2011年04月05日

放射線をめぐる誤解・その2

【誤解】
 放射性元素は半減期が長いものほど危険。
 プルトニウムは半減期がとても長いので超危険。

【事実】
 単純にそうとは言い切れません。
 ヨウ素131は崩壊して8日ごとに半分になっていきますので、80日で1/1000、160日で1/100万になってしまいます。
 一方、セシウム137の半減期は30.07年です。80日では0.5%、160日では1%しか減りません。
 しかし、よく考えてみてください。放射線というのは元素が崩壊する際に出るものなのです。
 ヨウ素131が160日間でほとんどすべて崩壊するのに対し、セシウム137が1%しか崩壊しないということは、同じ160日間で比較すると、ヨウ素131が放つ放射線の総量はセシウム137の100倍だということなのです。
 よく報道に出てくる「ベクレル」というのは、放射能の単位で、1秒間に何個の原子核が崩壊するかを意味します。たとえば「水1リットルあたり130ベクレル」というと、1リットルの水の中で1秒間に130個の原子核が崩壊していることを意味します。
 仮にヨウ素131とセシウム137を同じ量だけ水に混ぜたとすると、当然、ヨウ素131の入った水の方が、ベクレルははるかに高くなります。原子の数が同じであるなら、ヨウ素131の方がはるかに危険と言えます。
 プルトニウム239の場合、半減期は2万4110年です。人の一生を100年としても、その間に全体の0.29%しか崩壊しません。160日間ではわずか0.0013%です。同じ原子数のヨウ素131とプルトニウム239を比較すると、ヨウ素131の放射能(ベクレル)の方がはるかに高いということになります。
 使用済み核燃料の中に含まれているプルトニウムの半減期と、その1kgあたりの放射能強度(単位は兆ベクレル)は、次のようになっています。

           半減期   放射能強度
プルトニウム238 87.7年    630
プルトニウム239 2万4100年  2.4
プルトニウム240 6560年    83
プルトニウム241 14.4年    3800
プルトニウム242 37万3000年 0.15
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/23.htmlを基に作成

 同じ量でも、半減期が短いものほど放射能が強いことがよく分かります。
 プルトニウム241が一番危険? いえ、そうとも言えないのです。プルトニウム241のみがベータ線を出し、他の4つはアルファ線を出します。アルファ線はベータ線の20倍もの害を人体に及ぼします。
 量が同じであるなら、おそらく最も危険なのはプルトニウム238でしょう。

 しかし、放射性物質の影響を考える際に重要なのは、物質の量ではなく、放射能量(ベクレル)です。
 ベクレルが同じであれば、プルトニウム239はプルトニウム238よりやや危険と言えます。なぜなら、プルトニウム238の放射線は87.7年で半減するのに対し、プルトニウム239の放射線は、人間の生涯のうちにほとんど減らないからです。
 しかし、プルトニウム239、プルトニウム240、プルトニウム242に関しては、いずれも半減期が人の一生よりかなり長いので、半減期と危険度はあまり関係がないと言っていいでしょう。強いて言うなら、どれも同じぐらい危険です。
 よくプルトニウム239が危険とされているのは、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの中で最も割合が多いからです。

           重量比(%)
プルトニウム238 1.8
プルトニウム239 59.3
プルトニウム240 24.0
プルトニウム241 11.1
プルトニウム242 1.8

 プルトニウムの場合、経口摂取した場合より吸入した場合の方が危険です。消化器に入ってもすぐに排出されますが、肺に入ると、肺の中に長い間とどまって強いアルファ線を出し続けるからです。たとえば1万ベクレルのプルトニウム239の不溶性酸化物の場合、経口摂取した場合の被曝量は0.090ミリシーベルトにすぎませんが、吸入すると83ミリシーベルトにもなります。
 放射性物質の体内被曝を考える際には、その物質の半減期だけではなく、それが体に吸収される量や、体外に排出されるのにかかる時間(生物学的半減期と呼ばれます)も考慮しなくてはならないのです。

「プルトニウムは微量でも危険」というのは事実です。同じベクレルで比較すれば、ヨウ素131よりはるかに危険です。
 しかし、その「微量」というのは、あくまで重量や原子の数ではなくベクレルで見た場合です。また、「半減期が長い方が危険」とも言い切れません。

【誤解】
 CTスキャンやX線撮影の影響を、経口摂取による影響と同列に論じるのはごまかしだ。同じシーベルトでも、放射性物質が体内に入ることによって起きる体内被曝の影響は、体外被曝よりはるかに大きい。
 現在の水や野菜の規制値は、体外被曝しか考慮されていない。規制値以下でも危険だ。

【事実】
 よく誤解されていますが、「シーベルト」というのは放射線の絶対量ではなく、放射線が人体に及ぼす影響を示す数値なのです。
 そのためには、ちょっとややこしいですが、「吸収線量」「等価線量」「実効線量」という言葉の違いを頭に入れてください。東大病院の放射線治療チームの解説が参考になります。

team nakagawa
「全身被ばく」と「局所被ばく」
http://tnakagawa.exblog.jp/15130037/

 よく言われている「胃のX線撮影が4ミリシーベルト」といった数字は、単にX線の強さを表わしたものではなく、体内に浸透したX線が組織や器官に与える影響を計算に入れた数字(実効線量)なのです。
 たとえば体から1mの距離に1万ベクレルのヨウ素131があると、ガンマ線によって1日に0.000014ミリシーベルト被曝します。(ベータ線はほとんど皮膚の表面で止められます)
 ところが同じ1万ベクレルのヨウ素131でも、経口摂取した場合、0.22ミリシーベルト被曝します。こちらは1日あたりや1時間あたりの数字ではありません。摂取した1万ベクレルのヨウ素131が、放射能が減衰するか体外に排出されるかするまでに受ける、被曝量の総量(実効線量)を意味します。
 なぜ経口摂取の方が危険かというと、ベータ線が体内で出続けるからです。外側から浴びたなら皮膚の表面で止められるものが、大きなダメージを与えるわけです。

 経口摂取による実効線量は、元素によっても異なります。

1万ベクレルを経口摂取した場合の実効線量
 ヨウ素131     0.22ミリシーベルト
 セシウム134    0.19ミリシーベルト
 ストロンチウム90 0.28ミリシーベルト
 ラジウム226    2.8ミリシーベルト
 ウラン238     0.076ミリシーベルト
 プルトニウム239  0.090ミリシーベルト

 放射能量(ベクレル)が同じでも、実効線量(シーベルト)が異なるのは、放射線の種類や強度、体内に吸収される量や体外に排出されるスピードが、物質によってみんな異なるからです。
 当然、水や食品の規制値は、こうした元素ごとに、経口摂取による体内被曝の量(実効線量)を元に決められています。「体内被曝が考慮されていない」というのは、ひどい誤解なのです。
 たとえば水に含まれるヨウ素131の規制値は、1リットルあたり300ベクレルです。さっきも書いたように1万ベクレルのヨウ素131を経口摂取すると被曝量は0.22ミリシーベルトになりますから、300ベクレルなら0.0066ミリシーベルトです。
 この数値の水を毎日3リットル飲み続けたとしても、1日の被曝量は0.02ミリシーベルトで、1年間で7.2ミリシーベルトにしかなりません。
  


Posted by 山本弘 at 11:39Comments(14)サイエンス

2011年04月05日

放射線をめぐる誤解・その1

 ネットで調べていると、ちょくちょく放射線についてひどい間違いを言っている人がいます。時にはニュース番組でも間違った解説が流れます。
 放射線や放射性物質についての誤解を解くために、こんな解説を書いてみました。

【誤解】
 放射線は距離の2乗に反比例して減少する。
 つまり原発から20km地点の放射線は、10km地点の量の1/4になる。

【事実】
 放射線が「距離の2乗に反比例して減少する」というのは真空中の場合です。大気中では、放射線は空気に吸収されるので、もっと減少率は大きくなります。ベータ線の場合、空気中をせいぜい10mぐらいしか飛びません。ガンマ線も10kmの厚さの空気の壁があれば、ほとんどさえぎられます。(実際、宇宙から降り注ぐガンマ線は、ほとんど地表には届きません)
 現在、福島第一原発から何十kmも離れた場所で検出されている放射線は、空気に乗って漂ってきたヨウ素やセシウムの微粒子から放たれているものです。当然、その量は風や雨に左右されます。原発から離れるほど少なくなることは確かですが、決して距離の2乗には反比例しません。

【誤解】
 ヨウ素131の半減期は8日である。だから8日経てば安全である。

【事実】
 放射性元素は自然に崩壊して別の元素に変わっていきます。半減期というのは、放射性元素の半分が崩壊するのにかかる時間を意味します。
 半減期が8.02日のヨウ素131の場合、ベータ線を放出して崩壊し、このように減少していきます。

0日目 100%
1日目 92%
2日目 84%
3日目 77%
4日目 71%
5日目 65%
6日目 59%
7日目 55%
8日目 50% ←ここが半減期
9日目 46%
10日目 42%

 以下、

16日目 25% ←2回目の半減期
20日目 18%
30日目 7.4%
40日目 3.1%
50日目 1.3%
60日目 0.55%
70日目 0.23%
80日目 0.098% ←10回目の半減期

 仮に、収穫されたある野菜から、規制値の4倍のヨウ素が検出されたとします。8日経っても、それは規制値の2倍にまでしか下がりません。規制値以下に下がるまで、さらに8日、つまり計16日かかるのです。
 また、ヨウ素131はベータ線を出してキセノン131mに変わりますが、これはエネルギーが高くて不安定な状態なので、ガンマ線を出して安定で無害なキセノン131に変わっていきます。その半減期は11.84日です。
「8日経てば安全」などと言うのは、半減期という概念を根本的に理解していない人です。

【誤解】
 X線撮影やCTスキャンによる被曝の影響を、食物や水に含まれる放射性物質による被曝と単純に比較するのは間違っている。
 同じ被曝量でも、一度に被曝するより、体内に入った放射性物質により毎日少しずつ被曝する方が影響が大きい。

【事実】
 前半は正しいのですが、後半は間違っています。
 線量率効果というものがあります。「同じ線量の放射線を受けても、線量率が低い場合(すなわち、長い時間をかけて放射線を受けた場合)ほど、生物効果が小さくなる」というものです。
 放射線は人間のDNAを傷つけますが、この傷は治らないものではなく、少しぐらいの傷なら回復します。ですから、弱い放射線を長期間にわたって浴び続けた場合の害は、一度に浴びた場合の害より少ないのです。
 分かりやすく食塩でたとえてみましょう。
 食塩(塩化ナトリウム)というのは、実は危険な物質です。そのLD50(半数致死量)は、体重60kgの人だと180~210gです。もし200gの食塩をいっぺんに摂取したら、50%ぐらいの確率で死に至るでしょう。
 厚生労働省は、日本人の食塩摂取量の目安を、成人で1日10g未満と定めています。1日に10gぐらいまでなら、食塩を摂取しても害はないというわけです。
 すなわち、同じ200gの食塩でも、いっぺんに摂取するのと、1日に10gずつ20日間にわたって摂取するのでは、影響がまったく違うのです。
 放射線もそれと同じです。1回のCTスキャンで6000マイクロシーベルト被曝するのと、1時間に6マイクロシーベルトずつ42日間(1000時間)にわたって被曝するのでは、後者の方が影響は小さいのです。

【誤解】
「ただちに健康に影響が出るものではない」というのは、いずれ影響が出ることを意味している。

【事実】
 さきほどの食塩の比喩で考えてみましょう。
 1日に10gまでの食塩なら無害です。しかし、ある日たまたま塩辛いものを食べすぎて、20gの食塩を摂取してしまったらどうでしょう?
 その日だけのことなら、べつに影響は出ないでしょう。そう、「ただちに健康に影響が出るものではない」のです。
 しかし、1日に20gずつ、毎日摂取し続けたら? これは塩分の摂りすぎです。いずれ身体に悪影響が出てくるでしょう。
 これはアルコールや砂糖やタバコでも同じことです。たまたまお酒をいつもより少し飲みすぎた日や、甘いケーキを食べすぎた日があっても、ただちに健康に影響が出るものではありません。しかし、そんな生活を毎日続けていたら、いずれ健康を害します。
 規制値を超えた放射線が検出された野菜や水の場合も同じです。規制値の数倍程度の量なら、一度や二度、口に入ったぐらいで、何の影響もありません。しかし、何年にもわたって同じ量を毎日摂取し続けたら、その影響が蓄積して、いずれ害が出るかもしれない。だから念のため、規制値を超える放射線が検出されたら、口に入れないようにしましょう……ということなのです。
 ましてや、放射線量が規制値以下なら、何の問題もありません。

「食塩と放射線をごっちゃにするな!」と怒る人もいるかもしれませんが、そういう人は16世紀の医師パラケルススの言葉を思い出してください。

「すべての物質は毒であり、毒でないものは存在しない。毒と薬の違いはその用量による」

 塩だろうと砂糖だろうと水だろうと酸素だろうと光だろうと、多すぎれば人間に害を及ぼします。
 その点では放射線も同じです。放射線が有害かどうかは、その量によるのです。害があるはずのない微量の放射線まで恐れるのは、非合理な考え方です。
  


Posted by 山本弘 at 11:12Comments(48)サイエンス