2016年08月11日

コミケ直前情報:『ミステリー・ゾーン』徹底解説

 今年の夏コミのブースは、土曜日(13日)東パ-21b「心はいつも15才」。
 新刊は

『ミステリー・ゾーン』徹底解説


 半世紀前に作られた伝説のSF・ホラー・ファンタジー番組。メイン・ライターのロッド・サーリングはもちろん、レイ・ブラッドベリ、リチャード・マシスン、チャールズ・ボーモントらが脚本を手がけた傑作アンソロジー・ドラマを徹底的に解説。
 全話ストーリー・ガイド(一部を除いてネタバレなし)はもちろん、脚本家と演出家のリスト、日本での放映リスト、翻訳のある原作リスト、幻のエピソード、特撮シーン、登場する怪人・宇宙人、評論「僕らはみんなメープル通りに住んでいる」など、マニアのための1冊!


 あとがきでも愚痴ったんだけど、今、海外ドラマに関する本は日本でたくさん出ているのに、そのどれも、『ミステリー・ゾーン』について、ほんの数行しか触れてないんですよ。まあ『スタートレック』や『謎の円盤UFO』あたりに負けるのはしかたないけど、『事件記者コルチャック』や『悪魔の手ざわり』よりも扱いが小さいなんて信じられない。
 だから今の日本人、プロの作家でさえ、『世にも奇妙な物語』は知っていても、その元ネタである『ミステリー・ゾーン』は知らない。

 あんなにすごい番組だったのに!
 あんなに大きな影響与えたのに!

 それが悔しくて、いったいどういう番組だったのか、その魅力や見どころを現代に語り継ぐ同人誌を作りました。
 B5判、180ページ!
 がんばりすぎだ自分!(笑)

 だって、好きなエピソードがいっぱいあるんだもの。
 ホラーなら「誰かが何処かで間違えた」「ヒッチハイカー」「めぐりあい」「マネキン」「遠来の客」「墓」「No.22の暗示」「亡き母の招き」「二万フィートの戦慄」などなど。
 泣ける感動作なら、「過去を求めて」「弱き者の聖夜」「縄」「遠い道」……もう「遠い道」なんて、何度見てもラストで泣けちゃうんですよ。
「沈黙の世界」「到着」「狂った太陽」「奇妙な奈落」あたりは、最後のすごいどんでん返しに仰天するし、逆に「みにくい顔」「合成人間の家」「生きている仮面」あたりは、オチが途中で読めるけどやっぱり衝撃的だし。
「子供の世界」なんて、原作(ジェローム・ビクスビイの「今日も上天気」)をよくぞここまで見事にアレンジしたなと感心するしかありません。クライマックスで悲鳴あげそうになりましたよ。
 あと、「疑惑」「生と死の世界」「亡霊裁判」「日本軍の洞窟」「暗闇の男」などにこめられた強烈な問題意識。今、こんな重いテーマで、なおかつ面白い話を書ける作家や脚本家が何人いるか。

 とにかく、半世紀前の番組とはいえ、とんでもなくレベルが高くて、今見ても古くない。十分すぎるほど面白いんですよ。
 こんな番組が忘れられるなんて、あってはならない──そう強く思います。

 執筆の途中、資料を調べていて、番組のトリビアもいろいろ知ったんだけど、どこまで入れるかは悩みましたね。やっぱりマニア的に見て面白いものに厳選しようと。
 たとえば演出陣。ドン・シーゲルやリチャード・ドナーやジャック・スマイトが演出してたのは知ってたけど、『キャット・ピープル』や『遊星よりの物体X』や『宇宙水爆戦』の監督がいたっていうのは、恥ずかしながら、今回初めて知りました。そう言えば『宇宙水爆戦』って特撮は注目してたけど監督の名前覚えてなかった(笑)。

 下は裏表紙。この意味、分かる人なら分かりますよね?

  


Posted by 山本弘 at 14:50Comments(0)SFPRコミケテレビ番組

2016年08月06日

『映画で読み解く「都市伝説」』

 うっかりして、6月に出たASIOSの新刊を紹介するのを忘れてました。


第1章 本当にあった「怖い事件」

旧ソ連時代に起きた怪奇事件―「死の山」でいったい何が起きたのか
『ディアトロフ・インシデント』(本城)

「アミティヴィルの恐怖」はまったくのでっち上げだった!
『悪魔の棲む家』(バーソロミュー)

元ネタとなった「悪魔祓い事件」とモデルとなった「少年」の真実
『エクソシスト』(皆神)

「死者との交信手段」「混入するはずのない“何者かの声”」
コラム・EVP(若島)
※心霊映画でおなじみの電子音声現象(EVP)、「録音される謎の音」にまつわる解説。

知っておいたほうが楽しい「アメリカ映画」と「背景知識」
コラム・「キリスト教」の多大なる影響下にあるアメリカ社会(若島)

第2章 「超能力」と「古代文明」

本当に将軍は壁を通り抜けようとして激突した!
『ヤギと男と男と壁と』(山本)


“貞子”のモデルとなった超能力者たちの末路
『リング』(本城)

「エリア51」よりもすごい!ノースカロライナ州ブラウン山の“怪光伝説”
『エリア0<ゼロ>』(加門)

箱舟も洪水も存在しなかった!?
『ノア 約束の舟』(皆神)
※キリスト教圏では最低映画とされながらも箱舟伝説の問題点はクリアしていた意外な映画。

ピラミッドは王の墓ではない……いったい、誰が何の目的で造ったのか
『ピラミッド 5000年の嘘』(ナカイ)

第3章 「呪い」と「心霊現象」

出演者やスタッフたちに襲いかかる呪い
『スーパーマン』/『ポルターガイスト1・2・3』/『プロフェシー』/『アトゥック』

場面に映りこんだ心霊現象
『the EYE』/『青木ヶ原』/『感染』/『着信アリ』/『サスペリア』(この章すべて本城)

第4章 妖しき「陰謀」の世界

アクションコメディからサイコスリラーまで「MKウルトラ」が生んだ作品群
『エージェント・ウルトラ』『ジェイコブス・ラダー』(原田)
※「MKウルトラ」とはCIAがかつて実際に行っていた秘密プロジェクト。

映画は現実より奇なり……現実は陰謀より奇なり
『カプリコン・1』(寺薗)

月面で起きる「ポルターガイスト現象」
『アポロ18』(寺薗)

「シオン修道会」という組織は妄想の産物だった!?
『ダ・ヴィンチ・コード』(皆神)

戦後の日本経済を漂流した怪伝説―「M資金」をめぐる謎
『人類資金』(原田)

巨大昆虫に投影された「恐怖」の暗喩の正体
コラム・「空を見ろ! アリだ! カマキリだ!!」(原田)

第5章 「UFO」と「宇宙人」

“ロズウェル”に本当にUFOは墜ちたのか?
『インデペンデンス・デイ』(山本)


アメリカの人気テレビシリーズに囁かれる“ある噂”
『V』(原田)

「ナチス」はハイテク技術を有するオカルト集団だったのか
『アイアン・スカイ』(横山)

“UFOロア”が散りばめられたSFコメディ
『MIB』(秋月)
※“宇宙人あるある”の解説が面白いです。

地球外知的生命体からのメッセージは届いているのか……?
『コンタクト』(皆神)

映画の内容は「すべて事実」」に基づいている!?
『フォース・カインド』(秋月)

月面着陸はNASAがキューブリックに撮らせたヤラセだった!?
『2001年宇宙の旅』(山本)


宇宙人はかつて、尖った鼻、尖った耳、そして、腕は毛むくじゃらだった
コラム・宇宙人〝グレイ〟がついに脱ぐまで(山本)


第6章 遥かなる宇宙

NASAの彗星探査機はこの映画のタイトルをパクった!?
『ディープ・インパクト』(寺薗)

地球の危機を救うには、もっと安全で確実な方法があった!?
『アルマゲドン』(寺薗)

NASAはなぜ制作協力を拒否したのか?
『ゼロ・グラビティ』(寺薗)

それでも、人類は「赤い星」を目指す―
『オデッセイ』(寺薗)

 僕の担当した原稿は4本。『ヤギと男と男と壁と』『インデペンデンス・デイ』『2001年宇宙の旅』は、前に別の本に書いた原稿を書き直した再利用で、ちょっと心苦しい(^^;)。
 完全新作は「コラム・宇宙人〝グレイ〟がついに脱ぐまで」。グレイ・タイプの異星人のイメージがどこから生まれてどう進化し、現代の「宇宙人」のイメージのスタンダードになっていったかを論じたもの。
 SF映画とアブダクション体験者の証言のフィードバック関係というのは、意外に知られてないんじゃないでしょうか。最近の若い人は、宇宙人は昔からグレイ一色だったと勘違いしていそうで、こういうことはやっぱり誰かがきちんと文章にして残しておかないといけないと思いました。
  


Posted by 山本弘 at 21:05Comments(2)オカルトPR都市伝説

2016年08月06日

「イルミナティカード」でテレビに出たのはいいけれど……

 これまでこのブログや本で何度も「イルミナティカード」(正式名称「Illuminati: New World Order」)の嘘を暴いてきた。

http://hirorin.otaden.jp/e164900.html
http://hirorin.otaden.jp/e175801.html
http://hirorin.otaden.jp/e258455.html
http://hirorin.otaden.jp/e261607.html

http://www.asios.org/books.html#b14


 こんなデマが広がったら危険だな……とは思っていたが、まさか大量虐殺をやる奴まで現れるとは、まったく予想外だった。
 この手紙のことが報じられたら、僕はすぐにツイッターでも情報を流した。

大量虐殺事件の容疑者が言及していた「イルミナティカード」とは何か?
http://togetter.com/li/1005428

 それを見たらしく、TBSから取材が来た。
 以下は7月29日放映のTBS『ニュース23』の内容。TBSの動画ニュースから引用させていただいた。(現在は掲載期間が終了したので削除)



障害者19人殺害 “犯行予告”に同封の紙入手

 植松容疑者が衆議院議長にあてた犯行予告ともとれる手紙には、7枚の紙が同封されていました。不可思議なカードが印刷されているものが5枚、イラストが2枚。「NEWS23」が独自に入手しました。
 障害者施設の入所者19人が殺害された事件で逮捕された植松容疑者。「イルミナティ」と書かれたカードにどんな意味が。

 「イルミナティが作られたイルミナティカードを勉強させていただきました」(植松容疑者が衆院議長に送った手紙より)

 イルミナティとは秘密結社の名称のこと。この「イルミナティ・カード」を持っている人物に私たちは接触することができました。SF作家でゲームに詳しい山本弘氏。アメリカで90年代に発売されたカードゲームで、秘密結社同士が組織の拡大を競い合うゲームだと説明します。しかし・・・

 「もう何年も前からカードが秘密結社の“陰謀の計画書”というばかな説が流れている」(SF作家 山本弘氏)

 きっかけは、2001年のアメリカ同時多発テロでした。

 「カードの中にニューヨークのツインタワーが爆発する絵がある。それを見た人が“現実の予言”と騒ぎ、注目を集めた。陰謀論者が“世界征服をたくらむ陰謀組織の計画書だ”と・・・ありえない」(SF作家 山本弘氏)

 植松容疑者が衆議院議長にあてた手紙。その中に、まさにそのカードのコピーも含まれていました。

 「隕石衝突、疫病、飢餓・・・あらゆる災害や事件のカードがある。現実と一致するのは当たり前」(SF作家 山本弘氏)

 一方、植松容疑者が議長にあてた手紙には、ゲームの中で“伝説の指導者”とされる人物のカードも。彼に自らを重ねたのか、指導者の名前「BOB」の文字を独自の解釈で「4013」と読み替えた上で、逆さから自分の名前と同じ「サ・ト・シ」と読んでいました。

 「私の名前はサトシです。2月15日に気が付き、愕然としました。今こそ革命を行い、全人類の為に必要不可欠である辛い決断をする時だと考えます」(植松容疑者が衆院議長に送った手紙より)

 植松容疑者は、イルミナティ・カードに勝手な解釈を加え、実際にはあり得ない陰謀論の世界に入り込んでいたのでしょうか。

 「陰謀論を信じると非常に都合がよい。自分に不利な情報が出てきても陰謀組織がばらまいたデマと言える。自分の世界が完全無欠になる」(SF作家 山本弘氏)

 背景を説明しておくと、「イルミナティカード」の件で『ニュース23』から急に取材の申し込みが来たのは、7月29日。
 その日は東京創元社「第7回創元SF短編賞贈呈式+トークイベント」のために東京に行っていた。イベント前に創元社の会議室で大森望氏らと雑談をしていたら、早川書房経由でTBSから電話がかかってきた。
 その日は、これもたまたま『SPA!』からも同じ件で問い合わせがあって、インタビューの予定があったもんで、実物を見せた方がいいだろうと、僕が所有しているINWOのスターター・キットを家から持っていっていた。(結局、『SPA!』は電話インタビューになったので、使わなかった)
 電話が来てから30分ほどして、TBSのスタッフが僕の泊まっているホテルにやってきて、ホテルの一室を借りて撮影を行なった。 インタビューのためにわざわざ部屋を借りるというのは初めて知った。

 けっこういろいろ喋ったんだけど、放映を見てがっかり。多少はカットされるのは覚悟してたけど、いちばん大事な部分がばっさり切られてる!

「これはスティーブ・ジャクソン・ゲームズが作った、陰謀論をパロディにしたトレーディング・カードゲームです」

 僕は何回も何回もそう説明したんだけどなあ。そこがいちばん重要だよねえ?
 あと、こうも言ったよ。

「こんな事件が起きたからって、ゲームをバッシングするのはやめてほしい。ゲーム会社も、ゲームで遊んでいる人たちも、これが冗談ゲームだと分かってて楽しんでるんですから。ゲームのことを何も知らない人間が勝手に騒いでるだけなんです」

 でも、そこもカット。
 これではたしてINWOについての正しい知識が視聴者に伝わったんだろうか? あの番組内容じゃ、TCGであることすら分からないんじゃないかと思うんだが。
 これを機会に、テレビを使って、INWOをめぐるデマを徹底的に潰したいと思ってたんだけど、これではちょっと難しいかも。

 なぜカットされたのか?
 実はディレクターさん自身が、TCGというものをまったく知らなかったんである。僕が「『ポケモンカードゲーム』とか『遊戯王』みたいなもんです」と説明しても、きょとんとしてた。
 どうも自分に理解できないから、視聴者にも理解できないと思ってカットしたんじゃないかと思う。
 そう言えば、フジテレビがこの植松容疑者の手紙のことをニュースで報じた時、なぜか「イルミナティ」「イルミナティカード」という箇所を黒く塗りつぶしてあったんだそうだ。なぜ塗りつぶしたのか? ネットではなんか深読みしている人が多かったけど、僕が思うに、理由は簡単。
 フジテレビのディレクターも、「イルミナティカード」って何なのかまったく理解できなかったんだと思う。それで万が一、登録商標か何かで抗議が来るとまずいと考えて消したんだろう。
 消すんだったら「フリーメーソン」の方だろって思うんだけど。イルミナティは実在しないけど、フリーメーソンは実在の団体だぞ!

 もちろん僕はTBSのディレクターに、TCGについて説明し、さらにスティーブ・ジャクソン・ゲームズの『トゥーン』とか『ニンジャバーガー』についても説明し、グループSNEにいた頃に『GURPS』関係の仕事をしてたから無関係というわけでもないと語った。

「そのがーぷすというのもカードゲームなんですか?」
「いや、これはテーブルトークRPGで……」

 そこから今度はテーブルトークRPGについても解説するはめに!(笑) あー、めんどくせえ! でも、もちろんそこもカットされた。

 他にも植松容疑者の手紙には、「18」という数字に注目してる箇所があった。僕が「ははあ、なるほど18ですね」と納得していたら、「18って何か意味があるんですか?」と訊かれた。「6+6+6。獣の数字666ですよ」と説明したんだけど……。

 ディレクター氏、「666」も知らない!

「ヨハネ黙示録の中に出てくる数字で……」と説明したけど、どうもヨハネ黙示録自体、分かってないみたい。
 まあ、しかたないなあ。オカルトとかゲームとかに興味のない一般人の知識ってこんなものか……。
 そう言えば思い出した。21年前のオウム事件の時、マスコミ関係者で「ハルマゲドン」という言葉を知らない人がいたという話を。『幻魔大戦』がアニメになった時、テレビでさんざん「ハルマゲドン接近」って言ってたはずなのに。

 もっとも、マスコミ関係者がみんな無知というわけじゃない。他にも取材してきた新聞記者の方の中には、僕が「トレーディング・カードゲームって分かります?」と言うと「『遊戯王』みたいなやつですよね」と即答された方もいた。
 だからマスコミ関係者の中にも、知識のある人とない人がいるんだろう。


 ちなみにニュースの中に出てきた「伝説の指導者」ボブというのは、亜天才教会(Church of the SubGenius)という冗談宗教の教祖とされる人物。そのBOBを数字に置き換えて13013になってるわけ。

 植松容疑者は最初の1と3を足して4にし、「4013」にして、それを逆から読んで「3 10 4」=「さとし」にしていた。
 もちろん、そんなこじつけに何の意味もないのは言うまでもない。
 亜天才教会については、解説するのは面倒だし僕も詳しくないんで、ウィキペディアを読んでほしい。

https://en.wikipedia.org/wiki/Church_of_the_SubGenius

 アメリカには他にもこういう冗談宗教がいくつもある。

http://www.h7.dion.ne.jp/~samwyn/parorels.htm

「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」は日本でも本が出ていて有名。他にもINWOには、不和の女神エリスをシンボルとする「ディスコルディアン」も出てくる。

https://en.wikipedia.org/wiki/Discordianism

 こういうものを知らない日本人が多いのはしかたないけど、検索すれば一発で出るからね? 分からなかったら検索しようね。

【8月11日追記】
 同じ7月29日に、『SPA!』からも電話で取材を受けたことは書いたけど、『SPA!』8月9日号に載った記事を見てびっくり。
 僕がこのゲームのことを「IWNO」と言ったことになってる! それも2回も!

 いや、確かにINWO(イルミナティ:ニュー・ワールド・オーダー)と言ったよ、何度も。これじゃまるで僕が間違えたように見えるじゃないか。
 それに僕の知識も正確とは限らないし、電話越しでは聞き取りミスもあるかもしれないと思って、「詳しいことはスティーブ・ジャクソン・ゲームズのサイトに行けば書いてありますから読んでください」とも言ったはず。
 でも、この記者、ゲームの名前なんて基本的なことも間違えるってことは、結局、スティーブ・ジャクソン・ゲームズのサイトも見ずに記事を書いたってことだろう。
 信じられない。
 何で記事を書く前にその程度の手間をかけないんだ?
  


2016年08月06日

「SFバカの人生総決算・それでもSFが好っきゃねん!」

山本弘のSF秘密基地LIVE#60
SFバカの人生総決算・それでもSFが好っきゃねん!

 怪獣愛がぎっしり詰まった小説「多々良島ふたたび」(早川書房『多々良島ふたたび:ウルトラ怪獣アンソロジー』に収録)が第47回星雲賞日本短編部門を受賞! それを記念し、SFひとすじに歩んできた作家・山本弘の半生を振り返ろうという企画です。
 幼い頃に観ていてSFマインドに目覚めた番組、初めて映画館に観に行った怪獣映画、初めて読んだ活字SF、ノートに鉛筆で怪獣小説を書きはじめた小学生時代、初めて読んだ『SFマガジン』、がむしゃらにSFを読みまくった高校時代、新人賞投稿、スランプ、同人作家時代、処女長編出版、ゲームのシナリオやリプレイを書いていた時代……そして今は何を書いていて、これから何を書くつもりなのか。あの時代を知っているオールド・ファンにも、昔を知らない若い方にも、きっと興味深い話が満載です。
 トーク終了後、山本弘の著作の販売もいたします。

[出演] 山本弘

[日時] 2016年8月26日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] なんば紅鶴(大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F)南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円  
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)

 詳しい情報、ご予約はこちらへ
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=103888198
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 星雲賞獲った記念に、急遽、こういうイベントをやることになりました。先月に続き、「僕たちの好きだった80年代アニメ」(これも実はけっこう好評なんですが)はお休みです。申し訳ありません。
 原点を語ろうとすると、やっぱり怪獣の話が多くなるかなあ……という気がします。「多々良島ふたたび」のあとがきでも書いたけど、子供の頃に夢中になっていたもので原稿料を貰い、そのうえ賞もいただけたんですから、やっぱりこれまでやってきたことは間違いじゃないと思いますね。
 子供の頃の特撮体験とか、グループSNE時代の話とかは、これまで断片的には語ってきたんだけど、こんな風にまとめて語るのは初めてかもしれませんね。小学生時代に書いてた小説とか、同人誌に書いてた頃のことは初めてかも?
 とにかく盛りだくさんの内容になると思います。お楽しみに。

  


Posted by 山本弘 at 19:44Comments(0)SFPR作家の日常

2016年07月17日

星雲賞受賞の言葉

『多々良島ふたたび: ウルトラ怪獣アンソロジー』(早川書房)に収録された短編「多々良島ふたたび」が、同書に収録の田中啓文氏の「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」とともに、星雲賞日本短編部門を受賞しました。



 先週土曜日に鳥羽のSF大会会場まで行ってきて、星雲賞いただいてきました。
 その時の受賞の言葉。録音してたわけじゃなく、記憶で書いてますんで、間違ってたらご容赦。

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 最初に業務連絡を。実は今夜は、泊まっていけません。明日、プライベートな事情があるもので、今日は夕食が終わったらすぐに大阪に帰らなくてはいけないんです。ですから、僕に何かご用のある方は、早めに言っていただけるとありがたいです。
 あと、前回、『去年はいい年になるだろう』で星雲賞をいただいた時は、前の客席に妻と娘が来てたんですけど、今日は来てません。ですから今、写真を撮ってる方々、その写真を後でネットにアップしていただけるとありがたいです。妻と娘に「ほら、これが受賞風景だよ」と見せられますので(笑)。

 さて、このウルトラ怪獣アンソロジーという企画が来た時に、僕が最初に予想したのが、『SF作家はひねくれてる人が多い』ということです。たぶん、まともなウルトラマンは誰も書かないだろう。みんな変なウルトラマンを書いてくるに違いない。
 だったら逆に、原作に忠実なサイドストーリーを書いたら、目立つんじゃないか──そう計算して書いたら、見事に図に当たりまして、星雲賞をいただけることになりました。ありがとうございます。

 実は僕はもう何年も前から、出版社の人と会うごとに言ってたんですよね。「なぜ円谷プロに話をつけて、『ウルトラ』シリーズのアンソロジーを出さないのか」と。だって、僕らの世代の作家って、『ウルトラ』で育った人はたくさんいるわけですよ。「書かないか」って持ちかけたら、みんな乗ってくるはずなんですよね。
 でも、その構想がなかなか実現しないなあ……と思ってたら、それがようやく現実になった。だから喜んで書かせていただきました。

 ただね、考えてみたら、他にもいろんなアンソロジー作れるはずなんですよね。
 たとえば、今年は『ゴジラ』の新作が公開されますから、東宝の許可取って、いろんな作家に声かけて、『ゴジラ』アンソロジー作ったらいいんじゃないか。ゴジラ小説を書きたい人っていっぱいいると思うんですよ。僕も書きたいし。実は中学の頃からずっと、『ゴジラ対ヘドラ』のノヴェライズ書きたくてしかたないんですよ。
 あるいは東映に話つけて『仮面ライダー』のアンソロジー作るとか。あるいは特撮に限ったことじゃない。サンライズに話つけて『ガンダム』のアンソロジー企画するとか。書きたい作家、絶対いっぱいいるはずなんですよ。
 ここにいる出版社の方々、何でそういう企画を出さないんですか? 出してくださいよ。
 僕も『怪獣文藝の逆襲』とかに寄稿してますけど、まだまだ怪獣小説書きたい。また声がかかったら書かせていただきます。

 あっ、ちなみにですね、これはまだここだけの秘密にしておいてほしいんですけど、実は来年、●●●●さんの方で、『●●●』の小説を出させていただくことになってます。期待しててください。

 活字と映像って、べつべつのものじゃないと思うんですよね。僕ら現代の作家は、小さい頃からいろんな映像作品に接してきて、それに影響を受けて育ってきた。映像的な面白さというものを作品の中に取り入れてるんです。
 一方、活字から映像作品が受ける影響というものも、もちろんあるでしょう。活字と映像というのは、フィードバックを形成して進化してきたと思うんです。

 僕が怪獣ものを書くのは、自分を育ててくれた映像の世界へのご恩返しの意味もあります。これからもこうした小説はどんどん書いていきたいと思っています。
 どうもありがとうございました。
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 終わってから気がついたんだけど、
「『ガルパン』のアンソロジー企画したら、書きたい作家はいっぱいいますよ!」
 とも言っておくべきだったかなと(笑)。
  


Posted by 山本弘 at 17:12Comments(3)SF特撮PR作家の日常

2016年07月17日

今月のLiveWireはお休みです

 すみません。毎月、最終金曜日にやっているLiveWireのトークイベント「山本弘のSF秘密基地LIVE」、今月はお休みです。
 何でかというと、僕がうっかりダブルブッキングしちゃったんです。
 7月29日に東京でこういうイベントをやる予定だったのを忘れてたんです。

第7回創元SF短編賞贈呈式+トークイベント「新人賞選考の舞台裏をセキララに語る」開催!
http://www.tsogen.co.jp/news/2016/06/16063018.html

 先月のLiveWireのイベント終了後、担当の方に「来月もこの続きをやりましょう」と言われて、「そうですね」と深く考えずにOKしちゃったんですね。告知が出た後で、日がかぶってることに気がつき、慌てて平謝り。LiveWireの方の告知は取り消していただきました。
 LiveWireの方、および毎月イベントを楽しみにしている方、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。

 ちなみに創元SF短編賞受賞作、石川宗生さんの「吉田同名」を収録したアンソロジー『アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選』は、すでに発売されています。選評はそちらをお読みください。面白いです。


  


Posted by 山本弘 at 16:48Comments(1)PR

2016年07月01日

60歳になっての雑感

 少し前、「ハヤカワ・SF・シリーズ総解説」の原稿を書く関係で、昔のSFを何冊か読み返した。

 そのうちの1冊がロバート・シェクリイの短編集『宇宙のかけら』。僕としては、収録作の中の「千日手」と「ポテンシャル」が気に入っていたから買ったのだが、今回、読み返していて、「炭鉱者の饗宴」という作品が妙に気になった。
 金星の砂漠地帯で金鉱を探す男の物語。1959年に書かれた話だから、金星は大気が呼吸可能、人間が生身で生きられる環境で、原住生物もいる。しかし主人公は乗ってきた地上車のタイヤがパンクしてしまい、途中から砂漠を徒歩で進まねばならなくなる。
 彼は携帯テレビ電話を持っていて、いつでも文明社会と連絡が取れる。しかも、この世界には瞬間移送システムもある。生物だけは送れないが、電話で注文すれば、水だろうと食料だろうと道具だろうと、すぐにロボットが届けてくれるのだ。
 金さえあれば。
 主人公は金鉱探しに財産のすべてを注ぎこみ、今は一文無しである。だから車のスペアタイヤも、食料も水も買えない。金鉱を見つけずに帰っても破滅が待つだけ。だから何としてでも金鉱を見つけなくてはならないのだ。地層の特徴からすると、この先には必ず金鉱があるはずだと信じて進み続ける。

 思ったのが、これってまさに現代社会そのものだな、ということ。
 携帯電話が普及しているのもそうだが、こちらから店に買いに行かなくても、欲しいものがあれば何でも届けてくれるというのが、まさに現代じゃないか。そう、何でも手に入るのだ!
 金さえあれば。
 ものはある。食料も余っている。でも、金がないので手に入らず、砂漠でもないのに野垂れ死にしてゆく人がいる。それが現代。

 僕の信念は「小説家とは金鉱掘りである」というものだ。
「ここに金鉱があるはずだ」という当たりをつけて探しに行く。ちょこっとだけ金は見つかるが、大当たりとはいかない。しかたなく、そのわずかな金で食いつなぐ。そして新しい金鉱を探す。今度こそすごい鉱脈を掘り当てて、大金持ちになってみせるという夢を抱いて……。
 でも、なかなか鉱脈は見つからない。

 さて、なぜ今回、「炭鉱者の饗宴」が気になったかというと──

 この前、60になったんですよ、60に!

 気が遠くなりそうな数字だよ、60。

 何よりショックだったのは、映画館に行ったら、シニア料金で入れたこと。普通料金より700円も安いの。
 でも安いからって嬉しい気がしない。シニア料金というものはずっと前から知っていたけど、自分がそれで映画を観るようになるなんて、遠い先のことだと思っていた。突然、「僕はもうシニアなんだ!」と実感して、感慨とかいう以前に、軽く絶望を覚えた。

 自分はSF作家として新米だと、ずっと感じていた。僕より上には小松さんと筒井さんとか星さんとか、すごいベテランがいっぱいいて、足元にも及ばないと思っていたから。
 ところが気がつくと、もう僕より上の人がかなり少なくなってきている。 僕もそろそろSF界の長老グループに入りかけているではないか。

「おお! だったらそろそろ、威張ってもいいんじゃないか?」

 と浮かれかけて、はたと気がついた。僕が小松さんや筒井さんとは決定的に違う点があるということに。
 長編処女作『ラプラスの魔』を発表したのは1988年。それから28年も作家を続けてきた。
 でも、28年間に一度も大きな鉱脈を掘り当ててない。いや、『MM9』は鉱脈かなと思ったことはあったんだけど(苦笑)。
 それでも、次こそは鉱脈に当たると信じて書き続けてきた。
 でも、当たらない。
 他人に恨みをぶつけることもできない。ヒットが出ないのは僕自身のせいなんだから。

 現状維持ならまだいい。近年は出版不況で、どこの出版社も本の初版部数を絞っている。毎年毎年じりじりと減ってきて、僕がデビューした当時の1/2とか1/3ぐらいになっている。
 つまり、同じペースで本を出し続けていても、収入が半分とか1/3とかになっているのだ。そりゃきついわけだ。

 同業者のツイッターとかを読んでいると、しばしば心配になる。あれ? この人、もうずいぶん長く本出してないけど、食べていけてるのかなと。
 そして思い出す。そういう人たちはたいてい、他に職業を持っている兼業作家か、夫婦共働きか、独身だということに。
 僕みたいに既婚者の専業作家は、実は少数派だ。

 家族を養うって、かなり重たいことなんである。
 うちは娘が一人だけど、学費やら何やらで、年に100万円以上は軽く吹っ飛ぶ。独身者に比べて、経済的に大きなハンデがあるのだ。娘が社会に出て、自分で稼ぎはじめるまで、まだ何年もかかる。
 だから僕は書き続けるしかない。 本を出さないと、妻や娘を養っていけない。でも、同じペースで書き続けていても、収入はじりじり減る一方。今度こそ一発当てたいとあせる。でも、やっぱり当たらない……。
 これはね、心理的につらい。
 つらくてもやめるわけにはいかないってことが、さらにつらい。
「炭鉱者の饗宴」の主人公の心境がすごくよく分かる。

 実は今年の4月から6月ぐらいにかけて、けっこう経済的にきつかった。
 どうにか所得税は確定申告で還付金が出たけど、市民税・府民税、国定資産税、国民年金、国民健康保険とかで、ごっそり取られた。娘の大学の学費もあった。そのうえ、病気になって入院したし、冷蔵庫が壊れて買い直さなくてはならなかった。何でそんなに出費が連続するんだ!

 自信を失い、夜中に思わず妻に弱音を吐いてしまった。もうだめかもしれない。今はまだどうにか食いつないでるけど、いずれ君らを路頭に迷わせるかもしれないと。

 そしたら──

 数日後、妻が札束の入った封筒を差し出したのである。貯めていたへそくりだという。

「はい、大事に使ってね」

 と笑顔で言う妻。
 僕はむちゃくちゃに感動してしまった。何だよ、お前! 山内一豊の妻か!?

 誕生日にはケーキを買ってくれた。今年は「60」というローソクのついたケーキだ。妻と娘が「ハッピーバースデー・ディア・パパ♪」とデュエットし、「60歳おめでとう!」と言ってくれた。


 涙が出そうだった。
 経済的に苦しくなってるからって何だ。僕のことを愛してくれている妻と娘がいるというだけで、十分すぎるほど幸せじゃないか。
 くじけかけてたのがバカみたいだった。この2人のために、もっともっとがんばらなくちゃと思った。

 そりゃあ、依然としてつらいですけどね。
 でも、もう後ろは向かないよ。



 カクヨムに投稿しはじめたのも、ちょっとでも知名度が上がることを何かやろうと思ったから。
 1人でも2人でもいいから、僕の本を買ってくれる人を増やしたい。この業界で生き残って、家族を養ってゆくために。
  
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Posted by 山本弘 at 18:37Comments(22)SF作家の日常

2016年07月01日

「ハヤカワ・SF・シリーズ総解説」

〈SFマガジン〉8月号の特集は「ハヤカワ・SF・シリーズ総解説」。この前の『ハヤカワ文庫SF総解説 2000』から洩れていた作品、すなわちハヤカワ・SF・シリーズから出ていたけど早川から文庫化されていない本の解説である。

 僕もジャック・ウィリアムスン『ヒューマノイド』(『去年はいい年になるだろう』のヒントになった作品)、E・E・スミス《レンズマン》シリーズ、ロバート・シェクリイ『宇宙のかけら』『人類の罠』、マレイ・ラインスター『異次元の彼方から』、エリック・フランク・ラッセル『メカニストリア』、エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』、久野四郎『夢判断』、早川書房編集部編《SFマガジン・ベスト》の解説を書かせていただいた。
 前回同様、人気作品は執筆者同士の争奪戦が激しかったらしい。ラインスターは本当は『宇宙震』を書きたかったんだけどなあ。他にも、ヘンリー・カットナー『ボロゴーヴはミムジイ』、ピエール・ブール『E=mc2』、メリル編『宇宙の妖怪たち』、コンクリン編『宇宙恐怖物語』なども、立候補していたのに取れませんでした。
 ちなみに『フェッセンデンの宇宙』が僕に回ってきたのは、やっぱり『神は沈黙せず』や『翼を持つ少女』を書いてるからってことらしい。ゆずはらとしゆき氏が『18時の音楽浴』の項を書いてるのも同じ理由かも。

 ちなみに早川書房が「ハヤカワ・SF・シリーズ発掘総選挙」「ハヤカワ文庫海外SFデジタル化総選挙」というのをやるのだそうで、今月号に告知が載っている。リクエストの多かった作品は復刊されるかもしれないとのこと。
 僕の場合、ハヤカワ・SF・シリーズならやっぱりラインスターの『宇宙震』とカットナーの『ボロゴーヴはミムジイ』。
 ハヤカワ文庫SFなら、ジェイムズ・H・シュミッツ『悪鬼の種族』とハリイ・ハリスン『テクニカラー・タイムマシン』を復刊して、ぜひ多くの人に読んでほしい。前者はもっと今風のイラストに変えて、後者はできればモンキー・パンチのイラストのままで!
 あと、アンダースンの『大魔王作戦』とかも、あの時代よりむしろ、ラノベを読みなれた今の若い読者に受けるんじゃないかと思うんだけど。

http://homepage3.nifty.com/hirorin/bibliobatllebu04.html

 まあ、個人的にハヤカワ文庫SFでいちばん好きなのはC・L・ムーア『暗黒神のくちづけ』なんだけど、これは多くの人に魅力を知ってほしい半面、自分だけのフェイバリットにしておきたいという想いもありまして……複雑です。
  
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Posted by 山本弘 at 18:04Comments(1)SFPR

2016年07月01日

「太陽を創った男」の思い出

 前回も書いたように、カクヨムに投稿をはじめている。

https://kakuyomu.jp/users/hirorin015/works

 30年以上前のアマチュア時代に書いた「砂の魔王」や「星の舟」、割と新しい「悪夢はまだ終わらない」まで、いろんな原稿をアップしてるけど、この中でいちばん古いのは、「太陽を創った男」。
 これにはいろんな思い出がこもっている。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881150667

 僕は高校3年の時、〈問題小説〉という雑誌の新人賞に応募した。 タイトルは「シルフィラ症候群」。宇宙から飛来したウイルスによって、女性が片っ端から美女に変身してゆくというホラー調の侵略SF。
 何でそんな話を考えたかというと、〈SFマガジン〉のバックナンバーで読んだジョン・ブラナーの「思考の谺」という中編にハマっていたんである。ストーリー自体はB級なんだけど、終始、ロンドンの一角を舞台にしていながら、背景に壮大な宇宙の広がりがあるという構成にしびれてしまった。そこで同じような話を書いてみたのだ。
 なぜ〈問題小説〉新人賞を狙ったかというと、審査員の一人が、僕が敬愛する筒井康隆氏だったからである。
 この作品は最終選考まで残り、筒井さんに推していただいたのだが、受賞には至らなかった。でも、自分の作品が初めて認められた、プロのSF作家という憧れの職業に近づけたという事実に、有頂天になった。

 そして1975年、神戸で開かれた日本SF大会「SHINCON」。

http://www.page.sannet.ne.jp/toshi_o/sonota/sfcon_chap3_1.htm


 その会場で初めて筒井さん本人にお会いでき、「シルフィラ症候群」を推していただいた礼を言った。すると筒井さんが言ってくださった。

「あれ、〈NULL〉に載せてみない?」

〈NULL〉はかつて筒井さんの一家が作っていた同人誌。いったんは休刊したのだが、70年代になって、有志の手により、「ネオ・ヌル」という同人サークルとして復活。〈NULL〉も復刊していた。当時、同人誌といえばまだガリ版刷りが当たり前だった時代に、活版や写植で印刷されており、紙質も高級で、すごくリッチな印象があった。
 僕は筒井さんの勧めで「ネオ・ヌル」に入会。そして〈NULL〉復刊6号に、「シルフィラ症候群」が掲載された。
 同人誌とはいえ、自分の作品が印刷物になって大勢の人に読まれるのは、生まれて初めての経験だった。ええもう、当時はかなり天狗になってましたよ(笑)。

 ちなみに、その「シルフィラ症候群」、先日、久しぶりに読み返してみたんだけど……うーん、これはひどい(笑)。稚拙なんてもんじゃない。今読むととんでもなくへた。まさに「若気の至り」。まあ、まだ18歳だったからしょうがないけど。

「ネオ・ヌル」には、すでにプロデビューしていた堀晃氏やかんべむさし氏だけでなく、多くのアマチュア作家が集まっていた。デビュー前の夢枕獏氏も、タイポグラフィック小説「カエルの死」を載せていて、これはすごく面白かった。
 この同人誌の最大のウリは、筒井さんによるショートショート選評。会員から送られてくる何百本ものショートショートを筒井さんがすべて読み、その中から優れたものだけを選んで〈NULL〉に載せていたのである。だからもう、みんな切磋琢磨して競い合っていた。すごい熱さだった。

 僕も2本のショートショートを書いた。そのうちの1本が筒井さんに評価され、〈NULL〉復刊7号に掲載された。
 それがこの「太陽を創った男」。書いたのは1976年。つまり僕が20歳の時。
 ちなみに、種々の事情により、〈NULL〉はこの号で再び休刊した。

 作中に出てくるブラックホールに関するうんちくは、当時の愛読書だった佐藤文隆・松田卓也『相対論的宇宙論』(講談社ブルーバックス・1974)を参考にした。ちなみに僕がこれを買ったのは、イラストが松本零士だったからという不純な動機だったりする(笑)。でも、すごく勉強になったエキサイティングな本だった。

『プロジェクトぴあの』の中に、周防義昭教授と会見したぴあのが、彼の著書『失われた宇宙論』について熱く語るシーンがある。

>「だって、オルバースのパラドックスとか定常宇宙論なら、他にもいろんな本に載ってますけど、ブランス‐ディッケの理論やアルベン‐クラインの物質‐反物質宇宙論について解説した本なんて、他になかったんですよ。ホイルのC場とかリットルトン‐ボンディの帯電宇宙論とかも、あの本で知りました。あと、何といっても、ミスナーのミックスマスター宇宙論! あれ、面白いですよね。宇宙が三軸不等の振動してるなんて、すごくユニークな発想で」
(中略)
>「私、あの本を読んで感じたんです。宇宙論学者って、この世でいちばん柔軟な考え方をする人たちなんだなって。だって、いつも宇宙のスケールで考えていて、エキサイティングな説を次々に提唱するじゃないですか。どれもこれもユニークで、間違ってたのがもったいないくらい」

 これは『相対論的宇宙論』がヒント。ぴあのの台詞はほとんど全部、当時『相対論的宇宙論』を読んだ僕の感想なのである。
 ちなみに、このシーンでのぴあのは20歳。僕が「太陽を創った男」を書いたのと同じ歳だ。

 その後、「太陽を創った男」は〈奇想天外〉誌1977年8月号に転載され、さらに「シルフィラ症候群」とともに 『ネオ・ヌルの時代PART3』(中公文庫・1985)というアンソロジーに収録された。
『ネオ・ヌルの時代』では、生まれて初めて印税というものも貰った。よく覚えていないが20万円ぐらいだっただろうか。僕はそれで生まれて初めてワープロを買った。それまでは原稿用紙に手書きしていたのだ。
〈NULL〉の休刊号には、筒井氏の総評も載っていた。筒井氏は常連投稿者の中から十数人を選んで賞を贈った。僕も特別賞を貰った。この文章は『ネオ・ヌルの時代PART3』にも再録されている。


〈真城・西・山本の三氏は、あとは書き馴れることによって充分プロになり得る人たちである〉

 もうね、この言葉にどんだけ勇気づけられたか!
 まあ、この後、処女長編『ラプラスの魔』を出すまでに、さらに11年かかるわけだけど。

 ちなみに〈NULL〉に投稿していたアマチュア作家の中には、のちに商業誌に作品が載った人も何人もいるが、最終的にプロとして生き残れたのは、僕と夢枕獏氏だけである。
 やっぱり、筒井さんに「充分プロになり得る」と言われたからこそ、夢をあきらめずにがんばってこれたんだと思う。
 そういう意味でも、「シルフィラ症候群」と「太陽を創った男」は、僕にとって人生の重要な節目となった作品なのである。

 なお、マイクロ・ブラックホールを使って太陽を創るというアイデアは、のちにPCエンジンのゲーム『サイバーナイト』(トンキンハウス/グループSNE)のシナリオに流用している。 小説版の『サイバーナイト』にも出てくる「トミマツ=サトウ型ブラックホール」という概念も、『相対論的宇宙論』で知った。

  


Posted by 山本弘 at 17:37Comments(3)SF作家の日常

2016年07月01日

そんなのはビブリオバトルじゃありません

 先日、「ビブリオバトル春のワークショップ」というイベントに行って、Bibliobattle of the Year2016優秀賞というものをいただいてきたのであります。

http://www.bibliobattle.jp/workshop2016
http://www.bibliobattle.jp/bibliobattle-of-the-year/2016/award

 場所は三重県伊勢市の皇學館大学 というところ。深い森の中にあって、「神社!?」と言いたくなるような佇まい。こんな大学があるんだなあ。

 さて、会場では日本各地で行われている様々なビブリオバトルの活動もいろいろと聞いた。かなり普及してきているようで、喜ばしい。
 でも、喜んでばかりもいられない。ビブリオバトル人口が増えるにつれ、問題点も出てきているようだ。
 会場では、『読書とコミュニケーション ビブリオバトル実践集』という本も買ってきた。



 ビブリオバトルの公式ルールというのは本当にきわめて単純なもので、難しいことなんか何もない。誰でもすぐできる。
 ……そのはずなんだけど、やっぱりこういう教師に指導するためのテキストが必要らしい。
 この本の第一章にはこうある。


> その一方で、ビブリオバトルを導入した学校の児童・生徒たちから、ビブリオバトル普及委員会に不満の声が寄せられることもあります。理由は明白で、不満の声が上がる事例は「教員が課題図書を決める」「発表のための下書き原稿を書かせる」「さらに添削する」「その原稿に従った発表の練習をさせる」「先生が優秀者を決める」「あるいはチャンプ本を決めない」などなど、ビブリオバトルと称して、「ビブリオバトルらしきもの」が行なわれているケースがほとんどなのです。

 そう、こういう問題点はよく耳にする。そして、それはビブリオバトル普及委員会の責任ではまったくない。だって、これってみんなルール違反だもの。

 たとえば「教員が課題図書を決める」。これがまずだめ。
 公式ルールの一行目にちゃんと書いてある。「発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる」と。 「他人が推薦したものでもかまわないが,必ず発表者自身が選ぶこと」という項もある。
 つまり発表者自身が面白いと思って選んだ本でないといけないのだ。教師が「この本を紹介しなさい」と決めるなんてもってのほか。
 だってビブリオバトルというのは、面白い本を紹介し合うものなんだから。自分が面白いと思わなかった本を他人に勧めるなんて、根本的に間違ってる。
 つーか、面白いと思わなかった本を「面白い」と言って他人に読ませようとするのは、はっきり言って「嘘つき」だから。そんなのを教育者が教えちゃだめでしょ。

「発表のための下書き原稿を書かせる」というのも絶対ダメ。
 ツイッターでビブリオバトル関連の発言を読んでいたら、教師から無理にビブリオバトルをやらされてるらしく、「明日までに1600字書かなくちゃいけない」みたいなことを嘆いている人がいて、ほんとに気の毒になる。

 それ、単なる読書感想文ですから!

 子供は読書感想文って嫌いでしょ? 僕も嫌いだったよ。あんなもんで子供は本好きになんかならないよ。
 それをなぜ生徒にやらせようとするの? ビブリオバトルは読書感想文とは違うんだよ!
 どうも生徒がちゃんと喋れるかどうか心配して、あらかじめ原稿を書かせるらしい。でも、それ、根本的に間違ってるよ。常識で考えて分かるでしょ? 本の感想でも何でもそうだけど、思ったことをただ喋るのと、それをわざわざ文字にするのと、どっちが大変か。わざわざハードル上げてどうすんだ。
 さらに言うと、「原則レジュメやプレゼン資料の配布等はせず,できるだけライブ感をもって発表する」というルールもある。そう、大切なのはライブ感。用意してきた原稿を読み上げるんじゃだめなんだよ。
 このルールなんかまさに、ビブリオバトルの「読書感想文」化を防止するためのもののはずなんだけど。
 まあ、どうしてもアドリブで話せないという人が、あらかじめ原稿作って練習するのはかまわないけど、それはあくまで自分の意思でやるべきこと。教師がそれを強制しちゃだめだよねえ。

 他にも公式ルールには、「チャンプ本は参加者全員の投票で民主的に決定され,教員や司会者,審査員といった少数権力者により決定されてはならない」という項もある。
 つまり「先生が優秀者を決める」なんてのは完璧にルール違反!
 なんで教育者たるものが、そんなひどいルール違反を堂々とやるわけ? おかしいでしょ? 大人ならルール守れよ。

 他にもよく耳にする話では、「バトル」という言葉に難色を示す人がいるらしい。子供に「バトル」をやらせるなんてけしからん。子供にはただ本の発表だけやらせればいい。チャンプ本なんか決めなくていいじゃないか……というのだ。
 だから、それもうビブリオバトルでも何でもありませんから!

 なぜこんなルール違反の「ビブリオバトルらしきもの」が横行するかというと、根本的にビブリオバトルの意義を取り違えてるんだと思う。
 どうも「プレゼンの腕を磨くためのもの」と誤解してる人が多いらしい。
 だから、学生に表面だけきちんとしたプレゼンをさせることにこだわって、下書き原稿を書かせたり、本人が好きでもない本を紹介させたりするんだろう。まったく本末転倒だ。

 喋り方が少しぐらい下手でも、本が面白ければ勝つこともあるのがビブリオバトル。
 逆に、プレゼンだけは上手くても、「明らかにこいつ、この本が好きじゃないな」と分かるようなのはダメなんだよ。


>「ならバトルである必要ないでしょ?」
>「本を紹介するのに、それが適した手法だからだ──これが単に、本の内容を発表して、それを聞くだけの会だったらどうだ? みんな、あんなに集まるか?」
> 想像してみました。確かにそんな退屈そうな会、参加したいと思う人は少ないでしょう。
>「“バトル”と名がつくから、普段は本に興味のない者も、期待して集まってくる。最後に投票しなくちゃいけないから、聴講参加者は身を入れて発表を聞く。発表参加者は自分の推薦する本をいかにアピールすればいいかと工夫する。だからどっちも真剣になる。最終的にチャンプ本が決まるが、それは結果にすぎない。本に関する情報を交換する。面白い本を互いに薦め合い、発見し合う――それがビブリオバトルの目的だ。

『翼を持つ少女』の中で僕はこう書いたんだけど、もしかしたら『翼を持つ少女』を読んでない教師が多いのかもね。
 というわけで、全国の教職員のみなさん、ビブリオバトルをはじめる前に、まず『BISビブリオバトル部』を読みましょう(笑)。Bibliobattle of the Year2016優秀賞ですよ!