2011年03月21日

福島産の農産物をじゃんじゃん食べよう!

「クズども」シリーズを続けようと思っていたのだが、急遽、書かなくてはいけないことができた。
『妖魔夜行 魔獣めざめる』や『妖魔夜行 戦慄のミレニアム』などをお読みになった方ならお気づきかもしれないが、僕はどちらといえば反原発派の人間である。原子炉というのは危険なものだから、これ以上増やすべきではないと思ってきた。
 しかし、放射線に対する一部の人々のひどい無知や、その無知に起因する重大な害は許しておけない。

 今朝のニュースで見たのだか、福島県いわき市では、食料品や日用品が届かなくて大変に困窮しているのだという。
 その大きな原因のひとつは、トラック運転手が放射能を恐れて、いわき市に行くのを拒否してるからなのだそうだ。

 ちなみに、現在のいわき市の放射線レベルは、毎時0.73マイクロシーベルトだという。

 仮に1年間ずっと浴び続けても、0.73×24×365=6400マイクロシーベルト(6.4ミリシーベルト)で、CTスキャン1回分以下である。
 ブラジルのガラパリでは、砂に天然のトリウムが含まれているため、住民は年間10ミリシーベルトほど被曝している。それでも住民はぴんぴんしている。それどころか、放射線がリューマチに効くと言われ、観光地として繁栄しているそうだ。いわき市の放射線量はそれより低いのだ。

高自然放射線地域 ガラパリ(ブラジル)
http://www.taishitsu.or.jp/radiation/guarapari-a.html

 日本でも、ラジウム温泉やラドン温泉など、放射線を売り物にした温泉が日本各地にある。つげ石材株式会社のホームページによると、日本各地のラジウム温泉の放射線測定値は、毎時0.9~2.0マイクロシーベルト程度だという。いわき市の放射線はラジウム温泉以下なのだ。

http://www.tsuge-sekizai.co.jp/product_bedrock01.html

 つまり「いわき市に行くがこわい」と言っている運転手は、「ラジウム温泉に入るのがこわい」と言っているのと同じなのだ。 
 トラック運転手なんて、丸一日も市内にいないはずだ。1時間で0.73マイクロシーベルトなら、24時間では17マイクロシーベルト。胸部X線集団検診による被曝量が50マイクロシーベルトだから、その3分の1である。

「放射能がこわいからいわき市に援助物資を届けない」という行動に、科学的根拠などまったくない。
 科学的にありえないことを信じているのだから、これは「オカルト」と言うべきである。
 無論、放射能を恐れる心理は分かる。しかし、存在しない危険を恐れるあまり、結果的に被災地住民が苦しめられているのだとしたら、由々しき問題である。

 19日、厚生労働省は、福島県で採取された原乳と茨城県で採取されたホウレンソウから、食品衛生法に基づく暫定規制値をこえる放射性物質を検出したと発表した。
 それによると、福島県川俣町の酪農農家の原乳から、規制値の3~5倍のヨウ素を検出、茨城県高萩市など6つの市町村のホウレンソウから、規制値の2.5~3倍のヨウ素、規制値より4.8%多いセシウムを検出したという。
 おそらく、風に乗って飛び散った微量のヨウ素やセシウムが、牛の食べた牧草や、ホウレンソウの表面に付着していたのだろう。

 この記事を読んで不思議に思ったのは、「ヨウ素131の半減期は8日だ」ということが書かれていないことだ。
 ヨウ素131はベータ線を出して崩壊し、キセノン131という安定した無害な元素に変わってゆく。8日でその量は半分に、16日で4分の1に、24日で8分の1に……80日で約1000分の1になってしまう。
 だからヨウ素131が検出されたからって、何の心配もない。すぐに食べずに、何ヶ月か冷凍保存すればいいのだ。しばらく待てば放射線は自然に基準値以下に下がる。牛乳だってチーズなどの長期保存できる製品の原料に回せばいい。
 セシウムは半減期が長いからなかなか放射線値は下がらないが、規制値より4.8%多いだけなんて、洗えば落ちる程度のレベルである。洗って出荷すればいいではないか。

 そもそも、こうした規制値を数倍ぐらいオーバーしたって、何の危険もない。『ニセ科学を10倍楽しむ本』(楽工社)でも書いたが、こうした食品の安全基準値というのは、無毒性量(その食品を一生食べ続けても害が出ない量)をさらに100で割ったものなのだ。つまり基準値を100倍以上もオーバーしたものを何年間も毎日毎日食べ続けて、ようやく害が出るのである。
 基準値を何倍か超えた食品を何回か口にしたぐらいで、健康に影響なんかあるはずがない。
 実際、産経新聞の報道にはこうある。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110319/dst11031923060121-n1.htm
> 放射線医学総合研究所(千葉市)の吉田聡・環境放射線影響研究グループリーダーによると、このホウレンソウの数値を人体への影響を示す単位である「シーベルト」に換算した場合、0・24ミリシーベルトになる。

> 人体に影響があるのは一度に100ミリシーベルトを受けたときとされており、小鉢一人前のホウレンソウを100グラムと仮定すると、今回のホウレンソウは4200人分を口にしないと人体に影響を及ぼさない計算になる。

> 吉田リーダーは「妊婦や子供など、放射性物質の影響が大きいとされる人たちについても、摂取しても問題がないレベルだ」と冷静な対応を呼び掛けている。

> 同様に、ホウレンソウから検出されたセシウム524ベクレルを、シーベルトに換算すると0・0068ミリシーベルトになるという。吉田リーダーは「この程度が人体に入っても、まったく影響はないと考えていい」と話す。

 たとえば、食塩(塩化ナトリウム)の半数致死量は、体重60kgの人の場合、180~210gである。これだけの塩をいっぺんに摂取すると、半数の人が死んでしまうのだ。だからと言って「塩はこわいから買わない」という人はいまい。料理に少し使うぐらいなら安全であることを、誰もが知っている。
 砂糖だって、酒だって、食用油だってそうだ。大量に摂取したら人体に有害である。適量使えばいいだけのことだ。
 放射線だって同じなのである。

 中には「テレビに出ている御用学者の言うことなど信用できない」という人もいる。そんなことはない。僕が見た範囲では、テレビに出演した原子力関係の専門家たちの発言は、いずれもおおむね正確なものだった。その一方、危険を煽り立てているのは、明らかに科学知識の欠如した人たちである。
 たとえば、武田邦彦教授。以前からデタラメなことを言う人だったが、今回もあまりのひどさに唖然となった。
 たとえば「風評被害をなくすために」と言いながら、こんなことを言っている。

http://takedanet.com/2011/03/post_3cdd.html
>例えば、原発の周りは1時間に100マイクロシーベルト、福島市では20マイクロシーベルとぐらいが続きましたから、すでに付近住民は16.8ミリシーベルと福島市の人は2ミリシーベルトの被爆を受けたことになります。

「被爆」や「シーベルと」という誤字を頻発しているのは、よほど慌てて書いているのか。
 言わずもがなのことだが、100とか20というのは、屋外で測定された数値である。ヨウ素131の放つベータ線は、厚さ1.3mmのアルミ板で遮れる。木材でも厚さ1cmもあれば十分である。屋内にいて窓を閉め切り、外の空気を入れないようにしている限り(寒い被災地の住民はそうするしかないだろうが)、被曝線量は屋外よりはるかに少ない。
 周辺住民がそんなに被曝していると主張することこそ「風評被害」である。

http://takedanet.com/2011/03/post_b9fc.html
>白血病になるシーベルトは約400ミリシーベルトで、これは1時間でも1年でもなく、そのままである。だから1時間400マイクロシーベルトのところに1時間いても大丈夫だが、1ヶ月あまり住んでいると白血病になる.

 これも間違い。たとえば宇宙飛行士は、年間500ミリシーベルトまでの被曝を認められている。というのも、大気圏外では、宇宙から降り注ぐ放射線により、1日に約1ミリシーベルトも被曝するからだ。一般人並みの規制値だと、宇宙ステーションに長期滞在できないのだ。
 20代後半の人の場合、年間500ミリシーベルトを被曝すると、ガンで死ぬ確率が3%増えるとされている。日本人の約30%はガンで死ぬが、それが33%になるのだ。
 だから400ミリシーベルトを被曝しても、ガンや白血病になる確率が少し高まるというだけで、必ず白血病になるわけではない。
 その武田教授、何と、ホウレンソウの汚染について、専門家の発言を否定し、「一般人の1年間の限度は1ミリシーベルト」「このホウレンソウは1年に42回しか食べられない」と主張している。

http://takedanet.com/2011/03/18_ba59.html

 冗談じゃない。この表を見てくれ。

自然放射線源による被曝の被ばくの年間実効線量(世界平均)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010501/01.gif



 人間が自然界から被曝する放射線量は、平均して年間2.4ミリシーベルト。
 そのうち、空気中のラドン222やラドン220を吸入することによる内部被曝が1.26ミリシーベルト。
 食品に含まれるカリウム40やウラン及びトリウム系列による内部被曝が0.29ミリシーベルト。
 つまり原発事故なんかなくても、僕らは普段から約1.5ミリシーベルトを内部被曝してるってことなんである。もちろんこれは世界の平均値であり、場所によってはラドンの濃度や食品に含まれる天然放射性元素の量は大きく異なる。10ミリシーベルトを超えるところもあるはずだ。
 それなのに、1ミリシーベルトの内部被曝が危険?
 アホぬかせ。それは普通の空気を呼吸していて摂取する量より少ないぞ。
 恐ろしいことに、かつてウラン濃縮の研究をしていたり、内閣府の原子力委員会に名を連ねていたような人が、放射線被曝についての基礎知識がないのだ!
 さらに「消費者の防御としては、汚染野菜を買わないことしかない」と言っている。この非科学的な発言がどれほどの風評被害を広めるか、現地の農業関係者を苦しめるのか、自覚はあるのだろうか。

 スーパーでは福島県産のコメが売れ残っていると聞いた。福島県だというだけで危険だと思って買うのを控える人が多いらしい。
 何と愚かなことだろうか。そのコメが収穫され、出荷されたのは、原発事故の前に決まっているではないか。
 確かに放射線を警戒する必要はある。しかし、ものすごく少ない放射線を恐れたり、汚染されているはずのない食品まで忌み嫌うのはおかしい。繰り返すが、規制値以下や、規制値を数倍上回るぐらいの放射線で害を受けるなんて、科学的にありえないことなのだ。
 無論、ただ心の中で不安に思っているだけならかまわない。
 しかし、「福島県産の農作物は食べない」とかいう実際の行動に発展するのは、絶対にいけない。スーパーなども販売を見合わせないでほしい。それは現地の農業関係者にダメージを与えることになり、復興を遅らせることになる。
 もちろん出荷前に放射線量を確認し、規制値を上回るものは出荷停止しなくてはならない。しかし、安全と判断されて出荷されたものに関しては、じゃんじゃん食べるべきである。それは大局的に見れば被災地の支援にもつながる。

【追記】
 解説が不正確だという指摘がありましたので、追記・訂正いたします。
 ヨウ素131はベータ線の他にガンマ線も出します。正確に言うと、ヨウ素131がベータ崩壊してキセノン131に変わった直後、まだエネルギーが高くて不安定な状態(キセノン131mと呼ばれます)なので 、ガンマ線を放出し、安定したキセノン131に変わります。
 ガンマ線は透過力が高く、家の壁ぐらいは突き抜けてきますから、屋内にいても被曝します。
 ただ、ベータ崩壊によって発生するベータ線(0.9メガ電子ボルト)に比べると、ガンマ線のエネルギーはかなり小さい(0.1メガ電子ボルト以下)です。それに、屋内にいればベータ線がさえぎられる分、被曝量がかなり少なく抑えられるのは確かです。
 また、キセノン131mの半減期は11.84日(約12日)なので、そのガンマ線は、12日で半分に、24日で4分の1にと、時間が経つにつれて減ってゆきます。118日(約4ヶ月)で1000分の1になります。長期保存が放射能を消すのに有効であることに変わりはありません。
 それにヨウ素が常温で固体であるのに対し、キセノンは常温で気体(沸点はマイナス108.1度)ですので、野菜の表面に付着したヨウ素は、キセノンに変わると空気中に散ってしまうと思われます。(牛乳の場合はキセノンが液体中に溶けてしまうかもしれませんが、そのへんはよく分かりません)

 ここの解説がかなり詳しくて分かりやすいです。↓

蒼風の古都/【医療/仕事】 被曝について2
http://urashio.exblog.jp/12303904

【3/21日 さらに追記】
 ヨウ素131による内部被曝に関して、もう少し詳しく説明します。

原子力資料情報室(CNIC)ヨウ素-131
http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/11.html

>ガンマ線は放出されるが、ベータ線による甲状腺被曝が大きな問題となる。10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.22ミリシーベルトになる。ガンマ線による被曝は甲状腺以外におよぶが、その線量は小さい。
>外部被曝も考えておきたい。1mの距離に100万ベクレルの小さな線源があると、ガンマ線によって1日に0.0014ミリシーベルトの被曝を受ける。

 外部被曝に比べ、内部被曝の影響がとてつもなく高いことが分かります。
 また、これはあくまで「ヨウ素131の経口摂取」のデータであることに注意してください。同じ放射能量でも、セシウム137だともっと少なく、10,000ベクレルあたり0.13ミリシーベルトになります。
 当然、食品衛生法による暫定規制値は、ヨウ素131による甲状腺被曝の影響を考慮して定められています。
 ホウレンソウの場合、食品衛生法による暫定規制値は1kgあたり1200ベクレルですから、規制値ぎりぎりの放射能量のホウレンソウを1kg食べたら、0.026ミリシーベルト被曝します。毎日100グラムずつ食べたとしても、1年間で0.95ミリシーベルトです。
 飲料水の場合の規制値は1リットルあたり300ベクレルなので、規制値ぎりぎりの放射能量の水を1リットル飲むと、0.0066ミリシーベルト被曝します。1日に3リットルずつ飲んだとしても、1年で7.2ミリシーベルトです。
 ヨウ素131が80日で1/1000になることを考えれば、1年間毎日この量を摂取し続けることはありえず、総被曝量はもっと少ないでしょう。規制値以下の水や野菜を口にしても安全ということです。
  


Posted by 山本弘 at 16:21Comments(80)社会問題