2016年06月18日

ドラマ『重版出来!』最終回

火曜ドラマ 重版出来!
http://www.tbs.co.jp/juhan-shuttai/

 最近、めっきり地上波でドラマなんて観なくなってたんだけど、この番組だけは例外。毎週、欠かさず観てたし、録画もしてた。
 マンガと小説、ジャンルこそ違うけど、身につまされることが多かったから。

 人気出なくて打ち切り食らったこともあったし。
 いくら新作の企画を提出しても通らないこととか。
 後から出てきた新人にすごい勢いで追い抜かれていったことも何度もある。
 かと思えば、書店さんにプッシュしていただいて、サイン会開かせていただいたことも。
 だから登場人物たちの想いが痛いほど理解できる。

 世の中には「視聴率が裏番組に負けてた」とか言ってけなす奴がいるみたいだけど、そんなこと言ったら『宇宙戦艦ヤマト』だって裏の『ハイジ』に負けて打ち切られたんだし、『カリオストロの城』だって劇場公開時の成績はさんざんだったんだから。
 視聴率や観客動員数なんて、作品の良し悪しを計る指標にはならないんだよ。

 特に先日放送された最終話は、リアルタイムで視聴して、おおいに感動した。

#重版出来 最終回は三蔵山先生が魂の演説!エキストラ参加した漫画家も多数の大盛況【画像】
http://togetter.com/li/987572

 実は裏で努力していた五百旗頭さんのかっこ良さとか、中田伯のサイン会にアユちゃんが来るところとか、マンガ家になる夢を捨てて実家に帰った沼田が、三蔵山先生の受賞記念パーティに酒を搬入してくるところとかも良かったんだけど、やっぱり最高に盛り上がったのは三蔵山先生の受賞記念スピーチ!
 かっこ良すぎるよ、先生!
 第一話で「オワコン」と呼ばれ、落ちこんで引退も考えていた状態からの復活&再スタート宣言。熱い! 熱すぎる!
 観ながらぼろぼろ泣いちゃったよ、こんちくしょう!

 もちろんね、ドラマは現実じゃないことは分かってるんだよ。
 中田みたいに初連載でいきなり人気が爆発するなんてことは、現実になかなかない。
 三蔵山先生みたいに賞をもらえるマンガ家なんて、マンガ家全体のごくごく一部だよ。
 でも、現実にまったくないわけではない。
 夢みたいな話だけど、夢じゃない。ぎりぎり現実にある話。その微妙なバランス感覚、リアリティが見事なんである。

 特に中田の成功は、単に天性の才能ゆえじゃなく、連載を勝ち取るまでの、三蔵山先生の下でのアシスタント経験とか、心とのネームのやり取りの積み重ねとか、地味な部分がちゃんと描かれていたからこそ説得力がある。
 才能さえあれば人気が出るわけじゃないし、ベテランでも気を抜けば凋落してゆく。そんなシビアな世界。
 小説もマンガもね。

 だからこそ三蔵山先生のあの最後の大演説に心打たれちゃうんである。ああ、僕もがんばらなくちゃいけないなと。

 作家を続けてゆく勇気をもらいました。ありがとう。
  


Posted by 山本弘 at 19:27Comments(5)マンガテレビ番組

2015年03月08日

80年代ホビーマンガの素晴らしき世界#2

山本弘のSF秘密基地LIVE#44
80年代ホビーマンガの素晴らしき世界#2

 今回のテーマは、ゲームやプラモやマイコンを題材にした奇想天外なマンガの数々!
『ゲームセンターあらし』『プラモ狂四郎』などのメジャーな作品から、少しマイナーな『3D甲子園 プラコン大作』『ディオラマ大作戦』、さらには誰も覚えていないような超マイナーな作品まで、80年代の子供たちを熱狂させた、想像力あふれるマンガの数々を紹介し、その魅力を語ろうという企画です。
 今回もB級アイテム・コレクターの鋼鉄サンボ氏とともに、濃くて熱くて懐かしいオタク・トークを繰り広げます。お楽しみに!

[出演] 山本弘 鋼鉄サンボ

[日時] 2015年3月27日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] なんば紅鶴
(大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F / Tel. 06-6643-5159)
南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)

 ご予約はこちらへ。
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=87417381
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 1月にやった「80年代ホビーマンガの素晴らしき世界」の第2弾です。前回は『ゲームセンターあらし』『マイコン電児ラン』『マイコンランデブー』などのビデオゲーム&マイコンマンガ、それに『プラモ狂四郎』を途中までやってたところで時間切れになっちゃったもんで、今回はプラモマンガを中心に紹介します。『狂四郎』も好きだったけど、『3D甲子園 プラコン大作』『ディオラマ大作戦』とかも面白いんで、ぜひ紹介したいです。

  


Posted by 山本弘 at 13:44Comments(0)マンガPR

2015年01月21日

初めてマンガの中でコミケを描いた作品は?

 冬コミで『漫画の中の同人誌即売会』という同人誌を買ったのである。
 コミックマーケット、あるいはそれをモデルにした同人誌即売会が作中に出てくるマンガを集めたもので、80年代の『世紀末同人誌伝説』を筆頭に、『編集王』『コミックマスターJ』『こみっくパーティ』『まにぃロード』『げんしけん』『らき☆すた』『ドージンワーク』『まんが極道』などなど、メジャーな作品からかなりドマイナーなものまで、かなりの数の作品が紹介されていた。
 続編の『漫画の中の同人誌即売会plus』では、前の本で洩れていた『クロノアイズグランサー』などをはじめ、『コミケ中止命令』『人類は衰退しました』『ベン・トー』などの小説も取り上げられている。

 しかし。

 ものすごく大事な作品が抜けているのだ。

 吾妻ひでお『スクラップ学園』(秋田書店)である。

 その1巻に収録された「パトスってふんでも死なないのよね」が、同人誌即売会を題材にしているのだ。
『スクラップ学園』は〈プレイコミック〉に1980年1月から連載された作品。僕は当時、リアルタイムで読んでいた。
〈プレイコミック〉は月2回発売。「パトスってふんでも死なないのよね」は18話なので、掲載されたのは、80年の9月か10月頃のはずである(正確に何月何日号かまでは調べがつかなかった)。まず間違いなく、日本で初めて、商業出版物で同人誌即売会を扱った作品である。

 とある休日、公園でくつろいでいたおじさんが、やけに若者が多く通りかかるのに気づき、主人公のミャアちゃん(猫山美亜)に「今日は何かあるのかね」と訊ねる。「同人誌の即売会。あたしも本作ったから売りに行くの」と答えるミャアちゃん。
 若い頃は文学青年だったおじさん、「同人誌」と聞いて勘違いし、興味を抱いて、即売会に出かけてゆくが……という話である。
 即売会の名は〈第30回 ぬめぬめマーケット〉になっている。まだ川崎市民プラザで開催されていた頃、参加者7000人程度の規模の時代と推測される。

 すでにコスプレイヤーがいたことも分かる。一本木蛮さんの『同人少女JB』で描かれていたのが、だいたいこの時代である。

 もちろん吾妻マンガの中の話だから、まともな即売会であるわけがなく、シュールなギャグが続出し、コミケのカオスな雰囲気を戯画化しているのだが。


 この『スクラップ学園』、4話ですでに『ガンダム』ネタを出してきたり、コスプレを題材にした話があったりして、読み直してみるとあらためて、吾妻氏の先見性に驚かされる。
 ちなみに、ミャアちゃんのソックスがいつもよれよれなのは、わざとゴムをカッターでずたずたに切っているからだという設定がある。(『ミャアちゃん官能写真集Part1』参照)
 ずっと後になって、ルーズソックスが流行った時、「そんなのミャアちゃんはずっと前からやってたぞ!」と思ったもんである。

 ちなみにこの「パトスってふんでも死なないのよね」は、調べてみたら、今、山本直樹監修『21世紀のための吾妻ひでお』(河出書房新社)に収録されていることが分かった。やはり名作である「聞かせてよ、くぬやろの歌」とかも入ってるので、初心者にはおすすめである。


 吾妻作品からもう一本、紹介しておこう。
『ミニティー夜夢』(秋田書店)に収録された「愛なき世界」という短編。1984年頃の『マイアニメ』に掲載されたもの。

 ちなみに僕は「おたく」という言葉を、この作品で初めて知った。
 すでにコミケの開催場所は晴海に移っていて、参加者の数も万単位になってきた頃である。描写も『スクラップ学園』とはかなり違い、現在のコミケの雰囲気に近づいている。また、『うる星やつら』がブームだったことも分かる。

 言うまでもなく『コロコロポロン』は吾妻ひでお原作のアニメ。『ぐるぐるメダマン』と『好き好き魔女先生』は吾妻先生がコミカライズを手がけた特撮番組である。
 実際には、この時代にはまだ、こんなマイナー特撮番組の同人誌はなかったはずである。同人誌を作ろうにも資料がなかった。昔の番組が全話DVDになったりCSで放送されたりするような時代ではなかったからだ。
 だからこそ、「さすがにこんな同人誌あるわけない」というギャグが成立していたわけだが……いやー、今となってはギャグじゃないわ。『アステカイザー』とか『トリプルファイター』とか『ボーンフリー』とかの同人誌、普通にあるもんなあ。
 やはり吾妻先生の先見性、恐るべしである。

 ところで、読み返していて気がついたのだが、このシーン、これが同人誌即売会というもので……という基本的な説明がどこにもない。当時の『マイアニメ』の読者にはすでに、コミケというものが説明なしでも理解できたということか。

 そうそう、『漫画の中の同人誌即売会』を作ってる方、もし増補改訂版を出す予定があるなら、川上亮『コミケ襲撃』 と僕の『プロジェクトぴあの』も入れてくださいね(笑)。
  


Posted by 山本弘 at 17:08Comments(8)マンガコミケ

2015年01月21日

平井チルドレンに残された大きな宿題

 前にこのブログで、平井和正・桑田次郎『エリート』のすごさについて語った。

http://hirorin.otaden.jp/e271.html

 平井・桑田コンビは、『8マン』や『超犬リープ』でも有名だが、僕が好きな作品のひとつは、『デスハンター』である。〈週刊ぼくらマガジン〉に1969年から70年にかけて連載された長編だ。(のちに平井氏自身の手によって、『死霊狩り ゾンビー・ハンター』と改名されて小説化される)


 デスとは、宇宙からやって来た緑色の不定形生命体。それに憑依された人間は、姿形は変わらないが、不死身の肉体と怪力を有するようになる。
 カーレーサーの田村俊夫は、シャドウと名乗る謎の人物に勧誘され、カリブ海の孤島で苛酷なサバイバル試験を受ける。多くの犠牲者が出る中、生き延びた俊夫、アラブゲリラのリュシール、中国の秘密工作員・林石隆らは、デスハンターに任命される。その使命は、人間社会にまぎれこんだデスを見つけ出し、抹殺すること……。
 とまあ、これだけならよくある話だが、『デスハンター』のすごさは、人間の側の愚かさや残酷さが、これでもかというほどしつこく描写されること。確かにデスも危険だが、作中での死者の多くは、人間同士の殺し合いによるものなのだ。
 後半、人間の愚行をさんざん見せつけられた俊夫は、ついに人類を見限ってデスとなり、人類を糾弾する側に回る。

「人類こそ本当に荒々しく邪悪な生物だっ。
 人類の敵は決して宇宙人なんかじゃない……
 人類の本当の敵とはほかならぬ人類なのだっ。
 地球人類こそ宇宙に住む本当の意味の化物なんだ」

 ラスト近く、俊夫は「宇宙救済協会」という新興宗教団体を旗揚げし、「不死身の肉体が得られる」という謳い文句で、多くの信者を集める。その目的は、全人類をデスと同化させること。すべての人間がデスになれば、人間同士が殺し合う時代は終わり、素晴らしい世界が生まれるだろう……。
 このあたりの展開は、のちに平井氏自身が宗教団体GLAにのめりこみ、教祖のゴーストライターまで務めた事実を連想させ、未来を予見していたように読めてしまう。

 マンガだけではない。平井氏は小説の中でもしばしば、愚かな人類に対する怒りをストレートに読者にぶつけてきた。
 僕が印象に残っているのは「ロボットは泣かない」という短編。初出は〈SFマガジン〉1963年8月号の「機械が支配する!」というロボット特集号。アシモフ「われ思う、ゆえに…」、ブラッドベリ「長かりし年月」、バウチャー「Q・U・R」、レム「君は生きているか?」などと並んで掲載されている。僕は高校時代に〈SFマガジン〉のバックナンバーで読んだ。
 主人公は中古の女性型アンドロイドを格安で手に入れる。彼女は前の持ち主にひどい虐待を受け、脚の部品が壊れてびっこを引いていた。主人公は彼女をかわいそうに思うのだが、彼の周囲の人間、友人や妻や子供までも、ロボットを露骨に蔑視し、アンドロイドをかばう主人公を白眼視する。しかし、アンドロイドは決して人間を恨まず、ただひたすら迫害に耐え忍ぶ……。
 この話に結末はない。何ら問題が解決されず、救いもないまま、絶望のうちに終わってしまう。

 人類は凶暴で下等な生物──それが平井氏の初期作品を貫くテーマだ。もちろん人間の愚かさや残酷さを描いた小説なんて、SFでなくてもたくさんあったが、平井氏のすごさは、一部の人間の悪行ではなく、人類という種族全体をまるごと否定したことだ。
 それらの作品は“人類ダメ小説”と呼ばれる。
(もちろん、そうした考えも平井氏が世界で初めて思いついたわけではない。たとえば『デスハンター』の中には、明らかにハミルトンの「反対進化」をヒントにしたくだりがある)
 人類の愚かさを浮かび上がらせるために、平井氏は人類よりも高潔な存在を設定する。アンドロイドや宇宙生命体、あるいは狼を。 ヒット作となった『ウルフガイ』シリーズなども、主人公を狼男に設定し、狼を高潔な生物として描いていた。
 もちろん、狼が人間よりも誇り高いというのは、あくまでフィクション、人間の勝手な思いこみである。グループSNEが結成された直後、みんなで動物園の見学に行ったことがあるのだが、檻の中でグデ~ッとなっていて、人間が近づくと嬉しそうに尻尾を振る狼を見て、「狼の誇りはどうした!?」「犬神明を見習え!」と、みんなでツッコんだものである。

(もちろん、平井氏はシリアスな作品ばかり書いてきたわけじゃないこともつけ加えておく。『超革命的中学生集団』は、まさにライトノベルの元祖と呼べるハチャハチャでパワフルな話で、僕は大好きだった。「星新一の内的宇宙」というショートショートもお気に入りである)

 僕らの世代のSFファン・SF作家の多くは、若い頃に読んだ平井氏の“人類ダメ小説”に影響を受けている。
 僕の作品で言うなら、『神は沈黙せず』や『アイの物語』や『UFOはもう来ない』などに出てくる「人類は知的生物としては重大な欠陥がある」とか「人類は実は知的生物じゃない」というビジョンは、やはり平井作品の強い影響下にある。 と言うより、たぶん平井作品を読んでいなかったら、決して書かれなかった作品だと思う。
 やはり平井ファンであることを公言している新井素子さんの初期作品、『いつか猫になる日まで』や『宇宙魚顛末記』とかも、人類はちっぽけでいつ滅びてもおかしくないんだという、ある種ニヒルな考えがベースになっているが、あれなんかも平井氏の“人類ダメ小説”の影響ではないかと思える。
 新井作品の中でいちばん平井っぽいと思うのは『……絶句』。狼ではなくライオンを高潔な存在として描き、人間と対比させていた。

 確かに、“人類ダメ” という認識は刺激的で、腑に落ちるものである。若い頃にハマってしまうのも当然だ。しかし、落とし穴もある。

“人類ダメ”で止まってしまって、その先に進まないのだ。

 人類がダメってことは、『エリート』のアルゴールが言うように、人類を滅ぼせばいいのか? でも、「人類は滅びました。終わり」というのも、結末として安直すぎないか?
 あるいは『デスハンター』の俊夫が言うように、全人類がデスになったら、本当に理想の世界が来るのか? 僕には信じられない。たとえ最終的にそうなるにしても、その過程でおそらく、すさまじい規模の混乱と殺戮が繰り広げられるに違いない。それはダメな人類がやってきたこととどう違う?

 それに「人類なんてダメだよ」と言うのは簡単だけど、そう言う自分自身も人類の一員だという事実を忘れてはいけない。
“人類ダメ”というのは、決して大衆を見下すエリート思想じゃない。自分自身のダメさをも見つめることなのだ。 ダメな人類である自分がそんなに賢明であるわけないと認識することなのだ。
 じゃあ、どうすればいいんだ?
 自分も含めた人類がダメなら、いったいどこに希望がある?

「ロボットは泣かない」が尻切れトンボで終わっていることが象徴するように、平井氏はこの問題に対する明確で現実的な回答を出せなかったんじゃないかと思う。
 その後、新興宗教にハマったりしたのも、自分が提示した“人類ダメ”思想に追い詰められて、脱出口を求めた結果だったのかも……という気もする。ダメな人類を天使様が導いてくださるのではないか、と思ったのかもしれない。
 もちろん僕は(おそらく多くの平井ファンも)、そんなところに本当の救いなんてないと分かっていた。
 だって宗教なんて、ダメな人類が思いついたもののひとつにすぎないじゃないか。宗教が原因でどれほど多くの争いが起き、血が流されてきたことか。(今もまさに、そうしたことが起きている)
 平井氏はなぜ、人類の所業の中で、宗教だけはダメじゃないと思ってしまったのか。それは僕には理解できないことである。

 だから70年代後半以降の平井作品には失望したものの、それでも平井氏の初期作品が(マンガ原作も含めて)素晴らしいものだったことは間違いないし、僕らの世代が大きな影響を受けたことは否定できない。
 作家・平井和正は本当に偉大な人だった。
 僕ら平井チルドレンにとっては、いわば平井氏の提示した“人類ダメ”という概念がスタート地点であって、それをどう克服するかが課題だった。
“人類ダメ”を否定するんじゃない。“人類ダメ”であることを認めたうえで、それを超える回答を提示するのだ。

 新井さんの『ひとめあなたに』はまさにそうした作品だと思う。地球滅亡を前にした人々のドラマを通じて、人間の醜さや欠陥を描きながらも、最後はやはり「生まれてきて良かった」という結論に到達する。
 僕の場合は『神は沈黙せず』がそれで、人間は神と対話することさえできないちっぽけな存在にすぎないけれど、それでも正しく生きてゆくべきだと書いた。『アイの物語』では、人類はダメであっても、人類の生み出した人工知性は我々よりも賢明な存在になり、ヒトが到達できなかった高みを目指すことにした。

 そう、認めよう。人類はダメだ。まともな知的生物なんかじゃない。
 それは今、世界で起きていることを見れば分かる。

「真の知性体は罪もない一般市民の上に爆弾を落としたりはしない。指導者のそんな命令に従いはしないし、そもそもそんな命令を出す者を指導者に選んだりはしない。協調の可能性があるというのに争いを選択したりはしない。自分と考えが異なるというだけで弾圧したりはしない。ボディ・カラーや出身地が異なるというだけで嫌悪したりはしない。無実の者を監禁して虐待したりはしない。子供を殺すことを正義と呼びはしない」
──『アイの物語』

「なぜ地球人は、人間どうしにくみあい、殺しあうのか。つみもない子どもまでまきぞえにしてしまっても平気なほど、戦争がすきなのか。人をにくみ、殺しあうことがすきなのか。地球人のひとりとしてこたえてみよ!」
──『エリート』

 半世紀前にアルゴールの(そして平井氏の)突きつけた問いは、どれだけ時が経とうと、決して色褪せない。
 言ってみれば、僕らは平井氏の残した大きな宿題に、懸命に取り組んでいるのだ。これまでも、これからも。
  
タグ :SFマンガ


Posted by 山本弘 at 15:58Comments(14)マンガ作家の日常

2015年01月20日

「80年代ホビーマンガの素晴らしき世界」

山本弘のSF秘密基地LIVE#42
80年代ホビーマンガの素晴らしき世界

 今回のテーマは、ゲームやプラモやマイコンを題材にした奇想天外なマンガの数々!
『ゲームセンターあらし』『プラモ狂四郎』などのメジャーな作品から、少しマイナーな『3D甲子園 プラコン大作』『ディオラマ大作戦』、さらには誰も覚えていないような超マイナーな作品まで、80年代の子供たちを熱狂させた、想像力あふれるマンガの数々を紹介し、その魅力を語ろうという企画です。
 今回もB級アイテム・コレクターの鋼鉄サンボ氏とともに、濃くて熱くて懐かしいオタク・トークを繰り広げます。お楽しみに!


[出演] 山本弘、鋼鉄サンボ

[日時] 2015年1月23日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] なんば紅鶴
(大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F / Tel. 06-6643-5159)
南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)

 ご予約はこちらへ。
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=85636920
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 申し訳ありません。今月は仕事が忙しく、ブログを更新している時間がなかなかなくて、告知が遅くなってしまいました。
 いつもは月の最終金曜日なんですが、今月は23日です。お間違えないように。つーか、もう今週じゃん!

 だいぶ前に『プラモ狂四郎の世界』という同人誌を出したことがあるんですが、今回はプラモ以外にもマイコンやゲームなどのホビーマンガをいろいろ取り上げます。例によって話すことがいっぱいありそうで、はたして2時間で終わるかどうか……。
 宣伝のために、こんな画像(『マイコン電児ラン』2巻収録の「アップルⅡストーリー」)をツイッターに流したら、すがやみつる先生自身にリツイートされてて、ちょっとあせりました(笑)。


  


Posted by 山本弘 at 18:45Comments(2)マンガPR

2014年02月04日

アングレーム国際漫画祭で何が起きたか

「フランスの国際漫画祭で日本のブースが韓国人とフランス人主催者に破壊されて撤去された」というのは本当なんでしょうか?
http://togetter.com/li/622922

>フランスでの国際アニメフェスティバルで、日本のブースが韓国人により破壊され、会場は韓国人に占領されてしまいました。

「国際アニメフェスティバル」ではなく「アングレーム国際漫画祭」。
「日本のブース」ではなく「日本の民間団体『論破プロジェクト』のブース」。
「韓国人により破壊」ではなく「大会主催者により撤去」。
「会場は韓国人に占領」そんな事実なし。

 とまあ、いきなりすごい誤報から幕を開けた事件である。
 1月30日以来、産経新聞が続けてこの事件を取り上げている。こちらはさすがに大手メディアだけあって、ほぼ事実に近いんだけど……。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140130/erp14013021050006-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140201/kor14020100390002-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140201/kor14020100310000-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140202/erp14020221470004-n1.htm

 しかし、かんじんの、この「論破プロジェクト」というのがどういう団体なのかという説明が、すっぽり抜け落ちている。
 実はこの団体、幸福の科学がからんでいる。
 後援団体のひとつに幸福の科学の名があるし、論破プロジェクトのマスコットキャラクター「トックマくん」自体、もともと2012年の都知事選、2013年の参院選で、幸福実現党が使ったものなのだ。
 現在、後援団体を記載したページは削除されているが、そんなもんで関係がごまかせるわけがない。
 早くも「やや日刊カルト新聞」で暴かれている。

仏・国際漫画祭で出展中止の"日本側団体"は幸福の科学がらみ
http://dailycult.blogspot.jp/2014/01/blog-post_671.html
アングレーム国際漫画祭"論破プロジェクト"への関与、幸福実現党幹部が語っていた
http://dailycult.blogspot.jp/2014/02/blog-post.html

 論破プロジェクトが幸福の科学がらみであることを知っているかどうかで、このニュースから受ける印象はまるで変わるはずだ。
 なぜ産経新聞は論破プロジェクトの背景について何も触れなかったのか? 決まってる。

 産経新聞は幸福の科学から多額の宣伝費を貰ってるから。

 産経新聞を購読してると、紙面の下の方に頻繁に『Liberty』や大川隆法の本の広告がでっかく載っていて、いやでも目につく。映画公開の時には全面広告も載る。この教団はどんだけ潤沢な資金持ってんだって、いつも感心してる。
 つまり産経にとって、幸福の科学は最大手のスポンサーなのだ。うかつに触れられるわけがない。
 それにしても、いつも「マスゴミは信用できない!」とか言ってる連中が、こういうニュースの裏を読まないってのも情けない話である。「フジサンケイグループは韓国に支配されてる」んじゃなかったの?(笑)

 さて、この第一報を目にして、僕は疑問に思った。
 そもそもこういうイベントを政治宣伝の場にすること自体がおかしいわけだけど、だったらなぜ喧嘩両成敗にならず、論破プロジェクトの側だけが撤去されたのか。
 どうやらその理由のひとつは、展示されているマンガの中にハーケンクロイツが使われていたことらしい。
 どんなマンガだったんだろう……と興味を抱いて画像を探してみたら。

http://daisukinipponfrance.over-blog.com/2014/01/3-mangas-sauv%C3%A9s-de-voldemort%E3%80%80%E6%8B%A1%E6%95%A3%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%9E.html

 ……あのさあ。

 慰安婦問題がとか、ハーケンクロイツがとかいう以前に、ツッコませてもらおう。

 これコミPo!じゃん!

 いや、コミPo!が悪いソフトというわけじゃないよ。僕も同人誌作るのに使ったことがあるし。
 でも、仮にも国際漫画祭というイベントに出展する作品をそれで作るって、あまりにも非常識すぎやしないか? 同人誌即売会か何かと間違えてない?
 しかも内容が問題。

>かつてナチスドイツの宣伝相ゲッペルスは言ったわ。
>意訳「ウソも100回言えば、真実になる」


「ゲッペルス」じゃなくて「ゲッベルス」だよ!

参考:
『ゲッベルスは「嘘も100回言えば本当になる」と言った』というのは嘘
http://techpr.cocolog-nifty.com/nakamura/2011/06/post-5fef.html

 確かにゲッベルスは似たようなことは述べてはいるが、「ウソも100回言えば、真実になる」とは言ってない。それは日本人が作った言い回しだと考えるのが妥当だろう。
 また、この作者、欧米ではハーケンクロイツそのものがタブー視されていることを知らなかったらしい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%84

>第二次世界大戦後のドイツでは、学問的な理由を除き、ハーケンクロイツなどのナチスのシンボルを公共の場で展示・使用することは、民衆扇動罪で処罰される。ただし私有地や個人での所持、思想へ禁止はしていない。ドイツを含めて各国のネオナチの一部は現在でも使用している。
>ドイツ軍兵器のプラモデルにおいてはハーケンクロイツがボックスアートでは省略されたり、田の字状になっている他、デカールの形状が2つに分けられ、接着しないとハーケンクロイツの形に見えないようにしている等の対策がされている事が多い。これは鉄道模型(メルクリンなど)でも同様である。 これを受けて、少林寺拳法は1947年の創設以来、シンボルマークや胸章に卍を使用してきたが、ヨーロッパでの普及にあたってハーケンクロイツとの混同を避けるため、2005年から新しいシンボルマークに変更している。また、ポケットモンスターカードゲームのカードに卍が印刷されていたが、欧米のユダヤ人団体の抗議によりデザインが変更された。その他、ウォー・シミュレーションゲームなどではハーケンクロイツそのものを削除してしまう(「Silent Hunter」シリーズほか)他に「二つに分割」、「十字に置き換え(「第三帝国興亡記」)」、「鉄十字に置き換え」など規制をかわしている例も見られるが、日本で製作されたソフトの中にはハーケンクロイツがそのまま入っている作品も存在する。セリエAのサッカークラブ、フィオレンティーナはユニフォーム柄の一部が卍に見える箇所が有るとのクレームで変更に至った。

 ドイツ人はもちろん、ナチスにひどい目に遭った周辺諸国の人々も、ハーケンクロイツに対しては過敏な反応を示す。軽々しく使っていいものではないのだ。
 だから当然、フランスで展示するマンガを作る(「描く」とは言わない。この作者が自分で描いてるわけじゃないから)際には、そうした点に考慮する必要があったはずだ。
 それに続くコマも問題。

>これはプロパガンダの手法として、今でも通用するわ
>たとえば2013年11月、韓国大統領が欧州を歴訪したとき
>各国で日本の悪口を言いふらしてまわったんだけど
>これが続くと韓国の主張がたとえウソでも、世界は本当だと思うようになる


 このページでは「けれどもそれはナチス賛美ではないことは、見れはすぐに分かります。逆の意味です!」と主張しているが、問題はそんなところにないのは明白だろう。
 先に書いたように、「ウソも100回言えば、真実になる」というのはゲッベルスの言葉ではない。だからこの言葉を使うのに、ゲッベルスの名を出す必要も、ハーケンクロイツを出す必要も、まったくなかったはずだ。
 じゃあなぜそんなことをやったかというと、単に韓国大統領の朴槿恵にナチスのイメージをダブらせようという、悪意あるプロパガンダ以外の何物でもない。
 日本なら「こんな表現のどこが悪いんだ」と主張する人もいるだろう。日本では問題にならないかもしれない。
 だが、欧米の基準からしたら完全にアウトだ。たとえ主張が正しくても、表現自体が間違っている。誰かをナチス扱いするというのは、欧米では最大級の侮辱なのだから。
 これはフランスのイベントで、主にフランス人に見せるために作られたマンガだ。当然、フランス人がどう思うかを考慮しなくてはならなかったはずだ。

 誤解されないように言っておくが、僕は慰安婦問題について反論するなと言ってるんじゃない。本当に真実を訴えたいと願うなら、メッセージを伝えたい相手に、正しく伝わるべきものでなくてはいけない、と言っているのだ。
 このマンガの作者や、この展示を許可した論破プロジェクトのスタッフには、「自分たちがやっていることが、フランス人からはどう見えるか」という視点が、根本的に欠落していた。

 産経新聞によれば、アングレーム国際漫画祭のニコラ・フィネ実行委員は、論破プロジェクトの作品を拒否した理由について、「こうした極右思想・団体とは戦う」と述べているという。
「それは誤解だ!」と怒る人もいるだろう。だが、このマンガを見たらそう誤解されてもしかたがない。
 忘れてるかもしれないが、日本はナチスの同盟国だったのである。
 その日本が、隣国に対して重大な人権侵害をやったと非難されている。
 それは濡れ衣かもしれない。だったら、なおさら誤解を招かないよう、穏やかに事実だけを訴えるべきではなかったのか。
 それなのに、こんなギャグ混じりのふざけたマンガを作り、なおかつ他国の国家元首をナチスになぞらえるという悪質なことをやったら、猛烈な反発を食らうのは当たり前ではないか。
 相手を怒らせるようなものを作ってどうする。かえって日本の印象を悪くするだけだろ?

 韓国人がマンガでひどい反日宣伝をやってる? うん、だったら日本人がそれを真似しちゃだめだよね。
 ネットではこういうのを「韓国面に堕ちる」と言うらしい。

 あと、幸福の科学とつるんでるのも、絶対にまずい。
 前に『トンデモノストラダムス本の世界』でも書いたけど、大川隆法教祖の初期の著作『ノストラダムス戦慄の啓示』(幸福の科学出版)は、日本が軍国主義化して世界を支配するのが正しいと(ノストラダムスの霊言という形で)書いたものである。
 何箇所か引用しよう。ちなみに文中に出てくる「怪物」「リヴァイアサン」というのは日本のことである。


 最も愚かなる者がいる。
 ああ、他人のひさしを借りて生業を立てる者よ。
 東洋の淑女よ。
 お前は数限りなく犯され続けてきた。
(中略)
 引き裂かれたる姉妹が、一つになろうとするとき、
 この姉妹の不幸が起きる。
 この由緒ある家柄に育った姉妹は、
 再び怪物に犯され、怪物の子を孕むことになる。
 おまえたちは怪物の子を産むことのみによって、
 生き残ることが許されるのだ。

 その子をもし産まぬというならば、
 おまえたちの命もまたないであろう。
 怪物の子を、もし中絶するというならば、
 おまえたち姉妹は、
 リヴァイアサンに食べられてしまうことになるだろう。
(41~43ページ)

 二十一世紀、リヴァイアサンは無敵となるであろう。
 年老いた鷲の喉を食いちぎり、
 また、力尽きた赤き熊を打ち倒し、
 老いたるヨーロッパを嘲笑い、
 中国を奴隷とし、朝鮮を端女とするであろう。
(159ページ)

 そして、朝鮮の人びとにとって悲劇であることには、
 彼らは、あまりにもリヴァイアサンの近くに
 住みすぎたということだ。
 かつて、リヴァイアサンにその脇腹を抉られ、食べられはしたが
 今度はその尻尾を食べられることになるだろう。
(169ページ)

 朝鮮半島についての部分だけ抜粋したが、実際には、アメリカ、ソビエト(ノストラダムスもソ連が崩壊することは予知できなかったらしい)、イギリス、中国、インドなどなど、世界の国を片っ端から罵倒し、嘲笑し、侮蔑し、恫喝する内容である。
 たとえばノストラダムスの母国であり、この漫画祭の開催地であるフランスについての記述はこんな感じ。


 ああ、そこに踊っているのは老いたる貴婦人ではないか。
 おお、あなたを、もう二、三百年も見なかったような気がする。
 セーヌのほとりであなたが踊るロンドは素晴らしいが、
 ああ、どうしたのだろう。
 その目が落ちこみ、くぼみ、その頬がこけているのは。
 ああ、どうしたのだろう。
 華奢な体が、いつのまにか骨と皮に化けているのは。
(24ページ)

 見よ、見よ、セーヌ川の老処女が狡猾な目を向けて笑う。
 セーヌ川の老女は、鷲と蠍を天秤にかけているのだ。
 昼間は鷲とともにダンスを踊り、夜は蠍とグラスを傾けあう。
 二心ある女に幸福を招くものはない。

 鷲は、この老女を恐れよ。
 このセーヌ川の貴族趣味の香水に惑わされてはならない。
 この老処女は、悪しきことを心に抱いている。
(33ページ)

 この『ノストラダムス戦慄の啓示』は海外に訳されていないらしい。最終章に「諸外国の人びとには読ませてはなるまい」「英語や中国語や韓国語には、決して訳してはなるまい」と書いてあるからだ。
 フランス人が幸福の科学の本を読んだらどういう印象を受けるか、想像してほしい。
「極右思想・団体」と誤解されたくないなら、こんな教団との関係は断ち切るべきである。

参考:
幸福実現党の研究(3)ノストラダムス戦慄の啓示
http://www.kotono8.com/2009/08/28kouhuku03.html

 あと、ぜんぜん関係ないけど、ノストラダムスの詩に出てくるアンゴルモア(Angolmois)というのは、アングーモワ州(Angoumois)とその中心地だったアングレーム(Angoulême)のもじりである。ノストラダムスはヴァロワ=アングレーム家のフランソワ1世を念頭に置いて「アンゴルモワの大王」と書いたと思われる。
  


Posted by 山本弘 at 16:11Comments(32)マンガ

2013年05月24日

『ヒーローズ・カムバック』

『ヒーローズ・カムバック』 (小学館)
http://www.amazon.co.jp/%E6%9C%AC/dp/409185320X

 細野不二彦の呼びかけによって実現した、東北復興支援のための企画。小学館の有名漫画家たちが、かつての人気作品の新作を発表。単行本の収益・印税は、必要経費を除いて、被災した子どもたちや学校に本を届ける活動を続けている「大震災出版復興基金」、および岩手・宮城・福島の各県庁が主催する震災遺児への育英基金に寄付されることになっている。
 収録作品は次の通り。

細野不二彦『ギャラリーフェイク』
ゆうきまさみ『究極超人あ~る』
吉田戦車『伝染るんです』
島本和彦+石森プロ『サイボーグ009』
藤田和日郎『うしおととら』
高橋留美子『犬夜叉』
荒川弘『銀の匙 Silver Spoon』
椎名高志『GS美神 極楽大作戦!!』

 これらの新作に、震災の救助活動を題材にした、かわぐちかいじの読切「俺しかいない~黒い波を乗り越えて~」を加えた、計9本。

 かつて大ファンだった者としては、何といっても『うしおととら』と『GS美神』が嬉しい! どちらも、絵柄はもちろん、話のノリも完璧に昔のまんまで、10年以上の空白をまったく感じさせない。そのうえ、しっかりいい話になってる!
 特に『うしおととら』は、震災そのものを扱ってはいないんだけど、この作品が震災遺児のために描かれたことを意識して読むと、涙が出る出来。黒い列車が津波のメタファーになってるんだよな。
 藤田和日郎、いつでも全力で本気だ。

『ギャラリーフェイク』は、震災に便乗する悪徳美術商を懲らしめるという痛快な内容で、これまた結末でジーンとくる。

『銀の匙』は八軒家の過去の歴史を描く番外編で、これも地味だけどいい話。

 逆にちょっと期待はずれだったのが、『究極超人あ~る』と『犬夜叉』。いつものメンバーを出しただけで終わってしまっている感があるがもったいない。

 あと、目次を見て、「島本和彦、何で『炎の転校生』を描かないんだよ!?」とツッコんだんだが(笑)、あとがきを読んで納得。なるほど、どうしても石ノ森作品を入れたかったわけか。
 しかし、あの名場面を公式にリメイクできて、島本和彦、本望だろうな。


 ……とまあ、ここまでならいい話なんだけど、ここから先はちょっと嫌な話。
 AMAZONでこの本に定価の1.5倍以上の値をつけている中古本業者がいっぱいいる。
 中には950円のこの本に3352円もつけてる業者まで!

http://www.amazon.co.jp/gp/offer-listing/409185320X/ref=dp_olp_used?ie=UTF8&condition=used

 ある業者はこんなことを書いている。

 新品・未読です。全国的に品薄で大変希少な本のため、プレミア価格となりますが価値をご理解いただける方はご検討下さい。(後略)

 嘘つけ!
 昨日も近所の書店に行ったら平積みになってたよ!
 言うまでもなく、これは詐欺商法。新刊書店で普通に買える本を「品薄」と偽り、定価より高く売って差額で儲けるのである。
 AMAZONでは売れている新刊本が品切れを起こすことがよくある(この文章を書いている今も、ちょうど品切れになっている)。もちろん何日か待てば補充されるんだけど、たまたま品切れのタイミングでアクセスした人は、中古本業者の説明に騙され、手に入りにくい希少本だと思いこんでしまうらしい。
 前からよくある手で、僕も前に自分の本でやられたことがある(『アイの物語』が発売半年後ぐらいに3466円にまで値上がりしていた)。
 しかし、よりにもよって、チャリティ本でやるか!?
 この本の中の『ギャラリーフェイク』に出てくる、震災に便乗して儲ける悪徳業者を思い出したよ。

 みなさん、騙されないで! AMAZONで買えなくても書店に行けば売ってますから! たとえ売り切れてても、書店の人に頼んで取り寄せてもらうこともできますから!
  


Posted by 山本弘 at 17:29Comments(7)マンガ

2010年09月06日

『21エモン』に解説書きました

 このたび藤子・F・不二雄大全集『21エモン①』に解説を書かせていただきました。

http://www.shogakukan.co.jp/comics/detail/_isbn_9784091434371

 文庫版でカットされた話が収録されるのはもちろん、当時の『少年サンデー』のカラーグラビア記事も再録! このグラビア、『21エモン』世界の設定(1980年代に第3次世界大戦が起きかけたけど、宇宙人の干渉で回避されたとか)がいろいろ明らかになっているので、ファンにはまことに貴重な内容であります。
 まさか『マクロス』より14年も前に、「世界連邦の設立に反発して各地で反乱が起きる」なんて設定を作ってたとは思いませんでした。
 ちなみにWikipediaには時代設定が「2018年」と書いてあるけど、正しくは「2023年」です。念のため。(21エモンが生まれたのは、2010年1月1日)

 僕は子供の頃にリアルタイムで読んでいたんですが、解説を書くためにあらためて読み直してみて、思っていた以上に先進的な内容だったので驚きました。出てくる宇宙人も面白いんですが(コイケラス星人の話が最高!)、ワープ航法とか、火星のテラフォーミングとか、よくこの時代のマンガでここまで描けたもんだと感心します。
 2巻に収録予定の木星の金属水素鉱山のくだり、リアルタイムで読んでて、ギャグマンガらしからぬ高温高圧高重力の木星の描写がすごく印象的でした。なんかアンダースンの「わが名はジョー」に似てるな……と思って調べてみたら、「わが名はジョー」が訳されたのは『SFマガジン』1968年9月臨時増刊号でした。藤子先生、絶対ヒントにしてる。
 他にもいちいち例を挙げだしたらキリがないんだけど、ギャグ作品なのにいちいち筋が通ってるんですよ。ほんとにSFをよく理解している人間でないと描けません、このマンガは。
  
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Posted by 山本弘 at 19:02Comments(6)マンガ

2010年04月21日

『エスパー魔美』を最初から読んでます

 そう言えば、きちんと全話読んでなかったなあ……と気がついて、現在刊行中の「藤子・F・不二雄大全集」で1から読みはじめた。

 あらためて感心するのは、このSFセンス。とにかく超能力の使い方がうまい。部分テレポートを利用した手術や輸血といったすごい技(これは活字SFでも見たことがない)から、テレキネシスで畳のけばをむしる(笑)というせこい技まで、超能力というものを100%活用しているのだ。
 でもって、「超能力を持った女の子」という設定から、コメディ、サスペンス、ホラー、人情ものと、ありとあらゆるパターンの話を展開してみせる。この引き出しの多さには感心する。並のマンガ家ではまねできない芸当だ。藤子・F先生、やっぱり天才である。

 現在、「藤子・F・不二雄大全集」では3巻まで出ている。僕のおすすめは、2巻収録の「スランプ」と、3巻収録の「凶銃ムラマサ」「サマー・ドッグ」。


「スランプ」は人情話。スランプに陥った魔美と、落ち目になった歌手、交番から銃を奪った男のエピソードがからみ合い、感動的な結末を迎える。安直に魔美の超能力で解決しないところがいい。

「凶銃ムラマサ」は、ガンマニアの少年が作った改造モデルガンをめぐるサスペンス。『魔美』には人間の暗黒面を描く話も多いんだけど、これもそのひとつ。特に199ページの描写はぞくぞくする。

「サマー・ドッグ」は、おそらくファンなら誰もがベストに選ぶエピソード。別荘地で捨てられた犬たちが凶暴化して人間を襲いはじめる話。
 ありがちな結末かと思わせておいて、ラスト1ページでひっくり返すところがたまらない。確かに現実にはこういう結末にならざるをえないわけで……その点では、現実的な問題を最後に超能力であっさり解決してしまう「学園暗黒地帯」よりも、感動は数段上。
 しかも深刻なだけじゃなく、合間にギャグも入っている。普段は真面目な高畑くんが、空を飛ぶ魔美のパンツが見えてデレッとなるところや、決死の覚悟で魔美の料理を口にしたお父さんと高畑くんが「いちおう食えるぞ!! 奇跡だ!!」と泣いて感動するシーンには笑った。
 考えてみれば、最近のマンガやアニメにもちょくちょく見られる女の子の「料理下手」という属性(鍋を爆発させたり、一口食べただけでぶっ倒れる)は、魔美が元祖ではなかろうか。

 高畑くんと言えば、この回で魔美をかばって野犬に立ち向かうシーンの台詞がかっこいい

「まあ見ててよ。生まれて初めて、ぼくは死にものぐるいになるぞ」

 しかもその後、野犬に向かって、

「来るか!! なるべくなら来ないでほしいけど」

 とビビリながら言うのが最高!

 通して見ると、やっぱり高畑くんはいいキャラだと再確認した。
 顔はほぼジャイアンだけど、とにかく頭が良くて、いつも魔美に適切なアドバイスをする。正義感は強いし、思いやりもある。「サマー・ドッグ」も、ラストの高畑くんの優しさが泣ける。
 2人は単なる友達じゃないけど、恋人と言えるほどの関係でもない。この距離感がまた絶妙。
 しかも彼は名台詞が多いんだよね。「高畑くん名言集」が作れそうなぐらい。

 女の子から公園のブランコで、「ね、どっちがはやくこぐか競争しない?」と誘われ、
「どっちがはやく、というのはまちがいだ。競争なら、どっちが高くというべきだ。なぜなら振子の一往復に要する時間は、振子をつるすひもの長さが一定ならつねに不変であるから……」
(「友情はクシャミで消えた」)
 わはは、空気が読めないヤツ!

 エスパーとしての重荷に悩む魔美に、
「大きな力をもつということは、同時に大きな責任をおうことにもなるんだ」
(「どこかでだれかが…」)
 おお、『スパイダーマン』!

 魔美を誘惑する男が、「もしもきみが望むならNASAのロケットをチャーターして、銀河系まで飛んでってもいい!!」とキザなことを言うのを聞いて、
「それは不可能だ。なぜなら、ぼくらの住んでるここが、すでに銀河系だから」
(「恋人コレクター」)
 男に嫉妬したというより、天然で言ってるっぽい。

 しかも超常現象マニアでもあって、よくその方面のうんちくも披露する。これがまた面白い。
 たとえば「大予言者あらわる」というエピソードでは、予言者が現われたという話を聞いてこう言う。

「予知能力なんてのはね、いろんな超能力のなかでも、とくにアイマイなんだ。ニセ者も多い。世界中には何万人もの予言者がいて、しょっちゅういろんな予言をしてるわけよ。だから、ときには偶然当たってもふしぎはないんだ。
 一流の予言者といわれる人だって、けっこう当たったりはずれたりしてる。ところが当たった場合は注目されるけど、はずれた予言なんてみんなすぐ忘れちゃうからね」


 この時代にすでにジーン・ディクソン効果に言及してたとは!
 中でも秀逸なのは、「未確認飛行物体!?」というエピソードで、少年が撮影したUFO写真をひと目でトリックと見破るくだり。この推理が見事。
 ちなみに、「大予言者あらわる」は74年の『ノストラダムスの大予言』ブームの影響もあるが、ハガキを使ったトリックは明らかに椋平虹が元ネタ。「未確認飛行物体!?」は1958年の貝塚事件と1974年の尾道市の事件をヒントにしている。UFOや超能力が好きだった藤子・F先生ならではのエピソードだ。

 しかし、考えれば考えるほど、高畑くんってモテない要素がそろっている。あの顔で、秀才で、理屈っぽくて、おまけに超常現象オタク(笑)。意図的に、当時の少年マンガのヒーロー像の真逆を行った、という感じがする。
 でも、そのいかにもモテなさそうな少年が魔美みたいな子と親しくしているという図式に、当時の男子は親近感を抱いたのではないかな。
 考えてみると、「モテない少年が不思議な能力を持った少女と親しくなる」というのは、まさに今のアニメに氾濫しているパターンではないか。その点でも先見の明があった作品だと思う。
 特に、高畑くんが風呂に入ってるところに、魔美がテレポートで飛びこんでくるシーンなんざ、「あるあるある! 今の萌えアニメにもこういうパターンある!」ってなもんですよ。

 え? 何か忘れてないかって?

 うん、そう。『魔美』を語るうえで、これについて触れないと片手落ちだよね。

 魔美のヌード!

 画家であるお父さんのモデルになっている魔美は、しゅっちゅうヌードを披露するんである。「雪の降る街を」というエピソードなんて、20ページ中14ページにわたって全裸だ。おそらく児童マンガ史上、もっとも多く全裸になったヒロインではないか。
 でも、あっけらかんと脱ぐもんで、ちっともいやらしくないんだよね。自分がモデルになった絵を高畑くんに見られても平然としてるし(高畑くんの方は真っ赤になって絵から目をそらせている)。
 そればかりか、高畑くんが自分のヌードを想像していることをテレパシーで知っても、怒りもせずにこう言う。

「そんなにてれなくていいわよ。あなたぐらいの年ごろの男子が、女子に好奇心を持つのは自然なことだって、少女雑誌の『悩み相談室』にかいてあった」
(「わが友・コンポコ」)

 うーん、何ていい子なんだ魔美! 『エスパー魔美』をどきどきしながら読む男子の心情までフォローしてるね(笑)。

 今、読み直してみて、この作品の唯一の欠点と言うと、やっぱりこの絵柄だろうか。藤子先生の絵柄だからしかたないとはいえ、現代にはちょっと受けない気がする。
 いっそこれ、キャラを現代風に改変してアニメでリメイクしたら受けるんじゃなかろうか? コメットさんがああなったり、猫娘がああなったりするぐらいだから、藤子作品の萌え改変もありだと思うんだけど。 もちろんまったく別人に変えるのは言語道断だけど、1998年版の『ひみつのアッコちゃん』ぐらいのアレンジなら、許容範囲じゃないかしらん。

 もちろん、ストーリーはそのまま! ヌード・シーンもカットしちゃだめ!
  


Posted by 山本弘 at 12:40Comments(20)マンガ

2010年04月21日

今井哲也『ハックス!』

 今日は最近読んでいる新旧のマンガを紹介したい。
 まずは友人から薦められてハマった今井哲也『ハックス!』(講談社)。

 日蚤台高校に入学した阿佐美みよしは、新入生歓迎会で流された自主制作アニメに感動し、アニメーション研究会に入ろうと決意する。だが、そのアニメは10年以上も前に作られたもの。現在のアニメ研は何も活動しておらず、廃部寸前だった。
 しかし、みよしの情熱がみんなを動かしてゆく。最初は彼女の描いたパラパラマンガを撮影してアニメにするだけだったが、しだいに本格的なアニメ製作に移行してゆく。目標は自主制作アニメを作ってニ○動にアップすること!

 設定自体は単純である。しかし、作品にこめられたアニメへの熱い情熱が胸を打つ。
 みよし自身がアニメに関してまったく素人で、(読者とともに)基本的な知識を少しずつ学んでゆくという構成。同時に、パラパラマンガからはじまって、しだいに彼女のアニメ作家としての才能が開花してゆくのが描かれる。それもすごい天才というわけじゃなく、既製のアニメをトレスしているうち、スカートの揺れ方がおかしいことに気づくところなど、地味に才能が光っているのを見せるのが、またいい。
 日常の描写は地味だが、作品のキモであるアニメのシーンは、躍動感あふれるディフォルメされたパースで描かれていて、その落差がアニメの楽しさを表現している。作中作である『アクアス』や『言霊少女』も見たくなってくる。
 特にアニメ制作の過程がわくわくする。キャラを彩色していて、線が切れてるもんで色があふれちゃう場面なんか、「あー、あるあるある」と微笑ましくなる。
 同じような設定の『空色動画』というマンガも読んだけど……作者の方、ごめん。僕は『ハックス!』に軍配上げる。

 ネームも上手い。興奮すると日本語が崩壊するみよしもいいんだけど、2巻CUT.10の、みよしと泰樹と結花の会話なんか、テンポの良さにほれぼれする。
 特に印象的なのは、悪役(?)である映研部長。憎たらしげな表情を見せるわけでも、乱暴な言葉遣いをするわけでもないのに、ものすごく嫌な感じなのだ。特に3巻のラスト近くのシーンの、背中がぞわぞわくるような生理的不快感ときたら……こういうキャラクターを創造できるってすごいわ。
 まだ物語ははじまったばかり。続きが早く読みたい。
  


Posted by 山本弘 at 11:12Comments(1)マンガ