2015年02月24日

新刊『14歳からのリスク学』

『14歳からのリスク学』


楽工社 1500円+税
発売中

プロローグ ロボットが人間の安全を守るには
 ロボット工学三原則の難点/「正しくこわがれ」の原典/幽霊はいなくても幽霊はこわい/間違ったこわがり方をやめよう/

第1章 1966年の大虐殺
 ──迷信・宗教を信じるリスク
 科学の時代によみがえった迷信/危険で無意味な風習「女性器切除」/金曜日に冷蔵庫の扉が開けられない/神社にお参りするのは合理的/など

第2章 こんにゃく入りカップゼリーの不名誉
 ──新しいものを警戒する心理
 8000万人に1人が死ぬから法規制?/餅の方がはるかに危険だった!/それでも餅が規制されない理由/など

第3章 韓国産ラーメンを食べるとがんになる?
 ──こわい名前の化学物質、その正体は
 この危険物質は何?/見出しだけしか読まない人たち/日本のかつお節は韓国では基準値違反?/大さじ2杯の塩で死ぬ/など

第4章 中国産食品、買ってはいけない?
 ──危険を大げさに煽る人々
 『買ってはいけない』ふたたび/酒の危険はどうでもいい?/恐怖を煽る週刊誌/中国食品を追放するとかえって危険?/野菜の浅漬けの危険性/など

第5章 暴走“ロリ男”は増えてない
 ──アニメやゲームに対する偏見
 前代未聞のマヌケな誘拐事件/今や男が女児向けアニメを観る時代/それでも規制しようとする人たち/誰を何から守りたいのか?/など

第6章 1000年に一度の大災害
 ──「めったに起きない」という錯覚
 「防波堤は壊してはどうか」/「1000年に1度」は宝くじの5等と同じ/小さな小惑星の方が恐ろしい/スーパーフレアの脅威/など

第7章 福島の野菜をじゃんじゃん食べよう !
 ──小さすぎるリスクを恐れる必要はない
 「山本弘は御用学者」?/プルトニウムは飲んでも安全?/人間は自然の状態でも被曝している/野菜を食べてがんを予防しよう/など

第8章 原発はこわい? こわくない?
 ──リスクの計算が困難であること
 「信じられないほどバカなミス」が原発事故を招いた/20秒立っているだけで死ぬ/原発も地球温暖化も危険/など

エピローグ あなたが戦うべき「見えない敵」
 「シューマイの皮がない」と青ざめる母/本当に子供のことを考えてる?/喫煙してもいい場合──妻の選択/など

あとがき リスクに対する正しい感覚を持とう

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 新刊です。
 本当は2012年ぐらいに出す予定だったんですが、他の仕事が忙しかったもので、僕の原稿が遅れに遅れ、今年の発売になってしまいました。
 人の感じている「不安」や「恐怖」の大きさは、実際の「危険」の大きさとは比例していない。小さすぎる危険を過剰に恐れたり、大きな危険を軽視したりする。迷信を信じたり、アニメやゲームの害を声高に唱えたり、聞き慣れない名前の化学物質や微量の放射性物質を恐れたりする一方、日常的に存在していて毎年多くの人の生命を奪っている危険に無頓着だったり、将来起こるかもしれない大きな災害に関心がなかったり……。
 この本はそうした、「人の感じている不安の大きさ」と「実際の危険の大きさ」の落差を検証し、リスクに関する考え方を見直してみようというものです。
 目次を見ると分かるように、一部はこのブログに載せた文章をベースにしています。ただし、大幅に書き直して、新しいデータをいろいろ入れています。統計もふんだんに盛りこんでいます。
 もっとも、難しい内容ではありません。なるべく多くの人に読んでいただけるよう、できるだけ平易に書きました。

 このタイトルは編集さんがつけたものです。似たようなタイトルの本はすでにあって、明らかに便乗なんですけどね(苦笑)。でも、提案されたタイトルを聞いたとたん、「あっ、確かにぴったりだ」と思ったので了承しました。
 実際、中学生でも理解できるはずですし、もちろん、大人が読んでも分かりやすい内容だと思います。
 あなたの頭の中にある「不安」「恐怖」が、本当に「危険」と釣り合っているのか、この本を読んで考えてみてください。



  


2015年02月14日

「埋もれた海外SFを掘り起こせ!」

山本弘のSF秘密基地LIVE#43
埋もれた海外SFを掘り起こせ!

 ハヤカワSFシリーズ、ハヤカワ文庫SF、創元推理文庫、サンリオ文庫、QTブックス……SFファンの本棚を彩った60~80年代の海外SFの数々。しかし復刊されず、今では読めない作品もたくさんあります。
『航時軍団』『宇宙震』『人間の手がまだ触れない』『テクニカラー・タイムマシン』『悪鬼の種族』『宝石世界へ』『鞭打たれる星』『マイクロチップの魔術師』などなど、タイトルを見るだけでわくわくしてくる作品群。どんな話だったか知りたくありませんか?
 それらを歴史の闇から掘り起こし、スポットを当てようという企画。クラシックSFを深く愛するSF作家・山本弘が、愛をこめて熱く語りまくります!


[出演] 山本弘

[日時] 2015年2月27日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] なんば紅鶴
(大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F / Tel. 06-6643-5159)
南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)

ご予約はこちらへ。
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=86454696 

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 LiveWireでは以前、〈SFマガジン〉に載った短編を創刊号から順番に紹介するという企画をやりましたが、今回はその単行本版。ディックとかクラークとかの有名な作家の作品は何度も復刻されて、今でも読むことのできるものが多いのですが、ちょっとマイナーな作家のものとなると、一度出たきり、絶版になっても再版されず、忘れられてしまうという例がとても多いんですね。
『翼を持つ少女』の中でちらっとストーリーを紹介した『悪鬼の種族』『大魔王作戦』『マイクロチップの魔術師』、やはり『翼を持つ少女』にタイトルだけ出てきた『航時軍団』『テクニカラー・タイムマシン』『時間帝国の崩壊』などなど、どれも痛快だったりエキサイトしたりしたんですが、今は入手困難。イアンド・バインダーの『ロボット市民』のように、ストーリーは古臭いけど、SFの歴史という視点から見ると興味深い作品もあります。
 今回はそうした「忘れられたSF」を一挙に紹介しようという企画です。その魅力、面白さを、時間の許す限り語りまくります。お楽しみに!
  
タグ :SF


Posted by 山本弘 at 21:52Comments(5)SFPR

2015年02月10日

後藤さんたちのことはどうでもいいんじゃないの、この人たち

 前回からのつづき。

 まず最初に、無用な誤解を招かないように、あらかじめ言っておきたいことがある。
〈Webミステリーズ!〉で連載中の『BISビブリオバトル部 幽霊なんて怖くない』の第4話(最終話)、〈戦争〉をテーマにしたビブリオバトルの場面に登場する6冊の本の中に、今回の事件を思わせるものがあるが、まったくの偶然である。この6冊を使うことは、連載開始当初、つまり半年近く前から決めていた。(3話の部長と武人の会話の中で伏線は張ってある)
「山本弘は事件に便乗した!」とか誤解されるのは心外なので、事前に釈明しておく。


 さて、人質殺害という最悪の結末になってしまったこの事件。殺される直前に二人が味わったであろう恐怖を想像すると、胸が痛くなる。
 世界にはたくさんの悪や不幸や不条理が存在する。祈るだけではどうにもならない。どうしようもなかったのかもしれない。それは分かっているが、やはりいたたまれない気持ちになる。
 せめてこの事件を忘れないようにしたいと思う。

 だが。

 二人の日本人を殺したテロリスト(「国」とは呼びたくない)にも腹が立つが、彼らの死を自分たちに都合よく利用しようとする連中がいるのにも腹が立つ。右も左も関係なく。

 まず、この事件にかこつけて安倍政権を批判する奴。

安倍外交が「イスラム国」のテロを誘発した
http://toyokeizai.net/articles/-/59008

田原総一朗「イスラム国に『絶好の機会』を与えてしまった安倍外交」
http://dot.asahi.com/wa/2015020400060.html

【後藤さん殺害映像】人道支援演説めぐり共産「2人への危険、認識あったのか」vs首相「テロリストに気配り必要ない」
http://news.livedoor.com/article/detail/9745621/

 いや、僕もね、安倍政権を全面支持してるわけじゃないよ。でも、この件で安倍首相を批判するっておかしいわ。
 だってテロは非人道的な行為、まさに悪である。世界から根絶しなくちゃいけない。それはイスラム諸国の意思でもある。そのために日本も金を出すのは当たり前だ。
 当然、テロリストの側としては嫌がるだろうが、それこそ「気配り必要ない」である。
 日本国内の犯罪に置き換えてみればいい。暴力団対策のために警察の予算をアップするのに、いちいち暴力団の顔色をうかがう必要があるか?
 なんか、この件で安部首相を叩いてる連中って、後藤さんたちのことはどうでもよくて、自分たちの主義主張を広めるのに利用したいだけのように思える。

 でも、同じことは産経新聞についても言えるのだ。

http://www.sankei.com/column/news/150207/clm1502070003-n1.html


 途中まではふんふんと思って読んでたけど、最後の最後でひっくり返った。

>命の危険にさらされた日本人を救えないような憲法なんて、もういらない。

 平和憲法を持たない国の人たちだって、テロリストに拉致されて身代金要求されたり殺されたりしてるんだけど?
 しかもその前に、「護憲信者のみなさんは、テロリストに「憲法を読んでね」とでも言うのだろうか」と自分で書いてるではないか。テロリストが日本の憲法なんて気にしてないことを認めてるんである。なぜこの矛盾に気づかん?
 そう、テロリストは日本の憲法なんか気にしない。憲法9条があろうとなかろうと、たぶん後藤さんたちは殺されていた。
 9条で平和を守れると盲信する左寄りの人たちにも困っちゃうけど、憲法を改正すれば日本人が安全になるというこの無邪気な思いこみって、何なんだろう。護憲論者の考えを裏返しただけで、同じものなんじゃないだろうか。
 つーか、この事件を憲法論議にすりかえるなと言いたい。

 他にも腹が立ったのは、こんなデマ。

田母神氏「後藤さんと母の姓が違う。どうなってるの?」
http://togetter.com/li/775783

 何か事件が起きるたびに「在日認定」されるのはいつものことだけど、かつて空自のトップだった人まで、ネットに流れるデマを真に受けてるのは問題だ。親子で姓が違うなんてよくあることなのに。
 だいたい「マスコミにも後藤健二さんの経歴なども調べて流して欲しいと思います」って何だよ。後藤さんの経歴なんてそれこそマスコミでさんざん報じられてるじゃないか。テレビも見ないし新聞も週刊誌も読まないのか。

 在日疑惑に対する反論はこう。

後藤さんを在日認定するバカ共へ【ネトウヨ完全論破編】
http://togetter.com/li/777473

 やっぱりこういうデマが流れる背景には、「こういう厄介な事件に日本が巻きこまれるのは嫌だ」→「拉致されたのが日本人じゃなければいいなあ」という願望があるんだろう。

 他にも、「後藤さんのまばたきはモールス信号」なんてデマも流れた。まばたきで「見捨てろ」「助けるな」と伝えていたというのだ。

悪質なデマの可能性が高い
「後藤さんのまばたきはモールス信号」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4688

 こんなデマを流す人間、信じて拡散する人間の心理には、やはり「見捨てたい」「助けたくない」という願望があるんだろう。

テレ朝「報道ステーション」が「中東の日本人学校と日系企業の所在地一覧を放送した」というのはデマ
http://matome.naver.jp/odai/2142305692262526601

 テレ朝が嫌いなのは別にかまわないけど、事件に便乗してテレ朝を叩くデマを流す根性は本当に卑しい。

【ISIL】名古屋のモスクに脅迫電話「日本から出ていけ」 ⇒ 近くに韓国学校と在日民団本部があることが判明!!! あっ察し!!!
http://www.news-us.jp/article/413553154.html

 何が「あっ察し」だ!(怒)
 脅迫電話なんて日本全国どこからでもかけられるっていうのに、同じ区内に施設があるから犯人扱いなんて、デタラメもいいところである。
 善良なイスラム教徒の方々に対する差別だけでも気分が悪いのに、それをさらにネタにして在日コリアン差別。ほんとにもうどうしようもなく気分が悪い。

 他にも、例によってあのお方がやってくれました。

後藤さんたちは今何を思う? イスラム国、日本人人質事件の真相に迫る
http://the-liberty.com/article.php?item_id=9156

> 後藤さんの霊は、1月31日に大川総裁が行ったイスラム国の最高指導者アブバクル・バグダディ氏の霊言について、イスラム国側の主張だけを発表するのは中立的ではない、私たちの言い分も言わせてほしいと主張。今回は、大川総裁が、スピリチュアル・エキスパート(チャネラー)に、後藤さん、湯川さんの霊を入れる形で霊言が行われた。

 さっそく後藤さんと湯川さんの霊を呼んだんだそうですよ!(怒)
 これまで幸福の科学のやってることは何度も笑ってきたけど、今回のはさすがに笑える限度超えてる。二人の死を宗教宣伝のために利用するとは。「てめえらの血は何色だ!」と言いたくなる。
 いくら「言論の自由」と言っても、こんな奴の言論の自由まで守らなくちゃいけないのかと思うと、ほんと、情けなくなってくる。

 亡くなった人たちに本気で同情なんかしてないんじゃないですかねえ、この人たち。
  
タグ :デマISIL


Posted by 山本弘 at 18:09Comments(28)事件メディアリテラシー

2015年02月10日

遠近法を知らない人たち

 もう十数年も前のこと。 妻が知り合いの作る『名探偵コナン』の同人誌にマンガを寄稿することになり、僕が手伝ったことがある。服部平次がメインの本である。

「平次は好きやけど、顔にトーン貼るのが大変や」

 そう妻が言ったもんで、「アシスタント、やったげようか? トーンぐらい貼れるで」と申し出たのがきっかけ。成り行きで背景も僕が描くことになった。

「ここ、ボウリング場のシーンやから、背景にレーン描いて」

 と妻に頼まれた。ボウリング場のレーンなら、直線を何本か引いてピンを描き加えるぐらいだから、たいして難しくないよな……と、気軽に原稿を受け取って、困惑した。
 線が引けない。
 妻が描いた絵は、コマの中に同じぐらいの大きさのキャラクターが数人、適当に配置されてるだけなんで、どういう線を引いても矛盾が出てしまうのだ。画面手前のキャラクターが小人になってしまうか、奥のキャラクターが宙に浮いてしまうか。

「ごめん。この絵、消失点、どこ?」

 と訊ねると、妻はきょとんとした様子で、

「消失点って何?」

 と問い返す。

「学校で美術の時間に習わへんかった? 遠近法とか、一点透視とか二点透視とか」
「うーん、習(なろ)たような気もするけど、忘れた」

 妻はそれまで、同人でマンガを描いた経験は何度もあったが、背景を描かないか、あるいは奥行きのある背景を描いたことがなかったので、遠近法を知らなくても支障がなかったらしいのである。
 僕はしかたなく、「まず画面上に消失点を決めて、そこに向かって集中線を引いて、人物をその線に合わせて配置して」と、美術の基礎を講義しなくちゃならなかった。

 実は妻と同じように、遠近法というものを知らない(習ったけど完全に忘れている)人間が、けっこう多いらしいのだ。

イスラム国の映像は合成!!という主張
http://togetter.com/li/772235

 影の方向が違うから不自然だ! 合成だ! と主張する人が何人も。

>イスラム国の日本人殺害予告 身代金要求ビデオの人質の影が左右違うのでクロマキー合成の可能性があります。

>イスラム国の動画見てると、人質2人の首の影の出方が違うな。場所特定されないように、別々に撮って背景も合成してんのかな。

>なんか違和感があると思ったら影の向きが不自然。光源が2つあるのかあるいは合成か

>右の人質の首の影は左寄りにできてるけども左の人質の首の影はがっつり右にできてますよね。太陽光の当たり方が二人で違うわけないんだから。合成映像っすわこれwwwwwイスラム国もっと上手に作れよ脅迫するくらいなら 笑


 この合成説、ネットでの噂だけでなく、テレビのワイドショーでも取り上げられたんだそうで、けっこう多くの人が合成説を信じてしまったようなのだ。
 遠近法というものを知っていれば、この影がおかしくも何ともないことはすぐに分かるはず。二人の影は実際には平行だけど、画面奥の消失点に向かって伸びているため、画面上では平行になっていないというだけだ。
 と言うか、日常生活でもこんな影、みんなしょっちゅう目にしてるはずなんだけど?

 これは街でたまたま見つけて撮った影。3本の柱(電柱と信号機と街灯)は垂直に立っていて、影も実際には平行なんだけど、画面上では平行になっていない。画面奥の消失点に向かって収束しているように見える。

 首の影も不自然じゃない。湯川さんと後藤さんはまったく同じ方向を向いているではなく、カメラの方を向いている。つまり顔の向きが平行ではなく、平行よりわずかに内側を向いている。そのことに気づけば、これが自然な影だと分かるはずだ。

「影の向きが左右逆になる事がどうして有り得るのか」と、「影の向きが合っているのだとしたらなぜ合成っぽく見えるのか」
http://togetter.com/li/772457

 リンク先にもあるけど、この影の向きの話は、アポロ疑惑の時にも言われていた。 月面の宇宙飛行士の影が平行でないのは、光源が複数あるからだというのだ。
 僕にとっては逆に不思議なことだが、「画面に映る影はすべて平行であるはず」と思いこんでいる人間が多いのだ。平行ではない影なんて、みんなしょっちゅう見ているはずなのに、認識されていないのである。

http://www.asios.org/apollo.html#q11

 偶然だが、今週(2月14日)のNHK『幻解!超常ファイル』はアポロ疑惑を取り上げる予定だとか。この影の話も出てくるので、ぜひご覧いただきたい。

http://www4.nhk.or.jp/darkside/x/2015-02-14/21/2037/

 ISILの動画については、「風で衣服のなびき方も左右違いますね」と書いてる者もいる。これもおかしい。クロマキー合成のためにスタジオの中でグリーンバックで撮っているなら、そもそも風は吹かないはずである。
 これもやっぱりアポロ疑惑の時に言われた「月面で星条旗がはためいている」「スタジオの中で撮られた証拠だ」という主張と同じ。何でスタジオの中にわざわざ風吹かすんだよ。
「衣服のなびき方も左右違いますね」と言っている者は、やはり日常生活で風の振る舞いをよく見ていないのだろう。二人の女性が風に吹かれたら、スカートがまったく同じようにめくれると思っているのか?

 朝日新聞もこんな誤報を載せた。

背景の砂漠に人物後付けか 人質映像を専門家解析 「イスラム国」事件
http://www.asahi.com/articles/DA3S11564875.html

 上のTogetterにも説明があるけど、これは圧縮率の違いではなく、画像のコントラストの境界を誤認したもののようだ。実際、覆面の男の眼の部分にもはっきりノイズが出ていて、これが合成の証拠だと言うなら眼だけ合成したの? というおかしなことになってしまう。

 そもそも、この合成説が根本的におかしいのは、合成なんかしなくてはならない必然性が何もないということである。
「自分達の居場所がばれないために決まってるだろ」って? だったら屋内で壁をバックに撮影すればいいだけでしょ?
 つーか、背景に何もない砂漠で撮ればいいだけだよね? この映像みたいに。
 このへんは9.11陰謀説と同じ。「ペンタゴンに突入したのは旅客機ではなく巡航ミサイルだ!」と主張する者たちは、陰謀の黒幕がなぜそんな手間のかかることをしなくてはならなかったのかを、まったく説明できていない。

20日の映像「合成の痕跡なし」科警研分析、撮影日は不明
http://www.sankei.com/world/news/150128/wor1501280020-n1.html

 科警研は合成ではないと断言した。まあ、それでも「分析しても分からないような高度な合成だ!」という主張は可能だろうが(その場合、ISILの動画だけではなく、最近、世界で撮影されたすべての動画を疑わなくてはならないことになる)、少なくとも「影の向きが違うから合成」という主張は完全に崩壊した。

 前にも本で書いたが、知り合いの編集者に、「アポロの写真で影の向きが違うのは複数の光源があるからだという話がありますけど」と言われたことがある。僕が上のようなことを説明し、

「だいたい、光源が複数あったら、影も複数できるでしょ?」

 と指摘したら、その編集さん、

「ああ、言われてみればそうですね」

 と、おおげさに感心していた。
 その人も決して無知ではなく、ちゃんとした教育は受けているはずである。にもかかわらず、「光源が複数あったら影も複数できる」という当たり前のことに気がついていなかったのだ。

【今回の教訓】
・学校教育などで得た知識と、その実際問題への応用との間には、大きなギャップがある。
・多くの人は日常生活でよく目にしているものを見落としている。
  
タグ :ISILデマ


Posted by 山本弘 at 14:57Comments(8)事件メディアリテラシー

2015年02月04日

Monty Oum氏、死去

 昨日、流れてきた驚きのニュース。慌ててRooster Teethの公式情報を確認しに行った。

http://roosterteeth.com/members/journal/entry.php

 以前から健康を害していたらしく、治療中にアレルギー反応を起こして急死したらしい。
 享年33歳。
 よく有名人の訃報のたびに「早すぎる死」とか言われるけど、これはあまりにも早すぎる。

 僕が初めてこの人の作品を目にしたのは、2007年10月。ニコ動に転載された「Dead Fantasy Ⅰ」。びっくりして公式に配信された動画に飛んだ。
『ファイナルファンタジー』と『デッド オア アライブ』の女性キャラたちが戦うという3分ちょっとの作品。


 これだけでもすごいのだが、次の「Dead Fantasy Ⅱ」はさらにすごかった。10分以上ある動画のほとんどが戦闘シーン! しかも単純な繰り返しじゃなく、塔の上→塔の側面を落下→マグマの上を流れる岩の上→氷の上、とステージを変えながら、ありとあらゆるアクションを見せてくれる。
 塔の側面を滑り降りながらのバトルなんて、「そんなアホな!」「ありえねー!」と思いつつも、ものすごいスピード感と迫力に見入ってしまう。

 Monty Oumの描くアクションの魅力は、その「流れ」だ。このキャラがこうきて、それに対して相手がこう動いて、それに対してさらに……という一連のアクションの組み立て、日本で言うところの「殺陣(たて)」がものすごく流麗で絶妙なんである。
 もちろん、たくさんのゲームをさんざんやりこんだ成果なんだろうけど、単なるゲーム再現じゃなく、いろんな面白いアイデアが山のように詰めこまれている。
 これは「二次創作」なんて概念を軽く振り切ってる。完全に自分の世界にしてしまっているのだ。
 だいたい、これだけの長さと密度の動画のコンテを切るだけでも、大変な労力のはず。好きじゃなきゃできるわけがない。
「この人は女の子を戦わせるのが好きで好きでたまらないのだなあ」というのが僕の印象だった。

 だからOum氏がオリジナルのシリーズ『RWBY』をはじめた時には狂喜したもんである。しかもキャラクターが見事に日本のアニメ風の美少女で、やっぱりすごいアクションを見せまくる!

 このトレイラーにしても、ルビーの武器クレセントローズの描写がとにかく素晴らしい。変形して射撃用と格闘戦用の両方に使える武器なんて、僕ら日本人はそれこそ日曜朝の番組で見慣れてるんだけど、ここまでかっこよく表現してみせるとは。

 あと、やっぱり、ルビーのかわいさ。いや、もちろんワイスもブレイクもヤンもいいんですけど。
 これまでのアメリカのアニメでも、『ティーンタイタンズ』みたいに、日本のアニメの要素を取り入れようとしていた作品はあった。それはそれで誇るべき傾向だとは思うけど、やっぱり日本人の目から見て、「何か違うなあ」という苛立ちは感じていた。
 だが、『RWBY』にはそれがない。日本の「萌え」文化を完璧に理解して、吸収している。ゲームだけじゃなく、きっと日本のアニメも見まくったはず。
 これは好きじゃないと作れない。
「美少女が戦うアニメを作りたい」という欲求と、類まれな才能が一致して、『RWBY』が生まれた。

『RWBY』は第2シーズンが終わったところ。主要キャラクターが出揃って、おそらく最終的には、敵味方が入り乱れるものすごいクライマックスが構想されていたはず。
 ぜひ続けてほしいと思う反面、あんな超絶的なコンテを切れる人が他にいるのかと、少々不安でもある。

 とにかく早すぎる。
 早すぎるよ、ちくしょー!
 僕はあんたの作ったアニメをもっともっと観たかったんだよ!

 これから世界的に有名になっていくはずだった才能が失われたことが、残念でならない。
  
タグ :RWBYアニメ


Posted by 山本弘 at 19:08Comments(6)アニメ

2015年01月21日

初めてマンガの中でコミケを描いた作品は?

 冬コミで『漫画の中の同人誌即売会』という同人誌を買ったのである。
 コミックマーケット、あるいはそれをモデルにした同人誌即売会が作中に出てくるマンガを集めたもので、80年代の『世紀末同人誌伝説』を筆頭に、『編集王』『コミックマスターJ』『こみっくパーティ』『まにぃロード』『げんしけん』『らき☆すた』『ドージンワーク』『まんが極道』などなど、メジャーな作品からかなりドマイナーなものまで、かなりの数の作品が紹介されていた。
 続編の『漫画の中の同人誌即売会plus』では、前の本で洩れていた『クロノアイズグランサー』などをはじめ、『コミケ中止命令』『人類は衰退しました』『ベン・トー』などの小説も取り上げられている。

 しかし。

 ものすごく大事な作品が抜けているのだ。

 吾妻ひでお『スクラップ学園』(秋田書店)である。

 その1巻に収録された「パトスってふんでも死なないのよね」が、同人誌即売会を題材にしているのだ。
『スクラップ学園』は〈プレイコミック〉に1980年1月から連載された作品。僕は当時、リアルタイムで読んでいた。
〈プレイコミック〉は月2回発売。「パトスってふんでも死なないのよね」は18話なので、掲載されたのは、80年の9月か10月頃のはずである(正確に何月何日号かまでは調べがつかなかった)。まず間違いなく、日本で初めて、商業出版物で同人誌即売会を扱った作品である。

 とある休日、公園でくつろいでいたおじさんが、やけに若者が多く通りかかるのに気づき、主人公のミャアちゃん(猫山美亜)に「今日は何かあるのかね」と訊ねる。「同人誌の即売会。あたしも本作ったから売りに行くの」と答えるミャアちゃん。
 若い頃は文学青年だったおじさん、「同人誌」と聞いて勘違いし、興味を抱いて、即売会に出かけてゆくが……という話である。
 即売会の名は〈第30回 ぬめぬめマーケット〉になっている。まだ川崎市民プラザで開催されていた頃、参加者7000人程度の規模の時代と推測される。

 すでにコスプレイヤーがいたことも分かる。一本木蛮さんの『同人少女JB』で描かれていたのが、だいたいこの時代である。

 もちろん吾妻マンガの中の話だから、まともな即売会であるわけがなく、シュールなギャグが続出し、コミケのカオスな雰囲気を戯画化しているのだが。


 この『スクラップ学園』、4話ですでに『ガンダム』ネタを出してきたり、コスプレを題材にした話があったりして、読み直してみるとあらためて、吾妻氏の先見性に驚かされる。
 ちなみに、ミャアちゃんのソックスがいつもよれよれなのは、わざとゴムをカッターでずたずたに切っているからだという設定がある。(『ミャアちゃん官能写真集Part1』参照)
 ずっと後になって、ルーズソックスが流行った時、「そんなのミャアちゃんはずっと前からやってたぞ!」と思ったもんである。

 ちなみにこの「パトスってふんでも死なないのよね」は、調べてみたら、今、山本直樹監修『21世紀のための吾妻ひでお』(河出書房新社)に収録されていることが分かった。やはり名作である「聞かせてよ、くぬやろの歌」とかも入ってるので、初心者にはおすすめである。


 吾妻作品からもう一本、紹介しておこう。
『ミニティー夜夢』(秋田書店)に収録された「愛なき世界」という短編。1984年頃の『マイアニメ』に掲載されたもの。

 ちなみに僕は「おたく」という言葉を、この作品で初めて知った。
 すでにコミケの開催場所は晴海に移っていて、参加者の数も万単位になってきた頃である。描写も『スクラップ学園』とはかなり違い、現在のコミケの雰囲気に近づいている。また、『うる星やつら』がブームだったことも分かる。

 言うまでもなく『コロコロポロン』は吾妻ひでお原作のアニメ。『ぐるぐるメダマン』と『好き好き魔女先生』は吾妻先生がコミカライズを手がけた特撮番組である。
 実際には、この時代にはまだ、こんなマイナー特撮番組の同人誌はなかったはずである。同人誌を作ろうにも資料がなかった。昔の番組が全話DVDになったりCSで放送されたりするような時代ではなかったからだ。
 だからこそ、「さすがにこんな同人誌あるわけない」というギャグが成立していたわけだが……いやー、今となってはギャグじゃないわ。『アステカイザー』とか『トリプルファイター』とか『ボーンフリー』とかの同人誌、普通にあるもんなあ。
 やはり吾妻先生の先見性、恐るべしである。

 ところで、読み返していて気がついたのだが、このシーン、これが同人誌即売会というもので……という基本的な説明がどこにもない。当時の『マイアニメ』の読者にはすでに、コミケというものが説明なしでも理解できたということか。

 そうそう、『漫画の中の同人誌即売会』を作ってる方、もし増補改訂版を出す予定があるなら、川上亮『コミケ襲撃』 と僕の『プロジェクトぴあの』も入れてくださいね(笑)。
  


Posted by 山本弘 at 17:08Comments(7)マンガコミケ

2015年01月21日

平井チルドレンに残された大きな宿題

 前にこのブログで、平井和正・桑田次郎『エリート』のすごさについて語った。

http://hirorin.otaden.jp/e271.html

 平井・桑田コンビは、『8マン』や『超犬リープ』でも有名だが、僕が好きな作品のひとつは、『デスハンター』である。〈週刊ぼくらマガジン〉に1969年から70年にかけて連載された長編だ。(のちに平井氏自身の手によって、『死霊狩り ゾンビー・ハンター』と改名されて小説化される)


 デスとは、宇宙からやって来た緑色の不定形生命体。それに憑依された人間は、姿形は変わらないが、不死身の肉体と怪力を有するようになる。
 カーレーサーの田村俊夫は、シャドウと名乗る謎の人物に勧誘され、カリブ海の孤島で苛酷なサバイバル試験を受ける。多くの犠牲者が出る中、生き延びた俊夫、アラブゲリラのリュシール、中国の秘密工作員・林石隆らは、デスハンターに任命される。その使命は、人間社会にまぎれこんだデスを見つけ出し、抹殺すること……。
 とまあ、これだけならよくある話だが、『デスハンター』のすごさは、人間の側の愚かさや残酷さが、これでもかというほどしつこく描写されること。確かにデスも危険だが、作中での死者の多くは、人間同士の殺し合いによるものなのだ。
 後半、人間の愚行をさんざん見せつけられた俊夫は、ついに人類を見限ってデスとなり、人類を糾弾する側に回る。

「人類こそ本当に荒々しく邪悪な生物だっ。
 人類の敵は決して宇宙人なんかじゃない……
 人類の本当の敵とはほかならぬ人類なのだっ。
 地球人類こそ宇宙に住む本当の意味の化物なんだ」

 ラスト近く、俊夫は「宇宙救済協会」という新興宗教団体を旗揚げし、「不死身の肉体が得られる」という謳い文句で、多くの信者を集める。その目的は、全人類をデスと同化させること。すべての人間がデスになれば、人間同士が殺し合う時代は終わり、素晴らしい世界が生まれるだろう……。
 このあたりの展開は、のちに平井氏自身が宗教団体GLAにのめりこみ、教祖のゴーストライターまで務めた事実を連想させ、未来を予見していたように読めてしまう。

 マンガだけではない。平井氏は小説の中でもしばしば、愚かな人類に対する怒りをストレートに読者にぶつけてきた。
 僕が印象に残っているのは「ロボットは泣かない」という短編。初出は〈SFマガジン〉1963年8月号の「機械が支配する!」というロボット特集号。アシモフ「われ思う、ゆえに…」、ブラッドベリ「長かりし年月」、バウチャー「Q・U・R」、レム「君は生きているか?」などと並んで掲載されている。僕は高校時代に〈SFマガジン〉のバックナンバーで読んだ。
 主人公は中古の女性型アンドロイドを格安で手に入れる。彼女は前の持ち主にひどい虐待を受け、脚の部品が壊れてびっこを引いていた。主人公は彼女をかわいそうに思うのだが、彼の周囲の人間、友人や妻や子供までも、ロボットを露骨に蔑視し、アンドロイドをかばう主人公を白眼視する。しかし、アンドロイドは決して人間を恨まず、ただひたすら迫害に耐え忍ぶ……。
 この話に結末はない。何ら問題が解決されず、救いもないまま、絶望のうちに終わってしまう。

 人類は凶暴で下等な生物──それが平井氏の初期作品を貫くテーマだ。もちろん人間の愚かさや残酷さを描いた小説なんて、SFでなくてもたくさんあったが、平井氏のすごさは、一部の人間の悪行ではなく、人類という種族全体をまるごと否定したことだ。
 それらの作品は“人類ダメ小説”と呼ばれる。
(もちろん、そうした考えも平井氏が世界で初めて思いついたわけではない。たとえば『デスハンター』の中には、明らかにハミルトンの「反対進化」をヒントにしたくだりがある)
 人類の愚かさを浮かび上がらせるために、平井氏は人類よりも高潔な存在を設定する。アンドロイドや宇宙生命体、あるいは狼を。 ヒット作となった『ウルフガイ』シリーズなども、主人公を狼男に設定し、狼を高潔な生物として描いていた。
 もちろん、狼が人間よりも誇り高いというのは、あくまでフィクション、人間の勝手な思いこみである。グループSNEが結成された直後、みんなで動物園の見学に行ったことがあるのだが、檻の中でグデ~ッとなっていて、人間が近づくと嬉しそうに尻尾を振る狼を見て、「狼の誇りはどうした!?」「犬神明を見習え!」と、みんなでツッコんだものである。

(もちろん、平井氏はシリアスな作品ばかり書いてきたわけじゃないこともつけ加えておく。『超革命的中学生集団』は、まさにライトノベルの元祖と呼べるハチャハチャでパワフルな話で、僕は大好きだった。「星新一の内的宇宙」というショートショートもお気に入りである)

 僕らの世代のSFファン・SF作家の多くは、若い頃に読んだ平井氏の“人類ダメ小説”に影響を受けている。
 僕の作品で言うなら、『神は沈黙せず』や『アイの物語』や『UFOはもう来ない』などに出てくる「人類は知的生物としては重大な欠陥がある」とか「人類は実は知的生物じゃない」というビジョンは、やはり平井作品の強い影響下にある。 と言うより、たぶん平井作品を読んでいなかったら、決して書かれなかった作品だと思う。
 やはり平井ファンであることを公言している新井素子さんの初期作品、『いつか猫になる日まで』や『宇宙魚顛末記』とかも、人類はちっぽけでいつ滅びてもおかしくないんだという、ある種ニヒルな考えがベースになっているが、あれなんかも平井氏の“人類ダメ小説”の影響ではないかと思える。
 新井作品の中でいちばん平井っぽいと思うのは『……絶句』。狼ではなくライオンを高潔な存在として描き、人間と対比させていた。

 確かに、“人類ダメ” という認識は刺激的で、腑に落ちるものである。若い頃にハマってしまうのも当然だ。しかし、落とし穴もある。

“人類ダメ”で止まってしまって、その先に進まないのだ。

 人類がダメってことは、『エリート』のアルゴールが言うように、人類を滅ぼせばいいのか? でも、「人類は滅びました。終わり」というのも、結末として安直すぎないか?
 あるいは『デスハンター』の俊夫が言うように、全人類がデスになったら、本当に理想の世界が来るのか? 僕には信じられない。たとえ最終的にそうなるにしても、その過程でおそらく、すさまじい規模の混乱と殺戮が繰り広げられるに違いない。それはダメな人類がやってきたこととどう違う?

 それに「人類なんてダメだよ」と言うのは簡単だけど、そう言う自分自身も人類の一員だという事実を忘れてはいけない。
“人類ダメ”というのは、決して大衆を見下すエリート思想じゃない。自分自身のダメさをも見つめることなのだ。 ダメな人類である自分がそんなに賢明であるわけないと認識することなのだ。
 じゃあ、どうすればいいんだ?
 自分も含めた人類がダメなら、いったいどこに希望がある?

「ロボットは泣かない」が尻切れトンボで終わっていることが象徴するように、平井氏はこの問題に対する明確で現実的な回答を出せなかったんじゃないかと思う。
 その後、新興宗教にハマったりしたのも、自分が提示した“人類ダメ”思想に追い詰められて、脱出口を求めた結果だったのかも……という気もする。ダメな人類を天使様が導いてくださるのではないか、と思ったのかもしれない。
 もちろん僕は(おそらく多くの平井ファンも)、そんなところに本当の救いなんてないと分かっていた。
 だって宗教なんて、ダメな人類が思いついたもののひとつにすぎないじゃないか。宗教が原因でどれほど多くの争いが起き、血が流されてきたことか。(今もまさに、そうしたことが起きている)
 平井氏はなぜ、人類の所業の中で、宗教だけはダメじゃないと思ってしまったのか。それは僕には理解できないことである。

 だから70年代後半以降の平井作品には失望したものの、それでも平井氏の初期作品が(マンガ原作も含めて)素晴らしいものだったことは間違いないし、僕らの世代が大きな影響を受けたことは否定できない。
 作家・平井和正は本当に偉大な人だった。
 僕ら平井チルドレンにとっては、いわば平井氏の提示した“人類ダメ”という概念がスタート地点であって、それをどう克服するかが課題だった。
“人類ダメ”を否定するんじゃない。“人類ダメ”であることを認めたうえで、それを超える回答を提示するのだ。

 新井さんの『ひとめあなたに』はまさにそうした作品だと思う。地球滅亡を前にした人々のドラマを通じて、人間の醜さや欠陥を描きながらも、最後はやはり「生まれてきて良かった」という結論に到達する。
 僕の場合は『神は沈黙せず』がそれで、人間は神と対話することさえできないちっぽけな存在にすぎないけれど、それでも正しく生きてゆくべきだと書いた。『アイの物語』では、人類はダメであっても、人類の生み出した人工知性は我々よりも賢明な存在になり、ヒトが到達できなかった高みを目指すことにした。

 そう、認めよう。人類はダメだ。まともな知的生物なんかじゃない。
 それは今、世界で起きていることを見れば分かる。

「真の知性体は罪もない一般市民の上に爆弾を落としたりはしない。指導者のそんな命令に従いはしないし、そもそもそんな命令を出す者を指導者に選んだりはしない。協調の可能性があるというのに争いを選択したりはしない。自分と考えが異なるというだけで弾圧したりはしない。ボディ・カラーや出身地が異なるというだけで嫌悪したりはしない。無実の者を監禁して虐待したりはしない。子供を殺すことを正義と呼びはしない」
──『アイの物語』

「なぜ地球人は、人間どうしにくみあい、殺しあうのか。つみもない子どもまでまきぞえにしてしまっても平気なほど、戦争がすきなのか。人をにくみ、殺しあうことがすきなのか。地球人のひとりとしてこたえてみよ!」
──『エリート』

 半世紀前にアルゴールの(そして平井氏の)突きつけた問いは、どれだけ時が経とうと、決して色褪せない。
 言ってみれば、僕らは平井氏の残した大きな宿題に、懸命に取り組んでいるのだ。これまでも、これからも。
  
タグ :SFマンガ


Posted by 山本弘 at 15:58Comments(12)マンガSF作家の日常

2015年01月20日

「80年代ホビーマンガの素晴らしき世界」

山本弘のSF秘密基地LIVE#42
80年代ホビーマンガの素晴らしき世界

 今回のテーマは、ゲームやプラモやマイコンを題材にした奇想天外なマンガの数々!
『ゲームセンターあらし』『プラモ狂四郎』などのメジャーな作品から、少しマイナーな『3D甲子園 プラコン大作』『ディオラマ大作戦』、さらには誰も覚えていないような超マイナーな作品まで、80年代の子供たちを熱狂させた、想像力あふれるマンガの数々を紹介し、その魅力を語ろうという企画です。
 今回もB級アイテム・コレクターの鋼鉄サンボ氏とともに、濃くて熱くて懐かしいオタク・トークを繰り広げます。お楽しみに!


[出演] 山本弘、鋼鉄サンボ

[日時] 2015年1月23日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] なんば紅鶴
(大阪市中央区千日前2-3-9 レジャービル味園2F / Tel. 06-6643-5159)
南海なんば駅より南海通り東へ180m・駐車場有

[料金] 1500円
(店内でのご飲食には別途料金がかかります。入場時に別途ワンドリンクをご購入いただきますのでご了承ください)

 ご予約はこちらへ。
http://boutreview.shop-pro.jp/?pid=85636920
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 申し訳ありません。今月は仕事が忙しく、ブログを更新している時間がなかなかなくて、告知が遅くなってしまいました。
 いつもは月の最終金曜日なんですが、今月は23日です。お間違えないように。つーか、もう今週じゃん!

 だいぶ前に『プラモ狂四郎の世界』という同人誌を出したことがあるんですが、今回はプラモ以外にもマイコンやゲームなどのホビーマンガをいろいろ取り上げます。例によって話すことがいっぱいありそうで、はたして2時間で終わるかどうか……。
 宣伝のために、こんな画像(『マイコン電児ラン』2巻収録の「アップルⅡストーリー」)をツイッターに流したら、すがやみつる先生自身にリツイートされてて、ちょっとあせりました(笑)。


  


Posted by 山本弘 at 18:45Comments(2)マンガPR

2015年01月09日

ビブリオバトル・チャンプ本『ゲームウォーズ』

 先月26日のLiveWire「ビブリオバトルをやってみよう」は成功でした。応援を頼んだ鋼鉄サンボくんや、阪大の菊池誠先生、神戸大学の学生さんらの協力もあり、ビブリオバトルの実演が盛り上がりました。
 紹介されたのは次の4冊。

小田雅弘『模型歳時記』(トイズプレス)
吉川浩満『理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ』(朝日出版社)
高野秀行『幻獣ムベンベを追え』(集英社)
アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』(SBクリエイティブ)

 どれも面白そうだ!
 僕が投票したのは、鋼鉄サンボくんが持ってきた『模型歳時記』。いやー、『理不尽な進化』『幻獣ムベンベを追え』も前から評判は聞いていて、読もうと思ってはいたんですけどね、やっぱりストリームベースの小田さんのエッセイ集ときたら、読むしかないでしょ!
 結果は僅差で、僕の紹介した『ゲームウォーズ』がチャンプ本になりました。本当はもっと大差つけて勝つつもりでいたんだけどなあ。

 というわけで、チャンプ本になった記念に、『ゲームウォーズ』の内容を紹介いたします。できるだけビブリオバトルの雰囲気を出すために、会場で喋った内容を可能な限り思い出して再現してみました。

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 どうも、今日は勝ちに来ました!
 というのも、この本はすごく面白い! 読み終わって何日も興奮が収まらなかった。そんなすごい本なんです。冷静に紹介してなんかいられない。エキサイトさせていただきます。
 アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』。近未来を舞台にしたSFです。
 時は2041年。〈オアシス〉というバーチャル・ゲームが全世界に普及しています。単なるゲームじゃなく、すでにインターネットはほとんど〈オアシス〉と一体化しています。たとえば学校教育なんかも〈オアシス〉が使われている。生徒は自分の家にいながら、仮想空間の学校に通って勉強ができる。そういう時代なんです。
 そんな時、〈オアシス〉の開発者である天才プログラマーのハリデーという男が亡くなります。彼は死の直前に遺言を残していて、その映像が全世界に流れます。その遺言というのは──
「私の資産、総額2400億ドルを1人の人物に譲る」
 彼は〈オアシス〉のどこかに〈卵〉を隠した。いわゆる「イースター・エッグ」というやつですね。それを手に入れた者が遺産を受け継ぐことができるんです。

 さあ、このあたりでもう、頭の中に『ONE PIECE』のOPのナレーションが流れてきて(笑)、盛り上がってくるわけですが。
 当然、世界中の人間が〈卵〉探しに熱中します。〈卵〉を手に入れるためには3つの鍵が必要で、まずその鍵を見つけなくちゃいけないんですが、それがなかなか見つからない
 というのも、〈オアシス〉の世界はとんでもなく広いんです。何千というワールドがあって、それぞれに何十もの惑星がある。行き当たりばったりに探したって見つかるわけがない。ハリデーの遺したヒントを解かなくちゃいけないんです。
 ここで重要なのが、ハリデーは1972年生まれだという設定。つまり1980年代に少年時代と青年時代を過ごした。おまけに、がちがちのオタクです。
 だもんで、ハリデーの遺した謎を解くためには、80年代サブカルチャー──ビデオゲーム、TRPG、映画、ドラマ、音楽、アニメとかに関する膨大な知識が要求されるんです。

 ここに登場するのが主人公のウェイドという少年、高校生です。かわいそうな身の上なんですよ。両親を早くに亡くして、おばさんに引き取られてるんですけど、貧乏だからトレーラー・ハウスに住んでる。社会の最下層の人間です。でも、オタクなんです。ゲームに課金とかできないから、〈オアシス〉の中でも、ただで遊べる古いゲームばかりプレイしてる。
 そのウェイドが、あるきっかけで、最初の鍵を発見するんです。たちまちネットの世界で有名人になってしまいまして、〈卵〉の争奪戦に巻きこまれます。
 当然、悪役も出てきます。IOIという世界的大企業が、ハリデーの資産と〈オアシス〉の乗っ取りを企んで、〈卵〉を先に手に入れようと卑劣な工作を仕掛けてきます。目的のためなら平然と人殺しもするような、ほんとに悪い連中なんです。
 ウェイドは頼りになる仲間とともに、現実世界でIOIの陰謀から逃れながら、仮想空間で宝を探します。もちろんバトルもありますし、ヒロインとのロマンスもあります。だからこれはSFなんですけど、『宝島』のような、財宝をめぐる昔ながらのアドベンチャーでもあるんですね。
 で、やっぱりこの小説の魅力は、山のように詰めこまれた70年代や80年代のゲームや映画に関するトリビアです。それが謎を解く鍵になってる。たとえば最初の鍵のありかですけど、『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ』の初期のモジュールの中にヒントが隠されてたりします。
 ネタバレになるから詳しくは話せないんですが、下巻の展開をちょっとだけ。
 クライマックス。ゲーム世界の命運をかけた一大決戦。IOIの軍団がたてこもる〈オアシス〉の中の惑星に、IOIに立ち向かう世界中のゲーマーが集結してる。その戦場に主人公が赴くんですよ。巨大ロボットに乗って。その巨大ロボットというのが──

 レオパルドンです!

 いや、ほんと。ブレスレットに向かって「チェンジ・マーベラー!」と叫ぶと、ちゃんとマーベラーに変形するんですよ。
 その最終決戦がまた、とんでもないことになってるんですけど、それは読んでのお楽しみということにしておきます。
 この小説、すでに映画化が決定してまして、監督を探してるところなんだそうですけど、でも、これを映像化しようとしたら……

 東映と東宝と円谷プロとダイナミックプロとサンライズにどんだけ版権料払わなあかんのかなと(笑)。

 でも、見たい! このクライマックス・シーンはぜひ映像化してほしい! そんな夢の詰まった作品です。

【質疑応答】
Q.私は80年代のサブカルに詳しくないんですが、楽しめますか?
A.作中にいちいち「これはこういうもので」という解説が入りますんで、理解するのに支障はないと思います。僕も正直、音楽関係のことはぜんぜん分からないんですけど、それでも楽しめましたから。

Q.主人公の冒険は仮想世界の中がメインなんですか?
A.現実の世界でIOIの魔の手から逃れながら、並行してゲーム世界での冒険も繰り広げます。現実世界とゲーム世界の比率が半々ぐらいですかね。

Q.仮想空間に入るのは、やっぱり脳にジャックインとかして?
A.いえ、インプラントとかは必要なくて、基本的にヘッドマウントディスプレイとグローブを使用します。現代の延長線上の技術ですね。

Q.サイバーパンクなんですか?
A.サイバーではあるけどパンクじゃないですね。




【補足】
 何で主人公がレオパルドンを持ってるかというと、そのひとつ前のミッションで、クリヤーするとご褒美に好きな巨大ロボットを一台もらえるんですよ。
 ガンダムやマジンガーやエヴァンゲリオンがずらっと並ぶ中、主人公が迷わず選んだのがレオパルドン! 素晴らしすぎます。

 下は台湾のSharksDenというイラストレーターが描いたファンアート。公式のイラストじゃありません。

http://sharksden.deviantart.com/art/Ready-Player-One-423782453

 冗談抜きで、こんなシーンがあるんですよ!

 ちなみに映画の監督はクリストファー・ノーランがオファーされてるらしいんだけど……うーん、ノーランじゃ何か違うかも。
  


2015年01月09日

『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』刊行記念 トーク&サイン会

 紀伊國屋書店および東京創元社のサイトより。

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『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』刊行記念 山本弘先生×谷口忠大先生トーク&サイン会 紀伊國屋書店 グランフロント大阪店(2015/1/17)

 このほど『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』を上梓した作家の山本弘先生と、「ビブリオバトル」の発案者で同普及委員会代表の谷口忠大先生(立命館大学情報理工学部准教授、創発システム論)のトークセッションを開催いたします。
『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』ができるまでの裏話や、現代の読書環境における「ビブリオバトル」などについてお話しいただきます。

日  時| 2015年1月17日(土) 18:30~(18:15開場)
○第1部 トークショー 18:30~19:30予定
○第2部 サイン会 19:30ごろ~

会  場| 紀伊國屋書店グランフロント大阪店 店内特設会場にて

参加方法| ご参加無料・ご予約優先

・紀伊國屋書店グランフロント大阪店1番カウンターにて整理券を配布いたします。
・お電話でのご予約も承ります。
・整理券の配布はお一人様1枚までとさせていただきます。

・お申し込みの順番によってはお立見となりますので、あらかじめご了承くださいませ。お立ち見は会場周辺の通路からとなりますので、ご参加の人数によっては見えにくい、聴き取りにくい場合もございます。あらかじめご了承くださいませ。

・トーク終了後に山本弘先生と谷口忠大先生のサイン会を予定しております。山本弘先生の『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』(東京創元社/税込2,052円)や谷口忠大先生の『ビブリオバトル』(文春新書/税込831円)など、おふたりの著作にサインを入れていただけます。会場にて書籍を販売いたします。色紙など対象書籍以外へのサインはご遠慮くださいませ。

お問い合わせ・ご予約| 紀伊國屋書店グランフロント大阪店 06-7730-8451(10:00~21:00)

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 より詳しい説明はこちらを参照してください。

http://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Grand-Front-Osaka-Store/20141225100000.html



  


Posted by 山本弘 at 19:15Comments(2)PRビブリオバトル