして、アメリカのゲーム大会〈オリジン〉で、ベスト・サイエンス・フィクション・ボードゲーム賞を受賞した。
 そのヒットを機に、スティーブ・ジャクソン・ゲームズは自社のマークを例の「ピラミッドから覗く目」にした。
 その後も『イルミナティ』は何度も追加キットが発売されたり、改訂版が出たりしている。

 1990年、SJゲームズでテーブルトークRPG『ガープス サイバーパンク』の開発に携わっていた社員の一人が、コンピュータ犯罪に関わっていると疑われ、SJゲームズはシークレット・サービスの強制捜査を受けた。彼らはマヌケなことに、『ガープス サイバーパンク』の原稿を「コンピュータ犯罪のハンドブック」とみなして押収した。
 業務を妨害されたSJゲームズはシークレット・サービスを訴え、勝訴している。

THE TOP TEN MEDIA ERRORS ABOUT THE SJ GAMES RAID
http://www.sjgames.com/SS/topten.html

Steve Jackson Games, Inc. v. United States Secret Service
http://en.wikipedia.org/wiki/Steve_Jackson_Games,_Inc._v._United_States_Secret_Service

 この件はカードゲーム『イルミナティ』とは何の関係もないのだが、なぜかベンジャミン・フルフォードはごっちゃにして解説しており、日本の陰謀論者たちはみんなその間違った解説を鵜呑みにしている。
 ちょっと検索すりゃ分かることなのに。

 1993年、ウィザード・オブ・ザ・コースト社のトレーディングカードゲーム(TCG)『マジック・ザ・ギャザリング』が大ヒット。日本でもその後、『ポケモン』や『遊戯王』のトレーディングカードゲームがヒットするが、そのすべての元祖が『マジック・ザ・ギャザリング』なのである。
 アメリカでも『マジック・ザ・ギャザリング』のヒットに便乗して、各社からTCGが雨後の筍のように発売された。SJゲームも遅れてはならじと、『イルミナティ』をTCG化して1995年に発売する。それが『Illuminati: New World Order』(INWO)なのである。このゲームも1997年の〈オリジン〉でベスト・カードゲーム賞を受賞している。
 ベンジャミン・フルフォードが「このカードが作られたのは1990年である」と書いているのが大間違いであることが分かるだろう。『マジック・ザ・ギャザリング』は世界初のTCGであり、それより前にTCGの企画なんかあるわけがないのだ。
 この他にもSJゲームズは、テーブルトークRPG版の『GURPS Illuminati 』も発売しているし、プレイ・バイ・メールの『Illuminati PBM 』なんてのもあるそうだ。(いちいち解説するのは面倒なんで、詳しく知りたい方は検索していただきたい)

 じゃあ、そのINWOの元になったカードゲーム『イルミナティ』とはどんなゲームだったのか。お目にかけよう。ジャジャーン。

 先日、グループSNEに行った時に借りてきたもの。1988年に出たデラックス版である。
 どのへんがデラックスかというと、箱が大きくなって、カードの紙質が良くなった(笑)。いや、追加カードも入ってますけどね。僕が初めてプレイしたのは確か第二版あたりで、紙質はかなりしょぼかったと記憶している。

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 これがプレイヤーの演じる陰謀組織のカード。おなじみの〈バヴァリアのイルミナティ〉をはじめ、〈クトゥルフのしもべ〉〈チューリッヒのノーム〉〈UFO〉〈バミューダ・トライアングル〉などいろいろ。それぞれに能力が異なり、勝利条件も違う。世界征服が目的のやつとか、混乱が目的のやつとか。

 メインの組織の周囲に、他の組織のカードをこのように並べ、組織をどんどん拡大してゆく。カードに印刷された矢印の向きに従わなくてはいけないので、配置を間違えると伸び悩んでしまう。(上の配置の場合、〈バヴァリアのイルミナティ〉の右側がふさがれてしまっている)
 そうしてパワーや金を蓄え、勝利を目指す一方、他のプレイヤーを妨害するわけである。
 カードにはどんなものがあるか見てみよう。

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 カードの左下にあるのは〈パワー〉〈抵抗力〉〈収入〉である。〈抵抗力〉の大きい組織は支配しにくい。当然、支配する組織が増えれば、そこからの収入も増える。
 右下にあるのは組織の属性で、同じ属性の組織は支配しやすい。〈カリフォルニア〉はLiberalでWeirdでGovernment、〈テキサス〉はViolentでConservativeでGovernmentといった具合。どちらも絵がいかにもって感じでありますな。
 特に〈郵便局〉のカードが笑える。カタツムリですよ。おまけにこのカード、〈収入〉がマイナスなの! 赤字だから、持ってるとお金を払わなくちゃいけないの!

 注目していただきたいのは〈国連〉の弱さ。パワーが1! 抵抗力も低い! 〈マフィア〉や〈南米のナチス〉よりはるかに弱いのである。「国連なんて役に立たないじゃん」というゲームデザイナーの皮肉がこもってますな。
〈フェミニスト〉のカードではブラジャーが燃えている。これ、ウーマンリブ運動を覚えている世代でないと、もう分からないかな。

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 悪そうな顔の人たち。〈議員の妻〉がきつそうだ。
 注目していただきたいのは〈高利貸し〉(ローン・シャーク)の異常な強さ。パワーも抵抗力も収入も最高レベル! すごいよ〈高利貸し〉!

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 ボーイ・スカウトならぬ〈ボーイ・スプラウト〉(さすがにこのへんは実名はまずかったか?)や、〈ビデオゲーム〉〈タブロイド新聞〉〈コミックブック〉など。
 ちなみに〈ビデオゲーム〉や〈タブロイド新聞〉があると〈コンビニエンスストア〉を支配しやすくなる。

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 こんなカードまである。〈SFファン〉〈金魚愛好家〉〈地球平坦論者〉〈トレッキー〉〈葬儀屋〉〈精神科医〉……〈金魚愛好家〉はPeacefulでFanaticらしい。そうなの?

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 出ました! 〈オービタル・マインドコントロール・レーザー〉〈ロボット・シー・モンスター〉! 大バカであります。
 陰謀論者はこういうカードを見ると、「イルミナティはロボット怪獣を持っている!」とか「軌道上からレーザー光線でマインドコントロールされる!」とか真剣に思っちゃうのかな。
 ちなみに、どちらも属性はCommunist。まだソ連があった時代のゲームだからね。
〈L4協会〉というのは、実在する〈L5協会〉のもじり。スペース・コロニーを作ろうと運動していた団体である。

 もうお分かりだろうけど、『イルミナティ』というのは冗談ゲームなんである。世にはびこる陰謀説をパロディにしているのだ。
 だからゲームの内容が陰謀論者たちの妄想と一致するのは当たり前なのだ。もともと彼らの妄想をおちょくって笑い飛ばす意図で作られているのだから。
  


Posted by 山本弘 at 13:05Comments(15)トンデモ