2010年03月17日

「非実在青少年」規制:反対集会に行ってきた

(頭がおかしいとは言った。でも、「悪い」なんて言ってない)
(え……?)
(他人と違うこと、変わったことを考えるのは、おかしいことだけど、悪いことじゃない。そうだろ? 頭がおかしくなった奴が悪いことをすれば、それは悪いことだ。でも、悪いことをしなければ悪くない。サユルはコバルトに対して、ちょっと「いやらしい」ことを考えた。それは確かにおかしい。でも、何も悪いことをしてないじゃないか。そんな簡単なことが何で分からない?)
(いやらしいことを考えるだけで悪いことなんだよ)
(あきれた! びっくりだ! カロハ・ジャジャはそんな風に考えるのか!?)コバルトは頭をぶるぶると振った。(それこそ頭がおかしい!)
――山本弘『ダイノコンチネント 滅亡の星、来たる』より

 3月15日、東京都議会議事堂で開かれた「東京都による青少年健全育成条例改正案と「非実在青少年」を考える」という集会に参加してきた。
 それにしても「非実在青少年」とは、何ともキャッチーなフレーズを提唱していただいたものよ。これまで関心の薄かった層まで、いっぺんに食いついてきたもんなあ。
 まだ「非実在青少年」問題についてよく知らない方のために解説。まずは、以下のリンクを参照していただきたい。

漫画・アニメの「非実在青少年」も対象に 東京都の青少年育成条例改正案
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1003/09/news103.html

東京都青少年保護条例改正案全文の転載
http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-cbc1.html

「非実在青少年」とは、マンガやアニメやゲームに登場する少年少女のこと。そうした実在しない青少年であっても、18歳未満の者の性的表現を規制しようというのである。
 しかし、マンガやアニメやゲームのキャラクターの場合、少女のように見えるけど設定年齢が数百才(神様とか異星人とかエルフとか)という場合はザラにある。その場合、「18歳未満」をどう定義するのかと思ったら……。

>年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの

 なのだそうだ。
「年齢又は」となっていることに注意。設定上は300歳であっても、見かけが18歳未満である場合は「非実在青少年」と呼ぶ……と定義したわけである。
 無論、18歳未満に見えるかどうかを誰が判定するのか分からない。
 たとえば『らき☆すた』のこなたは高校3年で誕生日を迎えたから、設定上は18歳のはずである。しかし、『らき☆すた』のエロ同人誌(もちろん、たくさんあるのだが)を見て、あの絵柄だけから、キャラクターが何歳に見えるかなんて、どうやって判断するというのか?
『とある魔術の禁書目録』の小萌先生は?
『ひだまりスケッチ』は?
『まなびストレート』は?(僕は最初、みんな小学生だと思ってたよ(笑))
 しかも視覚だけじゃなく「音声」も含まれていることに注意。これも「及び」ではなく「又は」だから、姿は別にして声だけが18歳未満に聞こえる場合も該当することになってしまう。
 どうすんだよ、金田朋子。「歩く非実在青少年」だよ(笑)。

 これだけでも、かなりバカっぽい案――マンガとかアニメとかいうものを何も知らない人間が考えたものであることが分かる。
 僕も最初、この改正案について知った時には、「何それ? ネタ?」と疑ったもんである。冗談としか思えなかったのだ。しかし、冗談でもパロディでもなさそうで、それどころか成立する可能性が高そうだと知り、危機感が一挙に高まった。

 ちなみに、うちの13歳の娘に、この条例改正案について話すと、最初は「ばっかでー!」と大笑い。そうだよな。中学生でもバカだって分かるよな。
 でも、それが成立しそうだと言うと、顔色を変えて、

「『ヘタリア』は!? 『ヘタリア』はどうなるの!?」

 いや、本家『ヘタリア』はだいじょうぶ。でも、コミケに氾濫する膨大な数の18禁同人誌はどうなるか分からん。

 この条例改正案がどのように問題か。要点をまとめたサイトがこちら。

弁護士・山口貴士氏のブログ
http://yama-ben.cocolog-nifty.com/ooinikataru/2010/03/post-b89f.html

東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト
http://mitb.bufsiz.jp/

たけくまメモ
精華大学による「東京都青少年健全育成条例改正案」に対する意見書
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-d9eb.html#more

 ちなみに僕の場合、『魔境のシャナナ』の原作を描いている。シャナナは15歳、チイコは12歳。立派に「非実在青少年」である(笑)。しかもエロいシーンが山ほど。小説家で、なおかつ大阪に住んでいても、十分に影響を受ける。


 3月15日、午後2時。東京都議会議事堂2F第二会議室。

 ごらんのように、定員100名の会場に2倍以上の人(おそらく250~300人ぐらい)が詰めかけ、まさに立錐の余地もない状態。
 それでも混乱がまったくなく、みんなおとなしく整然と会議室に入っていったのに感心した。みんなコミケで慣れてるからね(笑)。
 女性参加者が「思ったより男性が多いね」と言っていたのが印象的。「非実在青少年」というから、BLだけが規制対象のようにイメージしていたのかもしれない。そんなことないよ。これは男女関係なく大問題なんだから。
 内容については、こちらのニュースと速報が詳しいので、お読みいただきたい。(手抜きでごめん)

「文化が滅びる」――都条例「非実在青少年」にちばてつやさん、永井豪さんら危機感
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1003/15/news074.html

非実在青少年規制反対集会速報
http://blog.livedoor.jp/nob_kodera/archives/2487793.html

 何といっても、ちばてつや、竹宮惠子、里中満智子、永井豪といった大物が、この問題のために立ち上がってくれたことが心強い。
 竹宮惠子さん――今の若いファンは『地球へ…』ぐらいしか知らんのかも? でも若い頃に読んだ『風と木の詩』には大感動したもんでありますよ。BLものの元祖とも言うべき、名作にして傑作。でも、少年の全裸シーンやベッドシーン(男同士の)が何度もあるので、まず確実に今度の「非実在青少年」条例にひっかかる。

 エロい要素はないけど、『私を月まで連れてって!』も好きだったなあ。宇宙飛行士ダン(26歳)とエスパー少女ニナ(9歳)の恋を描くSFコメディ。最初はニナにつきまとわれるのを嫌がっていたダンだけど、途中からすっかりラブラブになって、ニナのことを「恋人です」と公言したり、ディープキスしたり、いっしょのベッドで寝たりするんだよ。今で言うなら「ニナは俺の嫁」状態。
 2005年に完全版が出たんで買ったけど、今読んでもけっこう萌え萌え。ニナ、かわいいよニナ。

 しかし、この時代(70年代末から80年代前半)は、ロリコンという概念をここまであっけらかんと描けたんだよなあ。

 そして永井豪。『ハレンチ学園』『けっこう仮面』『イヤハヤ南友』『キューティーハニー』などなど、少女のオッパイやパンツや全裸が氾濫する、まさにハレンチな作品をたくさん描いてきた人だ。もちろん当時から有害図書とみなされていて、PTAなどからさんざん攻撃を受けてきたもんだけど。
 でも、本人も言っているように、『ハレンチ学園』があったからこそ『マジンガーZ』も生まれたわけなんだよね。
 集会でいちばん印象的だったのは、明治大学の森川嘉一郎准教授のスライドショーによる説明。

「一般人(規制推進派の議員も含む)にとって、アニメ・マンガというと、『ポケモン』『ドラえもん』『トトロ』」
「彼らは“良いマンガ”と“悪いマンガ”を分けられると思いこんでいる」

 つまり一般人の頭の中では、“良いマンガ”が良い影響を与えて健全な国民を生み、“悪いマンガ”が悪い影響を与えて不健全な国民を生むという図式がある。だから“悪いマンガ”だけを取り除けば良い影響だけが残って、日本のマンガはより発展する……と信じている、というのである。なるほど。
 森川准教授は、文化庁メディア芸術祭受賞作(つまりお上が「良いマンガ」と認めた作品)を描いたマンガ家を何人か例に挙げ、彼らが同人誌で『エヴァンゲリオン』のエロパロを描いていたり、エロマンガを描いたことがあると指摘する。

 ここでスクリーンに映ったのが『シベール』。

 思わず「うわ、懐かし!」と声に出しちゃいましたよ。もはや伝説と化したロリコン同人誌。ネットから拾ってきた画像かと思いきや、中身もスキャンしたっぽい……もしかして、森川准教授の私物ですか!?
 で、その『シベール』に参加していたのが、第34回日本漫画家協会賞大賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞の三冠を獲得した、あのお方であるわけだ。
 そうだよね! 吾妻ひでおは僕らの世代のカリスマだったんだよ。この人の描く美少女マンガ(エロいのもけっこう多かった)はむさぼり読んだもんである。その影響はとてつもなく大きい。永井豪がいなかったら今のロボット・アニメがなかったのと同じように、吾妻ひでおがいなかったら、ロリコン・マンガ、美少女マンガというジャンルも、今ほど興隆していなかったと思う。
『やけくそ天使』なくして『失踪日記』はありえなかった。同様に、『風と木の詩』なくして『地球へ…』はなかったし、『ハレンチ学園』がなかったら『マジンガーZ』もなかった。
 神様・手塚治虫だって、エロいマンガや残酷なマンガをいっぱい描いている。現代の人気マンガ家の中にも、アマチュア時代に同人誌でエロパロを描いていたという人は多い。
 ベストセラー作家を頂点とする、マンガ界という大ピラミッド。その底辺に存在する膨大な量のエロマンガ。だが、それを取り除いたらピラミッド全体が瓦解する……と森川准教授は警告するのである。“悪いマンガ”だけ取り除けると思うのは幻想だ、と。
 まったくその通りだと思う。

 そもそも、そういうシーンがあることが、本当に“悪い”のか。

 たとえば僕の場合、「若い頃、『サーラの冒険』3巻のデルの輪姦シーンに衝撃を受けた」というファンが大勢いる。(厳密にはそういうシーンをストレートに書いたわけじゃなく、父親の口から、過去にこういうことがあった……と語らせただけなんだけど)
 でも、不健全だからって、そのくだりをカットしたら、『サーラの冒険』は今よりも健全で良い作品になったのか……ってことなんである。

 なるわけねーだろ。

 不健全でも描かなくてはならないこともある。『風と木の詩』からヌードとベッドシーンを削除したら、良い作品になるのか?

 何よりも恐ろしいのは、日本の歴史の流れを変えかねないこの条例案に関するニュースが、新聞でもテレビでもほとんど流れないということ。記事が載っても、扱いはごく小さい。だから一般人の多くはこのことを知らない。
 たとえ知っていても、この問題を甘く見ている人が多くいる。

「違反しても即座に逮捕されるわけじゃないんでしょ?」

 この条例の危険性は逮捕されることにあるのではない。たとえ罰則がなくても、東京都から「条例違反」「有害図書」と判定されるだけで、出版社にとって大きなダメージとなるのだ。
 東京には出版社の多くが集中している。当然、有害図書扱いされることを恐れて、自主規制に入る出版社が増えるであろうことも、十分に予想される。そうなれば、マンガ家・作家・ゲーム製作者の多くが多大な影響をこうむる。
 他にも、都内の各種施設が、条例違反になることを恐れ、イベント会場を貸さなくなることも考えられる。
 つまり、コミケが終わる。

「俺はオタクじゃないから関係ないし」
「困るのはアキバのキモオタだけだろ」

 そう思う人には「ニーメラーで検索」と言いたい。

 一方、マンガ・ファン、アニメ・ファンの間では危機感は高い。先のITメディアのニュースはmixiに転載されたのだが、それに対して2700件以上の日記が書かれている。タイトルと最初の数行だけざっと読んでみたが、そのほとんど(99%以上)が規制に反対の意見だった。
「リアル『図書館戦争』」というフレーズ使っている人も多い。言うまでもないが、現実が『図書館戦争』を模倣しているのではなく、『図書館戦争』が現実を模倣しているのである。「良識」ある人々による表現規制が暴走したパラレルワールドの日本が舞台で、業界の人間にしてみればものすごく切実な問題を扱っている。
 他にも『アウターゾーン』の「禁書」というエピソードを連想した人も多いようだ。

 マンガやアニメは現実逃避のように思われがちだが、『図書館戦争』や『アウターゾーン』を知っている人の方が、この問題の危険性に敏感なんじゃないだろうか。むしろ「マンガやアニメを規制すれば世の中は良くなる」と思っている人の方が、現実と空想の区別がついていないように思える。
 
  


Posted by 山本弘 at 21:23Comments(14)社会問題