2010年05月11日

SFみたいな事件が進行中

 SFもののドラマやマンガやアニメでよくあるのが、モンスターやゾンビが暴れてたり、怪現象が続発しているにもかかわらず、政府が報道を規制し、マスコミも何も報じないため、一般市民の大多数が真相を知らない……という設定。せっかく記者が特ダネをつかんできても、デスクが「上から圧力がかかった」とか言って、闇に葬ってしまうのである。
 僕はかねがね、この設定に疑問を感じていた。いくら政府が「この件は報道するな」と命じたって、すべてのマスコミがそれに従うものだろうか。中には政府に批判的な新聞もあるだろうから、絶対にどこかが報じるんじゃないか、と。

 ところが。

 それが現実に起きていることが明らかになった。

 今、宮崎県で口蹄疫が猛威をふるっている。偶蹄類(牛、水牛、山羊、羊、鹿、ブタ、イノシシなど)にしか感染しない伝染病で、人間には無害(ごくまれに感染することがあるが、家畜の場合ほど重い症状は出ず、死亡例もない)であるものの、感染力が強いため、1匹でも感染した家畜が見つかったら、周囲の牛やブタもすべて殺処分しなければならない。また、感染を拡大しないよう、周辺地域の移動は制限しなくてはならない。
 過去にも何度か日本で口蹄疫が発生したことはあるが、どれも殺処分された家畜の数は数百匹レベルだった。ところが、今回の宮崎県での口蹄疫では、すでに6万2000匹の家畜(うち5万匹以上がブタ)が殺処分されている。
 6万2000匹と数字だけ書いてもピンとこないかもしれない。仮に1匹のブタや牛を地面に横たえると平均1平方m(仔牛や仔ブタも多いだろうから)が覆われるとすると、約6万2000平方メートル。東京ドームの面積が4万6755平方メートルだから、殺処分された家畜の死体を地面に並べると、すでに東京ドームを上回る面積になっているのだ。
 現地では死体を埋める作業が追いつかず、大変なことになっているらしい。
 大事件である。

 中でも批判されるべきは、赤松農林水産大臣の無責任ぶりだ。宮崎県で非常事態が進行中、日本の畜産業の危機だというのに、この人、4月28日から中米に外遊に行ってしまったのである!
 5月8日にようやく帰国したものの、真っ先に駆けつけたのが、宮崎ではなく、栃木県佐野市で開かれた民主党議員の講演会発足式!
 5月10日(発生から3週間目)になってようやく宮崎を訪れたものの、現場には出向かない!
 そのくせ「一部報道では対応が遅いと言われているが心外だ。できることはすべてやっている」と発言。
 そのうえ「自民党議員の同席は認めたが、発言は許してない!」ときたもんだ。

 なんかこれに似た小説があったな……と思ってたら、ついさっき、思い出した。マレイ・ラインスターの「禁断の星」だ。ある惑星で発生した疫病が、硬直化した制度と官僚の無能のせいで、どんどん拡大していってしまうという話。
 あれを読んだ時は、「かなり誇張されている」「現実にはここまで愚かな奴はいない」と思ったけど……現実にあるんだな、こんなことが。

 政府と赤松農林水産大臣の責任については、マスコミはガンガン叩くべきだと思う。
 にもかかわらず、奇妙なことに、新聞もテレビもこの件を大きく扱わない。すべてのワイドショーやニュース番組をチェックしたわけではないが、新聞のテレビ欄を見る限り、ワイドショーがこの事件を取り上げたことはないようだ。
 僕が購読している産経新聞の記事を調べてみたのだが、4月20日に最初に口蹄疫に感染した牛が見つかった時のニュースはそこそこ大きかったものの、以後、感染が拡大しているにもかかわらず、ほとんどのニュースが、数行から十数行の短い記事ばかり。
 5月5日になってようやく、やや大きめの記事が出たが(この時点ですでに2万8000匹が処分されている)、風評被害を心配する声ばかり。被害の正確な実態や、畜産農家の生の声はもちろん、政府の対応への批判など、まったくない。
 5月8日朝刊の2面に、初めて政府批判の記事が載った。でも、その隣の「テレサ・テン 歌声再び」というニュースと、面積は大差ない。赤松大臣の問題については、たった5行しか触れられていない。

 しかもこの記事、前日の東スポの記事の後追いだった(笑)。いやー、この非常事態に、まともな記事を載せてるのが東スポだけってのがすごいわ。
 こっちは5月9日25面のニュース。 一見すると大きい記事のように見えるけど、横の「タクシー備品/ネット売買横行」というニュースより面積が小さい。何でだよ!? その程度の重要性だっていうの?




 ちなみに、今日(5月11日)の産経新聞朝刊には、口蹄疫関連のニュースはまったく載っていなかった。

 なぜこんなにも扱いが小さいのか? マスコミが大きく扱うことで、風評被害が起きるのを恐れているとも言われる。
 だが、風評被害を防ぐ最善の方法は、事実をありのままに報じて、「人には無害」「万が一、口蹄疫にかかった家畜の肉を食べても安全」といったことを周知徹底したうえで、国民の理解と協力を求めることだろう。
 情報隠蔽をやらかすような政府やマスコミの言うことなんて、みんな信用しなくなる。逆にネットでデマが垂れ流されることを心配すべきだろう。
 また、マスコミが現地で取材しないのは、農水省が「現場での取材は、本病のまん延を引き起こすおそれもあることから、厳に慎むよう御協力をお願いします」と指示しているからだとも言われる。しかし、それなら現地周辺で関係者の声を聞いたっていいはずだ。インタビューだけなら電話でもできる。大きく扱わない理由にはならない。
 どうもマスコミは(東スポを除いては)政府の言いなりのようである。
 民主党政権への不信も大きいけど、こんなことがあるんじゃ、マスコミは信用できない。
  


Posted by 山本弘 at 16:30Comments(32)事件